婚約破棄されたので運命の人募集中です

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4.弟は心配性

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ディアナは本が好きだった。
物語のような恋や冒険をしてみたい。夜眠る前は、そんな妄想を常にしていた。

話の中の恋人たちは、お互いを運命の人だと信じあっている。それはキラキラと輝いており、ディアナに夢を見させてくれた。
物語に登場する冒険家は世界中を巡って財宝を見つけたり、ときには恐ろしいドラゴンと戦ったりして成長していった。

(なんてドラマチックなの!)

ディアナは本を読むたびに興奮を覚えた。
それとともに、いかに自分が狭い世界を生きているのかを実感させられた。

全てに縛り付けられている生活。

行動的なディアナには合っていないことは、自分が一番理解していた。
部屋で人形遊びをしたり、可愛らしい洋服で着飾ったりするよりも、外に出て見たことのないものを見てみたいと常日頃から思っていたのだから。





「あのクソ王子、絶対許せねえ」

「まあまあ。落ち着きなさい、ナイン」

会場から去り、馬車で家に戻ってきたときに一番鼻息を荒くしているのは弟のナインだった。

(美形が台無しね)

くすりと笑いながら、憤怒に顔を赤らめる弟を微笑ましく眺めた。
普段は優等生で柔らかな雰囲気を纏っているナインだが、ある一定まで怒りが振り切れると非常に口が悪くなる。それはディアナだけが知っていることだった。

「姉様はあんな風にされて許せるんですか?」

不快感を滲ませながらも、いつも通りの敬語口調で言った。柔らかなアッシュグレーの髪をくしゃりと掻き上げ、ヘーゼルの瞳をディアナに向けてくる。

「もう、慣れちゃったし。それに覚悟はしてたから」

ディアナは平然と言い放った。ナインは苦渋を滲ませなような表情で「くそ」と呟き、近くの壁を殴った。そんな行動をしてもナインは絵になる。

ディアナとナインの容姿は全く似ていない。それもそのはず、二人は血の繋がらない姉弟なのだから。

柔らかな美形であるナインに比べ、ディアナの容姿はキツイ印象だった。闇を溶かしたかのような漆黒の髪に、ルビーの様な赤目。はっきりとした顔立ちは見るものを圧倒させる美人といったところか。
だがディアナは、どんなに美しいと言われようとも自分の容姿が嫌いだった。

何故なら、この国において異端の者だと一目で分かってしまうから。

幼い頃に死別した母親は異国の出だった。バルザレッティ伯爵は母に一目惚れし、この国へと連れてきたそうだ。だがディアナを産んだあと病によって亡くなってしまい、その後妻としてナインの母がやってきたというわけだ。そのときには既にナインは5歳となっており、彼はいわゆる連れ子というやつだった。

「ねぇ、ナイン」

「なんですか?姉様」

16歳となったナインは既にディアナの背を追い越している。彼はヘーゼルの瞳を義姉へと向けた。

「私、運命の人を探しに行きたいの」

「…………は?何を言って……」

ナインは困惑した表情でディアナを見つめる。

(いきなりこんなこと言われて「はいそうですか」と返せる人なんているはずないわよね)

ディアナは自身の発言を鼻で笑いながら、心の底で思っていたことをぶちまける事にした。

「18にもなって夢見がちな事は十分理解してる。でもね、こんな狭い世界にいたんじゃ運命の人に出会うことなんて出来ないと思う」

「……」

「だからね、自分の足で探しにいく必要があるんじゃないかと思ったのよ。幸いこの家はナインが継いでくれるし、私は王子との結婚を破棄された身。正直、この屋敷にとって不必要な人間とも言える。だからね私、旅に出たいのよ。そこで運命の人を見つけたいの!」

ディアナは身振り手振りを交えながら、心のうちを語った。演説をする様に感情を込めて高らかに。
そんな彼女を前にしてナインはあんぐりと口を開け、唖然とした表情で義姉を見つめた。

(まぁそうなるわよね)

自分が貴族令嬢としてレールから外れていることを言っている事は重々理解している。かと言って、このまま屋敷に閉じこもる生活を続けていても人生を無駄にするだけなのだ。それならばいっそ、他の貴族令嬢が成し遂げたことのない様なことをしてみたいと思った。

(こんなことをずっと考えていたって知ったら、ナインもダニエルでさえも驚くでしょうね)

一人でニマニマとほくそ笑みたいところだが、ディアナは目の前の弟の表情を見て、それはやめておいた方がいいと一瞬で判断した。

「姉様。一体、何をおっしゃっているのですか?」

ナインは菩薩の様に悟った表情を浮かべている。これは、非常にまずい。何故なら。




「ありえねえよ!!!」




弟がマジギレする3秒前の顔だから。

ちなみにディアナがここまで本気で怒られたのは、5年前に事故にあったとき以来であった。
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