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終章─夢の灯火が照らす未来─

ヴァンズブラッド─照らす未来─

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「ちっ……マジでしつけぇんだよ」

 ユグドラシルに縋るシェーレを睨み、ノヒンが吐き捨てるように言う。

「……ってもこれでいいんだよなぁロキィッ!! これでシェーレの存在ごと消せんだよなぁ!?」

 ノヒンの問いかけに、ざわざわとユグドラシルが揺れる。

『くく……よくやった。ここまで弱ればのは容易い。あとはラグナスの拒絶の力でユグドラシルとシェーレの存在を拒絶して孤立。貴様の力で崩壊させれば終いだ』
「約束は守るんだよなぁ? これしか方法はねぇっつぅから従っちゃいるが……」
『これ以外の方法ではどの未来でもシェーレは概念として残ってしまう。元よりユグドラシルの裏の存在……概念でしかなかったシェーレを完全に消すには、ユグドラシルごと崩壊させるしかないということだ。貴様の……ヴァンズブラッドヴァンの血族にしか芽生えなかった力でな。私も色々と試したが、崩壊の力は得られなかった。知っているか? 『ヴァン』は『希望』という意味だと」

 ノヒンが拳を握り、「希望……か」と呟く。

「まあ希望だかなんだか知らねぇが、俺は気に食わねぇ相手を殴るだけだ」
「気に食わないからと言って私を崩壊させてくれるなよ? 私を崩壊させては全てが終わる。貴様の望みは私にしか叶えられん。言っただろう? とな』

 ロキの言葉に、ノヒンが「ちっ」と舌打ちして頭を掻き毟る。それと同時、ノヒンが背後からふわりと抱きしめられた。

「ノ……ヒン……? [ノヒン……だよね?]」

 そこには涙を流して抱きつくジェシカの姿。

「……思い出したのか?」
「ううん……まだぼんやりだけど…… [私が愛した人だってことは分かるよ……]」
「悪ぃ。俺ぁ頭がよくねぇからよ、やり方が分かんなくて……寂しい思いさせちまったな……」

 ノヒンがジェシカの頬に優しく触れ、そのまま唇を重ねる。

「……終わったらゆっくり話そうぜ?」
「うん……待ってる……ね? [ハッピーエンド……見せてね?]」

 ノヒンがジェシカから離れ、シェーレの前に立つ。すでにシェーレの体はユグドラシルに絡め取られ、ズブズブと取り込まれ始めていた。口からは力なく「嫌よぉ……嫌ぁ……」と漏らしている。
 
「最後に確認だロキ。本当にシェーレは消えんだな?」
『そうだ。と言っても、。停滞者としての概念は消え去るが、どこかで。それが善となるか悪となるかは分からん』
「相変わらず意味分かんねぇ。まあけどよ、いい方向には向かうんだよな?」
『善し悪しは視点によって変わる。まあだが、広がる世界は自由に進化する。その中で悪も生まれれば善も生まれる。世界とは本来そういったものだろう? それを否定するというのならば、貴様も停滞者とさして変わらん。せめて困難に立ち向かい、抗う意思を持つ世界を望め』
「ちっ、まあ糞どもが現れるってんなら俺が全部ぶっ潰してやる。んで? 団の奴らが元に戻るってのも本当なんだよな?」
『ラグナスの持つD.ディーユグドラシルを喰えば可能だ。あれには騎士団の連中のデータが残るのでな。ジアースを統合すれば自然と魂も回収される。と言っても、もはやこの先のユグドラシル──私は、無限に魂の総量を増やす。わざわざ崩壊していくジアースを統合しなくともよいのだがな?』
「魂に人格が宿らねぇって言ってもよ、元あったやつを使ってやりてぇだろ? それにやっぱよ、魂に人格宿るって考えの方が俺は好きだ」
『くく……もしかすればこの先の世界はそうなるかもしれんな? ……とまあ長々と話していても仕方ない。始めるとするか』

 ロキがそう言うと、シェーレの体が完全にユグドラシルへと取り込まれた。それに合わせるように、空の裂け目からはラグナスが現れる。

「よぉ、遅かったじゃねぇか」
「少しジアースを見ていたんだ。私がめちゃくちゃにした……な」
「分かってんじゃねぇかよ。まあけどよ、これからのおめぇに出来ることはなんだ?」

 ノヒンのその言葉に、「償い……だ」とラグナスが呟き、悲しい顔を見せる。だがすぐさま力強い表情となり、ノヒンをしっかりと見据える。

「やることは分かっているなノヒン」
「ああ。おめぇがユグドラシルとシェーレを拒絶の力で孤立させんだろ?」
「そうだ。その後はソラトが君に干渉し、崩壊の力を導いてくれる。無事ユグドラシルとシェーレが消滅すれば、ロキが新たなユグドラシルとして世界を広げことになる。すでに誕生を待つ無数の罪なき魂を救うにはこれしかない。後は任せたノヒン」

 そう言ってユグドラシルへ向かうラグナスを、「待てよ」とノヒンが止める。

「『後はまかせた』ってのはなんだよ。また会えんだよな? 決着つけてねぇぜ?」
「ああ。君とは決着をつけなければならないな」
「絶てぇだぞ? 俺はおめぇを許した訳じゃねぇ」
「分かっている」

 そう言いながらラグナスがノヒンを抱きしめ、「分かっているさ」と再び呟いた。そうしてしばらくの静寂が訪れ──

 ラグナスは静かにノヒンから離れ、ユグドラシルから伸びた枝葉に包まれるようにして──

 その身を取り込まれた。

「ちっ……なんだかしんみりしちまったな」

 言いながらノヒンが拳を構える。気付けばノヒンの傍らにはソラトがいて、「あなたはまっすぐ拳を振り抜いてください。それでひとまずはこの物語は終わりです」と口にする。

「はん! これで物語が終わりだぁ? んなわけあるかよ! 続くんだよ! どんだけ理不尽で辛くてもよぉ……人生ってやつは続くんだ! これからも俺は気に食わねぇやつはぶっ飛ばす! まずはラグナスだ! とりあえずこれが終わったらラグナスをぶん殴る! それで……それでよぉ……」

 ノヒンの目から涙が溢れる。理由は分からないが、ラグナスとはもう会えない。そんな気がしていた。

「ちっ……最後の最後くれぇ……」

 「嘘つくんじゃねぇぞラグナスッ!!」と、ノヒンがユグドラシルへ向けて拳を振り抜く。

 それと同時、目を開けることも叶わないほどにユグドラシルが光り輝き──







 ──気付けばノヒンは、初めてラグナスと会ったルタイ平野にいた。

 
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