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116 初日の宿
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なんにせよ、エレノアの力量はウィズが想定していたよりも高かったということだ。『メストマター感謝祭』において、荒事があったときは頼りになるだろう。
そして、先ほどフィリアが発見した結界の件も話したのだが、その時の感触も良かった。
『結界……っすか? いやー、マジっすか。
いえいえ、実は一日に三度、ウチの魔術師が検査してるんっすよ。それで今日の三度目の検査で、気配隠蔽系の結界が見つかったりして、解除して調査を開始したばかりなんですよね。
……まさか、こんな短時間に新しいモンができるとは。心配かけてすみません! 帰ったら担当の魔術師叩き起こして対処させます!』
と、やる気満々な対応を見せていた。
しかしながら彼女の言うことをからして、そういう勢力の動きは活発のようだ。こちらも気を引き締めなければならないだろう。
そういう反面、『選定式』で『ブレイブ家』の首を狙っているウィズにとっては有難いことでもある。
(事が『アーク領』外でも発生すれば、それは『アーク家』だけの問題じゃなくなるからな……)
『選定式』までに世界が荒れれば荒れるほど、ウィズにとっては有利になる。それだけゴチャゴチャしてくれれば、すでに内部に入り込んでいるウィズが動きやすくなる。
だから『アーク家』の反対勢力には程々に頑張ってほしいというのがウィズの考えであった。
エレノアたちも帰った談話室で、再び資料に目を落としたフィリアが言った。
「今日はもういいわ。二人とも、各自部屋で休むなりしなさい」
「え……いいんですか?」
「私もすぐに寝るわ」
フィリアは心配して声を描けてきたソニアへ弱めの声量でそう返す。
「数日間の具体的な動きは明日説明するわ。ここは安全だし、感謝祭に向けて体調を整えておきなさい」
言い終わると、ソニアが出してくれた飲み物を口にしては資料に目を戻した。
確かに今日はもうやることはない。決定権はフィリアにあるのだし、素直に従わない理由はなかった。
「了解です。一足に先に部屋で休ませてもらいますね……。って思ったんですけど」
ウィズは小さく笑って告げる。
「小腹が空いてしまって……。売店で何か買ってきます」
「……そう。なら、私もお使いお願いしていいかしら?」
「ええ、勿論。ソニアはどうする?」
「えっ、ボク……? うーん……」
「ソニアも一緒に行って来たら? 私は一人で大丈夫だから」
指を顎に当てて悩む仕草を見せる彼女に、フィリアは淡々と言い放った。
護衛対象を一人にして良いものかと思う反面、フィリアなら大丈夫だろうという安心感もある。本人が言っているのだし、否定することもないかもしれない。
そもそも、売店への物理的な距離はそう遠くはない。何かがあれば壁や床をぶち破って駆け付ければよい。
フィリアの言葉に少し迷っていたソニアへ、ウィズは言った。
「そうですね。そう遠くないし、一緒に行こうか。フィリアさん、無いとは思いますが万が一、何かあれば……」
「ええ。派手に知らせるわ」
フィリアもそのつもりのようだ。
ソニアもその言葉を聞いて迷いは消えたようだった。部屋にフィリアを残して、二人は共に売店へ向かう。
そうやって売店のある場所に着いた。そこは休憩スペースと併用となっており、買ったものをその場所で楽しめるよう、イスやテーブルも配置してあった。
「色々あるんだねー。ウィズはどうする?」
「やっぱり定番の"ナタ=デ=ココ"のゼリーとか……。ほら、抹茶が混ぜてあるやつ」
「あー、それ甘くないやつだ。そういえば、ウィズは甘いの苦手だったね。前に喫茶店に行った時、何気なく砂糖入れを遠くにやってたよね」
「……そんなところまでよく覚えてるね」
「なんかね、ピーマンを避ける子供みたいで」
「それは聞きたくなかった……」
「冗談だよ!」
二人で話をしながら休憩スペースを通って売店へと歩みを進める。
売店の前につくと、ソニアは少し楽しそうに品を眺めだした。その隣でウィズはふと売店から目をそらす。
そして自然な動作でわきに置いてあった『ノルハ』の観光案内をいくつか手に取った。
(こういう情報が欲しかった。知らない土地だからな。もしものために知っておいた方が良い……)
実は間食なんかよりもこちらが目当てだったりするのだが、それを口にするのはちょっと違和感がある気がしてやめたのだ。目的通りのものを手にしたウィズだが、その過程でふと看板が目についた。
そしてふと口に出す。
「温泉もあるのか」
看板に描かれていたのは『大守の湯』という文字と、そこへの経路を示す矢印。ウィズが何気なしにつぶやいた言葉に、売店でソニアと話をしていた店員が反応する。
「そうなんですよ。ウチの温泉には美容効果はもちろん、魔力の循環を良くする効果もありますからね。なのでぜひどうぞ。今ならゆったりできますし」
「ゆったり、ですか?」
「ええ。なんたって貸し切りですからねえ。他のお客様がいないので」
「ああ……」
そういえば他の客を目にしていない。それもそのはずだ。フィリアという要人を泊まらせる宿に、他の客を泊まらせるわけにはいかないだろう。
「温泉かぁ……」
「入ってくればいいんじゃない? ほら、フィリアさんを誘ってさ」
「そうだね……それもいいかもね……」
ウィズの言葉にソニアはどこか寂しそうに視線を下げたのだった。
そして、先ほどフィリアが発見した結界の件も話したのだが、その時の感触も良かった。
『結界……っすか? いやー、マジっすか。
いえいえ、実は一日に三度、ウチの魔術師が検査してるんっすよ。それで今日の三度目の検査で、気配隠蔽系の結界が見つかったりして、解除して調査を開始したばかりなんですよね。
……まさか、こんな短時間に新しいモンができるとは。心配かけてすみません! 帰ったら担当の魔術師叩き起こして対処させます!』
と、やる気満々な対応を見せていた。
しかしながら彼女の言うことをからして、そういう勢力の動きは活発のようだ。こちらも気を引き締めなければならないだろう。
そういう反面、『選定式』で『ブレイブ家』の首を狙っているウィズにとっては有難いことでもある。
(事が『アーク領』外でも発生すれば、それは『アーク家』だけの問題じゃなくなるからな……)
『選定式』までに世界が荒れれば荒れるほど、ウィズにとっては有利になる。それだけゴチャゴチャしてくれれば、すでに内部に入り込んでいるウィズが動きやすくなる。
だから『アーク家』の反対勢力には程々に頑張ってほしいというのがウィズの考えであった。
エレノアたちも帰った談話室で、再び資料に目を落としたフィリアが言った。
「今日はもういいわ。二人とも、各自部屋で休むなりしなさい」
「え……いいんですか?」
「私もすぐに寝るわ」
フィリアは心配して声を描けてきたソニアへ弱めの声量でそう返す。
「数日間の具体的な動きは明日説明するわ。ここは安全だし、感謝祭に向けて体調を整えておきなさい」
言い終わると、ソニアが出してくれた飲み物を口にしては資料に目を戻した。
確かに今日はもうやることはない。決定権はフィリアにあるのだし、素直に従わない理由はなかった。
「了解です。一足に先に部屋で休ませてもらいますね……。って思ったんですけど」
ウィズは小さく笑って告げる。
「小腹が空いてしまって……。売店で何か買ってきます」
「……そう。なら、私もお使いお願いしていいかしら?」
「ええ、勿論。ソニアはどうする?」
「えっ、ボク……? うーん……」
「ソニアも一緒に行って来たら? 私は一人で大丈夫だから」
指を顎に当てて悩む仕草を見せる彼女に、フィリアは淡々と言い放った。
護衛対象を一人にして良いものかと思う反面、フィリアなら大丈夫だろうという安心感もある。本人が言っているのだし、否定することもないかもしれない。
そもそも、売店への物理的な距離はそう遠くはない。何かがあれば壁や床をぶち破って駆け付ければよい。
フィリアの言葉に少し迷っていたソニアへ、ウィズは言った。
「そうですね。そう遠くないし、一緒に行こうか。フィリアさん、無いとは思いますが万が一、何かあれば……」
「ええ。派手に知らせるわ」
フィリアもそのつもりのようだ。
ソニアもその言葉を聞いて迷いは消えたようだった。部屋にフィリアを残して、二人は共に売店へ向かう。
そうやって売店のある場所に着いた。そこは休憩スペースと併用となっており、買ったものをその場所で楽しめるよう、イスやテーブルも配置してあった。
「色々あるんだねー。ウィズはどうする?」
「やっぱり定番の"ナタ=デ=ココ"のゼリーとか……。ほら、抹茶が混ぜてあるやつ」
「あー、それ甘くないやつだ。そういえば、ウィズは甘いの苦手だったね。前に喫茶店に行った時、何気なく砂糖入れを遠くにやってたよね」
「……そんなところまでよく覚えてるね」
「なんかね、ピーマンを避ける子供みたいで」
「それは聞きたくなかった……」
「冗談だよ!」
二人で話をしながら休憩スペースを通って売店へと歩みを進める。
売店の前につくと、ソニアは少し楽しそうに品を眺めだした。その隣でウィズはふと売店から目をそらす。
そして自然な動作でわきに置いてあった『ノルハ』の観光案内をいくつか手に取った。
(こういう情報が欲しかった。知らない土地だからな。もしものために知っておいた方が良い……)
実は間食なんかよりもこちらが目当てだったりするのだが、それを口にするのはちょっと違和感がある気がしてやめたのだ。目的通りのものを手にしたウィズだが、その過程でふと看板が目についた。
そしてふと口に出す。
「温泉もあるのか」
看板に描かれていたのは『大守の湯』という文字と、そこへの経路を示す矢印。ウィズが何気なしにつぶやいた言葉に、売店でソニアと話をしていた店員が反応する。
「そうなんですよ。ウチの温泉には美容効果はもちろん、魔力の循環を良くする効果もありますからね。なのでぜひどうぞ。今ならゆったりできますし」
「ゆったり、ですか?」
「ええ。なんたって貸し切りですからねえ。他のお客様がいないので」
「ああ……」
そういえば他の客を目にしていない。それもそのはずだ。フィリアという要人を泊まらせる宿に、他の客を泊まらせるわけにはいかないだろう。
「温泉かぁ……」
「入ってくればいいんじゃない? ほら、フィリアさんを誘ってさ」
「そうだね……それもいいかもね……」
ウィズの言葉にソニアはどこか寂しそうに視線を下げたのだった。
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