月歌(げっか)

坂井美月

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光のもとへ…②

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花見の日が決まり、お弁当に何を入れようかと考えていた時の事だった。
品出しからストック置き場に戻ると、森野さんが内線を受けていた。
4月もクリスマス程では無いけれど、売出が多くてバタバタしている。
GWへ向けてのレジャー向け商品のお問い合わせも増え、私でさえ小さなメモを胸ポケットに入れている。
内線を切った森野さんが
「ったく、こっちだって忙しいんだよ!」
って毒づきながら売り場へ走って行く。
私はそんな森野さんを横目に、箱から出した商品に開封止めシールを貼っていた。
すると
「柊、悪い。これ、レジの横溝から売価聞かれてるから伝えといて」
と、書きなぐられたメモを渡される。
私は『横溝』さんと名前を聞いて、気持ちが落ち込む。
私は何故か、横溝さんに嫌われている。
私に対する態度があからさまに悪く、売価を聞いてきても私の内線を何度か無視されているのだ。
(まぁ…、今回も無視されるだろうな…)
そう思って店内放送を鳴らす。
『1Fレジ 横溝さん、1Fレジ横溝さん。内線36番お願いします』
案の定、内線は掛かって来ない。
3回放送をした頃
「出ないの?横溝さん?」
杉野チーフが心配そうに訊いて来た。
「これだけ放送して出ないんだから、もう分かったのかもしれないですよ」
木月さんが顔をしかめて私に呟く。
「私、横溝さんって嫌いなのよね」
滅多に人の事を悪く言わない木月さんが、苦々しい顔で呟いた。
杉野チーフも溜め息混じりに
「高校卒業してすぐのアルバイトさんですからね…。髪の毛とか派手なアクセサリーしているし、ネイルも派手だから注意してはいるんですが…。全然言うことをきかなくて、確かに問題児ちゃんではあるのよね…」
と、困ったように呟いた。
1Fレジに配属されている『横溝美嘉』さん。
セミロングの髪の毛をいつもツインテールにしていて、髪の毛を束ねるゴムは大きな花が着いた物を使っている。
基本、お店は黒か紺。または茶色の髪ゴムを使用。
華美な物は付けないと決まっている。
ネイルも、ベージュ系は良いけど派手な色や装飾はNG。
メイクも華美な物はNGだった。
しかし彼女は、派手なネイルにアイメイクバッチリで、ラメの入ったメイクをしていた。
レジ責任者の加藤さんが注意しても、全く聞く耳を持たないと嘆いていたっけ。
確かに19歳で、若いし可愛い。
本人も、どう見せたら可愛いのかを知っている感じだった。
店舗はどうしても女性が多い職場なので、数少ない男性従業員に対しての態度と、女性従業員に対する態度の違いも批判されていた。
「まぁ、気にする事は無いわよ」
木月さんが私の肩を軽く叩いて笑う。
私が木月さんに頷いて微笑み返した時、物凄い勢いで階段を駆け登る音が聞こえた。
3人で顔を見合わせていると
「柊!俺、お前に横溝へ売価を内線しろって言ったよな!」
怒った顔で森野さんが近付いてくる。
「はい。なので、私は何度か店内放送をしましたよ」
怒っている森野さんを真っ直ぐ見て答えると
「森野君、私もその放送を聞いてたけど
向こうが全然出ないから放っておけって、今、ちょうど話してたの!」
木月さんが、怒っている森野さんに怒って反論した。
普段、決して人とのやり取りに口を挟まない木月さんの言葉に、森野さんは深い溜息を吐いて椅子に座り込んだ。
「本当に…、勘弁してくれ…」
頭を抱える森野さんに
「どうしたの?」
っと、杉野チーフが声を掛ける。
森野さんは言いづらそうな顔をしながら
「今、商品を取りに下に行ったら、横溝が待ってて『王子~、内線待ってたのにぃ~』って、客の前で言われたんですよ」
と呟いた。
その瞬間、私達3人が一斉に固まる。
「えっと…ごめんね、森野くん。誰が王子?」
杉野チーフが笑いを堪えて聞いている。
森野さんは嫌そうに顔を歪めて
「俺だって恥ずかしいですよ!30歳越えて王子とか…本当に勘弁してくれ…」
珍しく首まで真っ赤にしている。
私達は3人顔を見合わせて、森野さんには申し訳無いけど大爆笑した。
「笑いたければ笑えば良い」
プクっと膨れた顔をする森野さんに、杉野チーフが
「ごめん、ごめん。確か彼女、女子高だったもんね。」
と言いながら笑っている。
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