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月歌②
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森野さんはそこまで話すと、深々と頭を下げた。
「すみません。今日、その人がこの会場に来て居ます。だから…、その人の為に一曲歌わせてください」
そう言ったのだ。
私が驚いていると
「歌って~」
「カケル~、その人に歌って~」
会場中から、割れんばかりの声が響く。
森野さんはゆっくり顔を上げると、泣きそうな笑顔を浮かべて
「ありがとうございます」
そう呟くと
「その人の為に書きました…。聞いて下さい。『月歌~gekka~』」
森野さんの声と同時に、綺麗なピアノの伴奏が鳴り出す。
とても綺麗で…切ないメロディーに涙が止まらなくなる。
森野さんの歌声が、私と森野さんの再会を思い出させていく。
喧嘩ばかりして、大嫌いだった人。
でも、仕事に対しては真面目で尊敬できる人。ぶっきらぼうだけど、本当は優しくて…
知れば知るほど大好きになった。
聞いていられなくなって、席を立とうとした私の腕を平原チーフがステージに視線を向けたまま掴む。
「まだ…森野君の事が好きなら、森野君の気持ちをしっかり受け止めなさい」
私は平原チーフの言葉に頷き、座り直してステージを見つめる。
多分、森野さんはこちらに向かって歌っているのだと思う。会場のあちこちから、すすり泣く声が聞こえて来る。
月歌
それは、いつだったか…私が森野さんに言った言葉。
ずっとBlueMoonばかり聞く私に、森野さんが
「飽きないのか?」
って訊いて来た。
『カケルさんの唄はね、月の光みたいなの』
『はぁ?』
『カケルさんの歌声ってね、優しく穏やかに包み込んでくれるの。月の光って、太陽みたいに痛くないでしょう?』
『光に痛いもくそも無いだろうが…』
『もう!茶化さないで下さいよ!何と言われても、私にとってカケルさんの歌声は月の光みたいに優しく包み込んでくれるんです。格好良く言うなら、月歌』
『月ね…。ってか、月歌って格好悪ぅ!』
『酷い!茶化さないで下さいよ!カケルさんの歌声は、私の暗闇を照らしてくれる一筋の光なんです。私、カケルさんの歌声があれば強く生きられるんです』
『大袈裟だな…』
呆れた顔をした森野さんの顔を思い出す。
あの時の話を…覚えてくれていたんだ…。
そう思ったら胸が熱くなった。
私の想いはもう届かないけど…、森野さんが私の為に歌ってくれている。
もう、それだけで良かった。
月歌は、終わった瞬間に物凄い拍手の渦だった。
そして最後にデビュー曲を唄って、2時間30分のライブが終わった。
「凄かったね~」
興奮する平原チーフが
「この後、楽屋に行くんだけど…行くでしょう?」
と私に尋ねた。
私は首を横に振ると
「泣きすぎで…顔がぐちゃぐちゃなので…」
そう答えた。
「え!全然大丈夫だよ!まだ好きなんでしょう?ちゃんと会った方が良いよ」
心配そうに言う平原チーフに
「じゃあ、ちょっとメイクを直して来ますね」
と嘘を吐いて席を立つ。
アンケート用紙を書く人や、スタンド花を写真に撮る人波を抜けて外に出る。
季節は春になっていた。
あの日に見た桜ではないけど…、白い梅の木が目に留まる。
会場を抜けて少し歩いた先に、白い梅林の公園があった。
私は公園のベンチに座り空を見上げる。
「あ…今日は満月なんだ」
暗い夜空に浮かぶ月を見上げて呟いた。
そしてふと…今日見たライブを思い出す。
「すみません。今日、その人がこの会場に来て居ます。だから…、その人の為に一曲歌わせてください」
そう言ったのだ。
私が驚いていると
「歌って~」
「カケル~、その人に歌って~」
会場中から、割れんばかりの声が響く。
森野さんはゆっくり顔を上げると、泣きそうな笑顔を浮かべて
「ありがとうございます」
そう呟くと
「その人の為に書きました…。聞いて下さい。『月歌~gekka~』」
森野さんの声と同時に、綺麗なピアノの伴奏が鳴り出す。
とても綺麗で…切ないメロディーに涙が止まらなくなる。
森野さんの歌声が、私と森野さんの再会を思い出させていく。
喧嘩ばかりして、大嫌いだった人。
でも、仕事に対しては真面目で尊敬できる人。ぶっきらぼうだけど、本当は優しくて…
知れば知るほど大好きになった。
聞いていられなくなって、席を立とうとした私の腕を平原チーフがステージに視線を向けたまま掴む。
「まだ…森野君の事が好きなら、森野君の気持ちをしっかり受け止めなさい」
私は平原チーフの言葉に頷き、座り直してステージを見つめる。
多分、森野さんはこちらに向かって歌っているのだと思う。会場のあちこちから、すすり泣く声が聞こえて来る。
月歌
それは、いつだったか…私が森野さんに言った言葉。
ずっとBlueMoonばかり聞く私に、森野さんが
「飽きないのか?」
って訊いて来た。
『カケルさんの唄はね、月の光みたいなの』
『はぁ?』
『カケルさんの歌声ってね、優しく穏やかに包み込んでくれるの。月の光って、太陽みたいに痛くないでしょう?』
『光に痛いもくそも無いだろうが…』
『もう!茶化さないで下さいよ!何と言われても、私にとってカケルさんの歌声は月の光みたいに優しく包み込んでくれるんです。格好良く言うなら、月歌』
『月ね…。ってか、月歌って格好悪ぅ!』
『酷い!茶化さないで下さいよ!カケルさんの歌声は、私の暗闇を照らしてくれる一筋の光なんです。私、カケルさんの歌声があれば強く生きられるんです』
『大袈裟だな…』
呆れた顔をした森野さんの顔を思い出す。
あの時の話を…覚えてくれていたんだ…。
そう思ったら胸が熱くなった。
私の想いはもう届かないけど…、森野さんが私の為に歌ってくれている。
もう、それだけで良かった。
月歌は、終わった瞬間に物凄い拍手の渦だった。
そして最後にデビュー曲を唄って、2時間30分のライブが終わった。
「凄かったね~」
興奮する平原チーフが
「この後、楽屋に行くんだけど…行くでしょう?」
と私に尋ねた。
私は首を横に振ると
「泣きすぎで…顔がぐちゃぐちゃなので…」
そう答えた。
「え!全然大丈夫だよ!まだ好きなんでしょう?ちゃんと会った方が良いよ」
心配そうに言う平原チーフに
「じゃあ、ちょっとメイクを直して来ますね」
と嘘を吐いて席を立つ。
アンケート用紙を書く人や、スタンド花を写真に撮る人波を抜けて外に出る。
季節は春になっていた。
あの日に見た桜ではないけど…、白い梅の木が目に留まる。
会場を抜けて少し歩いた先に、白い梅林の公園があった。
私は公園のベンチに座り空を見上げる。
「あ…今日は満月なんだ」
暗い夜空に浮かぶ月を見上げて呟いた。
そしてふと…今日見たライブを思い出す。
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