風の唄 森の声

坂井美月

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引き裂かれた運命⑥

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「そんな…そんなのって」
美咲が涙を流して呟くと
「しかも大龍神の奴、あいつの本当の姿だけは思い出せないようにしてるみたいなんだ」
恭介はそう言って小さく微笑んだ。
すると修治はハッとした顔をして
「でも…教授。もしかして、タツさんが誰だかもう分かってるんじゃ無いんですか?」
そう叫んだ。
美咲が涙を流しながら
「それって…」
と言い掛けると
「それ以上言うな!」
と、恭介が叫んだ。
「俺は何も思い出せなかったし、タツはあの日に死んだんだ。もう、それで良いじゃないか」
恭介の言葉に、美咲も修治も口を噤んだ。
「どうにもならないの?どうして?どうして私達人間を助けてくれたのに、引き離されなくちゃならないの?」
美咲が叫ぶと
「それが…掟だから…」
風太がそう呟いた。
「掟を破れば、例え大龍神様でも殺されてしまう。オイラ達神は、そうやってお前ら人間を…この世界を守ってるんだ」
風太の言葉に、美咲は泣きながら
「そんなの酷い!風太君は、風太君はそれで良いの!」
そう叫ぶと
「美咲!いい加減にしろ!」
と言われて、修治に頬を叩かれた。
「一番辛いのは、誰なのか分からないのかよ…」
美咲は叩かれた頬に手を当てると
「分からない!分かりたくないよ!私、明日、帰らない!大龍神に直訴するんだから!」
そう叫んだ美咲に
「藤野君!…もう、良いから。俺達の事はもう良いから……。頼むから…止めてくれ…」
恭介が俯いて目に手を当てて呟いた。
「教授…」
美咲が恭介の姿を見て呟くと
「あら?皆様、お揃いですか?」
場を壊す空の声がした。
慌てて振り向くと、空が座敷童子と一緒に笑顔で立っている。
「空さん!もう、動いて平気なんですか?」
美咲が慌てて言うと、空が小さく微笑む。
「もう、皆様。なんて顔してるんですか!ほら、今晩は最後の晩餐なんですよ」
そう言ってみんなの背中を叩く空に
「空さん!」
と美咲が声を掛けると
「最後なんです。笑ってお別れしましょう」
そう言うと、空はにっこりと微笑んだ。
そんな空に、風太が空の手を握り締めた。
「風太?どうしたの?」
しゃがんで風太の顔を見ると、空に風太が抱き付いた。
そんな姿を見て、恭介は修治と美咲を連れて屋敷へと帰って行った。
3人の姿が見えなくなると
「風太?もうお兄ちゃんなのに、甘えん坊さんね」
空が微笑むと
「空!オイラ…知ってたぞ。お前が母ちゃんだって、知ってたぞ」
そう呟いた。
「風太…ごめんなさい。ごめんなさい」
風太を抱き締めて呟く空に、座敷童子も空に抱き付いた。
「座敷童子も…ずっとありがとうね」
泣き笑いする空に、座敷童子は首を横に振る。
空は二人をギュッと抱き締めると、涙を拭って微笑み
「さぁ…早く戻らないと、みんなお腹空かせちゃうわよ」
と、空が二人の身体をゆっくりと離した。
風太も涙を拭うと
「今日はオイラも手伝う!」
そう言って笑顔を浮かべた。
「私も!」
座敷童子も手を挙げると
「真似すんなよ!」
と、風太が座敷童子を肩で押す。
すると座敷童子も風太を肩で押して
「風太こそ!」
と言って戯れている。
(このまま…ずっとこうしていられたら良かったのに…)
空は2人の背中を笑顔で見つめて、屋敷へと歩き出した。
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