風の唄 森の声

坂井美月

文字の大きさ
上 下
48 / 49

これからの未来へ②

しおりを挟む
中に入ると、恭介は美咲達に促されてダイニングテーブルに座った。
風太と座敷童子、空は隣の部屋のソファーセットで楽しそうにしている。
「これは…どういう事なんだ?」
恭介が戸惑って言うと、美咲と修治は顔を見合わせて
「実は…、私達も偶然に出会ったの」
美咲はそう言うと
「先週、大きな雷が龍神神社の近くに落ちたと聞いて、取材に行ったのよ。そしたら、雷で倒れた親子が居るって話を聞いて病院に行ったら3人が居たの」
と続けた。
「修治に相談して、少しの間、修治の家で預かってもらっていたの」
美咲の言葉に恭介が何か言おうと口を開き掛けると
「オイラ達、人間になった衝撃で少しの間、記憶が無かったんだよ」
風太が顔を出して話出した。
「だから修治が俺たちを引き取ってくれて、本当に感謝してるんだ」
笑顔で話す風太に
「記憶が無くても…俺が面倒見たのに…」
少し不満気に言う恭介に
「恭介…男のヤキモチはみっともないぞ!」
意味が分かってるんだか分かってないんだか、風太はそう言って笑うと
「それに…空は一時危なかったからな」
と言って悲しそうに微笑んだ。
「え?」
恭介が驚くと
「空さん…、ずっと集中治療室に居たの。それで…風太君と座敷童子ちゃんを修治に預かってもらっていたの」
と美咲が答えた。
「それだったら尚更…」
「2度も…2度も同じ思いをして欲しく無かったの!」
美咲の言葉に恭介が息を呑んだ。
「教授…、龍神の里から戻った頃、後追いするんじゃないかって本当に心配だった。やっと日常を取り戻した所で、又傷付いて欲しくなかったの」
そう呟いた美咲に、恭介は俯いた。
すると恭介の肩をポンポンと風太は叩くと
「まぁ、そういう事だからさ。2人を許してやれよ」
と呟いた。
恭介は風太の様子を見て笑うと
「お前は…本当に変わらないな」
そう言って抱き上げると、膝に座らせた。
すると風太は不思議そうな顔をして
「なぁ、なんで恭介と空はそんなに離れているんだ」
と呟いた。
「え!」
「えっ!」
驚いた顔をした2人に、修治と美咲は顔を見合わせた。
「風太ちゃん、大人には大人の都合が…」
言い掛けた修治の声を遮るように
「これからずっと一緒に暮らすんだろう!だから、大龍神様だってオイラ達を人間にしてくれたんだろう?違うのか?」
風太の言葉に恭介が小さく微笑む。
「そうだよ。これからは…ずっと一緒だ」
風太を抱き締める恭介に
「だ~か~ら~!抱き締める相手が違うだろう!」
風太は怒ったように言うと、恭介の膝から飛び降りると空の手を握って座敷童子と2人で恭介のそばに連れて来た。
恭介はゆっくりと立ち上がって空と向き合った。
「あの…ごめんなさい。あんな別れ方したのに…」
俯く空に、恭介はそっと空の手に触れると
「身体は…もう大丈夫なのか?」
そう聞いた。
空は俯いたまま頷くと
「なんで俯いてるんだ?」
恭介が顔を覗き込む。
「もう…綺麗な姿にはなれないので…」
そう呟いた空に、恭介は小さく笑う。
そんな2人を見て、修治と美咲は風太と座敷童子を連れて部屋を後にした。
「なぁ、美咲。あの2人を置いて来て平気か?」
心配そうに聞いて来る風太に
「2人の方が、上手く行く時もあるのよ」
と微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...