絶対零度の王女は謀略の貴公子と恋のワルツを踊る

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恋に咲く乙女【ハイリside】

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その日は王城に出入るする人間が一段と多かった。そして王城の中で働く人たちも、いつもの倍以上はせかせかと動いている。

あと、もう数十分で大舞踏会が始まる。

大舞踏会に来る為、国中の貴族達が集まる。
それは王の権力や立場を見せつけるためという他にも思惑がある。
地方から王都へ人を呼ぶことによって、城下町で金を使わせ、景気の巡りを良くするという目的もあるのだ。

ルーシアがそれを知ったのは十五の成人した年の大舞踏会であると、本人の口から言っていた。
それまでは、ただの娯楽的な意味合いの行事だと思っていたらしい。

「ルーシア様。今日のドレスは一段とお似合いでございます」

そう言って私は恐らく赤く染まっているだろう頰に手を当て、うっとりとルーシアを眺めた。

今日のドレスは、ブルーを基調としつつゴールドの刺繍の入ったものだった。オフショルダーで、デコルテラインが美しく見えるように設計されている。
そしてその胸元には、輝かんばかりのブルーサファイアのネックレス。


ーー恋人からのプレゼントらしい。


いつも通りの上品さを兼ね備えつつ、絢爛豪華なドレス。いつの間にか成長した、大人の品を兼ね備えたその美貌。

二つが合わさることにより、まるで芸術品のようだと私は感じていた。
その部分だけ、切り取られたかのように浮世離れしていたからだ。

愛する男が出来た少女は、まるで可憐な蕾が大輪の花を咲かせるか如く、美しく成長した。

その成長した花は、より多くの蝶や虫を集めるだろう。

私は心の中で、アレックスがルーシアへとネックレスを渡した理由をこのように考えていた。

ーーマーキングね、と。

「ハイリ、そろそろ行くのでは?」

「そうでしたわね、では会場までお見送り致します。……いえ違いましたね、会場の前でアレックス様がお待ちということでしたわね」

ハイリはニヤリと、ルーシアを見やった。
しかし、ルーシアは浮かないようすでこちらに視線を向ける。

「…………本当にいいの?」

私はこの言葉の意味をすぐさま悟った。
私はこの今夜、この大舞踏会には出ない。未婚の貴族令嬢は、必ずと言ってもいいほど参加することが義務付けられていうのに。それを心配してのことだろう。

「大丈夫です。なにも心配することはありません」

「それならば……いいけれど」

その美貌は、ちっとも納得していない表情だった。そんなルーシアを私は優しく見つめた。

彼女の恋が叶って本当によかった。


ーーせめて、彼女だけは。


私はそう思いながら、目の前の美しく咲く女を見つめた。

「さぁ、ルーシア様。お時間です」

「ええ……」

ルーシアは何かを言いたいと言わんばかりにこちらの様子を伺っている。
私はいつも通りの笑顔を浮かべ、彼女を安心させようとした。

「……ハイリ」

「……?」

「あなた、何か私に言いたいことがあるのではないの?」

ルーシアは鋭い。
あの悪烈な大人たちに揉まれて育ったわけだ。
素直にそう思った。

直感という勘の良さに加え、類稀なる純粋な心も持ち合わせている。
だからこそ、十年も前に一度だけあった人を恋い慕い続けていられたのだ。

(羨ましいわ)

正直に言えばずっと、そう思い続けていた。美しい容姿に加え、王女という立場、聡明でありながらよ純粋な心。どれもハイリはまったくもって及ばない。女として尊敬とともに、嫉妬も覚えているのは確かだ。

けれどそれ以上に、ルーシアを妹のように慕っていた。
彼女は王女という立場でありながら、私に自分の心を曝け出してくれた。
それがたとえ、頼る者がいなくなって心が疲れ果てており、たまたま近くにいたものがハイリだったからだとしても。

自分は彼女に選ばれたんだ。

そう思うだけで、これから生きていこうと思えるのだ。

だからどうか。あともう少しの間だけでも。
その刻が来るまで、あなたの幸せな姿を近くで見続けさせてほしい。


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