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終章─夢の灯火が照らす未来─

未来への咆哮

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「どうやら本当にあなた達を舐めていたようね。予想外にあなたを管理出来そうだったから、面白くてつい必死になってしまったわ」
「おいおい、まだそうやって余裕ぶるつもりかよ。おめぇが必死だったのは俺の崩壊の力が怖ぇからだろ? それが何とかすれば管理出来そうだったから必死だった。違うか?」

 ノヒンの言葉にシェーレが苛立った表情で舌打ちする。

「まあいいわ。でもやる前に二つほど確認してもいいかしら? そのワタリガラスは今までどこにいたの? こちらに来たのはあなたとヴァンガルムだけのはず」
? ラグナスの拒絶の力で俺以外から存在を認知されることを拒絶してな。まあ俺もよく分かってねぇけどよ。とりあえずおめぇに拒絶の力がどこまで通用するかの実験らしいな。ある程度時間が経ったら拒絶の力を俺の崩壊の力で壊せって言われてたんだけどよ、拒絶ってのは実態がねぇし、そもそも俺が崩壊の力を使いこなしてる訳じゃねぇからよ。時間がかかっちまった」
「そういうことね。ラグナスは私の管理とあなたの崩壊に対して同時に検証作業をしていたということね。聞きたいことはもう一つあるわ。私が魂を侵食するのに時間がかかると分かったのはなぜ?」
「それは俺も分かんねぇが、そこのカラスなら知ってんじゃねぇのか?」

 ノヒンに水を向けられたフギンとムニンが口を開く。

「それは専用兵装やガランドウに対する魂の侵食度合いから押し計りました。両者の記憶改竄に差異が認められたため、それによって侵食に対するユグドラシル由来の存在の抵抗値を算出。あなたがユグドラシル由来の存在を完全管理出来ないことを確定。ですが今現在あなたの管理の力は上がっています。再計算しなければ正しい情報は得られませんが、おそらく今のあなたであれば、二年程時間をかければユグドラシル由来の存在も完全管理出来るでしょう。補足事項として、専用兵装は記憶改竄と同時に、記憶領域のエラーが起きています。これは半生物である専用兵装の魂に侵食した際の予期せぬエラーと思われ、抵抗値算出の際は考慮しませんでした。また、今現在エラーに関しては解消されています。おそらくこれに関しては半生物である専用兵装も長い時間をかけて進化し、限りなく生物へと近付いているということなのでしょう。つまり個体名フェンリルとアランをあなたの管理から解放したとして、今回は記憶領域のエラーは発生しないと思われます」
「こちらの想像以上にラグナスは優秀だったのね。でもそれはあくまで計算した確率でしかないわよね? もしかすればヴァンガルムが一瞬で侵食、管理されるかもとは思わなかったの?」

 シェーレが続けて問いかけるが、やはり苛立っているのか表情は険しい。

「それに関しては説明不足をお詫びします。こちらは過去の人口データなど、様々と検証してあなたの魂の総数をおおよそ割り出しています。それによってミズガルズとアースが統合され、そこからあなたの力がどの程度上昇したかを計算しています。その際、あなたを過小評価しないよう数値を上方修正して計算しました。それによって専用兵装がすぐに完全管理されることはないという結果に至ったのです。ですが、やはりあくまで完全な計算ではありませんでした。予想よりもあなたの力は強く、専用兵装が完全管理されないまでも、自我を抑え込まれてデータ流用されるまでは管理されてしま──」

 フギンとムニンが話している途中、ノヒンが「そろそろいいか?」と声を上げる。

「いつまでもわん公とアランをおめぇの中にいさせんのは気に食わねぇからよ」

 言いながらノヒンがシェーレに視線を向ける。そうしてシェーレの敵意の中、空白の存在を感じ取る。いまだ完全管理されず、ノヒンに敵意を向けない二つの魂。

「もうよ。めんどくせぇんだ。おめぇらみてぇな糞が他人を支配することばっか考えてよ。もうたくさんなんだ。ラグナスもソラトもこの先の未来は確定してねぇって言ってやがった。もしかすりゃ、俺がおめぇに負けて死ぬのかもしんねぇ」

 ノヒンの体から静かに魔素が滲み出す。

「だけどな、ただじゃあ死なねぇ。ただじゃあ死ねねぇんだ。ラグナスの野郎には言ってねぇけどよ。今のあいつになら未来……任せてもいいんだろうなとは思ってる。もちろんあいつのしたことは許せねぇしよ、罪を償って貰わなきゃなんねぇ。けどよ……」

 ノヒンが拳を握り、ギチギチと力を込める。握った拳からは血が滴り、「今はあいつも糞みてぇな運命に翻弄されただけなんだよなってことは理解してる。理解してんだ……」と、苦しそうに呟く。

「……あいつの涙ぁ……見たのは二回目だけどよ、ちゃんとあいつは人のために泣けんだ。許せねぇ……、許せねぇけどよ、ちゃんとあいつも後悔してんだ。そんな素振りは見せねぇけどよ、たぶんめちゃくちゃ悩んでんだ。それに知ってるか?」

 ノヒンの目から涙が溢れ、「俺ぁ……あいつの兄貴らしいぜ?」と言って空を仰ぐ。

「あいつはあいつでめちゃくちゃ苦しんでたってのによ、俺はギリギリまであいつと正面からぶつかったりしなかった。正直怖かったんだろうなぁ……。俺にとってあいつは家族みてぇになってたからよ、失いたくなかったんだろぉなぁ……。手遅れになる前にぶつかってりゃあ結果は違ったのかもしんねぇ」

 空を仰ぐノヒンの目から、ボタボタと涙が零れて地面を濡らす。そうして体からは、滲み出す魔素の量が静かに増していく。

「悪ぃ。何言ってるか分かんねぇよな……。自分でも分かんねぇしよ……はは……。まあつまりよ、みんながちゃんと自分で考えて未来に向かうにはおめぇが邪魔なんだ。考えて、間違って、後悔して……、それでも歯ぁ食いしばって前に進むにはおめぇが邪魔なんだ。ラグナスの拒絶の力じゃおめぇを完全に拒絶することは出来ねぇらしいしよ、おめぇをどうにか出来んのは今のところ俺だけだ」

 ノヒンが涙を拭い、シェーレを見る。

「ラグナスには時間稼げって言われたけどよ、正直そんなつもりはねぇんだ。今はよ、あいつにも後悔して……後悔して……、先に進んでほしい。だからよ、俺だけで全部終わらせる。正直七億人の魂が相手って言われてもピンとはこねぇが、結構無理っぽいだろ? まあだけどよ、おめぇを殺すまでは死なねぇ。死ねねぇんだ。だからよ、俺が死のうがお前は殺す。行くぜ?」

 「血燃バーンブラッド」と──

 決意の表情でノヒンが口にする。それと同時、体からは静かに、だが爆発するかのように魔素が溢れ出す。

「……まあでもよ、さっきは俺一人でって言ったが……」

 「巻き込んで悪ぃわん公! アラン!」とノヒンが叫ぶ。

「俺一人じゃあ無理だ! おめぇらの力を貸してくれ! つーかいつまでそんな糞みてぇなやつに管理されてやがんだぁ!? だっせぇことしてんじゃねぇってんだ! しょうがねぇから俺がよぉ……その糞みてぇな管理を崩壊させてやる! っくぞ! 『アクセプトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』」
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