226 / 229
終章─夢の灯火が照らす未来─
ヴァンズブラッド─黒と白の英雄─
しおりを挟む「簡単には殺さないわよ?」
シェーレはそう言うと、強烈な蹴り上げでノヒンを空中へと吹き飛ばした。ノヒンは蹴られる瞬間に両腕でガードしたのだが……
ガードした腕が跡形もなく弾け飛び、地上へと血の雨を降らせる。
すぐさまノヒンが腕を再生するが、もはや瞬間移動のようにシェーレが背後に現れ、背中を殴られて背骨が粉砕。そのまま地面へと激突して全身の骨が砕ける。
バキバキと骨を補強して再生し、なんとか立ち上がったノヒンの眼前にはすでにシェーレの姿。反応する間もなく、ノヒンの腹部が手刀によって貫かれた。シェーレはそのまま腹部から腕を引き抜き、流れるような動きでノヒンの四肢を引き千切る。あまりの痛みで地面をのたうつノヒン。
それを動きを止めたシェーレがニヤニヤと眺めるので、その隙に損傷部分を再生。右腕を振って黒錆の狼を出すが、出したと同時に肩から腕ごと引っこ抜かれた。そのままシェーレの強烈な蹴りがノヒンの腹部に入り、体が上半身と下半身に烈断。
ノヒンが耐え難い激痛と失血により、一時的に意識を失うが……
ノヒンもまた喰らった魂のエネルギーによって進化している。烈断された体がミチミチと音を立てて再生し、失った血も造血されてすぐさま意識を取り戻す。
だが──
襲い来るシェーレを見据えた目を潰され、口に手を突っ込まれて下顎を引き千切られる。それを再生し……と、同じような工程を何度も繰り返す。
あまりにも一方的な展開。
「あはぁ? どうしたのぉ? 私を殺すんじゃなかったかしらぁ?」
シェーレが動きを止め、ノヒンを挑発する。
「ちっ……化け物……かよ……」
為す術のないノヒンを見つめ、シェーレが楽しそうに笑う。シェーレの体に蠢く無数の口からは「大安吉日です」「新作ですね」「気持ちいいことがしたいです」と、相変わらずの不気味な声が漏れる。
「あなたで遊ぶのは楽しいけれど……なんだか飽きてきたわぁ。そろそろ外に出て楽しんじゃおうかしら? 愛しのジェシカやヨーコがゆっくり解体されるところ……見たい?」
纏わりつくようなシェーレの厭らしい声。
「行かせるわけぇ……ねぇだろぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぐぶぅっ!!」
ノヒンがシェーレに掴みかかるが──
腹部をシェーレの腕が貫く。
「行かせない? 何様のつもり? もう詰んでるのよ? まだ分からないなら……そうね、あと千回くらいあなたを解体する?」
言いながらシェーレが腹部を貫く腕を引き抜く。そのままノヒンの右腕を引き千切ろうと掴んだところで──
ヒィン──
ノヒンの耳元で、鈴の音のような澄んだ音がした。それと同時、シェーレの胸に穴が穿たれ、崩れ落ちる。
「ふふ、君は本当に変わらないなノヒン? シェーレがグレイプニルの鎖にヒビを入れなければすぐには来られなかったよ」
それはまるで一枚の荘厳な宗教画のような光景だった──
突如現れたラグナスが流麗なる動作で死穢を払う。
ラグナスの全身を覆う輝く銀灰色の鎧は天の使いのように神々しく、神話に登場する馬鎧を模したような荒々しさもあり──
手には槍を思わせるような細身の剣──グングニルが握られ、一突きで心臓を抉られてしまいそうな心持ちにさせられる。
さらに背中には光り輝く白銀の翼が広げられ、鈴の音のような声がノヒンに向けて落ちてくる。そうしてラグナスがふわりとノヒンの傍らに降り立ち、肩を貸す。
「ちっ……気持ち悪ぃ……」
「そう言うな。だがこうしていると思い出すな。君と初めて会った時も、こうして肩を貸した」
「……いらねぇこと覚えてんじゃねぇよ。それよりシェーレがピクりとも動かねぇが、やったのか?」
「いや、グングニルでも削れた魂は僅か。拒絶の力を流し込んだことで一時的に動きを封じただけだ。しばらくすれば動き出す」
「倒せんのか?」
「涓滴岩を穿つとは言うが、私だけでは何年かかるか分からない。やはり君でなければシェーレは倒せないだろうな」
「っても今の俺じゃあ手も足も出なかったぜ? つーかラグナスおめぇよぉ、まためちゃくちゃ強くなってねぇか?」
「言っただろう? 拒絶の力で自身の力を拒絶していたと」
「ちっ……」
ノヒンが舌打ちし、「おめぇと話してると嘘か本当か分かんなくなるぜ」と、頭をガシガシと掻き毟る。
「つーか転送作業はどうしたよ」
「君がピンチだと思ったのでな」
「余計なお世話だ」
「とまあ、それは建前だ。転送は完了した。ロキが手伝ってくれたのでな」
「はぁ? ロキが? ちっ……、相変わらず意味分かんねぇ状況だぜ」
「言っただろう? 君の行動で未来は変わると。ロキは観測者からシェーレの敵対者に変わった。ロキが言うには『シェーレの進化には面白みがない。やはり停滞者にはご退場願うか』ということだ。正直私にもロキの真意は分からない。君はロキも私も許せないだろうが……、今はとりあえずシェーレを打ち倒すことを考えよう」
ラグナスの言葉に、ノヒンがギリギリと歯を食いしばる。
「シェーレ倒したら次はロキだ。それでおめぇと決着つけて終いだ」
「すまないなノヒン。いや、ありがとうか」
ラグナスがそう言うと同時、二人の目の前に黒い霧が集まり、人の形となっていく。
「くく……久しいな? ノヒンよ」
霧はロキとなり、相変わらずの不敵な笑みを浮かべる。
「うるせぇよロキ。シェーレの次はおめぇだ」
「貴様に私は殺せんさ。そう決まっている」
「あぁん? 決まってるだぁ?」
「貴様の行動で未来が形を成し始めたのでな。まあシェーレを打ち倒せば分かることよ。と言っても、シェーレはもはや理を超えている。簡単には倒せんぞ?」
「ちっ、もしかしておめぇも確率世界の観測だかが出来んのか?」
「私も絶えず変化し、進化している。貴様が創る未来を見たくなったのだ。まあだが、貴様は私を殺さない未来を必ず選ぶがな? くく……」
「相変わらずムカつくやつだぜおめぇは。だけどよ……」
「色々考えんのはシェーレぶっ殺してからだ」と、ノヒンが身を低くして目を閉じ、全身に力を漲らせて血燃の詠唱に入る。すでに血燃を発動していたが、さらにその先──
文字通りその身に流れる血──ヴァンズブラッドの最後の一滴までを燃え上がらせる。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~
尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。
ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。
亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。
ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!?
そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。
さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。
コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く!
はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる