覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

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終章─夢の灯火が照らす未来─

ヴァンズブラッド─黒と白の英雄─

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「簡単には殺さないわよ?」

 シェーレはそう言うと、強烈な蹴り上げでノヒンを空中へと吹き飛ばした。ノヒンは蹴られる瞬間に両腕でガードしたのだが……

 ガードした腕が跡形もなく弾け飛び、地上へと血の雨を降らせる。

 すぐさまノヒンが腕を再生するが、もはや瞬間移動のようにシェーレが背後に現れ、背中を殴られて背骨が粉砕。そのまま地面へと激突して全身の骨が砕ける。

 バキバキと骨を補強して再生し、なんとか立ち上がったノヒンの眼前にはすでにシェーレの姿。反応する間もなく、ノヒンの腹部が手刀によって貫かれた。シェーレはそのまま腹部から腕を引き抜き、流れるような動きでノヒンの四肢を引き千切る。あまりの痛みで地面をのたうつノヒン。

 それを動きを止めたシェーレがニヤニヤと眺めるので、その隙に損傷部分を再生。右腕を振って黒錆の狼を出すが、出したと同時に肩から腕ごと引っこ抜かれた。そのままシェーレの強烈な蹴りがノヒンの腹部に入り、体が上半身と下半身に烈断。

 ノヒンが耐え難い激痛と失血により、一時的に意識を失うが……

 ノヒンもまた喰らった魂のエネルギーによって進化している。烈断された体がミチミチと音を立てて再生し、失った血も造血されてすぐさま意識を取り戻す。

 だが──

 襲い来るシェーレを見据えた目を潰され、口に手を突っ込まれて下顎を引き千切られる。それを再生し……と、同じような工程を何度も繰り返す。

 あまりにも一方的な展開。

「あはぁ? どうしたのぉ? 私を殺すんじゃなかったかしらぁ?」

 シェーレが動きを止め、ノヒンを挑発する。

「ちっ……化け物……かよ……」

 為す術のないノヒンを見つめ、シェーレが楽しそうに笑う。シェーレの体に蠢く無数の口からは「大安吉日です」「新作ですね」「気持ちいいことがしたいです」と、相変わらずの不気味な声が漏れる。

「あなたで遊ぶのは楽しいけれど……なんだか飽きてきたわぁ。そろそろ外に出て楽しんじゃおうかしら? 愛しのジェシカやヨーコがゆっくり解体されるところ……見たい?」

 纏わりつくようなシェーレの厭らしい声。

「行かせるわけぇ……ねぇだろぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぐぶぅっ!!」

 ノヒンがシェーレに掴みかかるが──

 腹部をシェーレの腕が貫く。

「行かせない? 何様のつもり? もう詰んでるのよ? まだ分からないなら……そうね、あと千回くらいあなたを解体する?」

 言いながらシェーレが腹部を貫く腕を引き抜く。そのままノヒンの右腕を引き千切ろうと掴んだところで──


 ヒィン──


 ノヒンの耳元で、鈴の音のような澄んだ音がした。それと同時、シェーレの胸に穴が穿たれ、崩れ落ちる。

「ふふ、君は本当に変わらないなノヒン? シェーレがグレイプニルの鎖にヒビを入れなければすぐには来られなかったよ」

 それはまるで一枚の荘厳な宗教画のような光景だった──

 突如現れたラグナスが流麗なる動作で死穢しえを払う。

 ラグナスの全身を覆う輝く銀灰色ぎんかいしょくの鎧は天の使いのように神々しく、神話に登場する馬鎧ばがいを模したような荒々しさもあり──

 手には槍を思わせるような細身の剣──グングニルが握られ、一突きで心臓を抉られてしまいそうな心持ちにさせられる。

 さらに背中には光り輝く白銀の翼が広げられ、鈴の音のような声がノヒンに向けて落ちてくる。そうしてラグナスがふわりとノヒンの傍らに降り立ち、肩を貸す。

「ちっ……気持ち悪ぃ……」
「そう言うな。だがこうしていると思い出すな。君と初めて会った時も、こうして肩を貸した」
「……いらねぇこと覚えてんじゃねぇよ。それよりシェーレがピクりとも動かねぇが、やったのか?」
「いや、グングニルでも削れた魂は僅か。拒絶の力を流し込んだことで一時的に動きを封じただけだ。しばらくすれば動き出す」
「倒せんのか?」
涓滴岩けんてきいわ穿うがつとは言うが、私だけでは何年かかるか分からない。やはり君でなければシェーレは倒せないだろうな」
「っても今の俺じゃあ手も足も出なかったぜ? つーかラグナスおめぇよぉ、まためちゃくちゃ強くなってねぇか?」
「言っただろう? 拒絶の力で自身の力を拒絶していたと」
「ちっ……」

 ノヒンが舌打ちし、「おめぇと話してると嘘か本当か分かんなくなるぜ」と、頭をガシガシと掻き毟る。

「つーか転送作業はどうしたよ」
「君がピンチだと思ったのでな」
「余計なお世話だ」
「とまあ、それは建前だ。転送は完了した。ロキが手伝ってくれたのでな」
「はぁ? ロキが? ちっ……、相変わらず意味分かんねぇ状況だぜ」
「言っただろう? 君の行動で未来は変わると。。ロキが言うには『シェーレの進化には面白みがない。やはり停滞者にはご退場願うか』ということだ。正直私にもロキの真意は分からない。君はロキも私も許せないだろうが……、今はとりあえずシェーレを打ち倒すことを考えよう」

 ラグナスの言葉に、ノヒンがギリギリと歯を食いしばる。

「シェーレ倒したら次はロキだ。それでおめぇと決着つけて終いだ」
「すまないなノヒン。いや、ありがとうか」

 ラグナスがそう言うと同時、二人の目の前に黒い霧が集まり、人の形となっていく。

「くく……久しいな? ノヒンよ」

 霧はロキとなり、相変わらずの不敵な笑みを浮かべる。

「うるせぇよロキ。シェーレの次はおめぇだ」
「貴様に私は殺せんさ。
「あぁん? 決まってるだぁ?」
「貴様の行動で未来が形を成し始めたのでな。まあシェーレを打ち倒せば分かることよ。と言っても、シェーレはもはや理を超えている。簡単には倒せんぞ?」
「ちっ、もしかしておめぇも確率世界の観測だかが出来んのか?」
「私も絶えず変化し、進化している。貴様が創る未来を見たくなったのだ。まあだが、がな? くく……」
「相変わらずムカつくやつだぜおめぇは。だけどよ……」

 「色々考えんのはシェーレぶっ殺してからだ」と、ノヒンが身を低くして目を閉じ、全身に力を漲らせて血燃バーンブラッドの詠唱に入る。すでに血燃バーンブラッドを発動していたが、さらにその先──

 文字通りその身に流れる血──ヴァンズブラッドの最後の一滴までを燃え上がらせる。

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