106 / 165
106 油断
しおりを挟む
フィリアの剣と戦りあっていて分かったことがある。
いや、分かったことというよりは、疑問が浮かび上がってきたというべきか。
(何故だ……)
ウィズはフィリアの迫りくる斬撃をかいくぐりながら、『緋閃』を打ってさらに距離を作る。フィリアは負けじと距離を詰めようとはしてくるが、中々真っすぐな斬撃だけでは接近は難しかった。
そう、ウィズの疑問はそこなのだ。
(何故、いつまでたっても"それ"しかやってこない……?)
直線的な攻撃であることに着目し、『緋閃』でけん制しながら距離を取っていく戦法を取ったウィズ。それはフィリアもわかっているはずだ。
それなのに、彼女は距離を取ってきたウィズに対して、全く攻め方を変える兆しを見せなかったのだ。現に、今も彼女は直線的な斬撃でウィズを狙っている。
(これしかできないわけじゃねーだろ……)
思い出すのは昨日のことだ。ウィズの目の前にフィリアが姿を現した際、夜の闇から突然現れた。魔剣『フレスベルク』の魔力を使った妖術であろう。つまり彼女は、その手の絡め手を扱えるということだ。
しかし現時点で、彼女はそういう技を全く使ってこない。
それを踏まえてどういうことかを考えてみる。
(そういう縛りを課しているのか?)
真っ先に思いつくのは、フィリアがウィズ相手に直線的な斬撃のみで攻略する目標を立てているということ。だが、完全にウィズが対策を取ってしまっているこの状況で、それを遂行するのははっきり言って無理だ。時間の無駄だろう。そんな無駄に時間を費やせるほど、『セリドア聖騎士団』の総長選定式の日程は遠くはない。
「……」
フィリアの視線はずっとウィズの動きを見張っているようであった。ウィズはフィリアと対峙しながら背後をに下がるも、背中が壁にぶつかってその動きが止まる。フィリアの行動について思考していたせいか、気づけば壁際まで追い詰められていたようだ。
フィリアはここぞと言わんばかりに距離をつめてくる。確かに立ち位置の有利を取るのは上達したように思えるが、それでは足りない。
「さて」
ウィズは右腕の手を遊ばせて、再び『魔収束《アトラクト》』を発動させる。さっきからのけん制である『緋閃』も、いくつかはフィリアの斬撃とかち合っては砕けて散らばっていた。それを使えばまたさっきのように彼女の行動を抑制できる。その隙に壁際から脱すれば良い。
(そんなんじゃいつまで経ってもなぁ……)
そろそろ飽きが喉のどこまできていて、あからさまに眠気が襲ってきていた。ウィズの表情にも微かに"うんざり"といった色が滲んできている。
「……!」
そんなウィズとは対照的に、フィリアの体がピクリと反応した。さっきもウィズは『魔収束《アトラクト》』を見せていた。だからその気配を知っている。恐らく『魔収束《アトラクト》』の発現を体で察知したのだ。
しかし気づいたところで、このままではさっきと同じく足を止めざるを得ないだけだ。そしてウィズに壁際からの脱出という選択を与えてしまえば、またウィズ優位の小競り合いに巻き戻る。それでは何も変わらない。
(さあ何かしてくるかな? それともまだ何もしてこないのか……)
二つに一つ。だがウィズとしては後者はやめてほしいところである。
『魔収束《アトラクト》』によって空間に散りばめられた『緋閃』のカケラが再び光を得た。遠隔でのウィズの魔力を受けて、それらの矛先はフィリアへと向けられる。
四方八方からの魔術。人間目は二つで手足は四つ。その程度の数では全ての熱線を防ぎきれないだろう。
(さっきまでの変わらない戦法を取るなら、偶然というか奮闘の結果というか、そんな感じでフィリアを焼き切っちまうか)
ウィズは退屈が嫌で、どこか破滅的な思考回路へ流れていた。字面はかなり攻撃的でよろしくないが、実際にそれはありであった。
そもそもこれは模擬戦闘なのだ。そういう事故だってたまには起こる。フィリアも、さっきまでいたガスタも、それを分かっていてウィズをここに入れたのだ。もしそうなっても、それは仕方ないものとして処理するであろうから、行動に移すリスクは低いはずだ。
(まあ、まずは『魔収束《これ》』をどう防ぐか、だな)
ウィズはフィリアを睨むように見る。それと同時に『魔収束《アトラクト》』による魔力の糸は散らばった全ての魔粒子に行き渡った。
「避けられますかね」
――ま、無理そうだけど。そんな余計な一言を飲み込んで、ウィズは『魔収束《アトラクト》』の引き金を引いた。
虚空に熱を抱いて光を放つ粒子。それらの点は線となり、一直線にそれぞれがフィリアへと向かっていく。ウィズは姿勢を低くすると、フィリアを注視しながらその場から移動しようと足を上げた。
「避ける、ね」
フィリアの声。目の前に広がる光景に、今度はぴくりとウィズの肩が揺れて、ひっそり上げた足が止まった。そしてすぐに、それで地面に強く踏みしめた。
「……へぇ」
ウィズは低く唸った。思い返してみれば、今さっきのフィリアの声にはどこか『喜』の感情が含まれていた気がする。
「なるほどね。これは僕が油断してたわけか」
ため息交じりに、けれども口元は緩めながら、ウィズはフィリアへ告げる。
彼女の周囲にはウィズが放った『魔収束《アトラクト》』による『緋閃』の矛先が、体に命中するよりも前にその軌道上で静止していた。
「修行の成果は、ここからよ」
ウィズを見てどこか満足気な表情のフィリアが、そう言って剣をウィズへ向けたのだった。
いや、分かったことというよりは、疑問が浮かび上がってきたというべきか。
(何故だ……)
ウィズはフィリアの迫りくる斬撃をかいくぐりながら、『緋閃』を打ってさらに距離を作る。フィリアは負けじと距離を詰めようとはしてくるが、中々真っすぐな斬撃だけでは接近は難しかった。
そう、ウィズの疑問はそこなのだ。
(何故、いつまでたっても"それ"しかやってこない……?)
直線的な攻撃であることに着目し、『緋閃』でけん制しながら距離を取っていく戦法を取ったウィズ。それはフィリアもわかっているはずだ。
それなのに、彼女は距離を取ってきたウィズに対して、全く攻め方を変える兆しを見せなかったのだ。現に、今も彼女は直線的な斬撃でウィズを狙っている。
(これしかできないわけじゃねーだろ……)
思い出すのは昨日のことだ。ウィズの目の前にフィリアが姿を現した際、夜の闇から突然現れた。魔剣『フレスベルク』の魔力を使った妖術であろう。つまり彼女は、その手の絡め手を扱えるということだ。
しかし現時点で、彼女はそういう技を全く使ってこない。
それを踏まえてどういうことかを考えてみる。
(そういう縛りを課しているのか?)
真っ先に思いつくのは、フィリアがウィズ相手に直線的な斬撃のみで攻略する目標を立てているということ。だが、完全にウィズが対策を取ってしまっているこの状況で、それを遂行するのははっきり言って無理だ。時間の無駄だろう。そんな無駄に時間を費やせるほど、『セリドア聖騎士団』の総長選定式の日程は遠くはない。
「……」
フィリアの視線はずっとウィズの動きを見張っているようであった。ウィズはフィリアと対峙しながら背後をに下がるも、背中が壁にぶつかってその動きが止まる。フィリアの行動について思考していたせいか、気づけば壁際まで追い詰められていたようだ。
フィリアはここぞと言わんばかりに距離をつめてくる。確かに立ち位置の有利を取るのは上達したように思えるが、それでは足りない。
「さて」
ウィズは右腕の手を遊ばせて、再び『魔収束《アトラクト》』を発動させる。さっきからのけん制である『緋閃』も、いくつかはフィリアの斬撃とかち合っては砕けて散らばっていた。それを使えばまたさっきのように彼女の行動を抑制できる。その隙に壁際から脱すれば良い。
(そんなんじゃいつまで経ってもなぁ……)
そろそろ飽きが喉のどこまできていて、あからさまに眠気が襲ってきていた。ウィズの表情にも微かに"うんざり"といった色が滲んできている。
「……!」
そんなウィズとは対照的に、フィリアの体がピクリと反応した。さっきもウィズは『魔収束《アトラクト》』を見せていた。だからその気配を知っている。恐らく『魔収束《アトラクト》』の発現を体で察知したのだ。
しかし気づいたところで、このままではさっきと同じく足を止めざるを得ないだけだ。そしてウィズに壁際からの脱出という選択を与えてしまえば、またウィズ優位の小競り合いに巻き戻る。それでは何も変わらない。
(さあ何かしてくるかな? それともまだ何もしてこないのか……)
二つに一つ。だがウィズとしては後者はやめてほしいところである。
『魔収束《アトラクト》』によって空間に散りばめられた『緋閃』のカケラが再び光を得た。遠隔でのウィズの魔力を受けて、それらの矛先はフィリアへと向けられる。
四方八方からの魔術。人間目は二つで手足は四つ。その程度の数では全ての熱線を防ぎきれないだろう。
(さっきまでの変わらない戦法を取るなら、偶然というか奮闘の結果というか、そんな感じでフィリアを焼き切っちまうか)
ウィズは退屈が嫌で、どこか破滅的な思考回路へ流れていた。字面はかなり攻撃的でよろしくないが、実際にそれはありであった。
そもそもこれは模擬戦闘なのだ。そういう事故だってたまには起こる。フィリアも、さっきまでいたガスタも、それを分かっていてウィズをここに入れたのだ。もしそうなっても、それは仕方ないものとして処理するであろうから、行動に移すリスクは低いはずだ。
(まあ、まずは『魔収束《これ》』をどう防ぐか、だな)
ウィズはフィリアを睨むように見る。それと同時に『魔収束《アトラクト》』による魔力の糸は散らばった全ての魔粒子に行き渡った。
「避けられますかね」
――ま、無理そうだけど。そんな余計な一言を飲み込んで、ウィズは『魔収束《アトラクト》』の引き金を引いた。
虚空に熱を抱いて光を放つ粒子。それらの点は線となり、一直線にそれぞれがフィリアへと向かっていく。ウィズは姿勢を低くすると、フィリアを注視しながらその場から移動しようと足を上げた。
「避ける、ね」
フィリアの声。目の前に広がる光景に、今度はぴくりとウィズの肩が揺れて、ひっそり上げた足が止まった。そしてすぐに、それで地面に強く踏みしめた。
「……へぇ」
ウィズは低く唸った。思い返してみれば、今さっきのフィリアの声にはどこか『喜』の感情が含まれていた気がする。
「なるほどね。これは僕が油断してたわけか」
ため息交じりに、けれども口元は緩めながら、ウィズはフィリアへ告げる。
彼女の周囲にはウィズが放った『魔収束《アトラクト》』による『緋閃』の矛先が、体に命中するよりも前にその軌道上で静止していた。
「修行の成果は、ここからよ」
ウィズを見てどこか満足気な表情のフィリアが、そう言って剣をウィズへ向けたのだった。
0
お気に入りに追加
2,430
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる