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終章─夢の灯火が照らす未来─
孤独な戦士 2
しおりを挟む「今頃ラグナスは……この映像のようにジェシカと愛し合っているんじゃないかしら?」
ノヒンの耳元でシェーレが囁く。眼前には、愛する相手の目を背けたくなるほどの情事の映像。
「ラグナスは初めからあなたが邪魔だったのよ? このまま拒絶の力で私達を隔離して、自分だけ気持ちいいことをしようとしてるのよ? ほら……見て?」
そう言ってシェーレが新たに出した映像では、ジェシカがラグナスを激しく求めていた。
「ね? もうあなたが救われるには私と一つになるしかないのよ? だから……ね?」
シェーレがゆっくりとノヒンを押し倒す。そうして唇を重ね──
気付けばドレスを脱ぎ捨てた裸体となっていて、「一つになりましょ?」と、ノヒンに絡みつく。二人の体の境界が曖昧となり、シェーレの体がズブズブとノヒンの中へ侵入してくる。
「……おめぇと一つになればみんな幸せになれんのか?」
「ええ、そうよ? だから……ね?」
「……まあおめぇの言いてぇことは分かった。だけどよ、一つ聞いていいか?」
「何かしら?」
ノヒンがシェーレの目を見据え、「なんでおめぇはそんなに必死なんだ?」と問いかける。その言葉にシェーレの動きが止まった。一貫して余裕を見せていたシェーレの表情が曇る。
「ちっ……危なかったぜ。おめぇに関して色々と聞いちゃいたが、ペースに乗せられちまった。まさかわん公が簡単におめぇの手に落ちると思ってなかったしよ、ちょっと焦っちまったぜ。まあだが、やっぱ説明通りだったな」
「説明通り?」
「ああそうだぜ? 俺らはおめぇに関して何も間違った理解はしてねぇ」
「どういうことかしら?」
「つーかよ、いつまで俺に触ってやがんだぁ? 反吐が出そうだからよぉ、離れろや!!」
そう言ってノヒンが自身の上に跨るシェーレを殴り飛ばし、そのまま立ち上がってゴキゴキと首を鳴らす。
「マジで気持ち悪ぃ。これが侵食ってやつかぁ? 心を乱せば俺でも侵食されるかもしれねぇって言ってやがったからな。考えたくもねぇことで頭ん中がぐちゃぐちゃだしよ、記憶まで多少改竄されかけやがった。けどよ……」
ノヒンの体から黒い霧が滲み出す。
「いまいち使い方は分かんねぇが、俺が気に食わねぇと思ったことを崩壊させられるってことでいいんだよなぁ?」
ノヒンが自身の背後に話しかける。その姿を見たシェーレが「誰に話しかけているのかしら?」と、少し苛立ったような態度を見せた。
「ちっ、難しいな。気に食わねぇって言っても実態がねぇからやり方が分かんねぇ」
「あなたはさっきから何を言っているのかしら?」
「あぁん? 詰んでんのはおめぇだって話だ。おめぇがどんな存在かはラグナスが看破してんだよ。おめぇが動いてねぇ間、ラグナスがなんも考えてねぇとでも思ったか? 俺にはよく分かんねぇけどよ、おめぇを正しく理解するための情報はある程度揃っていたとか言ってやがったな」
「私は他者の魂を侵食することが出来る。つまりそれはある程度心が読めるってことよ? ラグナスの拒絶の力は完璧ではない。ある程度心を読まれることなどへの拒絶は出来ているけれど、それでも全てではないわ。そうして私が読んだラグナスの心では、私のことを正しく理解出来ていなかった」
シェーレのその言葉に、ノヒンが「くくっ」と笑う。
「あいつぁ昔から自分を弱く見せることが得意なんだよ。前も自分の導術を弱く見せてやがったしよぉ」
「どういうことかしら?」
「ラグナスの拒絶の力はおめぇが考えてるより強力なんだよ。説明はめんどくせぇし上手く出来ねぇが、拒絶の力で拒絶してたらしいぜ? 自分の拒絶の力の何割かをな?」
そう、ラグナスは自身の力の何割かを拒絶し、そうしてそういった情報が読み取られることも拒絶していた。これによってロキやソラト、シェーレですら欺いて動いていたということだ。
「まあおめぇでも時間をかければなんとか出来るくれぇの力らしいぜ? けどよ、おめぇはこっちを……ラグナスを舐めてやがった。それがおめぇの敗因だ」
「何をそんなに勝ち誇っているのかしら? 私を理解していたのだとしても、ヴァンガルムとアランの魂は管理済みよ? 罪なき七億の魂もいるわ。あなたに私が殺せるの?」
再度ノヒンが「くくっ」と笑う。
「ここに来る前にラグナスが言ってやがったんだ。どうやらおめぇの侵食は時間がかかるみてぇだな? しっかりわん公とアランの魂は補足してるぜ? 俺の絶対領域ってのは敵意を向ける相手の位置情報が分かんだ。おめぇの汚ねぇ魂の中によ、空白の部分が見えんだ。まだわん公とアランの管理は完了してねぇんだろ?」
シェーレが「ちっ」と舌打ちし、苦々しい表情となる。
「それによ、七億の魂だったか? それはもう個別の魂なんかじゃなくてよ、おめぇだってことも分かってんだ。おめぇはただ……管理した相手のデータを使って一人遊びしてやがるだけなんだよなぁ? そうだろ?」
再びノヒンが自身の背後に話しかける。するとガラスが割れるかのように空間にビキビキとヒビが入り、中から一対のワタリガラス、フギンとムニンが現れた。
「そうなります。シェーレは侵食して管理した魂を自分と同化させる。そうして肉体のデータをも管理し、自分のものとして行使できる。つまりシェーレは七億人のデータを得ただけの個ということになります。そうして得た七億人のデータを流用し、個別の意思で動いているかのようにしていただけとなります。そのうえで、個体名フェンリルとアランはまだ完全に管理されていません。つまり現段階では、あなたの崩壊の力で侵食──魂の管理を崩壊させることが可能となっております」
フギンとムニンの無機質な声がシェーレの真実を告げる。
「ちっ、相変わらず訳わかんねぇが……」
「とりあえずわん公とアラン助けておめぇは殺す」と、ノヒンが拳を握る。
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