超ド級夢想兵器・エクステンド!

ユキトシ時雨

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EP09 ジャンル・エラー

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 糸が切られた人形みたく、十悟(じゅうご)の身体は半回転しながら、濃淡なアスファルへと倒れ込む。

「あぁ……あぁ……ああッ!」

 夕星(ゆうせい)は数秒の間を立ち尽くしてしまった。目の前で起こったことの意味を理解したくなかったのだ。

 だが、目の前に広がるノンフィクションはそれを許さない。

「何だ……何だってんだよ⁉」

 我に返った夕星は咄嗟に彼の傷口を抑える。だが、指と指の隙間から血は流れ続けるばかりで、身体からは次第に熱が消えてゆく。

「……ざっけんなよッ‼」

 めいいっぱい噛み潰した奥歯からは、軋むような音がした。

 真っ赤に染まってしまった拳を握りしめ、ボソリとは呟く。

「なぁ、〈エクステンド〉もう一度俺に力を貸してくれよ……友達の仇を取りたいんだ」

 伸ばされた掌(マニピュレーター)は二人を庇護するようだった。夕星は彼を抱きながらに、再びコックピットへと身を委ねる。そして、ヘッドセットを装着し────

「お前が何処の誰かなんて知らねぇし、興味もねぇ……だけどな、十悟をやりやがったことだけは許さねぇッからな!」

 カメラアイをズームして、皓(しろ)い閃光が迸った方へと視線を遣った。数一〇〇メートル先の色彩と画質のブレを修正。その仇敵の姿を脳内へ焼き付けようと、瞳を凝らす。

 けれども、ソイツの姿は夕星の想像から遠くかけ離れたものであった。

「なっ……⁉」

 あの閃光の正体は何なのか? 恐らくは遠距離狙撃銃(スナイパーライフル)辺りであろうと夕星は当たりを付けていた。

 やや現実感に欠ける話かもしれないが、〈エクステンド〉のようなオーバーテクノロジーが存在しているのだ。未来的なビールライフルを所持していたとしても少し驚かされる程度で済んだのだろう。

 だが、夕星は自らの瞳を疑うこととなる。

「木の杖だと⁉」

 それはある種、SFの世界から飛び出してきた〈エクステンド〉とは対を成すようなものだった。先端に宝石が嵌められ、金属片やリボンで仰々しい装飾が施されたそれはまさに、「魔法の杖」というのが称するのが相応しい。

〈エクステンド〉と対を成すのは、何も杖だけに留まらない。それを握りしめるソイツもまた夕星の想像を超える風貌をしているのだから。

 細身で曲線的なシルエットからして、彼女が女性であることは間違えない。

 だが、烏羽(からすば)のようなローブを羽織り、三角帽を目深に被る彼女の姿はまさしく、ファンタジー世界の「魔女」そのものであった。

「んだよ……なんだってんだよ、そのふざけた格好はッ!」

 吠える夕星に反して、〈エクステンド〉のセンサーは過度な熱源を感知する。

「■■」

 魔女が握りしめた杖の先に現れるのは、複雑怪奇な魔法陣だ。きっと次弾を装填しているのだろう。 

 魔法陣の展開に合わせ、彼女の纏うローブと帽子の鍔がバサバサと靡く。まさに黒鳥が羽ばたくが如く。そして、ほんの一瞬。────彼女の双眸に埋まる、歯車のような瞳孔が露わとなった。

 理解できていない現状に立たされるのは今日で何度目であろうか? 

 言葉を話す怪獣に、砂から復活した〈エクステンド〉。それに畳みかけるように、今度得体の知れない魔女が現れたのだ。

 デタラメで過剰積載な一部始終は、熱病に侵された最中に見る白昼夢か、はたまた稚拙な空想がぐちゃぐちゃに混ざり合っているようであった。

 ただ、夕星はほとんど直観で言葉を紡ぐ。

「テメェもあのノイズまみれの声が言ってた、エゴシエーターって奴だなッ!」

 魔女が閃光を撃ち放った。まるで「答える気はないと」と言いたげに、光は直進する。

「クソッ……上等じゃねぇかッ!」

 ならば、夕星も闘争心のまま願うだけだ。両脇に聳える二本のビルを砂塵へと変え、〈エクステンド〉の背後に創造されるのは一対の電磁砲(レールカノン)だった。

「パルス充電ッ! 一〇〇パーセントッ!」

 機体に蓄えられた電力によって、砲内部に仕込まれた弾頭を加速。紫電を纏いて、魔女の閃光を相殺してみせる。
「まだだッ!」

 夕星は撃ち切った一門をすぐに投棄する。そして、残るもう一門へと機体の電力を集約する。

「■■……■■■……■■■」

 魔女も口を開き、何かを呟いている。閃光の威力を上げようと、呪文を唱えているのだろう。

 それでも、先に次弾が装填されるのは〈エクステンド〉の方だ。

「パルス充電……八〇、九〇、一〇〇!」

 夕星の元へと力無く倒れ込んだ十悟の制服は、赤を超えて、ドス黒く汚れていた。

 正直に言おう。今だけはエゴシエーターだとか、魔女だとか、そんなことはもう如何だっていいと思えた。─────今はただ、烈火のように湧き上がるこの怒りを、ぶつけたい。

「充電完了ッ!」

 夕星は照準のカーソル全神経を注ぎ、トリガーへと指先をかける。

 だが、それが引き絞られることはなかった。

「……おい待て! ……待ってくれよ、エクステンドッ!」

〈エクステンド〉の巨体が消えてゆく。しかも今度は砂塵に戻るのではなく、光の粒子に分解されてだ。

 ヘッドセットに表示されるのは「転送中」の三文字のみ。

「俺はまだアイツを倒してねぇんだッ! せめて、友達の仇くらい打たせてくれよッ!」

〈エクステンド〉に願いを叶える力があると言うのなら、この願いを聞いて欲しかった。

 陽真里(ひまり)を助けられるだけの力が欲しいと願ったときと何が違うのか? その答えを見つけられぬまま、夕星の身体も粒子と化して溶けてゆく。
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