風の唄 森の声

坂井美月

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交差する想い④

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「ふぁ~」
美咲はあくびをしながら台所へと向かって歩いていた。
昨夜は結局、みんなで恭介が教えてくれる星座の話を聞いて遅くなってしまった。
普段は空が朝食の用意をしてくれているが、大龍神の神殿に行っているので、美咲が朝食を用意しようと思っていたのだ。
眠い目を擦りながら台所に行くと
「おはようございます」
と、空の姿があった。
「空さん?神殿に行ってたんじゃ無いんですか?」
驚いた顔をすると、空は微笑んで
「朝食の準備をしたら、すぐに戻ります。美咲さんは、まだ寝ていて下さい」
空はそう言うと、手際よく料理を作っている。
「あの…空さん」
「はい?」
「空さんは……」
そう言い掛けて、美咲は唇を噛み締める。
(聞いてどうするの?私。それで、教授が好きだと言われても、困るだけなのに…)
思わず俯いてしまうと
「安心して下さい」
ぽつりとそう言われて、美咲は顔を上げる。
「恭介様の事ですよね?私はなんとも思っていませんから」
「え?」
思わず驚いて空の顔を見ると
「人間と私達龍神が結ばれると、寿命を縮めるんです」
空はそう言うと、お味噌汁の蓋を閉めて
「私は風太が7歳になるまで、死ねないんです」
と呟いた。
「それ…どう言う…」
「それ、どういう意味だ?」
いつの間にか、美咲の後に恭介が立っていた。
「恭介様!」
驚いた顔をする空に
「どうせ朝早くに来て、又、姿くらますんだろうと思って早く起きてみれば…」
吐き捨てるように言うと、恭介は空に足早に近付くと腕を掴み
「彼女の墓は何処にある?何故死んだ?そしてお前は一体…何者だ?」
矢継ぎ早に質問する恭介に、空が怯えた目を向ける。
美咲も、普段決して言葉を荒げない恭介の姿に呆然としてしまった。
「教えろ!何故、名前が思い出せない?」
ギリギリと手首を締め上げる恭介に、空が苦痛の色を顔に浮かべる。
「教授!止めて下さい!」
慌てて美咲が止めると
「邪魔するな!こいつは、俺の妻で風太の母親の鍵を握っているんだ!」
そう叫んだ恭介に、美咲の動きが止まる。
「え?教授の妻?風太君が子供って…どういう事?」
驚いて空を見ると
「離して下さい!ちゃんと話しますから!」
空はそう叫んで、恭介の腕を振り払った。
「恭介様の奥様は、この龍神の里を治める大龍神様の一人娘、タツ様です」
空の言葉に、恭介の記憶が蘇って来る。
「そうだ……。俺は…なんで名前を忘れていた?」
頭を抱える恭介に
「それは…タツ様が、亡くなられる前に記憶を封じたからです」
空はそう答えた。
「なんでだ?記憶を消す必要なんか、無かっただろう!」
「それは…。恭介様に、全てを忘れて新しい人生を歩んで欲しかったんだと思います」
「それで俺は、のうのうと自分の最愛の妻も子供の事も忘れて、5年間生きて来たって訳か」
恭介は力無く笑うと、そう言ってその場に座り込んだ。
「で、お前は誰だ?何故、風太のそばに居る。なんでタツの代わりに風太を育てている!」
空を睨み上げる恭介に
「私は…ずっと、タツ様に仕えておりました。恭介様は、タツ様しか目に映っていらっしゃらなかったので、覚えていないんだと思います」
力無く答える空に、恭介はゆっくり立ち上がり
「俺の知ってるタツは、他人に子育てを任せるような女じゃなかったけどな」
そう呟くと
「もう分かった。邪魔して悪かった」
恭介はそう言い残して、部屋へと戻って行った。
「どういう事?教授に奥さん?風太君が子供って…」
震えながら呟く美咲に、空が手を伸ばすと
「触らないで!」
とっさに美咲は叫んでしまい、ハッと我に返る。
自分を悲しそうに見つめる空に
「ごめんなさい。空さんが悪いんじゃ無いの、分かってるのに…。私…ごめんなさい」
そう叫んで、美咲も自分の部屋へと走り去ってしまった。
空はその場に残されて、ズルズルと座り込み涙を流すと
「とうとう…時が来てしまったのですね…」
そう呟いた。
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