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第一章 聖剣『クラウス・ソラス』
9 聖剣、誇る。
しおりを挟む鼻血はすぐに止まった。もうベッドで寝ているのにも飽き飽きしていたので、ベッドとは別に設置してあったイスに座る。それはテーブルの周りに四つあって、テーブル越しの二つにはクラウスとナツメが座った。
「来てくれてありがとな、クラウス。俺は大丈夫だ」
「そうか。ならよかった」
にまっと笑ってみせるニコラリーとは対照的に、クラウスはちっとも笑っていない。それどころか真剣な目つきでニコラリーを見ていた。まあそうだろうな、とニコラリーは目を伏せる。
ニコラリーが三人組にボコボコにされたことはクラウスの耳にも入っているに違いない。ニコラリーは自身を見つめる彼女の瞳が幻滅していると言っている気がして、そして未だに自分への評価を気にしている己が恥ずかしくてたまらなかった。次に彼女の口からでる言葉が怖かった。
頬に悪い汗を流す彼に、クラウスが口を開いた。その言葉とは。
「主殿、今すぐ修行するぞ」
唇を緩ませ、勇ましい笑みを見せる白銀の髪の少女がそこにいた。
話を聞くことによると、クラウスがニコラリーの敗退を知った後、例の男たち三人を絞めに行ったらしい。彼女の強さはニコラリーもわかっているつもりだったが、ナツメがここで口を出したことには、かなりの力量を見せつけたようだ。事が終わってから傭兵へ通報があったらしい。しかし傭兵がそこにたどり着いたことには、広場の騒ぎは完全に鎮火されており、そこで残っていたのは青い顔の三人組だけだったという。具体的なことはあまり聞かなかったが、大筋ではこんな感じだったようだ。
しかし、それだと気になることがひとつある。
「ここに来るの遅くね? あいつらをずっといじめてたとか?」
ニコラリーが倒れたときはまだ太陽は頭上に昇っていた。しかし今では太陽は落ち、代わりに淡い月が昇り始めている。
「いや、それはじゃな、心を落ち着か」
「道に迷ってたの」
「無駄なことは言わんで良い!」
得意な顔をするクラウスの余裕を、ナツメがいとも簡単に吹き飛ばす。「涙目だったよ」という無意識の追撃にクラウスは赤面しながら頭をテーブルに突っ伏した。ニコラリーは一旦考えてみる。あのムカつく男たちを早々と蹂躙したクラウスが、涙目で街中で迷い続ける姿を。――ああ、とても想像しやすい。ニコラリーは頭を抱えた。
いやそもそも、そのクラウスがヘマをするのはこの時代に順応できていないからだ。昨日までは封印されていて、彼女の感覚としては3000年前から急に現代へ来たものなのだろう。順応しきるにはまだ時間が足りない。それが原因だ。男たちに彼女を悪口を言われたとき、ムカついた。確かにムカついたが、それはあのような醜い男と同じことを思っていた自分にはもっとムカついていた。
だから、クラウスに言わなければいけない。伝言というかたちではなく、ニコラリー自身の口から直接。
「ごめん」
「……」
クラウスは静かに突っ伏した顔を上げた。そして真っすぐにニコラリーを見る。
「あいつら、聖剣のことを馬鹿にしてたんだ。でも、実は心の底で俺も同じとうなことを思ってて、あいつらと俺でそう変わらないと気づいたらムカついてきて、つい……」
「……ふむ。そういうことか」
ニコラリーの言葉を聞いて、クラウスは立ち上がる。
「ならそう思っておれば良い」
「え?」
思わず見上げると、クラウスは自信満々な調子で腰に手をあてていた。
「我は聖剣だ。その栄光は不変! 今分からずとも、いつか我の力に気づくことになるのだからな!」
余裕綽綽なその態度に、ニコラリーは面食らう。クラウスはそのまま続けた。
「それに、あやつらは主殿にとっちめられることになっているのだ! だから何とも思わん」
「ん?」
「宣戦布告してきたのだ。主殿が一週間後、ボコボコにやり返してやるとな。安心せよ、我が稽古をつけてやる」
話に聞くと、先ほどに説明された男三人を絞めに行った帰り際、生き残った奴らの前で高らかと再戦を申し込んだらしい。ニコラリ-はそれを聞いて、ちょっとしたことが何故だか大きなことへ発展していく気がして、突然に体が重くなったような気がした。自身満々にやる気を見せるクラウスを見て、ため息もできずニコラリーは弱弱しく笑ったのだった。
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