月歌(げっか)

坂井美月

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似てるけど世界で一番嫌いな奴③

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「柊さん、これ特売で出すからPOP書いてくれる?」
それは配属初日の事だった。
杉野チーフに言われ、生まれて初めてPOPという物を見よう見真似で書いた。
確かに、良い出来では無かった。
無かったけれども…、その翌日。
私の書いた筈のPOPが売台に貼られて無くて、森野さんの書いたPOPが貼られている。
疑問に思ってPOPを裏返すと、私の書いたPOPの裏に森野さんがPOPを書き直していたのだ。
カチンと来た瞬間、森野さんが品出しの商品を抱えた状態で背後を通りすがり
「あ、それ、汚いから書き直しといた」
と言われたのだ。
カッチーン!
汚いから書き直した?
はいはい、すみませんね!
こちとら、POPの書き方なんか全然知りませんよ!今や全部パソコンで出しますからね!
たまに出す手書きPOPの勉強を、していなくてすみませんでした!
私は腹が立ち、すぐに図書館へ行って「POPの書き方」という本を借りてPOP字の勉強を始めた。
そして、何気無く置いてある売り場のペンにも意味があった事に気付いたのだ。
「なるほど~。極太ペンが値段を書くのね…。それで、商品名が角ペンで、この丸ペンが商品説明を書くのね…」
家で画用紙に何枚も何枚も書き方を研究して、いつPOPを書いても大丈夫な状態にしておいた。
でも、こういう時って中々POPを書く仕事が来ないのよね。
 そんな出来事が忘れ去られた頃
「あれ?本部から送られて来たPOPが間違えてる…。ごめん、柊さん。間に合わせにPOP書いてくれる?森野君には、この間みたいな失礼な事をさせないから…」
と、杉野チーフからお願いポーズされて頼まれた。
「はい、わかりました!」
私はこの数か月、自主練した成果を発揮した。
「あれ?柊さん、POP上手くなったね~」
私がPOPを書いていると、杉野チーフが目を丸くして呟いた。
「これなら、パソコンじゃなくても良いかもね」
「返って、温かい感じがしますよね~」
木月さんと杉野チーフが話していると、森野さんが現れた。
「ほらほら、森野君。柊さん、POPが上手になってるよ」
と、杉野チーフが私のPOPを見せると
「ふ~ん」
とだけ答えて、チラッと私の顔を見ると売り場へと行ってしまった。
でも、嫌味は言われなかったので「勝った!」っとばかりに、私は勝手にガッツポーズをしていた。
品出しのやり方からカッターの使い方。
森野さんは細かい事まで注意をしてきて、その度に私の負けず嫌いが発動されていた。
そして3か月が経過した頃、同期の子達の中で一番評価されるようになっていた━━━。
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