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A「私こそが狩人」
第27話 アン・ハッピーバースデー・大上華怜
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「ほんと、最悪……全身が死ぬほど痛いし、貧血で頭がクラクラするし」
そう毒づきながらも立ち上がった華怜(かれん)は、首だけになった怨敵を蹴り飛ばす。
「あぁ!!……やめっ、やめてッ!!」
「そっちこそ、これだけやってもまだ生きてるんだ……それにしても、訳がわからないって言いたげね、赤ずきん?」
それは言葉にしてしまえば、あっけないオチだ。────ただ単に華怜たち二人が、初めからこんな作戦を立てていただけなのだから。
華怜は自らを餌に、赤ずきんという極上の獲物を誘き出す。
その間、自由行動が出来るようになったレッドフードが富田(とんだ)重工に潜入。練習した変装術で誰かになりすまし、押収されていた十三号車を予め奪還。あとはどこか潜伏し、赤ずきんが油断し切ったタイミングで強襲をかける。
言ってしまえば、それだけのシンプルな作戦だ。
ただ、赤ずきんにはどうしても納得が出来なかった。
「い、いや……無理でしょ。だって、大上華怜の所在は厳重に伏せられていたはずで。もう一人の私にだって、それを知る手段はなかったわけで!」
「あぁ、それはね」
華怜が自らの口内に指を突っ込んで、何かを吐き戻した。それは、有り合わせの部品で作ったと思われる自作の小型発信機だ。
レッドフードの手元には信号の受信機らしき装置を握られている。これで離れていても、自らの居場所を伝えていたのだ。
「いや、だけど……やっぱりおかしいわッ! 例え、居場所がわかったとしても、こんなご都合主義みたいなタイミングでもう一人の私が現れるなんてッ!」
それについては、レッドフードが捕捉した。
「忘れたの? 私たちは幻想人(フェアリスト)の表と裏。同じ御伽噺から抽出されて、この世界に産み落とされた対の存在。だけど、そんな私たちを唯一繋ぐのが、互いから発せられる信号だってこと」
幻想人の表裏同士は、互いが発する通信信号で絶えず繋がっている。通信信号というのはあくまでも便宜上、そう称したに過ぎず、その実態は互いの居場所を把握できるようなものでもなければ、以心伝心ができるような便利なものでもない。
ただ、極度に大きくなった感情が伝わるだけの煩わしいものだ。
「カレンちゃんに向けた貴女の殺意と興奮が、私にも刺すように伝わってきたの。本当っ……不愉快だったよ!」
「じゃ、じゃあ……まさか」
赤ずきんの視線が恐る恐る、華怜の方へと向けられた。
そう、今この瞬間に至るまでの全てが華怜の仕込みだったのだ。猫下誠人(ねこもとまこと)とのやり取りも、赤ずきんとの決死の殺し合いも、全てがこの瞬間のためのブラフであり、同時に茶番でもあった。
「クス……クスっ……」
半笑いと共に、首だけになった赤すぎんの表情から血の気が引いていく。首の方は既に再生が始まって、傷口が塞がれているにも関わらずだ。
「あんまり、笑わせないでよ。こんなの作戦というより、ただの狂った博打じゃないのッ!」
彼女はようやく悔しげな表情を浮かべ、華怜を罵った。
「貴女は私たちを害獣だの、化け物だの、散々言ってくれたみたいだけど、私からすれば貴女の余程化け物染みているわッ! 正義って言葉に狂った、頭のおかしな化け物めッ!」
「……で? 負け惜しみはそれでお終い?」
華怜は、赤ずきんが取りこぼしたマスケット銃を拾い上げ、弾丸を装填しながら少し考えてみた。
もう自分は、赤ずきんの獲物でもなんでもない。警察官でもなければ、身体の六割以上が機械部品に換装されているのだから、純粋な人間とも言い難い。
であれば、今の自分を構成するアイデンティティとは何なのか?
赤ずきんが罵ったように「正義に狂っただけの化け物」に成り下がるか?
「いや、それは違うな……私はこれからも変わらない」
これからも理不尽に抗い、それを突きつける害獣たちを屠り続けるだけの存在で有り続ける。
それを強いて言うのなら────
「赤ずきん。これからは私が『狩人』なの。貴女みたく、上部をなぞるだけでも、己が快楽のためでもない」
ただ、害獣を殺す。
それが「狩人」の本来あるべき姿だと思うから。群れから外れた一匹狼の辿り着いた答えもまた、彼女らしいシンプルなものだった。
「レッドフード。彼女は貴女の宿敵で、百千(ももち)さんを殺すよう命じた元凶でもあるけど」
「別に構わないよ。だけど、そうだね。私たちの想いもカレンちゃんの弾丸に込めて欲しいかな」
「分かった」
逃げられないと悟った赤ずきんが何かを喚いていたが、獣の鳴き声は狩人の耳に届かない。
二四六名の被害者と、その遺族。そして、レッドフード達に代わって、華怜は引き金を引いた。
そう毒づきながらも立ち上がった華怜(かれん)は、首だけになった怨敵を蹴り飛ばす。
「あぁ!!……やめっ、やめてッ!!」
「そっちこそ、これだけやってもまだ生きてるんだ……それにしても、訳がわからないって言いたげね、赤ずきん?」
それは言葉にしてしまえば、あっけないオチだ。────ただ単に華怜たち二人が、初めからこんな作戦を立てていただけなのだから。
華怜は自らを餌に、赤ずきんという極上の獲物を誘き出す。
その間、自由行動が出来るようになったレッドフードが富田(とんだ)重工に潜入。練習した変装術で誰かになりすまし、押収されていた十三号車を予め奪還。あとはどこか潜伏し、赤ずきんが油断し切ったタイミングで強襲をかける。
言ってしまえば、それだけのシンプルな作戦だ。
ただ、赤ずきんにはどうしても納得が出来なかった。
「い、いや……無理でしょ。だって、大上華怜の所在は厳重に伏せられていたはずで。もう一人の私にだって、それを知る手段はなかったわけで!」
「あぁ、それはね」
華怜が自らの口内に指を突っ込んで、何かを吐き戻した。それは、有り合わせの部品で作ったと思われる自作の小型発信機だ。
レッドフードの手元には信号の受信機らしき装置を握られている。これで離れていても、自らの居場所を伝えていたのだ。
「いや、だけど……やっぱりおかしいわッ! 例え、居場所がわかったとしても、こんなご都合主義みたいなタイミングでもう一人の私が現れるなんてッ!」
それについては、レッドフードが捕捉した。
「忘れたの? 私たちは幻想人(フェアリスト)の表と裏。同じ御伽噺から抽出されて、この世界に産み落とされた対の存在。だけど、そんな私たちを唯一繋ぐのが、互いから発せられる信号だってこと」
幻想人の表裏同士は、互いが発する通信信号で絶えず繋がっている。通信信号というのはあくまでも便宜上、そう称したに過ぎず、その実態は互いの居場所を把握できるようなものでもなければ、以心伝心ができるような便利なものでもない。
ただ、極度に大きくなった感情が伝わるだけの煩わしいものだ。
「カレンちゃんに向けた貴女の殺意と興奮が、私にも刺すように伝わってきたの。本当っ……不愉快だったよ!」
「じゃ、じゃあ……まさか」
赤ずきんの視線が恐る恐る、華怜の方へと向けられた。
そう、今この瞬間に至るまでの全てが華怜の仕込みだったのだ。猫下誠人(ねこもとまこと)とのやり取りも、赤ずきんとの決死の殺し合いも、全てがこの瞬間のためのブラフであり、同時に茶番でもあった。
「クス……クスっ……」
半笑いと共に、首だけになった赤すぎんの表情から血の気が引いていく。首の方は既に再生が始まって、傷口が塞がれているにも関わらずだ。
「あんまり、笑わせないでよ。こんなの作戦というより、ただの狂った博打じゃないのッ!」
彼女はようやく悔しげな表情を浮かべ、華怜を罵った。
「貴女は私たちを害獣だの、化け物だの、散々言ってくれたみたいだけど、私からすれば貴女の余程化け物染みているわッ! 正義って言葉に狂った、頭のおかしな化け物めッ!」
「……で? 負け惜しみはそれでお終い?」
華怜は、赤ずきんが取りこぼしたマスケット銃を拾い上げ、弾丸を装填しながら少し考えてみた。
もう自分は、赤ずきんの獲物でもなんでもない。警察官でもなければ、身体の六割以上が機械部品に換装されているのだから、純粋な人間とも言い難い。
であれば、今の自分を構成するアイデンティティとは何なのか?
赤ずきんが罵ったように「正義に狂っただけの化け物」に成り下がるか?
「いや、それは違うな……私はこれからも変わらない」
これからも理不尽に抗い、それを突きつける害獣たちを屠り続けるだけの存在で有り続ける。
それを強いて言うのなら────
「赤ずきん。これからは私が『狩人』なの。貴女みたく、上部をなぞるだけでも、己が快楽のためでもない」
ただ、害獣を殺す。
それが「狩人」の本来あるべき姿だと思うから。群れから外れた一匹狼の辿り着いた答えもまた、彼女らしいシンプルなものだった。
「レッドフード。彼女は貴女の宿敵で、百千(ももち)さんを殺すよう命じた元凶でもあるけど」
「別に構わないよ。だけど、そうだね。私たちの想いもカレンちゃんの弾丸に込めて欲しいかな」
「分かった」
逃げられないと悟った赤ずきんが何かを喚いていたが、獣の鳴き声は狩人の耳に届かない。
二四六名の被害者と、その遺族。そして、レッドフード達に代わって、華怜は引き金を引いた。
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