名の無い魔術師の報復戦線 ~魔法の天才が剣の名家で産まれましたが、剣の才能がなくて追放されたので、名前を捨てて報復します~

トンボ

文字の大きさ
上 下
40 / 165

40 『アーク家』の宿命

しおりを挟む
「……魔剣『フレスベルグ』に『祝福付与エンチャント』を施す前に……。聞いておかなければいけないことがあります」

 魔剣『フレスベルグ』を抜いたフィリアを前にして、ウィズは口を開いた。

 ウィズの瞳はさっきまでの、オーバーテクノロジーに興奮して輝いていたものとは違う。真剣な精神がその眼差しには宿っていた。

「フィリアさん……。貴方が使った『契約権限クロニクル・ルーラー』のことなのですが、アレは『契約術』というよりも『同化』とか、『吸収』に近い何かですよね?」

「……」

 ウィズの言葉にフィリアは目を細める。

「気付いていたの……。流石ね」

「初めて見た時からビビっときて、推測はしていました。決定的だったのはエントランスで見せた殺気です。……あの殺気には魔剣『フレスベルグ』の気配を感じました。そして今、貴方の手にある『フレスベルグ』……」

 フィリアはその刀身をウィズへ見せるように横にした。ウィズは小さくうなずいてそれをなぞる。

「……やはり、薄くなっている。『負の魔粒子』の痕跡が……。そしてその『負の魔粒子』は貴方の体に……」

「……ええ。そこまで気付いてたんだね」

 フィリアはそうやってにっこりと笑った。どうしようもない、といった様子でどこか儚げな笑顔だった。

「そう。『契約権限クロニクル・ルーラー』は契約した得物との間にある精神的な垣根を融解し、生命と物質の一体化を促す。

 命在る精神と命無き精神――それが合わさった時、精神と肉体に『拒絶反応』が起こるけれど、その先には壮絶な相乗効果が待っている。……『契約権限クロニクル・ルーラー』は『拒絶反応』を穏やかにするの。その分、相乗効果の到来も徐々に馴染んでくることになるけどね」

「それは……」

 ウィズは唇を噛みしめる。フィリアが語った『契約権限クロニクル・ルーラー』の仕組みが正しいのなら、その代償はあまりにも大きすぎた。

 ウィズも魔術師でありながら、錬金術師のはしくれだ。そもそも『祝福付与エンチャント』は錬金術から派生した者であり、学ぶには錬金術を学んでおいた方が圧倒的に有利なのだ。

 錬金術を学ぶ際に、生き物や物質の構築理論やら色々な知識を得ることができる。だからウィズは、フィリアの言う『命在る精神と命無き精神が合わさった時の拒絶反応』の恐ろしさをある程度は理解していた。

「『拒絶反応』……あれは短い言葉で示せるような生半可なものじゃない……! 貴方の体に渦巻く生命と物質、二つの精神。それらが絡み合っては反発し壊し合う……! このままじゃ、フィリアさんの体はどんどんボロボロになっていきますよ……! 寿命だって……」

 ウィズが身を乗り出してまでして告げるその真実。

 しかしウィズがその先を言う前に、フィリアの人差し指が唇にウィズの触れた。そうやってフィリアはウィズの発言を制止したのだ。

 ウィズはその仕草を知っていた。さっき、ソニアへやった行為と同じだ。

 フィリアはウィズの言葉が途切れたのを確認すると、薄い笑みを絶やさずに告げた。

「……理解しているよ、ぜんぶ。だって、魔剣『フレスベルグ』が初めての『契約権限クロニクル・ルーラー』じゃないもの」

「あ……」

 フィリアの言葉にウィズはハッとする。

 フィリアがウィズの店に来た時、ヒビの入った剣をウィズに見せてきた。『これと同等以上の剣を買いに来た』と、彼女は言った。

 それはメインに使っていた剣が使えなくなったことを意味する。そしてその剣が極上のものであったことも考えると、フィリアはその剣に『契約権限クロニクル・ルーラー』を使っていたことになる。

 フィリアの『理解している』という言葉は上っ面だけのものではない。――もう実際に体験していたのだ。

「わたしの寿命が削れていく……胸の中心から、わたしの何かがボロボロになって崩れ落ちていく……まるで砂時計ね。砂が全部落ちたら、わたしは……」

 手を胸に当て、フィリアはゆっくりと瞳を閉じる。

 その手には彼女の胸の鼓動が伝わっているのだろう。『契約権限クロニクル・ルーラー』の弊害で、それは小さく小刻みであるが、確実に鼓動が遅くなっていく様が。

 フィリアは瞳を開ける。ウィズはその青い瞳を見て、思わず背筋が伸びた。

 ――その瞳には、確かに覚悟の色が浮かんでいた。あの時、『怒りの森』でウィズが目撃した『覚悟』と同じものが。

「だからね、ウィズ。わたしは後悔したくないの。この短い生命で……わたしの後を継ぐひとたちのためにも。あの『家訓』も……『セリドア聖騎士団』も……みんなが平和に暮らしていけるように……!」

「でも……そんなの……」

 ウィズの拳に力が入る。

(クソ……! こいつが死のうがどうでも良いが……どうでも良いはずなのに……! どうしてこうも、|……! ほだされてんのか、クソ!)

 ウィズからしてみれば、最低でも『ブレイブ家』と接触するまでにフィリアが生きていてくれさえいれば良い。それなのに、どういうわけか胸の中では焦燥と哀傷あいしょうが広がっていく。何か回避方法はないかと、脳みそがフル回転する。

「『契約権限クロニクル・ルーラー』が『アーク家』の秘術なら、今の当主『ガスタ・アーク』様も使っているはずでしょう! そうだよ、あの方はあの年まで生きてるんだし、フィリアさんだって……」

「――父上は末っ子だった。この意味、分かるかしら」

「……っ!」

 末っ子が今の当主ということが意味すること。色々と推測はできるが、『契約権限クロニクル・ルーラー』の話を考慮するに、一番の有力説は――。

「……ガスタ様よりも上の血縁者が……死んだ……?」

「その通り。『契約権限クロニクル・ルーラー』の代償によって、『アーク家』は短命の定めを辿る……」

 フィリアは瞳を伏せた。

「『アーク家』である限り、逃げられないのよ。勤勉な死神の振るう、早すぎる終止符ピリオドからは」
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...