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リブート・鋼一郎ズ・エンジン
再会と切り札
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「俺にしか乗りこなせない切り札……だと?」
「ふふ、着いてからのお楽しみじゃ。それに目的地まではもうすぐじゃよ」
白江の指し示す先。そこには岩肌に隠されるように鉄扉があった。
そして、鉄扉の前には一人の男が二人の到着を待ちわびている。
「君たちなら、必ず辿り着くと信じていたよ」
「……仙道指揮」
「ここは祓刃じゃないんだ。ただの仙道で構わないさ。それよりも克堂くん。まずは君を騙していたことについて謝罪をさせてくれ。」
仙道はまず鋼一郎に深く頭を下げた。そして顔を上げた彼は、その手を差し出す。
「同時に私は、君に感謝しきれないんだ。幸村くんと共に戦うことを選んでくれて、ありがとう」
彼もまた白江から真実を明かされ、祓刃で孤独に暗躍し続けた男だ。
鋼一郎差し出された手を強く握り返す。
「俺の方こそ。仙道指揮……じゃなくて、仙道さんがいてくれて心強いです!」
「ははっ。あと数年若ければ、私も役に立てそうなんだがな」
仙道はそう苦笑を交じりで答えたが、その手には幾つもの小さな傷があった。凱機の操縦桿を握りしめた特有の傷だ。口では役に立てないと笑いながらも、当時の勘を取り戻そうとしたのだろう。
「奈切との決戦は出し惜しみなしじゃ。仙道。お前さんにだって前線に出てもらうぞ。そのための凱機も、」
「ムラクモ三十機。盗み出す算段も、決戦時のプランもすでに用意はできている」
「さすが、仙道。仕事の速さはピカイチじゃ」
白江がパチン! と指を鳴らす。
「ならムラクモを一機、俺に貸してください。必ず戦果を挙げてみせますッ!」
「残念だが、それはできない相談だな。盗み出したムラクモのパイロットは既に選定してあるんだ。私が祓刃の中から信用に足る人物を選び、協力者になってくれた皆にね」
「なっ……それじゃあ俺は何に乗ったらいいんです⁉」
「じゃーから、何度も言わすな! もう一つの切り札。それがこの扉の向こうにあるのじゃよ!」
二人は、ソレを見た鋼一郎が驚愕することを確信していた。
だからこそ、その鉄扉をめいいっぱいの力で押し開ける。
「あまりの完成度に腰を抜かすなよ?」
扉の向こうに広がるのは金属質の壁に包まれた空間だ。ガントリークレーンや溶接機を備えたそこは、近代的な工場区画といって差し支えない。
これだけの設備が整っていることだけでも唖然とするには充分だが、鋼一郎の視線はただ一点に集約される。
「なっ……!?」
区画の最奥に、それは静かに鎮座する。
コックピットとエンジン部を備えたコアブロックに接合されたのは、より緻密に人体を模したであろうしなやかな四肢。鋭利かつ、堅牢な装甲がそれを覆い込む姿は、数多の歴戦を潜り抜けたであろう武者将軍を思わせる。
平板状の加速装置を両肩と両腰に計四枚を備え、頭部のツノ状アンテナもそれ自体が刃物のように大型化されていた。
これが彼女の言っていた、もう一つの切り札なのか。 それはまるで名匠が鍛えたであろう刃のように。エメラルド色のツインアイは鋭いまま、強靭さと危うさを秘めていた。
「な、なんだよ……この凱機は……」
「凱機ではないさ。B・U〝ぱいろっと〟専用凱妖機(がいようき)ムラサメじゃ!」
隣に並ぶ白江が捕捉した。
「凱……妖機だと?」
「そう。人間と妖怪、その両方を守るためにある、お前さんの新たな刃じゃよ」
ムラサメの周りにはオレンジ色のツナギを着たメカニックらしき数人と、白江の仲間らしき妖怪たちの姿があった。彼らは入ってきた鋼一郎たちに目もくれず、ムラサメの整備に没頭している。
「もしかして、この機体って妖怪と人間が一緒に作ったのか?」
「そうじゃよ。ワシとお前さんが分かり合えたのと同じじゃ。それに妖怪たちの中にだって工芸に長けた連中は多い。決戦に備え千年近くも鍛冶に向き合い続けた連中のあしらった装甲じゃ。その固さ、侮るでないぞ」
「メカニック各員も私が勧誘した信用できる人間たちだ。ムラサメのパーツ自体は工業製品用と偽り、集めたものを組み上げてあるが、関節だけは君の無茶にも耐えられるよう特注品のものを用意した。操縦には若干の違和感を覚えるだろうが、すぐに慣れるはずだ」
その実態は既存の凱機にある程度のアレンジを加えた非正規の「デッドコピー」と称するのが最も適切であろう。しかし鋼一郎の搭乗を前提に完成されたムラサメの性能はコピー元であるムラクモをも上回るはずだ。
すべては奈切の首元に刃を届かせるため。その為に密造されたムラサメは伊達ではない。
「よいか、鋼一郎。奈切を攻めるのは一週間後じゃ。それまでに仙道や他の人間の協力者たちも各々で準備を整えてくれる。それに加え全国からは志を同じにする妖怪たちも、この柄沢市に集結する予定じゃ」
真実を知り、奈切と戦うことを選んだ祓刃隊員が五十名。白江と古い縁があり全国から集う特別指定高危険度妖怪が十名。並びにその傘下に属する妖怪が三十名。──計九十名の人妖乱れる連合軍の大反乱だ。
「当然奈切も、祓刃や例の無人機を使って反撃に出るだろう。総力戦になれば数で不利なのも明白。しかし私が狙うは大将首だけだ」
「集った皆が三柱の玉を持つワシと、ムラサメを駆るお前さんのために梅雨払いを請け負ってくれる。これはお前さんがヤツを瀕死に追いつめ、ワシがこの玉の中にヤツを閉じ込めるためだけの作戦じゃ。じゃから───」
このムラサメを残された一週間で完璧に乗りこなせと言うことか。
「上等だぜ。俺はあの人に凱機の乗り方のイロハを叩き込まれたんだ。どんな機体だって乗りこなしてやるよ!」
「言わずもがなだったな。じゃが、その前に」
白江が鋼一郎の腹を軽く殴った。
「まずはその恰好を何とかしろ。ここになら着替えもある。いつまでも包帯姿でうろつくな」
「うっぐッ……それもそうだな」
「それから、傷が治ったと言えど疲労は取れていないはずだ。今日一日はゆっくり休んだとしても問題ないだろう」
「……なんつーか、色々と気を遣わせたみたいだな。色々ありがとよ」
「うむ! ワシは気遣いの出来る乙女じゃからの!」
ない胸を張る白江の姿に鋼一郎の表情も緩む。
それと同時にムラサメのエンジンハッチが開いた。中でエンジン回りを弄っていたのだろう。機体から降りてきたその少女と視線がかちあった。
「「あっ…………」」
鋼一郎を一瞥した彼女の瞳は、銀フレームの眼鏡の下でキッと細められた。久方ぶりの再開となる由依はモンキーレンチを片手に鋼一郎に詰め寄ってくる。
「やっと来たんですね克堂くん。散々私を心配させて。それにたくさん怪我もしたみたいじゃないですか」
淡々とした口調の裏には、言い知れぬ怒りが込められていた。空気が一気にピリつき、この場に居合わせた全員がその変化を察した。
「克堂くん。私は裏で他にも用意せねばならないから」
「ワ、ワシもいい加減着替えねばの。……思えば何日も同じ服なんて乙女としてありえんことじゃから」
「あっ……コラ! 逃げんじゃねぇ!」
二人はしれっーと構えて、この場からフェードアウトした。
「え、えっーと……俺も着替えてこようかな……」
「逃がしませんから」
思わず、「ひっ」と声が漏れた。捕まれば、その手のモンキーレンチでぶん殴られるだろう。
「悪かった! 俺が悪かったから!」
なおも由依は歩幅を緩めることなく距離を詰める。最後の方は駆け出して──
「ばかぁ!」
鋼一郎に強く抱き着いた。
「ゆ、由依……お前……」
戸惑う鋼一郎をよそに彼女はポロポロと涙をこぼす。
「ばかぁ! ばかぁ! もう会えないと思ったじゃん!」
丁寧な言葉ときつく結んだ表情しか見せなかった彼女が、顔をグズグズにして泣き崩れた。
「ふふ、着いてからのお楽しみじゃ。それに目的地まではもうすぐじゃよ」
白江の指し示す先。そこには岩肌に隠されるように鉄扉があった。
そして、鉄扉の前には一人の男が二人の到着を待ちわびている。
「君たちなら、必ず辿り着くと信じていたよ」
「……仙道指揮」
「ここは祓刃じゃないんだ。ただの仙道で構わないさ。それよりも克堂くん。まずは君を騙していたことについて謝罪をさせてくれ。」
仙道はまず鋼一郎に深く頭を下げた。そして顔を上げた彼は、その手を差し出す。
「同時に私は、君に感謝しきれないんだ。幸村くんと共に戦うことを選んでくれて、ありがとう」
彼もまた白江から真実を明かされ、祓刃で孤独に暗躍し続けた男だ。
鋼一郎差し出された手を強く握り返す。
「俺の方こそ。仙道指揮……じゃなくて、仙道さんがいてくれて心強いです!」
「ははっ。あと数年若ければ、私も役に立てそうなんだがな」
仙道はそう苦笑を交じりで答えたが、その手には幾つもの小さな傷があった。凱機の操縦桿を握りしめた特有の傷だ。口では役に立てないと笑いながらも、当時の勘を取り戻そうとしたのだろう。
「奈切との決戦は出し惜しみなしじゃ。仙道。お前さんにだって前線に出てもらうぞ。そのための凱機も、」
「ムラクモ三十機。盗み出す算段も、決戦時のプランもすでに用意はできている」
「さすが、仙道。仕事の速さはピカイチじゃ」
白江がパチン! と指を鳴らす。
「ならムラクモを一機、俺に貸してください。必ず戦果を挙げてみせますッ!」
「残念だが、それはできない相談だな。盗み出したムラクモのパイロットは既に選定してあるんだ。私が祓刃の中から信用に足る人物を選び、協力者になってくれた皆にね」
「なっ……それじゃあ俺は何に乗ったらいいんです⁉」
「じゃーから、何度も言わすな! もう一つの切り札。それがこの扉の向こうにあるのじゃよ!」
二人は、ソレを見た鋼一郎が驚愕することを確信していた。
だからこそ、その鉄扉をめいいっぱいの力で押し開ける。
「あまりの完成度に腰を抜かすなよ?」
扉の向こうに広がるのは金属質の壁に包まれた空間だ。ガントリークレーンや溶接機を備えたそこは、近代的な工場区画といって差し支えない。
これだけの設備が整っていることだけでも唖然とするには充分だが、鋼一郎の視線はただ一点に集約される。
「なっ……!?」
区画の最奥に、それは静かに鎮座する。
コックピットとエンジン部を備えたコアブロックに接合されたのは、より緻密に人体を模したであろうしなやかな四肢。鋭利かつ、堅牢な装甲がそれを覆い込む姿は、数多の歴戦を潜り抜けたであろう武者将軍を思わせる。
平板状の加速装置を両肩と両腰に計四枚を備え、頭部のツノ状アンテナもそれ自体が刃物のように大型化されていた。
これが彼女の言っていた、もう一つの切り札なのか。 それはまるで名匠が鍛えたであろう刃のように。エメラルド色のツインアイは鋭いまま、強靭さと危うさを秘めていた。
「な、なんだよ……この凱機は……」
「凱機ではないさ。B・U〝ぱいろっと〟専用凱妖機(がいようき)ムラサメじゃ!」
隣に並ぶ白江が捕捉した。
「凱……妖機だと?」
「そう。人間と妖怪、その両方を守るためにある、お前さんの新たな刃じゃよ」
ムラサメの周りにはオレンジ色のツナギを着たメカニックらしき数人と、白江の仲間らしき妖怪たちの姿があった。彼らは入ってきた鋼一郎たちに目もくれず、ムラサメの整備に没頭している。
「もしかして、この機体って妖怪と人間が一緒に作ったのか?」
「そうじゃよ。ワシとお前さんが分かり合えたのと同じじゃ。それに妖怪たちの中にだって工芸に長けた連中は多い。決戦に備え千年近くも鍛冶に向き合い続けた連中のあしらった装甲じゃ。その固さ、侮るでないぞ」
「メカニック各員も私が勧誘した信用できる人間たちだ。ムラサメのパーツ自体は工業製品用と偽り、集めたものを組み上げてあるが、関節だけは君の無茶にも耐えられるよう特注品のものを用意した。操縦には若干の違和感を覚えるだろうが、すぐに慣れるはずだ」
その実態は既存の凱機にある程度のアレンジを加えた非正規の「デッドコピー」と称するのが最も適切であろう。しかし鋼一郎の搭乗を前提に完成されたムラサメの性能はコピー元であるムラクモをも上回るはずだ。
すべては奈切の首元に刃を届かせるため。その為に密造されたムラサメは伊達ではない。
「よいか、鋼一郎。奈切を攻めるのは一週間後じゃ。それまでに仙道や他の人間の協力者たちも各々で準備を整えてくれる。それに加え全国からは志を同じにする妖怪たちも、この柄沢市に集結する予定じゃ」
真実を知り、奈切と戦うことを選んだ祓刃隊員が五十名。白江と古い縁があり全国から集う特別指定高危険度妖怪が十名。並びにその傘下に属する妖怪が三十名。──計九十名の人妖乱れる連合軍の大反乱だ。
「当然奈切も、祓刃や例の無人機を使って反撃に出るだろう。総力戦になれば数で不利なのも明白。しかし私が狙うは大将首だけだ」
「集った皆が三柱の玉を持つワシと、ムラサメを駆るお前さんのために梅雨払いを請け負ってくれる。これはお前さんがヤツを瀕死に追いつめ、ワシがこの玉の中にヤツを閉じ込めるためだけの作戦じゃ。じゃから───」
このムラサメを残された一週間で完璧に乗りこなせと言うことか。
「上等だぜ。俺はあの人に凱機の乗り方のイロハを叩き込まれたんだ。どんな機体だって乗りこなしてやるよ!」
「言わずもがなだったな。じゃが、その前に」
白江が鋼一郎の腹を軽く殴った。
「まずはその恰好を何とかしろ。ここになら着替えもある。いつまでも包帯姿でうろつくな」
「うっぐッ……それもそうだな」
「それから、傷が治ったと言えど疲労は取れていないはずだ。今日一日はゆっくり休んだとしても問題ないだろう」
「……なんつーか、色々と気を遣わせたみたいだな。色々ありがとよ」
「うむ! ワシは気遣いの出来る乙女じゃからの!」
ない胸を張る白江の姿に鋼一郎の表情も緩む。
それと同時にムラサメのエンジンハッチが開いた。中でエンジン回りを弄っていたのだろう。機体から降りてきたその少女と視線がかちあった。
「「あっ…………」」
鋼一郎を一瞥した彼女の瞳は、銀フレームの眼鏡の下でキッと細められた。久方ぶりの再開となる由依はモンキーレンチを片手に鋼一郎に詰め寄ってくる。
「やっと来たんですね克堂くん。散々私を心配させて。それにたくさん怪我もしたみたいじゃないですか」
淡々とした口調の裏には、言い知れぬ怒りが込められていた。空気が一気にピリつき、この場に居合わせた全員がその変化を察した。
「克堂くん。私は裏で他にも用意せねばならないから」
「ワ、ワシもいい加減着替えねばの。……思えば何日も同じ服なんて乙女としてありえんことじゃから」
「あっ……コラ! 逃げんじゃねぇ!」
二人はしれっーと構えて、この場からフェードアウトした。
「え、えっーと……俺も着替えてこようかな……」
「逃がしませんから」
思わず、「ひっ」と声が漏れた。捕まれば、その手のモンキーレンチでぶん殴られるだろう。
「悪かった! 俺が悪かったから!」
なおも由依は歩幅を緩めることなく距離を詰める。最後の方は駆け出して──
「ばかぁ!」
鋼一郎に強く抱き着いた。
「ゆ、由依……お前……」
戸惑う鋼一郎をよそに彼女はポロポロと涙をこぼす。
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