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躍動鳴動
鎖につながれた結末
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カサネの言葉は明らかなゴウマに対する挑発だった。
「やっぱ、〈夜叉〉様は言うことが違うな。けどよ……人の能力を笑うのは、味わってからにしやがれよなッ!」
カサネに言わせれば、だからコイツはバカなのだ。
ゴウマの紅蒼の拳は、眼前にまで迫っていた。どちらかにでも殴られれば、極が刻印される。磁石で遊んだことのある人間なら、その後どうなるか簡単に想像できるだろう。
刻印の打たれたカサネの身体は引き寄せるのも、弾き飛ばすのもゴウマの思うがまま。決まれば、相手からリーチ選択の自由を奪える必殺の〈戒放(リベレート)〉だった。
そう。決まってしまえば────
「かかってきなさい。ド低脳」
カサネは吐き捨てるように、罵倒した。
自分の顔に拳が当たる寸での所で、右腕に巻きつけた鎖がうねる。
「行きなさい、魂縛(こんばく)ッッ!!」
「魂を縛ると書いて魂縛」それはカサネの〈武器師〉を務めるレンサに与えられた武器としての名前だった。
その見かけは何の変哲もない金属製の輪が幾重にも連なったただの鎖である。〈夜叉〉を務める人間の武器としては、少々飾り気のない武器だ。
だが、肝心なのは外見じゃない。鎖と化したレンサは、カサネの無茶で出鱈目な戦い方に耐えられるよう修行を積んだ〈武器師〉なのだから。
「「禁ッ!」」
魂縛はレンサの魂によって自由に空中を駆け抜ける。その様はまるで意志を持った蛇の如く、四方八方からゴウマの全身に巻き付けられた。
「なっ⁉」
両手と両足に絡みつき、その動きと魂を縛る。
「んだよ……こんな鎖風情で俺を封じた気になってんじゃねぇぞッ!」
獣ように吠えるゴウマは、自慢の怪力で魂縛を絶とうとする。その筋肉には、ビニールホースのように太い血管が浮き出ていた。その中をドクドクと巡るのは、血液と魂だ。筋肉は二倍近く膨れ上がり、鎖の軋む音がする。
それでも魂縛が断たれることは、絶対にない。────数多の武器師の中で、最固の強度を持つ武器こそがカサネの魂縛なのだから。
「そもそも、アンタみたいな雑魚が、相手に触れなきゃ発動しない程度の〈戒放〉で、私に勝とうってのが間違いなのよ!」
ゴウマの戒放は掠っただけでも、そこに刻印を付与できる。さらに言えば、格下の相手には無条件で〈戒放〉の始動と同時に刻印を付与できる。
並の〈封印師〉なら、彼女のような台詞は吐けなかった。
彼女には他人にできないことを、自身が天才である故に吐き捨ててしまうことがある。
それがこそがカサネの悪癖なのだ。
「さて。この状況、誰がどう見ようと私の勝ちよね? アンタは私の鎖でグルグル巻きなんだもん」
このまま他の同業者に引き渡して、彼を幽閉して貰えば万事解決だ。
だが、それではカサネの腹の虫が治らない。
「けどさ────アンタは私の可愛い妹を殺そうとしたわよね? それに私が大事に育ててる弟のこともぶん殴ったし」
ジャラリと金属音がする。
カサネにとって二人は、大切な家族だ。彼女の白装束にあしらわれたサルビアの花言葉は、「家族愛」。それは亡き母と行方知らずの父に代わって、自分がまだ幼い弟妹を護るという誓いでもある
「ッ……!」
「アンタには、私の大切なものを傷つけるだけの覚悟はあったの?」
カサネは自身の中で行き場を無くした怒りを、イメージへと変換する。
彼女の思い描くのは雷だ。敵を穿ち、細胞の一片すら残さず焼き焦す豪雷。
「刮目すればいいわ。これが私達の封隠道ッ!!」
カサネのイメージに、レンサが同調する。鎖を伝って流れるは雷の性質へと変化した雷撃だ。
「「魂隠道・魂爆ノ鎖に繋がった結末(チェーン・エレクトロニカ)!」」
雷撃は青白いスパークと共に、ゴウマの意識を焼き切った。彼女の鎖は最初からこの結末へと繋がっていたのだ。
〈人器一体〉魂縛カサネ。彼女は単純に肉弾戦が強い。それに武器師であるレンサの変則的な攻撃が合わされば、その暴れっぷりには手の付けようがなくなる。
彼女こそが、〈封印師〉七席。〈夜叉〉の称号を持つ絶対的な強者であった。
◇◇◇
「うっわぁ……」
もう一人の〈解放者〉ネノは、鎖に引き摺られてゆくゴウマの姿をすぐ近くで見ていた。
今の彼女はストックしていた隠魂を喰らい、不可視の戒放状態にある。その気配を察知するのは、さすがのカサネと言えども不可能であろう。
「……」
ゴウマがあそこまで一方的にやられることはネノにとっても予想外であった。
元々の計画はネノが作った迷鬼神によって、トウカを閉じ込め殺害。その後に、迷鬼神の気配で誘い出されたカサネも同様の手法で殺害する予定だったが、少々、敵の強さを見誤っていたようだ。
ネノはつまらなそうに、ガラ空きのカサネの背中を見る。
今こそが隙だらけの最大のチャンスにも思えたが、それも見せかけに過ぎない。
「むー中途半端な攻撃じゃ、この女を殺せない。けど、本気出しちゃったら、気配でバレちゃうのー」
正面からやり合えば、勝ち目がないのは明白だ。鎖に巻かれて、ゴウマと同じ末路を辿るのだろう。
「……まぁ、けど、ゴウマも最低限の仕事はしてくれたの」
八災王の縛りとなる黒鋼家の二人、カサネとトウカの強さを知ることが出来たのは大きな収穫だ。
妹の方は準備さえすれば十分殺せる。問題は〈夜叉〉であった。
「私の力じゃ無理。かといってアイツに勝てそうな助っ人がいないのも事実なのー……」
そう言いながらも、ネノはニヤリとほくそ笑む。────算段があるのだ。
あくまでも、黒鋼姉妹を殺さなければならない理由は、〈八災王〉の活動範囲の縛りを解くため。封印を解くこと自体はネノ単独でも可能であった。
それに、今回の一件で使えそうな駒に目星も付けた。。
「夜叉がいくら強かろうと、〈八災王〉様には敵わない。ふふ、なら簡単なのー」
単純に八災王の封印を解いて、カサネを殺して貰えばいい。そうと決まれば、自分は仕込みをしてトウカを殺す手筈を整えるだけだ。
ネノの心は、甘い感情に満たされていた。
遠距離で顔も知らなかった相手と初めてのデートの約束をするように、〈八災王〉の封印を解くことに淡いピンク色の夢を見る。
小さな身体でくるくると回りながら、その感情をめいいっぱい表現してみせれば、そこから漏れ出した思念が無数の恋魂(れんタマ)を生むのだった。
「待ってて、〈八災王様〉。貴方の縛りを解き、そのお側にお支するのはこの私、玩具の解放者(トイ・リベレーター)・子述(ネノ)なのー」
「やっぱ、〈夜叉〉様は言うことが違うな。けどよ……人の能力を笑うのは、味わってからにしやがれよなッ!」
カサネに言わせれば、だからコイツはバカなのだ。
ゴウマの紅蒼の拳は、眼前にまで迫っていた。どちらかにでも殴られれば、極が刻印される。磁石で遊んだことのある人間なら、その後どうなるか簡単に想像できるだろう。
刻印の打たれたカサネの身体は引き寄せるのも、弾き飛ばすのもゴウマの思うがまま。決まれば、相手からリーチ選択の自由を奪える必殺の〈戒放(リベレート)〉だった。
そう。決まってしまえば────
「かかってきなさい。ド低脳」
カサネは吐き捨てるように、罵倒した。
自分の顔に拳が当たる寸での所で、右腕に巻きつけた鎖がうねる。
「行きなさい、魂縛(こんばく)ッッ!!」
「魂を縛ると書いて魂縛」それはカサネの〈武器師〉を務めるレンサに与えられた武器としての名前だった。
その見かけは何の変哲もない金属製の輪が幾重にも連なったただの鎖である。〈夜叉〉を務める人間の武器としては、少々飾り気のない武器だ。
だが、肝心なのは外見じゃない。鎖と化したレンサは、カサネの無茶で出鱈目な戦い方に耐えられるよう修行を積んだ〈武器師〉なのだから。
「「禁ッ!」」
魂縛はレンサの魂によって自由に空中を駆け抜ける。その様はまるで意志を持った蛇の如く、四方八方からゴウマの全身に巻き付けられた。
「なっ⁉」
両手と両足に絡みつき、その動きと魂を縛る。
「んだよ……こんな鎖風情で俺を封じた気になってんじゃねぇぞッ!」
獣ように吠えるゴウマは、自慢の怪力で魂縛を絶とうとする。その筋肉には、ビニールホースのように太い血管が浮き出ていた。その中をドクドクと巡るのは、血液と魂だ。筋肉は二倍近く膨れ上がり、鎖の軋む音がする。
それでも魂縛が断たれることは、絶対にない。────数多の武器師の中で、最固の強度を持つ武器こそがカサネの魂縛なのだから。
「そもそも、アンタみたいな雑魚が、相手に触れなきゃ発動しない程度の〈戒放〉で、私に勝とうってのが間違いなのよ!」
ゴウマの戒放は掠っただけでも、そこに刻印を付与できる。さらに言えば、格下の相手には無条件で〈戒放〉の始動と同時に刻印を付与できる。
並の〈封印師〉なら、彼女のような台詞は吐けなかった。
彼女には他人にできないことを、自身が天才である故に吐き捨ててしまうことがある。
それがこそがカサネの悪癖なのだ。
「さて。この状況、誰がどう見ようと私の勝ちよね? アンタは私の鎖でグルグル巻きなんだもん」
このまま他の同業者に引き渡して、彼を幽閉して貰えば万事解決だ。
だが、それではカサネの腹の虫が治らない。
「けどさ────アンタは私の可愛い妹を殺そうとしたわよね? それに私が大事に育ててる弟のこともぶん殴ったし」
ジャラリと金属音がする。
カサネにとって二人は、大切な家族だ。彼女の白装束にあしらわれたサルビアの花言葉は、「家族愛」。それは亡き母と行方知らずの父に代わって、自分がまだ幼い弟妹を護るという誓いでもある
「ッ……!」
「アンタには、私の大切なものを傷つけるだけの覚悟はあったの?」
カサネは自身の中で行き場を無くした怒りを、イメージへと変換する。
彼女の思い描くのは雷だ。敵を穿ち、細胞の一片すら残さず焼き焦す豪雷。
「刮目すればいいわ。これが私達の封隠道ッ!!」
カサネのイメージに、レンサが同調する。鎖を伝って流れるは雷の性質へと変化した雷撃だ。
「「魂隠道・魂爆ノ鎖に繋がった結末(チェーン・エレクトロニカ)!」」
雷撃は青白いスパークと共に、ゴウマの意識を焼き切った。彼女の鎖は最初からこの結末へと繋がっていたのだ。
〈人器一体〉魂縛カサネ。彼女は単純に肉弾戦が強い。それに武器師であるレンサの変則的な攻撃が合わされば、その暴れっぷりには手の付けようがなくなる。
彼女こそが、〈封印師〉七席。〈夜叉〉の称号を持つ絶対的な強者であった。
◇◇◇
「うっわぁ……」
もう一人の〈解放者〉ネノは、鎖に引き摺られてゆくゴウマの姿をすぐ近くで見ていた。
今の彼女はストックしていた隠魂を喰らい、不可視の戒放状態にある。その気配を察知するのは、さすがのカサネと言えども不可能であろう。
「……」
ゴウマがあそこまで一方的にやられることはネノにとっても予想外であった。
元々の計画はネノが作った迷鬼神によって、トウカを閉じ込め殺害。その後に、迷鬼神の気配で誘い出されたカサネも同様の手法で殺害する予定だったが、少々、敵の強さを見誤っていたようだ。
ネノはつまらなそうに、ガラ空きのカサネの背中を見る。
今こそが隙だらけの最大のチャンスにも思えたが、それも見せかけに過ぎない。
「むー中途半端な攻撃じゃ、この女を殺せない。けど、本気出しちゃったら、気配でバレちゃうのー」
正面からやり合えば、勝ち目がないのは明白だ。鎖に巻かれて、ゴウマと同じ末路を辿るのだろう。
「……まぁ、けど、ゴウマも最低限の仕事はしてくれたの」
八災王の縛りとなる黒鋼家の二人、カサネとトウカの強さを知ることが出来たのは大きな収穫だ。
妹の方は準備さえすれば十分殺せる。問題は〈夜叉〉であった。
「私の力じゃ無理。かといってアイツに勝てそうな助っ人がいないのも事実なのー……」
そう言いながらも、ネノはニヤリとほくそ笑む。────算段があるのだ。
あくまでも、黒鋼姉妹を殺さなければならない理由は、〈八災王〉の活動範囲の縛りを解くため。封印を解くこと自体はネノ単独でも可能であった。
それに、今回の一件で使えそうな駒に目星も付けた。。
「夜叉がいくら強かろうと、〈八災王〉様には敵わない。ふふ、なら簡単なのー」
単純に八災王の封印を解いて、カサネを殺して貰えばいい。そうと決まれば、自分は仕込みをしてトウカを殺す手筈を整えるだけだ。
ネノの心は、甘い感情に満たされていた。
遠距離で顔も知らなかった相手と初めてのデートの約束をするように、〈八災王〉の封印を解くことに淡いピンク色の夢を見る。
小さな身体でくるくると回りながら、その感情をめいいっぱい表現してみせれば、そこから漏れ出した思念が無数の恋魂(れんタマ)を生むのだった。
「待ってて、〈八災王様〉。貴方の縛りを解き、そのお側にお支するのはこの私、玩具の解放者(トイ・リベレーター)・子述(ネノ)なのー」
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