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1ヶ月後――9日目
救世主?
しおりを挟むーー月 ーー日
今日も私は、命令通りに実験を繰り返した。
しかし、こんな研究に意味はあるのだろうか?
我々が研究の末に作り出した、ゾンビ化ウィルスに対する抗体――これ自体の効果は微弱なもので、未だ実用段階には至っていない。
しかし、ある時の実験で この抗体は人体の中で成長することが判明した。人間の体の中を最適な苗床としているのだ。それからだ、この研究所で人体実験が始まったのは。
だが、その結果として抗体は急成長を遂げ、ウィルスへの抵抗力も飛躍的に伸びた。でも、その成長による副作用が抗体を変質させた。
成長させた場所が原因なのか、人体の中でしか安定しなくなってしまったのだ。血中に含まれる抗体を取り出そうと採血した瞬間、死滅してしまうのである。
だから、我々は狂気の実験に着手することを決意した。抗体を人体で成長させ、そこにゾンビ化ウィルスを投与するという実験を……。
ーー月 ーー日
今日で実験による犠牲者が100人を超えた。
だが、やっと光明が差したのだ。
被験者 No.107に植え付けた抗体が、ゾンビ化ウィルスを駆逐することに成功したのだ。未だ安定化には成功していないものの、抗体の取り出しに成功すれば、治療薬を作り出すことが出来る。
それが成功すれば、もうゾンビ化の恐怖に怯えることもなくなる。この世界を元に戻すことが出来るのだ。
――月 ――日
今日、実験装置の故障により、ゾンビ化ウィルスが上階に流出。避難していた人々が大量感染してしまう事態となった。
これを受け、本研究所の破棄を決定。No.107を含む研究成果を、別の研究所へと移行するようにとの通達があった。
自分の手で完成させられないことは歯痒いが、抗体が完全体となるならば結果は同じ。後は同志に託すとしよう。
完成したワクチンが多くの人々を救うことを思い描きながら、一旦、ここで筆を置くことにする。そして、この日記を再開する初めての文章が、明るい未来の出来事であることを願う――
―――*―――*―――*―――
「……この中だな」
重厚なドアの前に立ち、俺は自然と浮かんできた手汗を拭いながら呟いた。
先日の研究所から持ち帰ったデータを解析したところ、あの日記が隠しファイルの中に紛れ込んでいた。俺達は その情報を元に被験者が運ばれた研究所を割り出し、こうして潜入を果たしたのだ。
別段、お堅い研究結果なんかに興味はない。
しかし、それがゾンビ化から人類を救うワクチンともなれば話は別だ。何としても手に入れなければならない代物だろう。
「ボス……いいか?」
「ああ……開けてくれ」
俺の返答に、トニーが無言で頷く。
そして、その丸太の如き太い腕でドアを一気に開け放った。
「……………………ッ」
銃を構えつつ中へと飛び込む。
しかし、今までの研究所とは違い、そこに化け物の姿はなかった。
「何だ……拍子抜けだな」
言葉とは裏腹に安堵の溜め息を吐きつつ、俺はホルスターに銃を戻した。
「ボ、ボス! こっちに来てくれ!」
だが、その直後、トニーが珍しく焦りの声を上げた。反射的に彼へと歩み寄りつつ、その目線を追い掛ける。
「……マジかよ」
結果、俺も同じく困惑に包まれた――
―――*―――*―――*―――
~同時刻、別の場所~
「どうだ? 見えたか?」
「……何かチャラそうなのが立ってるけど?」
双眼鏡を覗きながら、修一に言葉を返す華菜。
見るように促されたから従ってみたが、何も面白いことなどなかった。
「奴が今回の偵察相手だ。血の気の多いグループのリーダーだよ」
「ふうん……大したことなさそうだけど?」
「奴だけなら問題なんてない。でも、群れられたら面倒なんだよ、どんなに雑魚であってもな」
「あっそ……で? アイツ等を どうしろって?」
「今回の任務は人数と武装の正確な把握だ。それでも戦闘は避けられないから俺達に任されたのさ」
誇らしげに胸を張る修一。
そんな彼に冷ややかな視線を向けつつ、手にした双眼鏡を突き返した。
「詳しい作戦は?」
「縦深防御を行うことになってるわ」
「……なにそれ?」
「簡単に言えば、相手を引き付けつつ攻撃すること……かな?」
「逃げ腰で戦えっての?」
「そうじゃなくて……縦深防御って言うのは、本来 相手の前進を鈍らせるのに使う策なの」
「……………………」
「敢えて敵が自分たちの領域に入るのを許しながらも、攻撃を仕掛けながら後退。こちらの領地は奪われるけど、その代わりに相手の戦力も削ぐことが出来るってわけ」
「結局は逃げ腰の作戦じゃん」
敵に背を向けたり、弱腰の行動は華菜の性に合わない。
寂しさを跳ね返すため幼少期に身に付けた勝気さが、今でも前面に押し出されているのだ。
「少数で多数を相手にするには有効な策よ。嫌でも従って」
命令は絶対――と言うより、華菜の身の安全を考えての断言。そう言われては華菜にしても頷くしかないので、ここでの反論はなかった。
「納得できたんなら行くぞ。時間を掛けて役立たずと思われたくない」
こちらは勝手な言い分である修一の言葉。
しかし、突っ掛るほど子供でもないので、華菜は何も言わずに攻撃対象のいる駅前へと向かった。
―――*―――*―――*―――
~十数分後~
「クソッ……何なんだ、アイツ等!!」
激昂した様子の公平。
次の補給作戦について健治と話し合いが終わって戻ってきた矢先のことなので、さすがの雅也も驚きを隠せなかった。
「どうしたんですか? 何かありましたか?」
「どこかの馬鹿が攻撃をしてきやがったのよ! その癖して逃げやがるから、追い掛けたらチョコマカと撃ってきやがって……!!」
「ふむ……なるほどね」
そう返事をしながらも、雅也は違和感を拭いきれなかった。
これが《元の世界》での出来事なら、本当に馬鹿どもが暇に任せてやっていると判ずるところだ。しかし、今は普通の世界ではない。そんなことをする連中など皆無だろう。
(なのに、そんなことをすると言うことは……)
何かの目的があるのは間違いない。
そうなると、この攻撃も考えられたものであるはず。
(追い掛けたところに攻撃……縦深防御策か?)
何かの書物で読んだことがある。
敢えて自陣の領域を相手に明け渡しつつも、その際にチクチクと攻撃を繰り返すのだ。結果、領地を失うことにはなるが、相手の攻撃部隊に被害をもたらすことが出来るのだ。
しかし、縦深防御の要は敵の前進を遅らせることにある。こちらにダメージを与えることが出来るとは言っても、壊滅云々には適さない手法だ。
(わざわざ、そんな策を取るのは……)
こちらを倒すことに執着しないのに、撃ち合うことで得られるメリット――色々と浮かんでは消えていき、その中で一つだけ残った可能性があった。
(偵察か……?)
煽ることで相手の警戒を高め防御を固めさせてしまう危険性はあるが、敵方の戦力を読むのに必要な情報は手に入る。攻撃を仕掛けてきているのが そのための先発隊だとすると、すべてに説明が付いた。
(戦力差が上なら攻め、下か同等なら退却。まあ、理に適ってますか)
雅也からすると遠回りすぎる策だが、確実な勝利を得るには間違ってはいない。まあ、理解できた時点で付き合うつもりはないが。
「……すぐに追撃の人間を退かせてください」
「あん!? こっちから尻尾を巻けってのか!!」
「熱くなれば相手の思う壷です。説明はしますから、とりあえず退がらせてください」
凄む公平の目を真正面から見つめ返して言い放つ。
そんな雅也の姿に何かを納得したのか、公平は少しの間はあったものの素直に無線機を取り出した。
「おいっ、全員 戻れ! 参謀殿の命令だ!」
突然の退却命令にザワつく無線機の向こう側。
しかし、リーダーである公平の言葉は絶対なのか、大人しく了承の言葉が返ってきた。
「俺に恥をかかせんなよ?」
「その時は煮るなり焼くなり好きにしてください」
そう涼しい顔で言うと、雅也は溜まり場になっている駅ビルのオープンカフェへと向かった。
―――*―――*―――*―――
「ふんっ……なるほどな」
「確定ではありませんがね……まあ、間違ってると思ってもいませんが」
事実、攻撃部隊を引き上げさせつつ説明している間、連中の攻撃は止んでいた。愉快犯にしろ襲撃犯にしろ、雅也の読み通りでなければ とっくに攻撃を仕掛けてきているだろう。
「……で? 何か案はあるのかよ?」
「一番 簡単なのは、手出しせずに防御を固めることですね」
「やられるのに任せるってのかよッ?」
「そうじゃありませんよ。相手の目的が偵察であると仮定するなら、無闇に手の内を晒す必要も無いということです」
「それじゃ、どうするってんだ?」
「作戦は単純です。こちらも同じように後退するんです。偵察に来ている以上、我々が不審な動きを見せれば追ってくるでしょう。つまり、相手から姿を晒すことになる訳です。そこを狙います」
「……上手くいくのかよ?」
「少なくとも相手の狙い通りに攻撃を繰り返すよりはね」
保証などは何処にもないが、自信タップリに言い切る。策を練る人間にとって最もしてはいけないのが、自分の考えに疑念を抱く事と、抱かせることだからだ。
「……まあ、いいさ。信じてやるよ」
「ありがとうございます」
「指示は俺が出す。だが、反撃のタイミングはお前が指揮しろよ」
「ええ、そのつもりですよ」
そう返事をしながら、雅也の目は既に先を見つめていた。
―――*―――*―――*―――
「クッ……マズったね」
敵が不自然に撤退を開始したのが二十分ほど前。それを見て、修一が再び縦深防御を行うための誘導作戦として追撃を開始した。
だが、それが奴等の狙いだった。
見通しの悪い小道に入った瞬間、物陰から奇襲されたのだ。突然の出来事に満足な反撃も出来ず、逃走するしかなかった。
(チャラそうに見えたけど、頭の回るのがいるみたいね……)
そんなことを考えながら必死に駆ける。
だが、その時――
「キャッ……!!」
まだ伏兵が居たのか、建物の上階から撃たれた弾丸が小百合の足元を抉る。その衝撃と音に驚いたのか、彼女の足が縺れた。
「小百合ッ……!!」
足を止めて振り返る。
『―――――――――ッ!!』
だが、今度は華菜が狙われる。
殺意は感じられないが、それでも迂闊に動けるものじゃない。
「気にしないで行って!!」
「バカ! 出来るわけないでしょ!!」
そう叫びながら、もう一度 切り込む姿勢を見せる華菜。
『―――――――――ッ!!』
しかし、その瞬間、大きな破裂音が響くと同時に、辺りを濃霧のようや煙が覆う。
それがスモークグレネードだと理解した時には、前方から小百合の気配が消えていた。
「小百合! 小百合ーー!!」
叫ぶが、答える者はいない。
それどころか、あれほど感じていた追っ手の気配さえも消えていた――
―――*―――*―――*―――
駅の裏側――陽の光も届きにくい一角のラブホテルに雅也は入った。
男女が愛を営むための場所であることは、そういった事と縁遠かった雅也にも理解できていた。
(場所は選んで欲しいですね……)
そんなことを考えながら室内に足を踏み入れる。すると、公平の仲間に囲まれた一人の女性が目に映った。
「……………………」
所在無げに、心細い表情で佇む小百合。
そんな彼女の前に、雅也は自ら進み出た。
「これは……思いも寄らない再会ですね」
思わず、そんな言葉が唇から漏れる。
さすがの雅也も予測できることではなかった。
「あ、アナタは……!!」
雅也の姿を認め、小百合も驚きの表情を浮かべる。その姿が、逆に雅也の心を落ち着かせた。
「何だよ、知り合いか?」
「知り合いというほど親しくはありませんがね。まあ、顔見知りではありますよ」
隠すことなく教える。
変に隠し立てて、痛くない腹を探られるのは気に食わないからだ。
「しかし、アナタが相手だったとはね……と言うことは、命じたのは井川ですね?」
「……………………」
雅也の問いかけに黙り込む小百合。
だが、その沈黙が何よりの肯定だった。
「まさかとは思いますが、基地への襲撃もアナタ方が?」
「……………………」
またしても沈黙。
それが肯定と同義であるのも変わらないだろう。
「あんな狂った真似を認めるとはね……」
「私は あんなこと……!!」
激昂したように声を荒げる小百合。
しかし、それも一瞬のこと。看過した時点で同じ事と思ったのか、悲しげに目を伏せた。
「まあ、それをどうこう言う気はありませんよ。安心してください」
元から韮澤たちに対する仲間意識など希薄だった雅也だ。井川たちの取った手段を非難する気などなかった。
「なあ……いい加減に説明してくれねえか?」
話が見えないために苛立ったのか、公平が説明を求めてくる。そんな彼に対し、手短に井川の組織の事と基地でのことを話した。
「マジかよ……イカれた連中だな」
「ええ……しかも、そんな連中が結構な規模になったみたいですね」
「何で、そんなことが分かる?」
「彼等が拠点にしていた学校は、ここから それなりの距離があります。なのに、私達のところまで偵察に来たということは、近くに敵がいないということになりますからね」
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「なるほど……まあ、道理ですね」
「そうと決まれば、その姉ちゃんにも用はねえ。さっさとズラかるか」
決めれば行動は早い。
《彼》とは違うリーダーシップに、雅也は自然と笑みを浮かべていた。
「雅也、お前はどうする?」
「この街を離れるというなら、僕は抜けさせて頂きますよ。《探し物》が見つかっていないですからね」
「……そうか。んじゃ、達者でな」
「ええ、そちらもね」
あまりにアッサリとした別れ。
だが、それでいい。惜しむような間柄など、この世界では手に余るものなのだから。
「じゃあな、死ぬんじゃねえぞ!」
その言葉を最後に、公平と仲間達は去っていった。
自然、部屋の中には雅也と小百合だけが残された。
「さて……アナタも自由にしていいですよ。僕も行きますから」
そう言うと、雅也は何の感慨もなく部屋を後にしようとした。
「ち、ちょっと待って……!!」
焦ったように呼び止める小百合。
そんな彼女に、雅也は顔だけを向けた。
「華菜が……華菜が私達と一緒にいるの。ちょっとした理由があって、井川の言いなりにさせられてるのよッ」
「ちょっとした理由?」
訝しげな表情を浮かべた雅也に、小百合は耕太のことを説明した。
「なるほど……あの少年がね」
これで基地に帰還しなかった理由に合点がいった。まあ、今更 雅也には関係の無いことだが。
(でも、探っておく必要はありそうですね……)
まだ《彼》が街にいるとした場合、井川のグループは最大の敵になる。その中に華菜までが取り込まれたとなれば尚更だ。
「どうやら、《探し物》は後回しになりそうですね……」
「えっ、それって――」
「では、これで失礼しますよ。アナタの武器はカウンターに置いてありますから、ご安心ください」
小百合の言葉を遮るように声を張ると、雅也は振り返ることなく部屋を後にした。もう、彼女にも此処にも用はなかった――
―――*―――*―――*―――
「……………………」
「……………………」
「…………♪♪ …………🎵」
「……………………」
「……………………」
「チョコ~.♪ ン~マイ♪♪」
手渡したチョコを嬉しそうに、そして美味しそうに頬張る少女。
その姿は何処にでも居そうな感じだが、彼女が普通の少女ではないことを俺達は知っていた。
「107……間違いないんだよな?」
「ああ……多分な」
少女の服――その胸元に取り付けられたプレート。
そこには、間違いなく107と書かれていた。つまり、あの日記に書かれていた《抗体》の持ち主が彼女なのだ。
もちろん、プレートの番号だけを便りに確信しているのではない。それ以外の理由もあるのだ。
と言うのも、俺達が少女を発見した時、部屋には彼女しかいなかった。誰かに面倒を見てもらっていたのかと思ったが、部屋の端末を調べてみると、一週間も前から人気がなかったことが確認できたのだ。
人の出入りもない、食料の備蓄もない――そんな状況下で、彼女は大して衰弱することもなく生き延びていたのである。
(これも、抗体の効力なのか?)
だとするなら、相当に強力である。
逆を言えば、そうしなければならないほど、ウィルスが強毒性だということでもあるが。
「……………………♪♪」
「……………………」
「……………………ッ」
「……………………?」
「チョコ…………なくなっちゃった……」
「……………………ほれ」
「……………………ッ」
「……………………」
「チョコ~♪♪ ン~マイ♬♬」
「……………………」
「……フフッ、さすがのボスも形無しだな」
「小さい子の相手なんて、ガキの頃の華菜ぐらいだからな……もう覚えてねえよ」
「ハハハ、そうだったのか」
戸惑う俺の姿に笑みを深めるトニー。
そんな彼に、俺は憮然とした表情を浮かべるしかなかった。
と、そこへ――
「……………………」
チョコを食べ終えたのか、いつの間にか女の子がトニーの傍らに立っていた。
「ん、どうした? まだ欲しいのか?」
(プルプル……)
トニーの言葉に首を横に振る女の子。
そのまま、何も言わずにトニーを見詰める。
「……ああ、そういう事か」
何かを納得したように頷くトニー。
そして、次の瞬間、彼は女の子を抱き上げた。
「ちゃんと掴まってるんだぞ」
「……………………♪♪」
言いながら少女を抱えるトニーの姿は、何故か堂に入っていた。
「……慣れてるんだな?」
「ん? ああ……これでも結婚していてな。同じ年頃の娘がいたんだ」
「へえ、そうだったのか」
自分で聞いておきながら、無難な返事で済ませる。
すべてを過去形で語る人物を前に、余計な言葉を掛ける気にはならなかったからだ。
「んじゃ、その子の相手はトニーで決まりな。俺はルート開拓の話し合いをしてくるからさ」
「おいおい……」
「反論は禁止……って言うか、それじゃ無理だろ」
笑みを浮かべながら、トニーに抱き着く女のコを指さす。華菜じゃないが、離してなるものかという意志が感じられた。
「むう……仕方ないか」
「おう、頼んだぜ」
手を振りながら言うと、俺は作戦を練るために隣の一軒家へと移った――
―――*―――*―――*―――
「……………………」
4WDの車が山道を全然と進んでいく。
それでも殺し切れない凹凸の振動に身を揺らしながら、公平は何気なく窓の外へと視線を向けていた。
(次の拠点か……)
果たして、そこに安寧はあるのだろうか?
そもそも、この日本は どうなっているのか?
埒もない考えが浮かんでは消えていく。
しかし、それは突然 止むことになった。
『―――――――――ッ!!!』
車の急停止による衝撃で。
「何だッ! どうした!?」
「いや、前の車が急に止まったからよ……」
言いながら運転していた男が前方を指さす。
見てみれば、確かに前を走っていた車が若干 斜めになって止まっていた。
「チッ……」
舌打ちをしながら車を降りる。
そして、小走りで運転席に駆け寄った。
「おい、何をして――ッ!!」
説教口調で声を荒げた公平だったが、その言葉は途中で飲み飲まれた。
何故なら、運転していた仲間が頭を撃ち抜かれて絶命していたからだ。
「……どういうことだ?」
辺りを見渡しながら呟く。
その瞬間――
『―――――――――ッ!!!』
いきなり響き渡った銃声。
同時に、集まっていた仲間達が次々と倒れていく。
公平も例外ではなく、足を撃ち抜かれて膝を着いた。
「……………………」
すると、次の瞬間 木々の間から野戦服に身を包んだ男達が姿を現した。手にしたライフルの銃口からは硝煙が立ち上っている。
「おい、まだ生きてるのがいるぞ」
言いながら1人の男が公平に駆け寄る。
そして、何の感慨もなさそうに銃口を眉間に突きつけてきた。
「クッ……テメェ等、何者だ? 何で、こんな事を……」
「……この先に行かせられないだけだ」
それだけを言うと、男はトリガーに指を掛ける。瞬間、男の背中越しに次の街へと続く道が見えた。
(あと少しじゃねえかよ……)
そんなことを心の中で呟きながら、公平は ゆっくりと目を閉じた――
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