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40 『アーク家』の宿命
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「……魔剣『フレスベルグ』に『祝福付与』を施す前に……。聞いておかなければいけないことがあります」
魔剣『フレスベルグ』を抜いたフィリアを前にして、ウィズは口を開いた。
ウィズの瞳はさっきまでの、オーバーテクノロジーに興奮して輝いていたものとは違う。真剣な精神がその眼差しには宿っていた。
「フィリアさん……。貴方が使った『契約権限』のことなのですが、アレは『契約術』というよりも『同化』とか、『吸収』に近い何かですよね?」
「……」
ウィズの言葉にフィリアは目を細める。
「気付いていたの……。流石ね」
「初めて見た時からビビっときて、推測はしていました。決定的だったのはエントランスで見せた殺気です。……あの殺気には魔剣『フレスベルグ』の気配を感じました。そして今、貴方の手にある『フレスベルグ』……」
フィリアはその刀身をウィズへ見せるように横にした。ウィズは小さくうなずいてそれをなぞる。
「……やはり、薄くなっている。『負の魔粒子』の痕跡が……。そしてその『負の魔粒子』は貴方の体に……」
「……ええ。そこまで気付いてたんだね」
フィリアはそうやってにっこりと笑った。どうしようもない、といった様子でどこか儚げな笑顔だった。
「そう。『契約権限』は契約した得物との間にある精神的な垣根を融解し、生命と物質の一体化を促す。
命在る精神と命無き精神――それが合わさった時、精神と肉体に『拒絶反応』が起こるけれど、その先には壮絶な相乗効果が待っている。……『契約権限』は『拒絶反応』を穏やかにするの。その分、相乗効果の到来も徐々に馴染んでくることになるけどね」
「それは……」
ウィズは唇を噛みしめる。フィリアが語った『契約権限』の仕組みが正しいのなら、その代償はあまりにも大きすぎた。
ウィズも魔術師でありながら、錬金術師のはしくれだ。そもそも『祝福付与』は錬金術から派生した者であり、学ぶには錬金術を学んでおいた方が圧倒的に有利なのだ。
錬金術を学ぶ際に、生き物や物質の構築理論やら色々な知識を得ることができる。だからウィズは、フィリアの言う『命在る精神と命無き精神が合わさった時の拒絶反応』の恐ろしさをある程度は理解していた。
「『拒絶反応』……あれは短い言葉で示せるような生半可なものじゃない……! 貴方の体に渦巻く生命と物質、二つの精神。それらが絡み合っては反発し壊し合う……! このままじゃ、フィリアさんの体はどんどんボロボロになっていきますよ……! 寿命だって……」
ウィズが身を乗り出してまでして告げるその真実。
しかしウィズがその先を言う前に、フィリアの人差し指が唇にウィズの触れた。そうやってフィリアはウィズの発言を制止したのだ。
ウィズはその仕草を知っていた。さっき、ソニアへやった行為と同じだ。
フィリアはウィズの言葉が途切れたのを確認すると、薄い笑みを絶やさずに告げた。
「……理解しているよ、ぜんぶ。だって、魔剣『フレスベルグ』が初めての『契約権限』じゃないもの」
「あ……」
フィリアの言葉にウィズはハッとする。
フィリアがウィズの店に来た時、ヒビの入った剣をウィズに見せてきた。『これと同等以上の剣を買いに来た』と、彼女は言った。
それはメインに使っていた剣が使えなくなったことを意味する。そしてその剣が極上のものであったことも考えると、フィリアはその剣に『契約権限』を使っていたことになる。
フィリアの『理解している』という言葉は上っ面だけのものではない。――もう実際に体験していたのだ。
「わたしの寿命が削れていく……胸の中心から、わたしの何かがボロボロになって崩れ落ちていく……まるで砂時計ね。砂が全部落ちたら、わたしは……」
手を胸に当て、フィリアはゆっくりと瞳を閉じる。
その手には彼女の胸の鼓動が伝わっているのだろう。『契約権限』の弊害で、それは小さく小刻みであるが、確実に鼓動が遅くなっていく様が。
フィリアは瞳を開ける。ウィズはその青い瞳を見て、思わず背筋が伸びた。
――その瞳には、確かに覚悟の色が浮かんでいた。あの時、『怒りの森』でウィズが目撃した『覚悟』と同じものが。
「だからね、ウィズ。わたしは後悔したくないの。この短い生命で……わたしの後を継ぐひとたちのためにも。あの『家訓』も……『セリドア聖騎士団』も……みんなが平和に暮らしていけるように……!」
「でも……そんなの……」
ウィズの拳に力が入る。
(クソ……! こいつが死のうがどうでも良いが……どうでも良いはずなのに……! どうしてこうも、|歯痒い……! 絆されてんのか、クソ!)
ウィズからしてみれば、最低でも『ブレイブ家』と接触するまでにフィリアが生きていてくれさえいれば良い。それなのに、どういうわけか胸の中では焦燥と哀傷が広がっていく。何か回避方法はないかと、脳みそがフル回転する。
「『契約権限』が『アーク家』の秘術なら、今の当主『ガスタ・アーク』様も使っているはずでしょう! そうだよ、あの方はあの年まで生きてるんだし、フィリアさんだって……」
「――父上は末っ子だった。この意味、分かるかしら」
「……っ!」
末っ子が今の当主ということが意味すること。色々と推測はできるが、『契約権限』の話を考慮するに、一番の有力説は――。
「……ガスタ様よりも上の血縁者が……死んだ……?」
「その通り。『契約権限』の代償によって、『アーク家』は短命の定めを辿る……」
フィリアは瞳を伏せた。
「『アーク家』である限り、逃げられないのよ。勤勉な死神の振るう、早すぎる終止符からは」
魔剣『フレスベルグ』を抜いたフィリアを前にして、ウィズは口を開いた。
ウィズの瞳はさっきまでの、オーバーテクノロジーに興奮して輝いていたものとは違う。真剣な精神がその眼差しには宿っていた。
「フィリアさん……。貴方が使った『契約権限』のことなのですが、アレは『契約術』というよりも『同化』とか、『吸収』に近い何かですよね?」
「……」
ウィズの言葉にフィリアは目を細める。
「気付いていたの……。流石ね」
「初めて見た時からビビっときて、推測はしていました。決定的だったのはエントランスで見せた殺気です。……あの殺気には魔剣『フレスベルグ』の気配を感じました。そして今、貴方の手にある『フレスベルグ』……」
フィリアはその刀身をウィズへ見せるように横にした。ウィズは小さくうなずいてそれをなぞる。
「……やはり、薄くなっている。『負の魔粒子』の痕跡が……。そしてその『負の魔粒子』は貴方の体に……」
「……ええ。そこまで気付いてたんだね」
フィリアはそうやってにっこりと笑った。どうしようもない、といった様子でどこか儚げな笑顔だった。
「そう。『契約権限』は契約した得物との間にある精神的な垣根を融解し、生命と物質の一体化を促す。
命在る精神と命無き精神――それが合わさった時、精神と肉体に『拒絶反応』が起こるけれど、その先には壮絶な相乗効果が待っている。……『契約権限』は『拒絶反応』を穏やかにするの。その分、相乗効果の到来も徐々に馴染んでくることになるけどね」
「それは……」
ウィズは唇を噛みしめる。フィリアが語った『契約権限』の仕組みが正しいのなら、その代償はあまりにも大きすぎた。
ウィズも魔術師でありながら、錬金術師のはしくれだ。そもそも『祝福付与』は錬金術から派生した者であり、学ぶには錬金術を学んでおいた方が圧倒的に有利なのだ。
錬金術を学ぶ際に、生き物や物質の構築理論やら色々な知識を得ることができる。だからウィズは、フィリアの言う『命在る精神と命無き精神が合わさった時の拒絶反応』の恐ろしさをある程度は理解していた。
「『拒絶反応』……あれは短い言葉で示せるような生半可なものじゃない……! 貴方の体に渦巻く生命と物質、二つの精神。それらが絡み合っては反発し壊し合う……! このままじゃ、フィリアさんの体はどんどんボロボロになっていきますよ……! 寿命だって……」
ウィズが身を乗り出してまでして告げるその真実。
しかしウィズがその先を言う前に、フィリアの人差し指が唇にウィズの触れた。そうやってフィリアはウィズの発言を制止したのだ。
ウィズはその仕草を知っていた。さっき、ソニアへやった行為と同じだ。
フィリアはウィズの言葉が途切れたのを確認すると、薄い笑みを絶やさずに告げた。
「……理解しているよ、ぜんぶ。だって、魔剣『フレスベルグ』が初めての『契約権限』じゃないもの」
「あ……」
フィリアの言葉にウィズはハッとする。
フィリアがウィズの店に来た時、ヒビの入った剣をウィズに見せてきた。『これと同等以上の剣を買いに来た』と、彼女は言った。
それはメインに使っていた剣が使えなくなったことを意味する。そしてその剣が極上のものであったことも考えると、フィリアはその剣に『契約権限』を使っていたことになる。
フィリアの『理解している』という言葉は上っ面だけのものではない。――もう実際に体験していたのだ。
「わたしの寿命が削れていく……胸の中心から、わたしの何かがボロボロになって崩れ落ちていく……まるで砂時計ね。砂が全部落ちたら、わたしは……」
手を胸に当て、フィリアはゆっくりと瞳を閉じる。
その手には彼女の胸の鼓動が伝わっているのだろう。『契約権限』の弊害で、それは小さく小刻みであるが、確実に鼓動が遅くなっていく様が。
フィリアは瞳を開ける。ウィズはその青い瞳を見て、思わず背筋が伸びた。
――その瞳には、確かに覚悟の色が浮かんでいた。あの時、『怒りの森』でウィズが目撃した『覚悟』と同じものが。
「だからね、ウィズ。わたしは後悔したくないの。この短い生命で……わたしの後を継ぐひとたちのためにも。あの『家訓』も……『セリドア聖騎士団』も……みんなが平和に暮らしていけるように……!」
「でも……そんなの……」
ウィズの拳に力が入る。
(クソ……! こいつが死のうがどうでも良いが……どうでも良いはずなのに……! どうしてこうも、|歯痒い……! 絆されてんのか、クソ!)
ウィズからしてみれば、最低でも『ブレイブ家』と接触するまでにフィリアが生きていてくれさえいれば良い。それなのに、どういうわけか胸の中では焦燥と哀傷が広がっていく。何か回避方法はないかと、脳みそがフル回転する。
「『契約権限』が『アーク家』の秘術なら、今の当主『ガスタ・アーク』様も使っているはずでしょう! そうだよ、あの方はあの年まで生きてるんだし、フィリアさんだって……」
「――父上は末っ子だった。この意味、分かるかしら」
「……っ!」
末っ子が今の当主ということが意味すること。色々と推測はできるが、『契約権限』の話を考慮するに、一番の有力説は――。
「……ガスタ様よりも上の血縁者が……死んだ……?」
「その通り。『契約権限』の代償によって、『アーク家』は短命の定めを辿る……」
フィリアは瞳を伏せた。
「『アーク家』である限り、逃げられないのよ。勤勉な死神の振るう、早すぎる終止符からは」
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