黒鋼トウカは剣と化して、王を斬る

ユキトシ時雨

文字の大きさ
上 下
24 / 34
躍動鳴動

勘違いも甚だしい

しおりを挟む
結局、特訓が終わる頃には夜の十時を回っていた。

「ふぅー……」

 数時間ぶっ続けで動き続けたのだから、カサネもそれなりに消耗もした。

 だが、それ以上に恐ろしいのはシンヤだ。なにせ、〈夜叉〉の階級にまで登り詰めた〈封印師〉を相手に数時間も食らいついて来たのだから。

「お疲れさま、カサネさん」

 玄関までくれば、レンサが二人を出迎えてくれた。といっても、シンヤは傷だらけでカサネに背負われたまま気絶しているのだが。

「うっわぁ……シンヤくん、ボロボロじゃないですか」

「ははっ、ちょっとやり過ぎちゃったかも……今日は柊さんのとこのヒナミちゃんも来れないだろうし、アンタが手当てしてやってよ」

「はぁ、カサネさんは本当に〈武器師〉遣いが荒いなぁ……とりあいずシンヤくんは僕がなんとかするので、カサネさんはお風呂にでも入ってください。じゃないと風邪引きますよ」

「はいはい。それでさ、トウカちゃんの方はどう? こういうときはアンタの方がうまいこと励ましてあげられたでしょ?」 

 そう尋ねると、レンサは少しバツの悪そうな顔をして、頭を下げた。

「それが、ドアを叩いて呼びかけても返事がなくて。……励ます、励まさない以前に、拒絶されちゃいましたね」

「なるほど……いや、アンタは良くやってくれたわよ。ありがとね」

 カサネはシンヤを預け、自分も雨に濡れた髪をタオルで拭いた。

 そこで、ふと、下らない悪戯を思いつく。

「ねぇ、レンサ」

 どんよりとした雰囲気に耐えられなくなったのもあるのだろう。カサネはニヤりとほくそ笑んだ。

 彼女は装束衣装の胸元を軽く緩めて見せた。ほんの一瞬、レンサの視線はそこから覗く白い肌に釘付けになる。

「えっち」

「ちょっ⁉ い、今のは、カサネさんがワザとやっただけでしょッ!」

 思った通り、顔を真っ赤にするレンサ。どうせ、自分以外の女と縁もないような男だ。こういうのには弱いのだろう。

「ッッ……早く、風呂に入ってくださいッ!」
 
 ◇◇◇

 本気で怒ったレンサから逃げるように、カサネは装束衣装を脱ぎ捨てて、そのまま浴槽に飛び込だ。

 こんな風に浴槽に飛び込んだのも何年振りだろうか。せっかく彼が沸かしておいてくれたであろうお湯の半分は排水溝に流れてしまった。

「確か、一回だけ三人でお風呂に入ったりもしたよなー。あー……トウカちゃんの髪艶々だったなー、母さんによく似てて」

 確か、シンヤとトウカが十一歳の頃だ。

 当時、絶賛嫌がる思春期二人を悪ノリ半分で風呂に連れ込んだことがあった。

 今に思えば、完全にアウトなことをしたのだが、多分時効だろうと自分の中で言い訳をしてみせる。

 だが、思い返せば、少し妙な点があるのだ。

「あれ……そういえば、あの時からシンヤって」

 勘違い───シンヤはトウカに敬語を使うのは、虐めがあった直後だと記憶していた。

 だが、カサネの記憶が正しければ、そうじゃない。

 シンヤがカサネに敬語を使い出したのは、十一歳の頃からだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...