45 / 49
龍神の里に雪が降る⑤〜恭介の夢②〜
しおりを挟む
次の日から、俺とタツは山で遊ぶようになった。
毎日、朝から夕方まで遊び
「又、明日」
って分かれた。
そして自宅に帰る前日
「タツ、俺…明日からもう此処に来れないんだ」
そう言うと、タツは悲しそうな顔をして
「どうして?私が嫌いになったの?」
と、瞳に涙を浮かべていた。
「そうじゃ無いんだ。俺、婆ちゃんの家に夏休みの間だけ来てたんだ。冬も来るけど、冬はこの山に子供は入っちゃダメだろう?」
と言うと
「じゃあ、次の夏は又会える?」
と聞かれて
「うん。必ず会いに来るよ」
そう言って指切りをした。
それから俺は、ずっと夏休みには婆ちゃんの家で過ごして、タツと遊んだ。
段々成長して、俺が小学校5年生の時だった。
いつも通りに山に行っても、タツが現れない。
いつもなら
「きょーすけ」
って、笑顔で飛び込んでくるのに…。
神社の軒先に座って待っていると
「恭介?ひいさんと遊ばないのか?」
と、婆ちゃんに言われた。
「え?」
驚いて婆ちゃんを見ると、婆ちゃんは悲しそうに笑って
「そうか…。もう、恭介にはひいさんが見えなくなってしまったんだね」
そう言って俺の頭を撫でた。
「さっきからお前の右隣で、ずっとお前に語り掛けてるよ」
俺は婆ちゃんの言葉に、そっと右隣を見た。
「大人になると、見えなくなるらしいからね」
そう言われて
「もう…会えないのか?タツとは…、もう会えないのか?」
そう聞くと、婆ちゃんが誰かに話しかけていた。
「えぇ、仕方ありません。ひい様、恭介を許して上げて下さいね」
と話した。
俺がその様子を見ていると、急に目蓋が重くなった。
ぼんやりとしていく視界。
ゆっくりと目を閉じる間際
「きょーすけ!きょーすけ!」
と、悲しそうに俺を呼ぶタツの声が聞こえたような気がした。
俺は中学に上がると、婆ちゃん家に行くよりも友達と遊ぶ方を優先するようになった。
タツと過ごした日々も忘れ、彼女も出来た。
でも…、誰と居ても何かが違う。
そう思っていた。
自分の右手が、なんだかいつも寂しいと思った。
高校に上がると、俺は身体が弱った婆ちゃんと暮らすようになる。
久し振りに会った婆ちゃんは
「恭介、随分と大きくなったね」
と、嬉しそうにしてくれた。
そして再び婆ちゃんと一緒に龍神神社の掃除や、山の散策をするようになる。
俺は婆ちゃんから悪戯に傷付けられた植物の手当ての仕方や、動物達の保護をやり方を教わった。
割れて落ちている食器は、もしかしたら付喪神かもしれないから、綺麗に洗って龍神神社に祀るようにも言われた。
婆ちゃんは物知りで、野原に咲く花にも在来植物と外来植物があるのを教えてもらった。
「在来植物を守らないと」
それが婆ちゃんの口癖だった。
そんな時、久し振りに子供の頃に駆け回った野原や河原に出ると、風が頬を掠める。
「きょーすけ」
呼ばれたような気がして振り向くと、そこには誰も居ない変わらない風景があるだけだった。
大学に入って間も無く、婆ちゃんは病で他界してしまい、近隣の人達からは「森の声が聞こえる人が亡くなった」と嘆かれた。
婆ちゃんの住む地域の人達には大切にされていた婆ちゃんだったが、俺のお袋は婆ちゃんが大嫌いだった。
「居もしない神様や妖怪なんか信じて、ぶつぶつ独り言を言って気味が悪い」
と言っていた。
だけど俺には婆ちゃんが嘘を言ってるようにも、ましてや頭がおかしいとも思えなかった。
生きとし生けるものを愛し、優しい婆ちゃんだった。
俺は婆ちゃんに頼まれて、あの山を守る為に勉強した。樹木医の勉強をしたり、龍神神社を綺麗にしたりしていた。
理由はわからなかったけど、此処を守らなくちゃならないと思っていた。
…そうか。タツ、きみとはそんな小さな頃から出会っていたのか…。
忘れていた記憶を思い出し
(ずっときみは…俺を見守っていてくれてたんだな…)
そう思った。
ゆっくりと目を開けると、隣で寝ている筈の空の姿が無かった。
嫌な予感がして、慌てて衣類を身に付けて外に飛び出した。
毎日、朝から夕方まで遊び
「又、明日」
って分かれた。
そして自宅に帰る前日
「タツ、俺…明日からもう此処に来れないんだ」
そう言うと、タツは悲しそうな顔をして
「どうして?私が嫌いになったの?」
と、瞳に涙を浮かべていた。
「そうじゃ無いんだ。俺、婆ちゃんの家に夏休みの間だけ来てたんだ。冬も来るけど、冬はこの山に子供は入っちゃダメだろう?」
と言うと
「じゃあ、次の夏は又会える?」
と聞かれて
「うん。必ず会いに来るよ」
そう言って指切りをした。
それから俺は、ずっと夏休みには婆ちゃんの家で過ごして、タツと遊んだ。
段々成長して、俺が小学校5年生の時だった。
いつも通りに山に行っても、タツが現れない。
いつもなら
「きょーすけ」
って、笑顔で飛び込んでくるのに…。
神社の軒先に座って待っていると
「恭介?ひいさんと遊ばないのか?」
と、婆ちゃんに言われた。
「え?」
驚いて婆ちゃんを見ると、婆ちゃんは悲しそうに笑って
「そうか…。もう、恭介にはひいさんが見えなくなってしまったんだね」
そう言って俺の頭を撫でた。
「さっきからお前の右隣で、ずっとお前に語り掛けてるよ」
俺は婆ちゃんの言葉に、そっと右隣を見た。
「大人になると、見えなくなるらしいからね」
そう言われて
「もう…会えないのか?タツとは…、もう会えないのか?」
そう聞くと、婆ちゃんが誰かに話しかけていた。
「えぇ、仕方ありません。ひい様、恭介を許して上げて下さいね」
と話した。
俺がその様子を見ていると、急に目蓋が重くなった。
ぼんやりとしていく視界。
ゆっくりと目を閉じる間際
「きょーすけ!きょーすけ!」
と、悲しそうに俺を呼ぶタツの声が聞こえたような気がした。
俺は中学に上がると、婆ちゃん家に行くよりも友達と遊ぶ方を優先するようになった。
タツと過ごした日々も忘れ、彼女も出来た。
でも…、誰と居ても何かが違う。
そう思っていた。
自分の右手が、なんだかいつも寂しいと思った。
高校に上がると、俺は身体が弱った婆ちゃんと暮らすようになる。
久し振りに会った婆ちゃんは
「恭介、随分と大きくなったね」
と、嬉しそうにしてくれた。
そして再び婆ちゃんと一緒に龍神神社の掃除や、山の散策をするようになる。
俺は婆ちゃんから悪戯に傷付けられた植物の手当ての仕方や、動物達の保護をやり方を教わった。
割れて落ちている食器は、もしかしたら付喪神かもしれないから、綺麗に洗って龍神神社に祀るようにも言われた。
婆ちゃんは物知りで、野原に咲く花にも在来植物と外来植物があるのを教えてもらった。
「在来植物を守らないと」
それが婆ちゃんの口癖だった。
そんな時、久し振りに子供の頃に駆け回った野原や河原に出ると、風が頬を掠める。
「きょーすけ」
呼ばれたような気がして振り向くと、そこには誰も居ない変わらない風景があるだけだった。
大学に入って間も無く、婆ちゃんは病で他界してしまい、近隣の人達からは「森の声が聞こえる人が亡くなった」と嘆かれた。
婆ちゃんの住む地域の人達には大切にされていた婆ちゃんだったが、俺のお袋は婆ちゃんが大嫌いだった。
「居もしない神様や妖怪なんか信じて、ぶつぶつ独り言を言って気味が悪い」
と言っていた。
だけど俺には婆ちゃんが嘘を言ってるようにも、ましてや頭がおかしいとも思えなかった。
生きとし生けるものを愛し、優しい婆ちゃんだった。
俺は婆ちゃんに頼まれて、あの山を守る為に勉強した。樹木医の勉強をしたり、龍神神社を綺麗にしたりしていた。
理由はわからなかったけど、此処を守らなくちゃならないと思っていた。
…そうか。タツ、きみとはそんな小さな頃から出会っていたのか…。
忘れていた記憶を思い出し
(ずっときみは…俺を見守っていてくれてたんだな…)
そう思った。
ゆっくりと目を開けると、隣で寝ている筈の空の姿が無かった。
嫌な予感がして、慌てて衣類を身に付けて外に飛び出した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。



【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる