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129 ゆくえ
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ウィスペルは引き金に指をかける。ウィズは慌てて銃を構えた。
(あれじゃまた勝てねえ……! 勝ちにこだわってるわけじゃねーけど、負けるのは癪だ……!)
ウィスペルの弾丸が景品に命中すれば、振動の異能で確実に倒れる。しかしそれを止めるすべはない。
(じゃあさァ……! オレも射っちまえばいいんだ!)
発砲は止められない。そしてそれは必ず景品を倒せる魔弾。それならば逆の発想だ。撃たせてしまえばいい。そしてその結果でウィズも甘い汁を吸えばいい。
ウィスペルがトリガーを引く。乾いた音が響いて弾が飛び出した。遅れてウィズも引き金を引いた。
「……っ!」
ウィズは目を細める。二方向から飛ぶ弾は一点、例のぬいぐるみへと向かっていた。けれども射撃が遅かったウィズの弾が出遅れている。
しかしそれが決して悪いというわけでもなかった。何故なら、"減速"よりも"加速"の方が容易いのだから。
「……は?」
ぬいぐるみは倒れた。ことり、と二つの弾がほとんど同時に床に落ちる。ウィズはニヤリと笑って銃の背中を肩に乗せた。
「僕の弾が倒しましたよ」
弾に込めたのは『緋閃』による加速術式。弾の速度を調整してウィスペルの着弾に合わせたのだ。彼女が異能『振動』を利用するのであれば、こちらの魔術も利用するだけである。ただし今のは相手の手柄を横取りする厚顔無恥な行動ではあるものの、この程度の勝負でそんなことはどうでもいい。
なんとなく――いやなんとなくではなくて普通に――ウィズはウィスペルが自分との勝負事で勝つ姿を見たくなかった。
「……不正では」
「はて」
「ンンッ……」
ジトリとウィズを見つめるウィスペル。
明後日の方向に視線を反らして悪びれる様子もないウィズ。
そのやり取りを見て吹き出した、笑いのツボが行方不明なドミニク。
「そうだなぁ。今のは同点ってことで。重さは半分こにしよう」
口の前に手をやり、笑いを咳払いに誤魔化したドミニクが一言。ウィズはうなずき、ウィスペルも納得がいかない顔で悲しくうなずいた。
(これでお相子だ……)
ウィズはクルリと人差し指を引き金部分にかけて銃を回す。
ウィスペルは『振動』、ウィズは『緋閃』とそれぞれイカサマの術は持っている。それをどう使うかだ。
ただし彼女も分かっているであろうが、所詮は"イカサマ"なのだ。二人はそれを隠しながら行う必要がある。射的の屋台にはそれを運営する人間がいるのだから、そいつにバレないようにしなくてはならない。
ウィズペルが弾に付与した『振動』も、ウィズのような動体視力を持たない者からすれば分からない。そしてウィズの『緋閃』も、魔法陣が見えないように細工をしたし、魔力の気配も消した。だから屋台の店主には分からない。
だがその代わり、これはウィスペルもそうだが、その能力に力をこめすぎるとバレる。ウィズの場合は不可解な加速や『緋閃』の光の粒子が零れてしまうことで認識される。ウィスペルの場合も『振動』を大きくすれば違和感を与えることになる。
結論、"うまくやろう"ということだ。
(……といってもなぁ)
ウィズは残り2発。ウィスペルは残り1発。
ウィスペルが取ったのは恐らく単独で入手できる景品の中で一番重いもの。先に入手されたものの、そのアドバンテージは実のところ皆無だ。何故なら、弾数の優位性がないのでウィズが同じものを取れば差がなくなる。
つまるところ、この勝負の行方は――。
「引き分けだね」
両者、倒せる景品の限度は同じであった。だから取れた景品も同じものであるので、重さは等しく引き分けというかたちにしかならなかった。
「引き分けの時はどうなるんですかこれ」
銃を屋台に返した後、ウィズが口を尖らせる。それに対してドミニクは困ったように笑った。
「……効力を半分にしようか。ウィスペル、君の願いは想定の半分ほどで手を打ってほしい。ウィズ君も同じくね。『アーク家』によろしくね」
言いたいことは分かる。ウィズは口元を緩ませてドミニクへと告げた。
「本音はそれでしょ。薄いながら『御三家』と接点を持てたんですから良かったですねぇ」
「なんだい。急に直線的になったね」
「所詮、僕は"雇われ"ですからね。『アーク家』の者というにはいささか……」
ウィズは言葉に詰まった。息が止まる思いがした。
「いささか――」
なんだろうか。この気分は。実に不愉快であった。そしてそれは、初めての感覚ではない。いつの日か、在りし日にも感じたことがあるようだけれども、思い出せない。体験という経験は確かにあるが、記憶の中から引き出すには情報が足りなかった。
「……どうしたんだい?」
突然口を閉じたウィズに、ドミニクが怪訝そうな表情を見せた。ウィズは慌てて顔を上げて――自分がいつの間にか俯いていたことに困惑しながら――唇の端を吊り上げる。
「あぁいや……」
笑う。笑顔は出せても言葉が出ない。いつもの薄っぺらいものすら、喉に通らなかった。
「なんでも、ないですよ」
周囲にあるお祭りの喧噪。そこから逃げ出したくてたまらなかった。自分の中にある"それ"が浮き彫りになるようで。
「じゃあ、僕はこれで」
逃げ場なんてないのに、ウィズは逃げるようにその場を後にした。
(あれじゃまた勝てねえ……! 勝ちにこだわってるわけじゃねーけど、負けるのは癪だ……!)
ウィスペルの弾丸が景品に命中すれば、振動の異能で確実に倒れる。しかしそれを止めるすべはない。
(じゃあさァ……! オレも射っちまえばいいんだ!)
発砲は止められない。そしてそれは必ず景品を倒せる魔弾。それならば逆の発想だ。撃たせてしまえばいい。そしてその結果でウィズも甘い汁を吸えばいい。
ウィスペルがトリガーを引く。乾いた音が響いて弾が飛び出した。遅れてウィズも引き金を引いた。
「……っ!」
ウィズは目を細める。二方向から飛ぶ弾は一点、例のぬいぐるみへと向かっていた。けれども射撃が遅かったウィズの弾が出遅れている。
しかしそれが決して悪いというわけでもなかった。何故なら、"減速"よりも"加速"の方が容易いのだから。
「……は?」
ぬいぐるみは倒れた。ことり、と二つの弾がほとんど同時に床に落ちる。ウィズはニヤリと笑って銃の背中を肩に乗せた。
「僕の弾が倒しましたよ」
弾に込めたのは『緋閃』による加速術式。弾の速度を調整してウィスペルの着弾に合わせたのだ。彼女が異能『振動』を利用するのであれば、こちらの魔術も利用するだけである。ただし今のは相手の手柄を横取りする厚顔無恥な行動ではあるものの、この程度の勝負でそんなことはどうでもいい。
なんとなく――いやなんとなくではなくて普通に――ウィズはウィスペルが自分との勝負事で勝つ姿を見たくなかった。
「……不正では」
「はて」
「ンンッ……」
ジトリとウィズを見つめるウィスペル。
明後日の方向に視線を反らして悪びれる様子もないウィズ。
そのやり取りを見て吹き出した、笑いのツボが行方不明なドミニク。
「そうだなぁ。今のは同点ってことで。重さは半分こにしよう」
口の前に手をやり、笑いを咳払いに誤魔化したドミニクが一言。ウィズはうなずき、ウィスペルも納得がいかない顔で悲しくうなずいた。
(これでお相子だ……)
ウィズはクルリと人差し指を引き金部分にかけて銃を回す。
ウィスペルは『振動』、ウィズは『緋閃』とそれぞれイカサマの術は持っている。それをどう使うかだ。
ただし彼女も分かっているであろうが、所詮は"イカサマ"なのだ。二人はそれを隠しながら行う必要がある。射的の屋台にはそれを運営する人間がいるのだから、そいつにバレないようにしなくてはならない。
ウィズペルが弾に付与した『振動』も、ウィズのような動体視力を持たない者からすれば分からない。そしてウィズの『緋閃』も、魔法陣が見えないように細工をしたし、魔力の気配も消した。だから屋台の店主には分からない。
だがその代わり、これはウィスペルもそうだが、その能力に力をこめすぎるとバレる。ウィズの場合は不可解な加速や『緋閃』の光の粒子が零れてしまうことで認識される。ウィスペルの場合も『振動』を大きくすれば違和感を与えることになる。
結論、"うまくやろう"ということだ。
(……といってもなぁ)
ウィズは残り2発。ウィスペルは残り1発。
ウィスペルが取ったのは恐らく単独で入手できる景品の中で一番重いもの。先に入手されたものの、そのアドバンテージは実のところ皆無だ。何故なら、弾数の優位性がないのでウィズが同じものを取れば差がなくなる。
つまるところ、この勝負の行方は――。
「引き分けだね」
両者、倒せる景品の限度は同じであった。だから取れた景品も同じものであるので、重さは等しく引き分けというかたちにしかならなかった。
「引き分けの時はどうなるんですかこれ」
銃を屋台に返した後、ウィズが口を尖らせる。それに対してドミニクは困ったように笑った。
「……効力を半分にしようか。ウィスペル、君の願いは想定の半分ほどで手を打ってほしい。ウィズ君も同じくね。『アーク家』によろしくね」
言いたいことは分かる。ウィズは口元を緩ませてドミニクへと告げた。
「本音はそれでしょ。薄いながら『御三家』と接点を持てたんですから良かったですねぇ」
「なんだい。急に直線的になったね」
「所詮、僕は"雇われ"ですからね。『アーク家』の者というにはいささか……」
ウィズは言葉に詰まった。息が止まる思いがした。
「いささか――」
なんだろうか。この気分は。実に不愉快であった。そしてそれは、初めての感覚ではない。いつの日か、在りし日にも感じたことがあるようだけれども、思い出せない。体験という経験は確かにあるが、記憶の中から引き出すには情報が足りなかった。
「……どうしたんだい?」
突然口を閉じたウィズに、ドミニクが怪訝そうな表情を見せた。ウィズは慌てて顔を上げて――自分がいつの間にか俯いていたことに困惑しながら――唇の端を吊り上げる。
「あぁいや……」
笑う。笑顔は出せても言葉が出ない。いつもの薄っぺらいものすら、喉に通らなかった。
「なんでも、ないですよ」
周囲にあるお祭りの喧噪。そこから逃げ出したくてたまらなかった。自分の中にある"それ"が浮き彫りになるようで。
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