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龍神の里に雪が降る④~恭介の夢①~
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それは遠い記憶。
俺は夏になると、祖母の家に預けられていた。
共働きで忙しい両親。
そんな俺を、祖母は可愛がってくれた。
その日は龍神神社のお祭りがあり、俺は大人に混じって祠の掃除を手伝った。
「暑かったろう?ありがとう」
そう言われて、冷えたお茶と甘い液体をポリエステルの袋に固めただけのアイスをもらった。
それは二つに割ると、中身が食べられるアイスで、今思えば何故、子供の頃はあんな物がうまかったのか謎だ。
セミの鳴き声を聞きながら、神社の扇風機に当たって外を眺めていると、どこからか泣き声が聞こえた。
俺は声のする方へと歩くと、浴衣を着た女の子が泣いている。
「お母様!お母様は何処?」
少し歩いては泣いている少女に
「お前、迷子か?」
と、声を掛けた。
少女は驚いた顔で俺を見ると、ギャン泣きを始めた。
「誰?怖い!お母様!」
大泣きするその子に、俺はそっと頭を撫でると
「一緒に探してやるから、泣くな」
と声を掛けた。
するとそいつは涙でぐちゃぐちゃの顔で
「本当?」
と言って俺の顔を見た。
俺は割ったアイスの半分を差し出し
「取り敢えず、これ食ったら探してやる」
そう言うと、その子はアイスを不思議そうに見ていた。
「お前、食った事無いのか?」
そう訊くと
「お母様が、お家で出される物以外は食べたらダメだって…」
と言いながら、アイスをガン見している。
「なんで冷たいの?」
と訊かれ
「え?凍らせてるからだよ」
「これは、氷なの?」
色々聞いてくるそいに
「良いから食ってみろ」
そう言って、そいつの前で自分の分のアイスを食べた。するとそいつも俺の真似をしてアイスを口にすると
「甘い!氷が甘い。なんで?」
と、また、なんで攻撃に俺は苦笑いをした。
「良いから黙って食え!」
そう言ってそいつの手を引いて、俺は神社の軒先に並んで座ると、アイスを2人で食べた。
「俺の名前は双葉恭介。お前は?」
アイスを食べながら聞くと
「タツ」
と少女は答える。
「え?上の名前は?」
と聞くと
「上の名前?タツはタツだよ」
きょとんとした顔をされて言われ、もしかしてヤバいやつかもしれないと思っていた。
するとばあちゃんが俺たちを見つけると
「あらあら、これはこれは可愛いひいさんだ」
そう言って微笑んだ。
「ばあちゃん、迷子みたいなんだ」
俺がそういうと
「そうかい。じゃあ、優しくしてあげなさい」
そういうと、ばあちゃんはその女の子に手を合わせていた。
「ひいさん、お母さんが来るまで、恭介と遊んでいてくれますか?」
ばあちゃんがそういうと、タツと名乗った少女は俺を見て笑顔を浮かべ
「うん」
と答えた。
ばあちゃんは神社の人に何かを頼むと
「もうすぐお祭りが始まりますから、楽しんでくださいね」
そう言って
「恭介、しっかりひいさんを守るんだよ」
と言い残して祭りの準備を続けていた。
「きょーすけ」
「ん?」
「お祭りって何?」
が始まった。
こいつの「何?何?」攻撃に困っていると、ばあちゃんが家から女の子用の浴衣一式と狐のお面を持って来てもらっていた。
「ひいさん。ひいさんの世界のモノは、私ら信仰が厚いものしか見えません。お祭りの間だけ、こちらを着ていただけますか?」
と言って、そいつに神社で浴衣を着付けた。
そして俺に
「恭介。絶対にお面を人前で外させたらダメだよ」
と、釘を刺される。
俺は意味もわからず、ばあちゃんの言葉に頷いた。
手を繋ぎ、出店を回って歩いた。
そいつは見る物全てが珍しいらしく、キラキラした目で見ていた。
買った物を持って神社に戻る道すがら、余程楽しかったのか
「りんご飴、わたあめ、水雨風船。焼きそば、たこ焼き…」
と数えると
「いっぱいだね!」
そう言って俺に笑顔を向ける。
しばらくすると
「タツ!タツ!」
と、母親らしき人が森の中で叫んでいた。
「あ!お母様だ!」
少女は俺の手をするりと離すと
「お母様!」
と、母親に抱き付いた。
「タツ?なんだい、お前。人間のものなんか身に付けて」
怪訝そうな顔をする母親に
「きょーすけが、お祭りに連れて行ってくれたの」
と、俺を指差した。
「恭介?」
母親が俺に視線を向けると
「お前、私達が見えるのか?」
と、変な事を聞いて来た。
「はい」
と答えると、タツの母親は俺をジッと見つめてから
「双葉のばあさんの孫か…。どうりで…」
そう言って微笑んだ。
「世話になったな」
と言うと、少女と手を繋いで帰って行った。
その時、少女が俺に
「きょーすけ、又、明日」
そう言って手を振った。
俺は夏になると、祖母の家に預けられていた。
共働きで忙しい両親。
そんな俺を、祖母は可愛がってくれた。
その日は龍神神社のお祭りがあり、俺は大人に混じって祠の掃除を手伝った。
「暑かったろう?ありがとう」
そう言われて、冷えたお茶と甘い液体をポリエステルの袋に固めただけのアイスをもらった。
それは二つに割ると、中身が食べられるアイスで、今思えば何故、子供の頃はあんな物がうまかったのか謎だ。
セミの鳴き声を聞きながら、神社の扇風機に当たって外を眺めていると、どこからか泣き声が聞こえた。
俺は声のする方へと歩くと、浴衣を着た女の子が泣いている。
「お母様!お母様は何処?」
少し歩いては泣いている少女に
「お前、迷子か?」
と、声を掛けた。
少女は驚いた顔で俺を見ると、ギャン泣きを始めた。
「誰?怖い!お母様!」
大泣きするその子に、俺はそっと頭を撫でると
「一緒に探してやるから、泣くな」
と声を掛けた。
するとそいつは涙でぐちゃぐちゃの顔で
「本当?」
と言って俺の顔を見た。
俺は割ったアイスの半分を差し出し
「取り敢えず、これ食ったら探してやる」
そう言うと、その子はアイスを不思議そうに見ていた。
「お前、食った事無いのか?」
そう訊くと
「お母様が、お家で出される物以外は食べたらダメだって…」
と言いながら、アイスをガン見している。
「なんで冷たいの?」
と訊かれ
「え?凍らせてるからだよ」
「これは、氷なの?」
色々聞いてくるそいに
「良いから食ってみろ」
そう言って、そいつの前で自分の分のアイスを食べた。するとそいつも俺の真似をしてアイスを口にすると
「甘い!氷が甘い。なんで?」
と、また、なんで攻撃に俺は苦笑いをした。
「良いから黙って食え!」
そう言ってそいつの手を引いて、俺は神社の軒先に並んで座ると、アイスを2人で食べた。
「俺の名前は双葉恭介。お前は?」
アイスを食べながら聞くと
「タツ」
と少女は答える。
「え?上の名前は?」
と聞くと
「上の名前?タツはタツだよ」
きょとんとした顔をされて言われ、もしかしてヤバいやつかもしれないと思っていた。
するとばあちゃんが俺たちを見つけると
「あらあら、これはこれは可愛いひいさんだ」
そう言って微笑んだ。
「ばあちゃん、迷子みたいなんだ」
俺がそういうと
「そうかい。じゃあ、優しくしてあげなさい」
そういうと、ばあちゃんはその女の子に手を合わせていた。
「ひいさん、お母さんが来るまで、恭介と遊んでいてくれますか?」
ばあちゃんがそういうと、タツと名乗った少女は俺を見て笑顔を浮かべ
「うん」
と答えた。
ばあちゃんは神社の人に何かを頼むと
「もうすぐお祭りが始まりますから、楽しんでくださいね」
そう言って
「恭介、しっかりひいさんを守るんだよ」
と言い残して祭りの準備を続けていた。
「きょーすけ」
「ん?」
「お祭りって何?」
が始まった。
こいつの「何?何?」攻撃に困っていると、ばあちゃんが家から女の子用の浴衣一式と狐のお面を持って来てもらっていた。
「ひいさん。ひいさんの世界のモノは、私ら信仰が厚いものしか見えません。お祭りの間だけ、こちらを着ていただけますか?」
と言って、そいつに神社で浴衣を着付けた。
そして俺に
「恭介。絶対にお面を人前で外させたらダメだよ」
と、釘を刺される。
俺は意味もわからず、ばあちゃんの言葉に頷いた。
手を繋ぎ、出店を回って歩いた。
そいつは見る物全てが珍しいらしく、キラキラした目で見ていた。
買った物を持って神社に戻る道すがら、余程楽しかったのか
「りんご飴、わたあめ、水雨風船。焼きそば、たこ焼き…」
と数えると
「いっぱいだね!」
そう言って俺に笑顔を向ける。
しばらくすると
「タツ!タツ!」
と、母親らしき人が森の中で叫んでいた。
「あ!お母様だ!」
少女は俺の手をするりと離すと
「お母様!」
と、母親に抱き付いた。
「タツ?なんだい、お前。人間のものなんか身に付けて」
怪訝そうな顔をする母親に
「きょーすけが、お祭りに連れて行ってくれたの」
と、俺を指差した。
「恭介?」
母親が俺に視線を向けると
「お前、私達が見えるのか?」
と、変な事を聞いて来た。
「はい」
と答えると、タツの母親は俺をジッと見つめてから
「双葉のばあさんの孫か…。どうりで…」
そう言って微笑んだ。
「世話になったな」
と言うと、少女と手を繋いで帰って行った。
その時、少女が俺に
「きょーすけ、又、明日」
そう言って手を振った。
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