風の唄 森の声

坂井美月

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絡み合う赤い糸②

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そして美咲も又、此処で暮らし始めて恭介の瞳が空を追い掛けている事に気が付いていた。
今も、走り去った空の背中を見ている恭介に胸が痛む。
「教授!」
声を掛けると、恭介がハッとした顔をして美咲に視線を向けた。
「魚釣りに行ってたんですか?」
美咲が微笑んで声を掛けると、風太が笑顔で
「恭介、凄いんだぜ!釣れるポイントが分かってるんだよ」
と、興奮しながら叫んだ。
「そんなに釣ったの?」
美咲が笑顔で風太に聞くと、風太は笑顔を浮かべて
「今度は美咲も一緒に行こうぜ!」
って指きりして来た。
そんな美咲と風太を、恭介が穏やかな笑顔を浮かべて見つめている。
「恭介、今度は3人で行こうぜ!」
「そうだな」
風太と話しながら、恭介が優しい笑顔を浮かべている顔を見て、美咲の胸にある不安がどんどんと大きくなっていった。
大学にいる時は常に鉄面皮だった恭介が、此処に来てから穏やかに笑っていて、それは美咲にとっても嬉しい事ではあるけれど、自分の知っている恭介では無いような気がしてしまうのだ。
「藤野君?どうした?」
ぼんやり考え事をしている美咲の顔を、恭介が覗き込んでいた。
「あ!いえ、何でもないです。はい。今度ぜひ、私にも魚釣りを教えて下さい」
美咲は必死に笑顔を作り、恭介と風太に頷いた。
そんな美咲に気付かず、恭介は風太と手を繋いで家の中へと入って行く。
その姿はまるで、親子のようだった。
すると美咲の背中を、座敷童子が引っ張って心配そうに見詰めていた。
「あ!座敷童子ちゃん居たの?風太君、教授と一緒にお家に入ったよ」
笑顔を浮かべて言うと、座敷童子は美咲の頭を撫でて微笑んだ。
「もしかして…慰めてくれてるの?ありがとう」
思わず溢れ出しそうな涙を、必死に堪えて微笑む。
何故、こんなに不安なんだろう?
美咲は、此処で生活してから恭介の背中が、どんどん遠くなっているような感覚に陥っていた。
でも、その度に自分に言い聞かせる。
(大丈夫。まだ、何も決定的になっていない。気のせい…。そう、私の気のせいなんだ)と。
美咲は座敷童子の手を掴み
「さぁ!私たちも戻ろうか?」
そう微笑んで、家の中へと歩き出した。
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