風の唄 森の声

坂井美月

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交差する想い②

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「はぁ…」
食事を終えた後、美咲は夜空を見上げて溜め息を吐く。思えば…失恋の経験って無かったな…と苦笑いする。
空と恭介の事を考えると、どす黒い感情が胸の中を襲って自分が嫌いになりそうになる。
「私…ダメだな~」
自分の両頬を両手で叩き
「笑え!私、笑え!」
必死に笑顔を作っていると、頭に何かが当たる。
足下を転がる栗を拾うと、修治が立っていた。
「聞いてたの?」
驚いた顔をすると、修治は美咲の隣に座って
「無理に笑わなくて良いんじゃない?」
そう呟いた。
「え?」
「確かに俺は、笑ってる美咲が大好きだけど…、最近の美咲の笑顔は見てると辛いな」
そう言って修治が小さく笑う。
「辛かったら、辛いって顔して良いんじゃない?」
「でも…そんな事したら、教授が気を使っちゃうでしょう!」
「使わせれば良いんだよ!」
美咲の言葉を遮るように、修治が叫んだ。
「何で美咲だけが我慢しなくちゃいけないんだよ!」
修治はそう言うと、美咲の身体を抱き締めた。
「いつだって、笑顔で自分の気持ちを押し殺して。見てる俺が辛いよ!」
「修治…」
美咲は小さく微笑むと、抱き締める修治の背中を軽く叩いて
「ありがとう。でも、大丈夫。心配しないで。これでも私、案外強いんだから。ほら、もしかしたら、空さんに振られて、そんな教授を慰めて恋に発展するかもしれないじゃない」
抱き締めていた修治の身体を離すと、美咲は笑顔を浮かべる。
「私、可能性がたった1%だったとしても、教授を諦めるつもりないから。それにほら、大学だと変わり者で誰もライバルがいなかったでしょう?やっと戦える相手が現れたんだもん。私、負けないよ」
そう言って修治のそばから一歩前へ立ち上がって歩き出した。
満点の星空を見上げ、月光を浴びてゆっくりと振り向いて微笑む美咲を修治は綺麗だと思った。
いつも明るくて、ひまわりのような美咲。
修治は、彼女の明るくて屈託の無い笑顔が大好きだった。しかし、この里に来てから、美咲が悲しそうな顔をしているのを知っていた。
それはほんの一瞬で、気付かれないようにしているのも分かっていた。
(俺だったら、絶対にそんな顔させないのに…)
修治はそう思いながら、必死に1人で立とうとしている美咲の背中を見守っていた。
すると
「あれ?修治と美咲、何してるんだ?」
風太が恭介と座敷童子を連れて現れた。
「あ!風太君と座敷童子ちゃん。…それに教授まで。そっちこそどうしたんですか?」
笑顔を浮かべて話しかける美咲に
「恭介に、星座を教えてもらうんだ!知ってたか?夜空の星に名前があるんだぞ!」
得意気に話す風太に
「風太ちゃん、そんなのみんな知ってるぜ」
と、修治が偉そうに声を掛けた。
「嘘だね!じゃあ、修治。どの星がどの名前なのか教えて見ろよ!」
怒る風太に、修治が踏ん反り返って
「良いだろう。この博識修治様が教えて上げよう」
と答えた。
すると風太は恭介に
「恭介、博識ってなんだ?」
と聞いて来た。
「博識は、たくさんの事を知っている人の事を言うんだ」
「ふぅ~ん」
風太が恭介の言葉に納得すると
「風太ちゃ~ん、今からでも遅くない。この天才修治様を敬って良いのだぞ!」
そう言って高笑いしている。
その様子を見て、美咲と恭介が呆れた顔をすると
「恭介、敬うってなんだ?」
と、再び質問して来た。
「そうだな…。凄い人だなって思う事かな?」
首を傾げて答える恭介に、美咲は思わず吹き出してしまう。
「藤野君、何を笑ってるんだ」
ムッとした顔をする恭介に
「だって教授、講義している時より難しい顔してますよ」
と答えた。
恭介は美咲の言葉に鼻の頭をかいて
「子供に分かり易く伝えるって、案外難しくてな」
そう言って微笑んだ。
(ずるい…)
美咲は恭介の笑顔を見て、心の中で呟く。
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