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抜け落ちた記憶が語るもの①
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『大丈夫ですか?』
目を開けると、目の前におそろしく綺麗な女性が顔を覗き込んで居た。
身体を起こすと
『まだ、起きてはダメです。崖から、転落したようです』
心配そうに言われて、恭介は頭を抱える。
見渡すと、そこは古い山小屋のようだった。
女性は美しい着物姿で、彼女の周りには数人の人物が控えていた。
恭介は古い昔話のお姫様みたいだ…と思いながら、今にも消えそうな美しい女性の顔を見た。不思議とここまで美しいと、人間味が感じられないものだな…と恭介は思いながら
「ありがとうございます。助けて下さったんですね」
と頭を下げる。
『そんなお礼など…。それより、お腹は空いていませんか?』
彼女がそう言うと、何人かいるお手伝いの人が器にお粥を入れて持って来た。
「あ…ありがとうございます」
『お口に合うかわかりませんが…』
彼女はそう言って、儚い笑顔を浮かべた。
これが恭介と彼女の出会いだった。
当時の恭介は、龍神神社が奉られている山に入っては、植物の研究をしていた。
恭介はこの山のある一角に、時々、古来種の植物が生えている事に気が付いた。
すぐに外来種に覆われ絶滅してしまうのが分かっていたので、研究室へ持ち帰りそこで繁殖に成功させたのだ。
そのお陰で、恭介は30歳そこそこで助教授になれたのだが、それを良く思わない連中からのやっかみや、絶滅危惧種に指定された植物の保護を早くやれと圧力をかけられ、その頃の恭介は寝る間も惜しんで山の中を探索していた。
そしてこの日、久しぶりに珍しい在来種を見つけ、移植しようと手を伸ばして崖から転落したのだ。
世話をしてくれていた人の話では、どうやら数日間、寝込んでいたらしい。
恭介は植物の事や大学の事もあり、すぐに大学に戻らなくては…と、制止する彼女達の手を振り払って外に出て言葉を失った。
そこは…電線も電信柱も無い、ひたすら緑が広がる世界だった。
「此処は…何処だ?」
驚いて振り向いた恭介に、彼女は困ったように微笑むと
『此処は龍神の里です』
そう答えたのだ。
「龍神の里?バカバカしい!そんなもの、あるわけないだろう!」
恭介はそう叫ぶと
「助けていただいて、本当にありがとうございます。でも、俺にはやらなくちゃならない事があるので…。また、落ち着いたら挨拶に来ます」
と言い残し、山道を走り出した。
(山の中なら、何度も入っているから知っている。)
そう思って山道を歩いた。
…歩いても歩いても、恭介の知っている道へ出る事は無かった。
「嘘だろ……」
呆然と呟いた恭介に
「あの…気が済みましたか?」
と、その女性が心配そうに聞いてきた。
「龍神の里って…本当なんですか?」
呆然として呟いた恭介に
『はい。今は、訳あってすぐには元の世界へ戻る扉を開けられません。必ず元の世界へ戻しますので、それまでは身体を治す事を考えて下さい』
彼女はそう言って、悲しそうに微笑んだ。
元の山小屋に戻ると、恭介は布団へと連れ戻された。
「あ…俺、名乗って無かったよな。俺の名前は双葉恭介です」
あんなに勢い良く飛び出したのに、戻ってきたバツの悪さを隠すように名乗ると
『恭介さん?私は●●と申します』
笑顔で名乗る彼女に
『●●様!人間などに、名前を名乗ってはなりません!』
お付きの奴等が、口々に彼女に叫ぶ。
その時、恭介はある事に気付く。
(あれ?名前…彼女の名前が思い出せない。
彼女は大龍神の愛娘で、次の大龍神になる人だと他の奴等から話を聞いた。)
恭介は、混乱する頭で必死にその先を思い出していた。
目を開けると、目の前におそろしく綺麗な女性が顔を覗き込んで居た。
身体を起こすと
『まだ、起きてはダメです。崖から、転落したようです』
心配そうに言われて、恭介は頭を抱える。
見渡すと、そこは古い山小屋のようだった。
女性は美しい着物姿で、彼女の周りには数人の人物が控えていた。
恭介は古い昔話のお姫様みたいだ…と思いながら、今にも消えそうな美しい女性の顔を見た。不思議とここまで美しいと、人間味が感じられないものだな…と恭介は思いながら
「ありがとうございます。助けて下さったんですね」
と頭を下げる。
『そんなお礼など…。それより、お腹は空いていませんか?』
彼女がそう言うと、何人かいるお手伝いの人が器にお粥を入れて持って来た。
「あ…ありがとうございます」
『お口に合うかわかりませんが…』
彼女はそう言って、儚い笑顔を浮かべた。
これが恭介と彼女の出会いだった。
当時の恭介は、龍神神社が奉られている山に入っては、植物の研究をしていた。
恭介はこの山のある一角に、時々、古来種の植物が生えている事に気が付いた。
すぐに外来種に覆われ絶滅してしまうのが分かっていたので、研究室へ持ち帰りそこで繁殖に成功させたのだ。
そのお陰で、恭介は30歳そこそこで助教授になれたのだが、それを良く思わない連中からのやっかみや、絶滅危惧種に指定された植物の保護を早くやれと圧力をかけられ、その頃の恭介は寝る間も惜しんで山の中を探索していた。
そしてこの日、久しぶりに珍しい在来種を見つけ、移植しようと手を伸ばして崖から転落したのだ。
世話をしてくれていた人の話では、どうやら数日間、寝込んでいたらしい。
恭介は植物の事や大学の事もあり、すぐに大学に戻らなくては…と、制止する彼女達の手を振り払って外に出て言葉を失った。
そこは…電線も電信柱も無い、ひたすら緑が広がる世界だった。
「此処は…何処だ?」
驚いて振り向いた恭介に、彼女は困ったように微笑むと
『此処は龍神の里です』
そう答えたのだ。
「龍神の里?バカバカしい!そんなもの、あるわけないだろう!」
恭介はそう叫ぶと
「助けていただいて、本当にありがとうございます。でも、俺にはやらなくちゃならない事があるので…。また、落ち着いたら挨拶に来ます」
と言い残し、山道を走り出した。
(山の中なら、何度も入っているから知っている。)
そう思って山道を歩いた。
…歩いても歩いても、恭介の知っている道へ出る事は無かった。
「嘘だろ……」
呆然と呟いた恭介に
「あの…気が済みましたか?」
と、その女性が心配そうに聞いてきた。
「龍神の里って…本当なんですか?」
呆然として呟いた恭介に
『はい。今は、訳あってすぐには元の世界へ戻る扉を開けられません。必ず元の世界へ戻しますので、それまでは身体を治す事を考えて下さい』
彼女はそう言って、悲しそうに微笑んだ。
元の山小屋に戻ると、恭介は布団へと連れ戻された。
「あ…俺、名乗って無かったよな。俺の名前は双葉恭介です」
あんなに勢い良く飛び出したのに、戻ってきたバツの悪さを隠すように名乗ると
『恭介さん?私は●●と申します』
笑顔で名乗る彼女に
『●●様!人間などに、名前を名乗ってはなりません!』
お付きの奴等が、口々に彼女に叫ぶ。
その時、恭介はある事に気付く。
(あれ?名前…彼女の名前が思い出せない。
彼女は大龍神の愛娘で、次の大龍神になる人だと他の奴等から話を聞いた。)
恭介は、混乱する頭で必死にその先を思い出していた。
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