108 / 165
108 仮想敵
しおりを挟む
腕の光輪がフィリアの斬撃とぶつかり合い、発生した高周波がウィズの耳をつんざいた。振動が腕から肩へ伝わり、最終的には心臓が二重に揺れる。
「……っ」
ウィズの光輪は未だに回転を続けており、『緋閃』は加速を続けていた。けれども加速が足りなかったのか、フィリアの斬撃を受けきれずに光輪は削られていく。
「くそっ……!」
しかし斬撃に対し、ある程度の防御としてはもう少しの時間ぐらいは機能してくれるであろう。ウィズは毒づきながらも体を傾けた。
「ちぃ……っ!」
『緋閃』の光輪だけを腕から残し、地面を蹴った。残された光輪は少しの間は斬撃を拮抗するも、使用者を失ったことでそれは構築力を失い、すぐに魔粒子へとほどけていく。
直後、フィリアの魔剣の魔力を含んだ斬撃がその魔粒子を誘爆させ、爆発を引き起こした。ウィズは爆風に背中を押し出されるようにして、その場から逃げ出した。
背中からの爆風でバランスを崩し、そのまま転げ落ちるウィズ。それでもすぐに立ち上がってフィリアの視界の中に捉えた。
「!」
その視線にフィリアが気づいたころには、あろうことかウィズは彼女に向かって駆け出していた。両手には『緋閃』の魔法陣をそれぞれ展開させながら。
「っ!」
フィリアは咄嗟に剣を振るい、斬撃を放つ。ウィズはそれを読んでいて、左手の魔法陣から『緋閃』を放つと、地面を蹴って上へ飛躍する。『緋閃』の反動で自身の体を吹っ飛ばし、斬撃を避けると共にフィリアの頭上を取る。同時に右手の魔法陣から『緋閃』が顕現し、腕の周りでその光が弧を描き始めた。
「――ッ!」
ウィズはそのまま左手の消えかけている『緋閃』の放つ角度を変更し、その勢いでフィリアの背後に吹っ飛び着地した。同時に左腕の『緋閃』は消え失せるが、右腕に光輪となって迸る『緋閃』は健在である。
フィリアが振り返る頃には、ウィズは彼女の目の前まで肉薄していた。ウィズとフィリアの二者間の距離はすでに目と鼻の先。剣を振るうよりも、ウィズの『緋閃』を灯した拳が振るわれる方が圧倒的に早い位置関係になっていた。
(これで寝てろよ! 怪物女!)
恐ろしいことに、フィリアはまだまだ本気ではない。いや、この模擬戦闘自体には本気で取り組んでいるようであるが、それが彼女の実力の全てというわけではなかった。それをウィズは何となく察していた。
しかしこの模擬戦闘においてはウィズが勝ちを得る。ウィズの拳がフィリア目掛けて放たれ、それはすでに数センチまで届いてそのまま――。
けれども、その拳はフィリアへは届かなかった。
「なっ……!」
「ひゃっ……!?」
地面が大きく揺れ、二人を上へ弾いたのであった。力が抜けるような高く女々しい声で悲鳴を上げるフィリアとは対照的に、突然のことにウィズは低い声で下を見た。
仲良く上へ吹っ飛ばされた二人はほぼ同じタイミングで着地する。ウィズは少し気が立っていたせいか、三転着地を決めるも、フィリアはそのまま地面に倒れ込んだ。
「これは……」
すでに『緋閃』は途切れている。ウィズは辺りを見渡し、地面が振動したのと同時に部屋が失ったものを視認して立ち尽くした。
「空の色が……」
そう、青い空に白い雲が流れていた壁であったが、それが見事に白と黒のモノクロの空へと打って変わってしまっていた。心なしか雲の流れるスピードも大分落ちている気がする。
茫然とするウィズ。そんな彼の隣で、自分だけが着地に失敗した羞恥を感じて微かに赤面しているフィリアが、その疑問について口を開いた。
「……この部屋の魔力の吸収量が限界に近くなったのね。吸収しきれないほどの量が部屋の中で魔力が使われると、警告として今みたいになるの」
「魔力の吸収……? ……ああ、確かに」
フィリアの『魔力の吸収量』という言葉がよく理解できなかったが、この部屋の壁が『緋閃』を吸い込む光景を思い出したところでウィズはその言葉を納得する。
ここは『東棟』。魔力で構成されている隔離空間だ。普段の世界とは隔離されている。ここでの魔力の使用は『東棟』の外では感知できないような仕組みになっているのだろう。
この部屋も例外ではなく、それを成すためのシステムが組み込まれていて、それが『魔力の吸収量』のことなのだ。考えるに、魔力が一気に外の世界へ溢れ出るのを防ぐため、一時的に貯蓄してからゆっくりと静かに、外の世界へ流すのだろう。そうすれば感知にも引っかかりづらい。
ともあれ、部屋の警告のせいで勝負は最後の最後で途中放棄せざるを得なくなってしまった。少し消化不良を感じながら、ウィズはその場で腰を下ろす。
「それで、どうします? また戦いますか?」
「……ううん。もう大丈夫だよ、ありがとう。わたしも感触は掴めたしね」
「それはそれは」
ウィズは笑って相槌を打った。そして下を向くと、完全に消え失せた表情で思考する。
(あの至近距離ならば、剣の振りよりもオレの拳の方が速いのか)
ウィズがフィリアに攻め込んだのはそれが知りたかったためでもあった。
(『アーク家』でこれなら……ふむ)
ウィズの敵は決まっている。対『ブレイブ家』のシミュレーションとして、フィリアを筆頭に『アーク家』の面々との戦闘は、同じ剣聖御三家ということもあり、かなり優秀なはずだ。
いずれ確実に来る日に向かって、ウィズは着々と覚悟を作っていったのだった。
「……っ」
ウィズの光輪は未だに回転を続けており、『緋閃』は加速を続けていた。けれども加速が足りなかったのか、フィリアの斬撃を受けきれずに光輪は削られていく。
「くそっ……!」
しかし斬撃に対し、ある程度の防御としてはもう少しの時間ぐらいは機能してくれるであろう。ウィズは毒づきながらも体を傾けた。
「ちぃ……っ!」
『緋閃』の光輪だけを腕から残し、地面を蹴った。残された光輪は少しの間は斬撃を拮抗するも、使用者を失ったことでそれは構築力を失い、すぐに魔粒子へとほどけていく。
直後、フィリアの魔剣の魔力を含んだ斬撃がその魔粒子を誘爆させ、爆発を引き起こした。ウィズは爆風に背中を押し出されるようにして、その場から逃げ出した。
背中からの爆風でバランスを崩し、そのまま転げ落ちるウィズ。それでもすぐに立ち上がってフィリアの視界の中に捉えた。
「!」
その視線にフィリアが気づいたころには、あろうことかウィズは彼女に向かって駆け出していた。両手には『緋閃』の魔法陣をそれぞれ展開させながら。
「っ!」
フィリアは咄嗟に剣を振るい、斬撃を放つ。ウィズはそれを読んでいて、左手の魔法陣から『緋閃』を放つと、地面を蹴って上へ飛躍する。『緋閃』の反動で自身の体を吹っ飛ばし、斬撃を避けると共にフィリアの頭上を取る。同時に右手の魔法陣から『緋閃』が顕現し、腕の周りでその光が弧を描き始めた。
「――ッ!」
ウィズはそのまま左手の消えかけている『緋閃』の放つ角度を変更し、その勢いでフィリアの背後に吹っ飛び着地した。同時に左腕の『緋閃』は消え失せるが、右腕に光輪となって迸る『緋閃』は健在である。
フィリアが振り返る頃には、ウィズは彼女の目の前まで肉薄していた。ウィズとフィリアの二者間の距離はすでに目と鼻の先。剣を振るうよりも、ウィズの『緋閃』を灯した拳が振るわれる方が圧倒的に早い位置関係になっていた。
(これで寝てろよ! 怪物女!)
恐ろしいことに、フィリアはまだまだ本気ではない。いや、この模擬戦闘自体には本気で取り組んでいるようであるが、それが彼女の実力の全てというわけではなかった。それをウィズは何となく察していた。
しかしこの模擬戦闘においてはウィズが勝ちを得る。ウィズの拳がフィリア目掛けて放たれ、それはすでに数センチまで届いてそのまま――。
けれども、その拳はフィリアへは届かなかった。
「なっ……!」
「ひゃっ……!?」
地面が大きく揺れ、二人を上へ弾いたのであった。力が抜けるような高く女々しい声で悲鳴を上げるフィリアとは対照的に、突然のことにウィズは低い声で下を見た。
仲良く上へ吹っ飛ばされた二人はほぼ同じタイミングで着地する。ウィズは少し気が立っていたせいか、三転着地を決めるも、フィリアはそのまま地面に倒れ込んだ。
「これは……」
すでに『緋閃』は途切れている。ウィズは辺りを見渡し、地面が振動したのと同時に部屋が失ったものを視認して立ち尽くした。
「空の色が……」
そう、青い空に白い雲が流れていた壁であったが、それが見事に白と黒のモノクロの空へと打って変わってしまっていた。心なしか雲の流れるスピードも大分落ちている気がする。
茫然とするウィズ。そんな彼の隣で、自分だけが着地に失敗した羞恥を感じて微かに赤面しているフィリアが、その疑問について口を開いた。
「……この部屋の魔力の吸収量が限界に近くなったのね。吸収しきれないほどの量が部屋の中で魔力が使われると、警告として今みたいになるの」
「魔力の吸収……? ……ああ、確かに」
フィリアの『魔力の吸収量』という言葉がよく理解できなかったが、この部屋の壁が『緋閃』を吸い込む光景を思い出したところでウィズはその言葉を納得する。
ここは『東棟』。魔力で構成されている隔離空間だ。普段の世界とは隔離されている。ここでの魔力の使用は『東棟』の外では感知できないような仕組みになっているのだろう。
この部屋も例外ではなく、それを成すためのシステムが組み込まれていて、それが『魔力の吸収量』のことなのだ。考えるに、魔力が一気に外の世界へ溢れ出るのを防ぐため、一時的に貯蓄してからゆっくりと静かに、外の世界へ流すのだろう。そうすれば感知にも引っかかりづらい。
ともあれ、部屋の警告のせいで勝負は最後の最後で途中放棄せざるを得なくなってしまった。少し消化不良を感じながら、ウィズはその場で腰を下ろす。
「それで、どうします? また戦いますか?」
「……ううん。もう大丈夫だよ、ありがとう。わたしも感触は掴めたしね」
「それはそれは」
ウィズは笑って相槌を打った。そして下を向くと、完全に消え失せた表情で思考する。
(あの至近距離ならば、剣の振りよりもオレの拳の方が速いのか)
ウィズがフィリアに攻め込んだのはそれが知りたかったためでもあった。
(『アーク家』でこれなら……ふむ)
ウィズの敵は決まっている。対『ブレイブ家』のシミュレーションとして、フィリアを筆頭に『アーク家』の面々との戦闘は、同じ剣聖御三家ということもあり、かなり優秀なはずだ。
いずれ確実に来る日に向かって、ウィズは着々と覚悟を作っていったのだった。
0
お気に入りに追加
2,430
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる