54 / 165
54 術
しおりを挟む
山道をウィズとソニアが乗る馬車が駆ける。その後ろには二つの馬車がついてきていた。
片や、エイジャが操縦を行っている。それらはこれからウィズたちが捕らえる奴らを運ぶための代物で、後ろには簡易的な檻の車がついていた。
ウィズは手綱を振るいながら、真剣な表情でソニアに声をかける。
「……ソニア」
「……?」
ソニアの視線がウィズへと向けられた。ウィズは前を見きつつ、ソニアへと告げる。
「今回ばかりは僕一人で戦うってわけにもいかない。敵をかち合ってユーナちゃんを確保できたとして、僕らは敵と戦う側と、ユーナちゃんを逃がす側で別れなくちゃいけない。戦闘のリスクは前者の方が高くつくけれど……」
ウィズは瞳を細めた。
「ユーナちゃんを逃がす側は時にそれ以上のリスクを背負うことになる。――ユーナちゃんを守りながら、敵と戦闘になった時だね」
真剣な表情でソニアはうなずく。木々のすき間を馬車は刻刻とアジトへ向かって走る。走る。
「僕が敵を請け負って、君がユーナちゃんと一緒に脱出。そういう役割分担が良いと思う。だからソニア、君がユーナちゃんを守らなくちゃいけない」
「……うん」
「だから――」
手綱を片手に集約し、ウィズはフリーになったもう片方の手でソニアの肩を掴んだ。そしてその手でソニアの身を引き寄せ、顔を彼女の至近距離まで寄せた。
互いの顔が触れそうなぐらいの距離で停止する。ソニアは僅かに赤面するも、ウィズが真剣な表情でソニアを真っ直ぐ見つめていたので、彼女も恋情に呑まれないよう、真っ直ぐとウィズを見返した。
「今から『魔力』を『身体能力』に働きかける術を身に着けてもらうよ。それだけでかなり違ってくるはずだから」
「そ、それならもう……」
「君のは微弱すぎるんだ。それじゃ効果が薄い。もっと大きな魔力を内から引き出して、肉体と神経に作用させないと。折角体を鍛えてるのにもったいないよ」
そう言いながら、ウィズはソニアの肩から手を離す。
ユーナ救出に今のソニアでは心もとないというのも否めない。なので、ここでウィズはソニアに成長してもらうことにした。
ウィズのような魔術師と違い、ソニアのような剣士は魔力の消費が少ない。だからその分、身体強化や剣術に消費を回すことができる。
ソニアの場合、確かにそれ自体はできていた。けれど、圧倒的に纏う魔力の量が少ない。もっと魔力を身体能力へ回しても良いのだ。
しかしそれも簡単にというわけにはいかない。やはり『魔法』と同じように、魔力を扱う技術には『努力』と『才能』が付きまとう。普通の安全策ではこの短時間で魔力の扱いを成長させるのはほぼ不可能といってよいだろう。
――だから、その技術向上も今の残された短時間でやるとするなら、少々手荒い真似をしなくてはならない。
「ソニア……」
「……うん?」
「今から、僕の魔力で君の中で眠ってる魔力を誘発させる。それを体に纏ってみてよ。纏う事自体はできてるんだし」
「えっ」
ウィズはそう言ってソニアに手をかざした。ソニアは目を丸くして、ウィズの言葉に面喰っていた。
「そんなことが……?」
「できる……と、思う。これからは自分でやらなきゃいけない過程だから、その感覚はちゃんと覚えてね」
「わ、分かった……!」
ソニアは胸に手を当て、決意めいた瞳で真っ直ぐ見つめる。それを横目で確認したウィズは小さく微笑むと、かざした手に魔力を込めて――。
「っ……!」
打ち出した。魔力がソニアの体周辺に及び、それは表面を包み込んでいく。ソニアは少し苦しそうに前かがみになった。そんな中、ゆっくりと彼女の体内にウィズの魔力が混ざっていく。
(……どうだ?)
ウィズは横目でソニアの様子を確認する。
ウィズの魔力は精神に汚染されて『負の魔粒子』で構成されていた。ソニアは言わずもがな、『正の魔粒子』である。それらは力次第で引き寄せ合ったり弾きあったり、はたまた何の影響も与えなかったりする。その性質にも期待していた。
さらには自分の体に他人の魔力が入ったことで、その魔力を押し出そうと中にある魔力が外へ出てくるはずだ。
「この感じ……!」
ソニアは自らの両手を開け閉めしながら、感じているであろう魔力による高揚感におののいているようだった。どうやらウィズの思惑は成功したようだ。ちょっとホッとしてウィズは息を吐く。
「そう、そんな感じ。その感覚を覚えて、自分でも出せるようにね」
「うん……っ! ありがとう! やってみるよ!」
「あ、ちょっと待って」
嬉しそうにお礼を告げるソニアに、ウィズは待ったをかけた。ソニアはきょとんとした顔でウィズを見つめる。
「まだだよ。魔力を纏った後は、神経と肉体に魔力を伝導して、ちゃんと効果を発揮させなきゃ」
「あ……。でも、こんなたくさんの魔力を――」
「大丈夫」
ウィズはソニアが言い終わるよりも先に、片手で彼女を馬車から突き飛ばした。
「――えっ?」
呆気からんとした表情で、馬車の外へ身を投げ出されるソニア。その瞳には無表情のウィズが映っていた。
「その魔力で身を守って、馬車に追いついてきな」
「――」
ソニアが地面に落ちたのはすぐのことであった。勢いよく地面に叩きつけられ、彼女の体は弾かれては後ろへと飛んで行った。
「……」
ウィズはそんなソニアなど気にもせず、手綱を両手で握り直したのだった。
片や、エイジャが操縦を行っている。それらはこれからウィズたちが捕らえる奴らを運ぶための代物で、後ろには簡易的な檻の車がついていた。
ウィズは手綱を振るいながら、真剣な表情でソニアに声をかける。
「……ソニア」
「……?」
ソニアの視線がウィズへと向けられた。ウィズは前を見きつつ、ソニアへと告げる。
「今回ばかりは僕一人で戦うってわけにもいかない。敵をかち合ってユーナちゃんを確保できたとして、僕らは敵と戦う側と、ユーナちゃんを逃がす側で別れなくちゃいけない。戦闘のリスクは前者の方が高くつくけれど……」
ウィズは瞳を細めた。
「ユーナちゃんを逃がす側は時にそれ以上のリスクを背負うことになる。――ユーナちゃんを守りながら、敵と戦闘になった時だね」
真剣な表情でソニアはうなずく。木々のすき間を馬車は刻刻とアジトへ向かって走る。走る。
「僕が敵を請け負って、君がユーナちゃんと一緒に脱出。そういう役割分担が良いと思う。だからソニア、君がユーナちゃんを守らなくちゃいけない」
「……うん」
「だから――」
手綱を片手に集約し、ウィズはフリーになったもう片方の手でソニアの肩を掴んだ。そしてその手でソニアの身を引き寄せ、顔を彼女の至近距離まで寄せた。
互いの顔が触れそうなぐらいの距離で停止する。ソニアは僅かに赤面するも、ウィズが真剣な表情でソニアを真っ直ぐ見つめていたので、彼女も恋情に呑まれないよう、真っ直ぐとウィズを見返した。
「今から『魔力』を『身体能力』に働きかける術を身に着けてもらうよ。それだけでかなり違ってくるはずだから」
「そ、それならもう……」
「君のは微弱すぎるんだ。それじゃ効果が薄い。もっと大きな魔力を内から引き出して、肉体と神経に作用させないと。折角体を鍛えてるのにもったいないよ」
そう言いながら、ウィズはソニアの肩から手を離す。
ユーナ救出に今のソニアでは心もとないというのも否めない。なので、ここでウィズはソニアに成長してもらうことにした。
ウィズのような魔術師と違い、ソニアのような剣士は魔力の消費が少ない。だからその分、身体強化や剣術に消費を回すことができる。
ソニアの場合、確かにそれ自体はできていた。けれど、圧倒的に纏う魔力の量が少ない。もっと魔力を身体能力へ回しても良いのだ。
しかしそれも簡単にというわけにはいかない。やはり『魔法』と同じように、魔力を扱う技術には『努力』と『才能』が付きまとう。普通の安全策ではこの短時間で魔力の扱いを成長させるのはほぼ不可能といってよいだろう。
――だから、その技術向上も今の残された短時間でやるとするなら、少々手荒い真似をしなくてはならない。
「ソニア……」
「……うん?」
「今から、僕の魔力で君の中で眠ってる魔力を誘発させる。それを体に纏ってみてよ。纏う事自体はできてるんだし」
「えっ」
ウィズはそう言ってソニアに手をかざした。ソニアは目を丸くして、ウィズの言葉に面喰っていた。
「そんなことが……?」
「できる……と、思う。これからは自分でやらなきゃいけない過程だから、その感覚はちゃんと覚えてね」
「わ、分かった……!」
ソニアは胸に手を当て、決意めいた瞳で真っ直ぐ見つめる。それを横目で確認したウィズは小さく微笑むと、かざした手に魔力を込めて――。
「っ……!」
打ち出した。魔力がソニアの体周辺に及び、それは表面を包み込んでいく。ソニアは少し苦しそうに前かがみになった。そんな中、ゆっくりと彼女の体内にウィズの魔力が混ざっていく。
(……どうだ?)
ウィズは横目でソニアの様子を確認する。
ウィズの魔力は精神に汚染されて『負の魔粒子』で構成されていた。ソニアは言わずもがな、『正の魔粒子』である。それらは力次第で引き寄せ合ったり弾きあったり、はたまた何の影響も与えなかったりする。その性質にも期待していた。
さらには自分の体に他人の魔力が入ったことで、その魔力を押し出そうと中にある魔力が外へ出てくるはずだ。
「この感じ……!」
ソニアは自らの両手を開け閉めしながら、感じているであろう魔力による高揚感におののいているようだった。どうやらウィズの思惑は成功したようだ。ちょっとホッとしてウィズは息を吐く。
「そう、そんな感じ。その感覚を覚えて、自分でも出せるようにね」
「うん……っ! ありがとう! やってみるよ!」
「あ、ちょっと待って」
嬉しそうにお礼を告げるソニアに、ウィズは待ったをかけた。ソニアはきょとんとした顔でウィズを見つめる。
「まだだよ。魔力を纏った後は、神経と肉体に魔力を伝導して、ちゃんと効果を発揮させなきゃ」
「あ……。でも、こんなたくさんの魔力を――」
「大丈夫」
ウィズはソニアが言い終わるよりも先に、片手で彼女を馬車から突き飛ばした。
「――えっ?」
呆気からんとした表情で、馬車の外へ身を投げ出されるソニア。その瞳には無表情のウィズが映っていた。
「その魔力で身を守って、馬車に追いついてきな」
「――」
ソニアが地面に落ちたのはすぐのことであった。勢いよく地面に叩きつけられ、彼女の体は弾かれては後ろへと飛んで行った。
「……」
ウィズはそんなソニアなど気にもせず、手綱を両手で握り直したのだった。
0
お気に入りに追加
2,430
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる