72 / 165
72 四人
しおりを挟む
「……」
ウィズが銀髪の彼に向けた人差し指は確かに殺傷能力を孕んだ熱線が込められていた。それを向けられた男の子はごくんと喉を鳴らし、ウィズの冷静な瞳を見る。彼の短く切られた銀の前髪が揺れた。
「ふーん……」
テーブルに肘をついて、ウィズの知らない女の子が興味深そうに二人へ目を向けた。彼女はクセなのか、前髪の両横に伸ばしている二本の銀髪の内、片方をその手で触る。
少年がウィズに攻撃してきたというのに、その場に空気の乱れは感じなかった。誰一人として動揺すらしていない。ということは、一連の出来事が全員が周知であったのだ。
つまり、これはウィズに斬りかかった男の子の独断ではないということ。
(またこのやり口か……。こうすれば手っ取り早いのは分かるが)
ウィズは以前『ガスタ・アーク』に斬撃を受けたことを思い出しながら、短く息を吐いた。まるで蛮族のように暴力に頼るのは、権力を持つ貴族としていただけないとは思う。
しかしながら『アーク家』は剣の強さでここまで成り上がってきた。そう考えると、武力で片付けて道を開いていくのはある意味元来から続く"伝統"なのかもしれない。『伝統』といい『家訓』といい、格式に囚われてばかりの家だ。
フィリアは『家訓』を無くすと言っていたが、それだけでは足りない気がする。それ以上に、このすぐ暴力に逃げる体制そのものを変えないと、いつまで経っても『剣聖』の呪縛から逃れられないのではないだろうか。
――いや、フィリアは確かに『家訓』を潰したいとは言ったが、剣聖の名に関しては何も言及していなかった。このように物事を進めることに対しては、何の抵抗もない可能性がある。
「ウィズ、指を下ろしなさい」
フィリアがウィズに告げた。ウィズは再び部屋の中を見渡す。
席に座る銀髪たちの腰は各々剣を腰回りに差している。そして初見の二人が座っていた席につく、護衛と思われる二人もそれぞれ武器を装備していた。それらを確認したことを分かるように動作で表すと、ウィズはゆっくり指を下ろした。
直後、ウィズに斬りかかった銀髪の少年は両腕と肩を下ろす。そしてウィズにほんのわずかに、小さく一礼すると、彼が座っていた席へと戻った。
「……?」
ウィズはその動作に疑問符を浮かべる。が、それもつかの間、フィリアの声がウィズへ放たれた。
「流石ね。こんなところでの奇襲にも対応できるなんて」
口元を緩ませてフィリアは言う。しかし感情が籠っていない棒読みで、誰が聞いても方便であることは理解できた。
「いえ。この男がどうというわけではないわ、お姉様。今のはハーネスがトロかったから」
しかしその常套句に異を唱えたのが初見の女の子。そう言ってハーネスと呼ばれた銀髪の少年が席についたのを見つめていた。
ハーネスは席に着くや否や、肩身が狭いといったように身を縮める。そんな彼を擁護するように、アルトが軽い口調でその女の子へ言った。
「そう言ってやるなよ、エルシィ。まだまだ成長途中。長い目で見るべきさ。ハーネスは特にね」
「……お兄様がそうおっしゃるなら」
アルトの言葉に少し口をとがらせつつも、その女の子――エルシィはそれ以上は何も言わなくなった。その様子から見れば分かるように、半ば納得していないようであるが。
そんなアルトにハーネスは申し訳なそうな視線を送った。アルトはそれに気づくと、小さく笑って彼を励ます。
(……姉様に兄様ねぇ)
ウィズはそこに揃ったそれぞれの四人の銀髪を見据えつつ、そのまま直立していた。どうやら彼らはフィリアの下の家族――もとい、次女のエルシィと末っ子のハーネスであるわけだ。『アーク家』の家族構成は一切聞かされていなかったが、いくつか子供らがいるのは予め想定済みだったので、特に驚くことでもない。
「座りなさい」
そんな他の肉親たちのやり取りを覆うように、フィリアはウィズへ命令する。ウィズは大人しく返事をすると、目の前の開いている席に座った。
四つの二つの視線がウィズに集い、ウィズは真っ直ぐにフィリアを見つめる。フィリアはそのまま告げた。
「名目上では、昨日の襲撃に関しての聞き取りをするためにここへ呼び出したわけだが」
「……」
フィリアは目を細める。
「昨夜から、貴方の素性について調べさせてもらった。ソニアとは違って、貴方の情報は全くの不明だったから」
そう言いながら、テーブルの上に置かれた資料を手に持つフィリア。同時に他の肉親たちもそれに続いた。
ウィズはそのまま無表情を貫く。『ウィズ』の素性を追ったところで、『ブレイブ家』との関係は繋がらない。これだけは絶対だった。
そもそも『ウィズ』の素性を調べるなどというのは無謀である。なんせ、『ウィズ』は――。
「まさか、邪教団体『ミーマワロア真教 秘天教派』上がりの奴隷だったとはね」
「――」
ウィズは目を丸くしてフィリアを見てしまった。どうして、この短時間でそこまで情報を探れたのか。それができたことがとても不可解で、そしてそれは不可能であると思っていたのに。
「あら。なんて顔してますの」
その驚愕した表情を見て、エルシィは優雅に笑ったのだった。
ウィズが銀髪の彼に向けた人差し指は確かに殺傷能力を孕んだ熱線が込められていた。それを向けられた男の子はごくんと喉を鳴らし、ウィズの冷静な瞳を見る。彼の短く切られた銀の前髪が揺れた。
「ふーん……」
テーブルに肘をついて、ウィズの知らない女の子が興味深そうに二人へ目を向けた。彼女はクセなのか、前髪の両横に伸ばしている二本の銀髪の内、片方をその手で触る。
少年がウィズに攻撃してきたというのに、その場に空気の乱れは感じなかった。誰一人として動揺すらしていない。ということは、一連の出来事が全員が周知であったのだ。
つまり、これはウィズに斬りかかった男の子の独断ではないということ。
(またこのやり口か……。こうすれば手っ取り早いのは分かるが)
ウィズは以前『ガスタ・アーク』に斬撃を受けたことを思い出しながら、短く息を吐いた。まるで蛮族のように暴力に頼るのは、権力を持つ貴族としていただけないとは思う。
しかしながら『アーク家』は剣の強さでここまで成り上がってきた。そう考えると、武力で片付けて道を開いていくのはある意味元来から続く"伝統"なのかもしれない。『伝統』といい『家訓』といい、格式に囚われてばかりの家だ。
フィリアは『家訓』を無くすと言っていたが、それだけでは足りない気がする。それ以上に、このすぐ暴力に逃げる体制そのものを変えないと、いつまで経っても『剣聖』の呪縛から逃れられないのではないだろうか。
――いや、フィリアは確かに『家訓』を潰したいとは言ったが、剣聖の名に関しては何も言及していなかった。このように物事を進めることに対しては、何の抵抗もない可能性がある。
「ウィズ、指を下ろしなさい」
フィリアがウィズに告げた。ウィズは再び部屋の中を見渡す。
席に座る銀髪たちの腰は各々剣を腰回りに差している。そして初見の二人が座っていた席につく、護衛と思われる二人もそれぞれ武器を装備していた。それらを確認したことを分かるように動作で表すと、ウィズはゆっくり指を下ろした。
直後、ウィズに斬りかかった銀髪の少年は両腕と肩を下ろす。そしてウィズにほんのわずかに、小さく一礼すると、彼が座っていた席へと戻った。
「……?」
ウィズはその動作に疑問符を浮かべる。が、それもつかの間、フィリアの声がウィズへ放たれた。
「流石ね。こんなところでの奇襲にも対応できるなんて」
口元を緩ませてフィリアは言う。しかし感情が籠っていない棒読みで、誰が聞いても方便であることは理解できた。
「いえ。この男がどうというわけではないわ、お姉様。今のはハーネスがトロかったから」
しかしその常套句に異を唱えたのが初見の女の子。そう言ってハーネスと呼ばれた銀髪の少年が席についたのを見つめていた。
ハーネスは席に着くや否や、肩身が狭いといったように身を縮める。そんな彼を擁護するように、アルトが軽い口調でその女の子へ言った。
「そう言ってやるなよ、エルシィ。まだまだ成長途中。長い目で見るべきさ。ハーネスは特にね」
「……お兄様がそうおっしゃるなら」
アルトの言葉に少し口をとがらせつつも、その女の子――エルシィはそれ以上は何も言わなくなった。その様子から見れば分かるように、半ば納得していないようであるが。
そんなアルトにハーネスは申し訳なそうな視線を送った。アルトはそれに気づくと、小さく笑って彼を励ます。
(……姉様に兄様ねぇ)
ウィズはそこに揃ったそれぞれの四人の銀髪を見据えつつ、そのまま直立していた。どうやら彼らはフィリアの下の家族――もとい、次女のエルシィと末っ子のハーネスであるわけだ。『アーク家』の家族構成は一切聞かされていなかったが、いくつか子供らがいるのは予め想定済みだったので、特に驚くことでもない。
「座りなさい」
そんな他の肉親たちのやり取りを覆うように、フィリアはウィズへ命令する。ウィズは大人しく返事をすると、目の前の開いている席に座った。
四つの二つの視線がウィズに集い、ウィズは真っ直ぐにフィリアを見つめる。フィリアはそのまま告げた。
「名目上では、昨日の襲撃に関しての聞き取りをするためにここへ呼び出したわけだが」
「……」
フィリアは目を細める。
「昨夜から、貴方の素性について調べさせてもらった。ソニアとは違って、貴方の情報は全くの不明だったから」
そう言いながら、テーブルの上に置かれた資料を手に持つフィリア。同時に他の肉親たちもそれに続いた。
ウィズはそのまま無表情を貫く。『ウィズ』の素性を追ったところで、『ブレイブ家』との関係は繋がらない。これだけは絶対だった。
そもそも『ウィズ』の素性を調べるなどというのは無謀である。なんせ、『ウィズ』は――。
「まさか、邪教団体『ミーマワロア真教 秘天教派』上がりの奴隷だったとはね」
「――」
ウィズは目を丸くしてフィリアを見てしまった。どうして、この短時間でそこまで情報を探れたのか。それができたことがとても不可解で、そしてそれは不可能であると思っていたのに。
「あら。なんて顔してますの」
その驚愕した表情を見て、エルシィは優雅に笑ったのだった。
0
お気に入りに追加
2,430
あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる