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折鶴の味
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もちろん、これは大成の思い違いである。
旺仁郎はうっかり大成の気の籠った鶴を食べ、彼の指を口に入れてしまった事で、激しく食欲を刺激されただけであった。
しかし、一度そのように考えつくと、さっき「食べるのを見ていていいか」と聞かれたことも辻褄があうなと、大成は考えていた。
「あらあら、瀧川さんとこの……」
突然、声をかけられた。「妾の子」と続きそうなところで言葉を区切ったその女性は、組合にも参加している有力家系の奥方だった。二人組だが両方ともだ。
彼女たちはびらびらと飾りのついた派手な日傘をそろって指して、上等そうな服とバッグを身につけていた。
「こんにちは」
大成はそう言って愛想よく微笑む。そうしていれば、大抵の面倒ごとは自分の脇を上手い具合にすり抜けていくと知っていた。
「今日は主人も息子も会合にでかけていったけれど、あなたは参加されなかったの?」
「いえ、俺は……はい、参加しません」
最近では恋愛結婚も多いようだが、この世代有力家系に嫁いでくるのは、親が決めたお見合いを受け入れた世間知らずのお嬢様だ。蝶よ花よと育てられ、空気なんて読まなくても、周りがにこにこ合わせてくれたのだろう。
「ああ、そう。やはり、お母様のこともあるものね。あなたも、色々気を遣って大変でしょう?」
「でも、お父様はあなたが来てくれて助かってると思うわよ。ほら、二番目のお兄様もなかなか鐘楼に出ていくわけにもいかなくなったし」
大成は、自分が今になって瀧川に呼ばれた理由を理解していた。本来であれば後継を残すのは長男だけで、次男以降は妖の捕縛討滅に駆り出される。
しかし、二番目の兄は密かに恋仲だった同じく有力家系の御息女を婚姻前に妊娠させてしまい。慌てて籍を入れる運びとなったのだ。
そして、生まれた子供は異能持ち。後継を作った次男をそう易々と妖のもとに送り出すわけにもいかなくなった瀧川は、体裁を守るため腹違いの三男を呼び寄せ差し出したという具合である。
大成は2人の奥方の話にただただにこりと相槌だけをうっていた。
彼女たちは悪気があったり、大成を傷つける目的があるわけでもないことはわかっている。しかし、去り際少し離れた位置で聞こえるか聞こえないかの声音で
「不憫よね、お兄様の粗相のいわば尻拭いでしょう?」
「けれど、彼のお陰で母親は多額の援助を受けてるらしいわよ。なんて、親孝行なのかしら」
と、そう聞こえた時は、うんざりした。
「あれじゃ、お袋が俺を金で売ったみたいじゃないか。ひどい言い方だな。なぁ、お前もそう思うだろ?」
大成は冗談まじりにそう言って、妖狐の袋を覗き込んだ。途中までは、旺仁郎に向けて言っていたのだが、違うなと思ってから誤魔化すように妖狐に言った。
旺仁郎はいつも通り特に何も言わず、表情も変えないまま袋の上から妖狐の尻を撫でている。
館に着いて、庭先に苗と土をどさりと下ろす。
「じゃあ、俺は荷車返しに行ってくるよ」
大成がそう告げると旺仁郎は少し躊躇った様子を見せたが、すぐに深々と頭を下げた。
「ああ、それから。帰り寄るところがあるから、遅くなる。夕飯、いらない」
それだけ伝えて、大成は空の荷車を引いて門扉を出た。
本当は寄るところも特になければ用事もない。大成はこの日暇だったのだ。気が済むまでベッドで眠って、朝か昼かわからない食事をとり、やたらと天気のいい庭先でカカシと狸を眺め、鶴を飛ばしてからかって遊んでいた。苗を買って大福を食べたところまでは、悪くない休日だと思っていたのだ。
しかしいとも簡単に、人の言葉で気持ちが沈んでいく。自分で思っているよりもずっと、ぎりぎりの位置で保っていたのかもしれない。
荷車を返し、館と離れた方向に足を進めた。水音を聞きながら川沿いを歩き、葉桜の下に腰を下ろす。
ここならば会合帰りの蓮や宗鷹に出会すこともないだろう。どうにも今日は彼らと食卓を囲む気にはなれない。
大成の周りに悪人は居なかった。
母は瀧川の父のことを「当時は愛してたんだけどね、まあ、今となっては」と非常にあけすけに話していた。恨みも強い情もなく、ただ思い出話をするように。
しかし、幼い大成を膝に乗せ抱きしめながら、「あなたがここにいることだけは、あの人に感謝しなきゃね」と、何度も何度も言っていた。
母は末端家系の末娘で、瀧川の家には使用人として支えていた。だから、瀧川の父は大成に異能があるとはあまり考えていなかったらしく、二番目の兄のことがあってからようやく縋るように、母の元へ遣いを出したのだ。
母は最初、大成の異能について瀧川に語らなかった。しかし、大成が普通の人間の中で暮らしながら、長らく自分の異能について思い悩み、窮屈さを感じていることに気がついていた。
だから、どうしたいのか自分で決めなさいと、最終的には大成に委ねたのだ。
瀧川の父は折目正しく大成を迎え、兄は(特に次男は)何か申し訳なさそうな態度であった。
義母だけは終始何か含みのある態度ではあったが、彼女の心情を察すれば無理もない。それに、必要な時はきちんと話をしたし、他の息子2人とほぼ同等の水準の生活を保ってくれた。
自らそこに入ることを望んだ大成は務めて明るく振る舞った。不幸そうにするのは気に入らない、というかまったく不幸ではなかった。
異能の中にはやく馴染もうと、異母兄2人と同様に、玄田家、宇井家のご子息を、宗くん、蓮ちゃんとまるで旧知の仲かのように呼んだ。
ほとんどのことが問題なく進んでいる。誰にも傷つけられていないし、誰のことも傷つけていないはずだ。
だけど、時々、近しくもない人の言葉で唐突に不安になるのだ。今日のように。もしかして、気がついていないだけで、自分は可哀想なのか、と。
川原で夕暮れまで過ごし、その後はふらふらと買う気もないのに幾つかの商店を歩き回る。
こんな日に限って、鐘楼は静かなままだった。
もう限界かと言うところまで時間を潰し、どっぷりと日の沈んだ道をざりざりと靴底を鳴らしながら館に帰った。
玄関を潜る前に、先に庭先に回り込む。リビングの電気は消えていた。宗鷹と蓮、それぞれの部屋の灯りは灯っているのでおそらく夕飯を済ませ、もう部屋に籠っているのだろう。
キッチンから微かに漏れる灯りを頼りに、大成は畑に近づいた。
昼間買った苗がそれぞれ植っている。まだ、この地に馴染んでいないような、そんな様子の小さな苗が少しだけ自分と重なると思った後で、なに感傷的になっているんだ気持ち悪いと自嘲した。
すると、背後でガチャリと音が鳴った。振り返ると、勝手口から旺仁郎がこちらを覗き込んでいる。足元には相変わらず妖狐がベッタリまとわりついていた。
目が合うと旺仁郎はまた、人差し指と中指を揃えて口元でくるくると回して見せた。夕飯はいらないといったもののちょうどそこで腹の虫が鳴いたので、大成は少し気まずく頷いた。
キッチンに入ると、旺仁郎は既に鍋を一つ火にかけていた。何か即席で用意するつもりようだった。
ここのところ大成は、腹が減っている時にキッチンに立つ旺仁郎の背中を見ると、期待感を膨らませている自分に気がついていた。多分「胃袋を掴まれている」というのは、これのことではないかと思っている。
そして、香辛料の香りを漂わせながら、どんぶりが一つ、大成の前に並べられた。
「ん、予想外だ。ラーメン?」
懐かしい香りがした。そういえば最近食べていなかった。
『ご飯、無くなったから』
箸とレンゲを並べ、麦茶を継いだ旺仁郎は手元のメモにそう書いた。ラーメンの上にはひき肉と豆腐、とろみがかったそれは、おそらく麻婆豆腐だ。今日の夕飯だったのだろう。空きっ腹には毒なほど、良い匂いがしている。
「いただきます」
蓮華で汁を掬い、一口飲んでから餡と絡むようにごっそりと麺を箸に取り一気に口に吸い込んだ。
「うめぇ」
このインスタント感満載の縮れ麺がたまらない。四川風の辛い餡ともよく合っている。大成は息を吐いた。
二口、三口と食べ進めていると、旺仁郎が小皿に細かく刻んだザーサイを盛り、そして瓶ごとお酢を出した。
「あー、なるほど、絶対美味いなそれ」
大成はどんぶりに、ザーサイを放り込み、じゃぶじゃぶとお酢を掛け回した。
「ぐぅ。美味い。お前も食えよ、すげぇ美味いよ。一緒に食べよう」
旺仁郎はまた首を振るかと思ったが、少し考えるような仕草の後、食器棚から小皿と箸を手に取って、大成の正面の席についた。
ぐいと大成がどんぶりを差し出すと、旺仁郎は箸で突くように麺を数本引っ張り出して小皿に乗せる。
それで皿を下げようとするから、大成は自分の蓮華で餡を掬い、小皿の上にほれと乗せてやった。
口を微かに開き、辿るように麺を吸い込む旺仁郎を大成は観察するように見ていた。小動物に餌をやっているような気分だ。
全てを口に入れたことを確認してから
「美味いだろ?」
と聞くと、旺仁郎はそこで初めて大成の視線に気がついたようだ。口元を押さえ、顔を真っ赤にしてからこくりと頷いている。
つられて大成も自分の顔に熱が昇るのを感じたが、ラーメンが熱いせいだと誤魔化すべく、麺を啜った。そしてぐびぐびと麦茶を流し込みながら
「(やっぱりこいつ、俺のこと好きなのかな?)」
などと、見当違いのことを考えていたのであった。
八百万町妖奇譚
ー折鶴の味ー
旺仁郎はうっかり大成の気の籠った鶴を食べ、彼の指を口に入れてしまった事で、激しく食欲を刺激されただけであった。
しかし、一度そのように考えつくと、さっき「食べるのを見ていていいか」と聞かれたことも辻褄があうなと、大成は考えていた。
「あらあら、瀧川さんとこの……」
突然、声をかけられた。「妾の子」と続きそうなところで言葉を区切ったその女性は、組合にも参加している有力家系の奥方だった。二人組だが両方ともだ。
彼女たちはびらびらと飾りのついた派手な日傘をそろって指して、上等そうな服とバッグを身につけていた。
「こんにちは」
大成はそう言って愛想よく微笑む。そうしていれば、大抵の面倒ごとは自分の脇を上手い具合にすり抜けていくと知っていた。
「今日は主人も息子も会合にでかけていったけれど、あなたは参加されなかったの?」
「いえ、俺は……はい、参加しません」
最近では恋愛結婚も多いようだが、この世代有力家系に嫁いでくるのは、親が決めたお見合いを受け入れた世間知らずのお嬢様だ。蝶よ花よと育てられ、空気なんて読まなくても、周りがにこにこ合わせてくれたのだろう。
「ああ、そう。やはり、お母様のこともあるものね。あなたも、色々気を遣って大変でしょう?」
「でも、お父様はあなたが来てくれて助かってると思うわよ。ほら、二番目のお兄様もなかなか鐘楼に出ていくわけにもいかなくなったし」
大成は、自分が今になって瀧川に呼ばれた理由を理解していた。本来であれば後継を残すのは長男だけで、次男以降は妖の捕縛討滅に駆り出される。
しかし、二番目の兄は密かに恋仲だった同じく有力家系の御息女を婚姻前に妊娠させてしまい。慌てて籍を入れる運びとなったのだ。
そして、生まれた子供は異能持ち。後継を作った次男をそう易々と妖のもとに送り出すわけにもいかなくなった瀧川は、体裁を守るため腹違いの三男を呼び寄せ差し出したという具合である。
大成は2人の奥方の話にただただにこりと相槌だけをうっていた。
彼女たちは悪気があったり、大成を傷つける目的があるわけでもないことはわかっている。しかし、去り際少し離れた位置で聞こえるか聞こえないかの声音で
「不憫よね、お兄様の粗相のいわば尻拭いでしょう?」
「けれど、彼のお陰で母親は多額の援助を受けてるらしいわよ。なんて、親孝行なのかしら」
と、そう聞こえた時は、うんざりした。
「あれじゃ、お袋が俺を金で売ったみたいじゃないか。ひどい言い方だな。なぁ、お前もそう思うだろ?」
大成は冗談まじりにそう言って、妖狐の袋を覗き込んだ。途中までは、旺仁郎に向けて言っていたのだが、違うなと思ってから誤魔化すように妖狐に言った。
旺仁郎はいつも通り特に何も言わず、表情も変えないまま袋の上から妖狐の尻を撫でている。
館に着いて、庭先に苗と土をどさりと下ろす。
「じゃあ、俺は荷車返しに行ってくるよ」
大成がそう告げると旺仁郎は少し躊躇った様子を見せたが、すぐに深々と頭を下げた。
「ああ、それから。帰り寄るところがあるから、遅くなる。夕飯、いらない」
それだけ伝えて、大成は空の荷車を引いて門扉を出た。
本当は寄るところも特になければ用事もない。大成はこの日暇だったのだ。気が済むまでベッドで眠って、朝か昼かわからない食事をとり、やたらと天気のいい庭先でカカシと狸を眺め、鶴を飛ばしてからかって遊んでいた。苗を買って大福を食べたところまでは、悪くない休日だと思っていたのだ。
しかしいとも簡単に、人の言葉で気持ちが沈んでいく。自分で思っているよりもずっと、ぎりぎりの位置で保っていたのかもしれない。
荷車を返し、館と離れた方向に足を進めた。水音を聞きながら川沿いを歩き、葉桜の下に腰を下ろす。
ここならば会合帰りの蓮や宗鷹に出会すこともないだろう。どうにも今日は彼らと食卓を囲む気にはなれない。
大成の周りに悪人は居なかった。
母は瀧川の父のことを「当時は愛してたんだけどね、まあ、今となっては」と非常にあけすけに話していた。恨みも強い情もなく、ただ思い出話をするように。
しかし、幼い大成を膝に乗せ抱きしめながら、「あなたがここにいることだけは、あの人に感謝しなきゃね」と、何度も何度も言っていた。
母は末端家系の末娘で、瀧川の家には使用人として支えていた。だから、瀧川の父は大成に異能があるとはあまり考えていなかったらしく、二番目の兄のことがあってからようやく縋るように、母の元へ遣いを出したのだ。
母は最初、大成の異能について瀧川に語らなかった。しかし、大成が普通の人間の中で暮らしながら、長らく自分の異能について思い悩み、窮屈さを感じていることに気がついていた。
だから、どうしたいのか自分で決めなさいと、最終的には大成に委ねたのだ。
瀧川の父は折目正しく大成を迎え、兄は(特に次男は)何か申し訳なさそうな態度であった。
義母だけは終始何か含みのある態度ではあったが、彼女の心情を察すれば無理もない。それに、必要な時はきちんと話をしたし、他の息子2人とほぼ同等の水準の生活を保ってくれた。
自らそこに入ることを望んだ大成は務めて明るく振る舞った。不幸そうにするのは気に入らない、というかまったく不幸ではなかった。
異能の中にはやく馴染もうと、異母兄2人と同様に、玄田家、宇井家のご子息を、宗くん、蓮ちゃんとまるで旧知の仲かのように呼んだ。
ほとんどのことが問題なく進んでいる。誰にも傷つけられていないし、誰のことも傷つけていないはずだ。
だけど、時々、近しくもない人の言葉で唐突に不安になるのだ。今日のように。もしかして、気がついていないだけで、自分は可哀想なのか、と。
川原で夕暮れまで過ごし、その後はふらふらと買う気もないのに幾つかの商店を歩き回る。
こんな日に限って、鐘楼は静かなままだった。
もう限界かと言うところまで時間を潰し、どっぷりと日の沈んだ道をざりざりと靴底を鳴らしながら館に帰った。
玄関を潜る前に、先に庭先に回り込む。リビングの電気は消えていた。宗鷹と蓮、それぞれの部屋の灯りは灯っているのでおそらく夕飯を済ませ、もう部屋に籠っているのだろう。
キッチンから微かに漏れる灯りを頼りに、大成は畑に近づいた。
昼間買った苗がそれぞれ植っている。まだ、この地に馴染んでいないような、そんな様子の小さな苗が少しだけ自分と重なると思った後で、なに感傷的になっているんだ気持ち悪いと自嘲した。
すると、背後でガチャリと音が鳴った。振り返ると、勝手口から旺仁郎がこちらを覗き込んでいる。足元には相変わらず妖狐がベッタリまとわりついていた。
目が合うと旺仁郎はまた、人差し指と中指を揃えて口元でくるくると回して見せた。夕飯はいらないといったもののちょうどそこで腹の虫が鳴いたので、大成は少し気まずく頷いた。
キッチンに入ると、旺仁郎は既に鍋を一つ火にかけていた。何か即席で用意するつもりようだった。
ここのところ大成は、腹が減っている時にキッチンに立つ旺仁郎の背中を見ると、期待感を膨らませている自分に気がついていた。多分「胃袋を掴まれている」というのは、これのことではないかと思っている。
そして、香辛料の香りを漂わせながら、どんぶりが一つ、大成の前に並べられた。
「ん、予想外だ。ラーメン?」
懐かしい香りがした。そういえば最近食べていなかった。
『ご飯、無くなったから』
箸とレンゲを並べ、麦茶を継いだ旺仁郎は手元のメモにそう書いた。ラーメンの上にはひき肉と豆腐、とろみがかったそれは、おそらく麻婆豆腐だ。今日の夕飯だったのだろう。空きっ腹には毒なほど、良い匂いがしている。
「いただきます」
蓮華で汁を掬い、一口飲んでから餡と絡むようにごっそりと麺を箸に取り一気に口に吸い込んだ。
「うめぇ」
このインスタント感満載の縮れ麺がたまらない。四川風の辛い餡ともよく合っている。大成は息を吐いた。
二口、三口と食べ進めていると、旺仁郎が小皿に細かく刻んだザーサイを盛り、そして瓶ごとお酢を出した。
「あー、なるほど、絶対美味いなそれ」
大成はどんぶりに、ザーサイを放り込み、じゃぶじゃぶとお酢を掛け回した。
「ぐぅ。美味い。お前も食えよ、すげぇ美味いよ。一緒に食べよう」
旺仁郎はまた首を振るかと思ったが、少し考えるような仕草の後、食器棚から小皿と箸を手に取って、大成の正面の席についた。
ぐいと大成がどんぶりを差し出すと、旺仁郎は箸で突くように麺を数本引っ張り出して小皿に乗せる。
それで皿を下げようとするから、大成は自分の蓮華で餡を掬い、小皿の上にほれと乗せてやった。
口を微かに開き、辿るように麺を吸い込む旺仁郎を大成は観察するように見ていた。小動物に餌をやっているような気分だ。
全てを口に入れたことを確認してから
「美味いだろ?」
と聞くと、旺仁郎はそこで初めて大成の視線に気がついたようだ。口元を押さえ、顔を真っ赤にしてからこくりと頷いている。
つられて大成も自分の顔に熱が昇るのを感じたが、ラーメンが熱いせいだと誤魔化すべく、麺を啜った。そしてぐびぐびと麦茶を流し込みながら
「(やっぱりこいつ、俺のこと好きなのかな?)」
などと、見当違いのことを考えていたのであった。
八百万町妖奇譚
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