223 / 229
終章─夢の灯火が照らす未来─
未来への咆哮
しおりを挟む「どうやら本当にあなた達を舐めていたようね。予想外にあなたを管理出来そうだったから、面白くてつい必死になってしまったわ」
「おいおい、まだそうやって余裕ぶるつもりかよ。おめぇが必死だったのは俺の崩壊の力が怖ぇからだろ? それが何とかすれば管理出来そうだったから必死だった。違うか?」
ノヒンの言葉にシェーレが苛立った表情で舌打ちする。
「まあいいわ。でもやる前に二つほど確認してもいいかしら? そのワタリガラスは今までどこにいたの? こちらに来たのはあなたとヴァンガルムだけのはず」
「ずっといたぜ? ラグナスの拒絶の力で俺以外から存在を認知されることを拒絶してな。まあ俺もよく分かってねぇけどよ。とりあえずおめぇに拒絶の力がどこまで通用するかの実験らしいな。ある程度時間が経ったら拒絶の力を俺の崩壊の力で壊せって言われてたんだけどよ、拒絶ってのは実態がねぇし、そもそも俺が崩壊の力を使いこなしてる訳じゃねぇからよ。時間がかかっちまった」
「そういうことね。ラグナスは私の管理とあなたの崩壊に対して同時に検証作業をしていたということね。聞きたいことはもう一つあるわ。私が魂を侵食するのに時間がかかると分かったのはなぜ?」
「それは俺も分かんねぇが、そこのカラスなら知ってんじゃねぇのか?」
ノヒンに水を向けられたフギンとムニンが口を開く。
「それは専用兵装やガランドウに対する魂の侵食度合いから押し計りました。両者の記憶改竄に差異が認められたため、それによって侵食に対するユグドラシル由来の存在の抵抗値を算出。あなたがユグドラシル由来の存在を完全管理出来ないことを確定。ですが今現在あなたの管理の力は上がっています。再計算しなければ正しい情報は得られませんが、おそらく今のあなたであれば、二年程時間をかければユグドラシル由来の存在も完全管理出来るでしょう。補足事項として、専用兵装は記憶改竄と同時に、記憶領域のエラーが起きています。これは半生物である専用兵装の魂に侵食した際の予期せぬエラーと思われ、抵抗値算出の際は考慮しませんでした。また、今現在エラーに関しては解消されています。おそらくこれに関しては半生物である専用兵装も長い時間をかけて進化し、限りなく生物へと近付いているということなのでしょう。つまり個体名フェンリルとアランをあなたの管理から解放したとして、今回は記憶領域のエラーは発生しないと思われます」
「こちらの想像以上にラグナスは優秀だったのね。でもそれはあくまで計算した確率でしかないわよね? もしかすればヴァンガルムが一瞬で侵食、管理されるかもとは思わなかったの?」
シェーレが続けて問いかけるが、やはり苛立っているのか表情は険しい。
「それに関しては説明不足をお詫びします。こちらは過去の人口データなど、様々と検証してあなたの魂の総数をおおよそ割り出しています。それによってミズガルズとアースが統合され、そこからあなたの力がどの程度上昇したかを計算しています。その際、あなたを過小評価しないよう数値を上方修正して計算しました。それによって専用兵装がすぐに完全管理されることはないという結果に至ったのです。ですが、やはりあくまで完全な計算ではありませんでした。予想よりもあなたの力は強く、専用兵装が完全管理されないまでも、自我を抑え込まれてデータ流用されるまでは管理されてしま──」
フギンとムニンが話している途中、ノヒンが「そろそろいいか?」と声を上げる。
「いつまでもわん公とアランをおめぇの中にいさせんのは気に食わねぇからよ」
言いながらノヒンがシェーレに視線を向ける。そうしてシェーレの敵意の中、空白の存在を感じ取る。いまだ完全管理されず、ノヒンに敵意を向けない二つの魂。
「もうよ。めんどくせぇんだ。おめぇらみてぇな糞が他人を支配することばっか考えてよ。もうたくさんなんだ。ラグナスもソラトもこの先の未来は確定してねぇって言ってやがった。もしかすりゃ、俺がおめぇに負けて死ぬのかもしんねぇ」
ノヒンの体から静かに魔素が滲み出す。
「だけどな、ただじゃあ死なねぇ。ただじゃあ死ねねぇんだ。ラグナスの野郎には言ってねぇけどよ。今のあいつになら未来……任せてもいいんだろうなとは思ってる。もちろんあいつのしたことは許せねぇしよ、罪を償って貰わなきゃなんねぇ。けどよ……」
ノヒンが拳を握り、ギチギチと力を込める。握った拳からは血が滴り、「今はあいつも糞みてぇな運命に翻弄されただけなんだよなってことは理解してる。理解してんだ……」と、苦しそうに呟く。
「……あいつの涙ぁ……見たのは二回目だけどよ、ちゃんとあいつは人のために泣けんだ。許せねぇ……、許せねぇけどよ、ちゃんとあいつも後悔してんだ。そんな素振りは見せねぇけどよ、たぶんめちゃくちゃ悩んでんだ。それに知ってるか?」
ノヒンの目から涙が溢れ、「俺ぁ……あいつの兄貴らしいぜ?」と言って空を仰ぐ。
「あいつはあいつでめちゃくちゃ苦しんでたってのによ、俺はギリギリまであいつと正面からぶつかったりしなかった。正直怖かったんだろうなぁ……。俺にとってあいつは家族みてぇになってたからよ、失いたくなかったんだろぉなぁ……。手遅れになる前にぶつかってりゃあ結果は違ったのかもしんねぇ」
空を仰ぐノヒンの目から、ボタボタと涙が零れて地面を濡らす。そうして体からは、滲み出す魔素の量が静かに増していく。
「悪ぃ。何言ってるか分かんねぇよな……。自分でも分かんねぇしよ……はは……。まあつまりよ、みんながちゃんと自分で考えて未来に向かうにはおめぇが邪魔なんだ。考えて、間違って、後悔して……、それでも歯ぁ食いしばって前に進むにはおめぇが邪魔なんだ。ラグナスの拒絶の力じゃおめぇを完全に拒絶することは出来ねぇらしいしよ、おめぇをどうにか出来んのは今のところ俺だけだ」
ノヒンが涙を拭い、シェーレを見る。
「ラグナスには時間稼げって言われたけどよ、正直そんなつもりはねぇんだ。今はよ、あいつにも後悔して……後悔して……、先に進んでほしい。だからよ、俺だけで全部終わらせる。正直七億人の魂が相手って言われてもピンとはこねぇが、結構無理っぽいだろ? まあだけどよ、おめぇを殺すまでは死なねぇ。死ねねぇんだ。だからよ、俺が死のうがお前は殺す。行くぜ?」
「血燃」と──
決意の表情でノヒンが口にする。それと同時、体からは静かに、だが爆発するかのように魔素が溢れ出す。
「……まあでもよ、さっきは俺一人でって言ったが……」
「巻き込んで悪ぃわん公! アラン!」とノヒンが叫ぶ。
「俺一人じゃあ無理だ! おめぇらの力を貸してくれ! つーかいつまでそんな糞みてぇなやつに管理されてやがんだぁ!? だっせぇことしてんじゃねぇってんだ! しょうがねぇから俺がよぉ……その糞みてぇな管理を崩壊させてやる! っくぞ! 『アクセプトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』」
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる