絶対零度の王女は謀略の貴公子と恋のワルツを踊る

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舞踏会の後の【アレックスside】 *

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公爵家の屋敷の一室にベッドの軋む音、そして肉と肉とがぶつかる音が響き渡っていた。ぐちゅぐちゅと、男と女の接合部分からは卑猥な水音が響き渡る。二人の息遣いからは、すでに限界が近いということが見て伺えた。

「はぁあん、んっんんんーーーー!!!!」

女は俺の欲望によって限界まで達し、全身を痙攣させて髪を振り乱す。そしていっきに力が抜けたかと思えば、気を失った。
俺はそれを蜜壷からさっと抜き、自らの手で擦り上げる。そして白濁した液を、気を失っている女の腹にかけた。
その行為が終わるとガウンを羽織り、隣室まで移動する。

俺は毎夜見知らぬ女と深く絡み合う。それはいつものことで、相手が夫人のこともあれば今日のように令嬢の時もあった。

俺は女が寝ている隣室にて、ワインを片手に一人晩酌をする。
チェアに座り月を見ながら、本日行われた舞踏会での出来事を思い返した。

初めて話した我が国の王女。見れば見るほど美しく、近くによればまるで芸術品のように麗しかった。
白い滑らかな肌と漆黒の髪の色のコントラストが男心をくすぐらせ、その真っ赤な小さい唇を塞いでしまいたい衝動に駆られるほどだ。
ただそれは造形だけのことに過ぎない。どんなに美しくても、可愛げのない女は願い下げだ。

ーー実際目が合うまでは、そう思っていた。

初めて王女のブルーサファイアの瞳と目ががあった時、何故か俺の心臓はドクリと音を立てた。そして、景色が一瞬止まったように息が苦しくなったのだ。
彼女が目を逸らしたことで我に返ったが、あんな気分になったのは久しぶりであった。
ーーそう、あの十年前の日以来。

十年前、家の都合で行った家族のサロンにて一人の少女と出会った。彼女はそのサロンの子供たちの中でも最年少だと思われるほど小さかったが、瞳はまるでこの世の全てを見通す力を秘めているかのようだった。……あの王女と同じように。

昔のことで顔は全く思い出せないが、確かに瞳はそっくりだった。
王女があんなサロンに来るはずなんてないと分かっていただけに、こんなことを考えてるなんて馬鹿馬鹿しい。それでも何故か考えてしまう。ジレンマだ。
だが、あの少女は黒髪ではなかった。
完全に人違いだろう。

十年前出会った少女は、何か悩みを抱えているような様子で自信のない表情をしていた。だから、なにを悩んでいるのか好奇心ありきで聞いてみたのだ。
すると彼女は俺に、悩みを打ち明けてきた。見ず知らずの他人の方が話しやすいと考えたのだろう。それは真剣なものだと分かったので、俺もどうにかして解決してやりたいと思った。そうして出た言葉というものは、

「君が、どう生きるのかが問題なんだ」
「君は今のままでも十分魅力的だよ」

などとありきたりで面白みもないものだった。当時は俺もまだ十二歳であったのだから仕方がないだろうとは思うが、もう少しうまいことが言えなかっただろうかとあとになって後悔したものだ。

だがその少女は、安心したように笑ってくれたのだ。その笑顔はとてもとても綺麗で、何故か心臓がドクリと音を立てたのだ。

今回の舞踏会でも、そのときと同じような心地になった。だがそれは、簡単に脆く崩れることとなる。

(あの王女、簡単に俺と〝友人〟になってくれるなんて、意外と簡単に落とせるかもしれないな)

〝絶対零度の王女〟は〝難攻不落〟としても有名で、簡単には近づけないと思っていた。しかしその防壁は、たとえ〝友人〟だとしても意外とあっさり呆気なく崩れ落ちた。

(〝難攻不落〟もたかが知れてるな)

王女殿下が、俺と友人になると承諾したとき、正直期待外れに思った。それは軽蔑の感情に形を変え、この王女もやっぱり女なんだと、そう感じた。

(でもまあいい。ゲームは過程。俺は、ハリソンの手記の原本が手に入れさえいれば)

俺は口元をニヤリと緩めながら、窓の向こうにある輝く月を肴にワインを口に含んだ。

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