44 / 46
月歌②
しおりを挟む
森野さんはそこまで話すと、深々と頭を下げた。
「すみません。今日、その人がこの会場に来て居ます。だから…、その人の為に一曲歌わせてください」
そう言ったのだ。
私が驚いていると
「歌って~」
「カケル~、その人に歌って~」
会場中から、割れんばかりの声が響く。
森野さんはゆっくり顔を上げると、泣きそうな笑顔を浮かべて
「ありがとうございます」
そう呟くと
「その人の為に書きました…。聞いて下さい。『月歌~gekka~』」
森野さんの声と同時に、綺麗なピアノの伴奏が鳴り出す。
とても綺麗で…切ないメロディーに涙が止まらなくなる。
森野さんの歌声が、私と森野さんの再会を思い出させていく。
喧嘩ばかりして、大嫌いだった人。
でも、仕事に対しては真面目で尊敬できる人。ぶっきらぼうだけど、本当は優しくて…
知れば知るほど大好きになった。
聞いていられなくなって、席を立とうとした私の腕を平原チーフがステージに視線を向けたまま掴む。
「まだ…森野君の事が好きなら、森野君の気持ちをしっかり受け止めなさい」
私は平原チーフの言葉に頷き、座り直してステージを見つめる。
多分、森野さんはこちらに向かって歌っているのだと思う。会場のあちこちから、すすり泣く声が聞こえて来る。
月歌
それは、いつだったか…私が森野さんに言った言葉。
ずっとBlueMoonばかり聞く私に、森野さんが
「飽きないのか?」
って訊いて来た。
『カケルさんの唄はね、月の光みたいなの』
『はぁ?』
『カケルさんの歌声ってね、優しく穏やかに包み込んでくれるの。月の光って、太陽みたいに痛くないでしょう?』
『光に痛いもくそも無いだろうが…』
『もう!茶化さないで下さいよ!何と言われても、私にとってカケルさんの歌声は月の光みたいに優しく包み込んでくれるんです。格好良く言うなら、月歌』
『月ね…。ってか、月歌って格好悪ぅ!』
『酷い!茶化さないで下さいよ!カケルさんの歌声は、私の暗闇を照らしてくれる一筋の光なんです。私、カケルさんの歌声があれば強く生きられるんです』
『大袈裟だな…』
呆れた顔をした森野さんの顔を思い出す。
あの時の話を…覚えてくれていたんだ…。
そう思ったら胸が熱くなった。
私の想いはもう届かないけど…、森野さんが私の為に歌ってくれている。
もう、それだけで良かった。
月歌は、終わった瞬間に物凄い拍手の渦だった。
そして最後にデビュー曲を唄って、2時間30分のライブが終わった。
「凄かったね~」
興奮する平原チーフが
「この後、楽屋に行くんだけど…行くでしょう?」
と私に尋ねた。
私は首を横に振ると
「泣きすぎで…顔がぐちゃぐちゃなので…」
そう答えた。
「え!全然大丈夫だよ!まだ好きなんでしょう?ちゃんと会った方が良いよ」
心配そうに言う平原チーフに
「じゃあ、ちょっとメイクを直して来ますね」
と嘘を吐いて席を立つ。
アンケート用紙を書く人や、スタンド花を写真に撮る人波を抜けて外に出る。
季節は春になっていた。
あの日に見た桜ではないけど…、白い梅の木が目に留まる。
会場を抜けて少し歩いた先に、白い梅林の公園があった。
私は公園のベンチに座り空を見上げる。
「あ…今日は満月なんだ」
暗い夜空に浮かぶ月を見上げて呟いた。
そしてふと…今日見たライブを思い出す。
「すみません。今日、その人がこの会場に来て居ます。だから…、その人の為に一曲歌わせてください」
そう言ったのだ。
私が驚いていると
「歌って~」
「カケル~、その人に歌って~」
会場中から、割れんばかりの声が響く。
森野さんはゆっくり顔を上げると、泣きそうな笑顔を浮かべて
「ありがとうございます」
そう呟くと
「その人の為に書きました…。聞いて下さい。『月歌~gekka~』」
森野さんの声と同時に、綺麗なピアノの伴奏が鳴り出す。
とても綺麗で…切ないメロディーに涙が止まらなくなる。
森野さんの歌声が、私と森野さんの再会を思い出させていく。
喧嘩ばかりして、大嫌いだった人。
でも、仕事に対しては真面目で尊敬できる人。ぶっきらぼうだけど、本当は優しくて…
知れば知るほど大好きになった。
聞いていられなくなって、席を立とうとした私の腕を平原チーフがステージに視線を向けたまま掴む。
「まだ…森野君の事が好きなら、森野君の気持ちをしっかり受け止めなさい」
私は平原チーフの言葉に頷き、座り直してステージを見つめる。
多分、森野さんはこちらに向かって歌っているのだと思う。会場のあちこちから、すすり泣く声が聞こえて来る。
月歌
それは、いつだったか…私が森野さんに言った言葉。
ずっとBlueMoonばかり聞く私に、森野さんが
「飽きないのか?」
って訊いて来た。
『カケルさんの唄はね、月の光みたいなの』
『はぁ?』
『カケルさんの歌声ってね、優しく穏やかに包み込んでくれるの。月の光って、太陽みたいに痛くないでしょう?』
『光に痛いもくそも無いだろうが…』
『もう!茶化さないで下さいよ!何と言われても、私にとってカケルさんの歌声は月の光みたいに優しく包み込んでくれるんです。格好良く言うなら、月歌』
『月ね…。ってか、月歌って格好悪ぅ!』
『酷い!茶化さないで下さいよ!カケルさんの歌声は、私の暗闇を照らしてくれる一筋の光なんです。私、カケルさんの歌声があれば強く生きられるんです』
『大袈裟だな…』
呆れた顔をした森野さんの顔を思い出す。
あの時の話を…覚えてくれていたんだ…。
そう思ったら胸が熱くなった。
私の想いはもう届かないけど…、森野さんが私の為に歌ってくれている。
もう、それだけで良かった。
月歌は、終わった瞬間に物凄い拍手の渦だった。
そして最後にデビュー曲を唄って、2時間30分のライブが終わった。
「凄かったね~」
興奮する平原チーフが
「この後、楽屋に行くんだけど…行くでしょう?」
と私に尋ねた。
私は首を横に振ると
「泣きすぎで…顔がぐちゃぐちゃなので…」
そう答えた。
「え!全然大丈夫だよ!まだ好きなんでしょう?ちゃんと会った方が良いよ」
心配そうに言う平原チーフに
「じゃあ、ちょっとメイクを直して来ますね」
と嘘を吐いて席を立つ。
アンケート用紙を書く人や、スタンド花を写真に撮る人波を抜けて外に出る。
季節は春になっていた。
あの日に見た桜ではないけど…、白い梅の木が目に留まる。
会場を抜けて少し歩いた先に、白い梅林の公園があった。
私は公園のベンチに座り空を見上げる。
「あ…今日は満月なんだ」
暗い夜空に浮かぶ月を見上げて呟いた。
そしてふと…今日見たライブを思い出す。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
初恋に身を焦がす
りつ
恋愛
私の夫を王妃に、私は王の妻に、交換するよう王様に命じられました。
ヴェロニカは嫉妬深い。夫のハロルドを強く束縛し、彼の仕事場では「魔女」として恐れられていた。どんな呼び方をされようと、愛する人が自分以外のものにならなければ彼女はそれでよかった。
そんなある日、夫の仕える主、ジュリアンに王宮へ呼ばれる。国王でもある彼から寵愛する王妃、カトリーナの友人になって欲しいと頼まれ、ヴェロニカはカトリーナと引き合わされた。美しく可憐な彼女が実はハロルドの初恋の相手だとジュリアンから告げられ……
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる