覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

文字の大きさ
上 下
221 / 229
終章─夢の灯火が照らす未来─

孤独な戦士 1

しおりを挟む

 ヴァンガルムの体が黒い霧となり、シェーレの艶めかしく晒された肢体を包み込む。そうして黒い霧は形を変え、美しくも禍々しい宵闇よいやみのようなドレスへと変化。

「ちっ、趣味の悪ぃ変化させやがって」

 ヴァンガルムが変化したドレスは、シェーレの美しい肌を惜しげも無く晒していた。胸元はざっくりと開かれ、ロングスカートは腰までスリットが入っている。

「あら? お気に召さなかったかしら? これからパーティーなのだから……ね?」

 シェーレがそう発声したと同時、ノヒンが後方へと吹き飛ぶ。

 まったく見えなかった。瞬きの間もなくシェーレがノヒンの懐へと潜り込み、殴りつけたのだ。ノヒンはギリギリでバックステップしたが間に合わず、メシメシと嫌な音を立てて肋骨がへし折れ、地面を転がる。

 そこへ『アクセプト』とヴァンガルムの声が響き──

 空を──

 大地を──

 その全てを貫き穿つかのような、千を超える禍々しき漆黒の槍がノヒンに向けて放たれる。

「ちっ……マジでそっち側になりやがったのかよ!」

 ガチンッとノヒンが歯を食いしばる。ギチギチと全身に力を漲らせ、バキバキと折れた肋骨が補強される。

 相変わらず痛みで頭はどうかしてしまいそうになるが、それをも力に変え──

「うるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 斬鉄──

 ルイスが鍛えた長大な黒錆色の刃を鉄甲に装着し、襲い来る千を超える漆黒の槍を叩き落とす。

 さらに無詠唱特殊魔術、狂戦士によっても漆黒の槍を叩き落とし──

 ズガンッと地面を蹴りつけ、シェーレに向かって突撃。叩き落とし損ねた漆黒の槍がノヒンの体を貫くが──

 その痛みすら力に変えてシェーレへと向かう。

 だが──

「あら? これは焔先亜嵐ヒサキアランのデータね? ふふ」

 シェーレが怪しく笑うと、ノヒンの左側頭部に凄まじい衝撃が走る。何者かに側頭部を殴り付けられたのだ。何が起きたのかも分からずにノヒンは吹き飛んで地面を転がり、脳が揺れ、耐え難い激痛と吐き気に襲われる。

 そうしてふらふらと立ち上がったノヒンの視線の先──

 ノヒンに似た、だが真っ赤に燃えるような髪の男が立っていた。

 そう、焔先亜嵐ヒサキアランだ。シェーレはヴァンガルムの管理を完了させた。つまりそれはヴァンガルムと同化していた焔先亜嵐ヒサキアランの管理を完了させたことにもなる。

「ちっ、マジかよ。おめぇもそっち側かぁ?」

 ノヒンが頭を掻き毟りながらアランを睨む。

「はぁ? こっちからすりゃあ、おめぇがそっち側か? って感じだぜ? おめぇもこっち来いよ。シェーレに任せときゃあ争いもなんもねぇ世界に出来るぜ? それによぉ、こっちはみんな繋がってんだ。フェンリルだってそう言ってるぜ? なあフェンリル?」

 アランがそう水を向けると、アランが漆黒の鎧に包まれる。そうして漆黒の鎧の胸当て部分にヴァンガルムの顔が浮かび、口を開いた。

「ノヒンよ。無駄な足掻きはやめて貴様もこっちに来い。我と一つになろうではないか。シェーレが目指す世界は素晴らしいぞ。みなが一つとなり、そうして個々として全となる。争いもなく、恒久的な平和が訪れるのだ。なあ我よ?」

 ヴァンガルムのその言葉に、離れて眺めていたシェーレがノヒンの目の前まで迫る。シェーレもヴァンガルムが変化した兵装であるドレスを纏っているのだが──

 そのシェーレのドレスがざわざわと形を変え、胸元にヴァンガルムの顔が浮かんで口を開く。

「そうだぞノヒン? みなが我で我がみななのだ。そうして我はシェーレであり、世界。もう貴様は詰んでおる。大人しくこちらに来るのだノヒンよ」
「貴様も争いのない世界を望んでいるのだろう? まずは貴様もシェーレと一つとなり、そうして地球もユグドラシルも一つとしようではないか」
「その世界でジェシカやヨーコと子を成し、静かに、平和に生きよう」
「争いもなく、幸せな世界だぞノヒン? シェーレの世界では皆が幸せになれる。貴様が目指したハッピーエンドではないのか?」
「ルイスやマリル、セティーナ、セリシア、ファム、アルも貴様と交わることの出来る世界だ」
「シェーレが管理した世界で永遠とわの時を揺蕩おうではないか」

 シェーレのドレスとアランの鎧に現れたヴァンガルムが、さも当然のことのようにノヒンに向けて語る。気付けばノヒンの周囲には、ヴァンガルムを身に纏った無数のアランやシェーレで溢れている。そうして再びシェーレが口を開いた。

「だから詰んでるって言ったでしょ? あなた達が私を正しく理解していない時点で終わっていたの。無駄な抵抗はやめて私と……私達と一つになりましょ? 私は一であると同時に、これまで侵食して管理した七億もの魂でもあるの。理解出来る? あなたは今一人で、こちらは七億。一対七億よ? 七億であり一。全ての個体が私でありアラン。あなたには勝てる未来なんて訪れないのよ? それに……あなたが私に勝つってことは、私ではなくて全てを殺すことになるのよ? 分かる? 全てを救いたかったあなたが全てを殺すの。そんな未来が望みなの? あなたはそれでいいの? 私に身を委ねたら……」

 「みんなで幸せになれるわよ?」と、シェーレがノヒンに唇を重ねて甘く囁く。見ればシェーレの姿はジェシカやヨーコへと次々と変わり、そうして甘やかな口付けを落とす。

「今はヴァンガルムに残るデータを参照しただけだから姿だけなのだけれど……、あなたが私と一つとなり、地球もユグドラシルも一つとなれば、永劫の幸せをこの二人と過ごせるわよ? 死ぬこともなく……争うこともなく……永遠に愛し合うの。そっちの方がよくないかしら? それともあなたはそんな未来を捨て、全てを殺すの? 共に戦ったヴァンガルムとアランを殺すの? 私がこれまでに管理した魂を……殺すの?」

 シェーレの口から紡がれる言葉を聞き、ノヒンの心が折れそうになる。これまで自分を曲げずに走り続けてきたノヒンだが、シェーレの言葉が心の深い部分にズブズブと入り込んで来るような感覚。確かにシェーレは敵だ。だが敵であると共に、無数の罪なき魂を内包しているということになる。正解が分からない。頭の整理が追いつかず、言葉が出てこない。そんなノヒンをシェーレは満足そうに眺め、さらに言葉を続ける。

「もしかしてまだ……ラグナスが助けに来るとでも思っている?」

 シェーレのその言葉に、ノヒンが「どういうことだ?」と反応する。

「いいものを見せてあげるわ」

 そう言ってシェーレがパチンと指を鳴らす。するとノヒンの目の前に映像が浮かび上がった。

 そこには肌も顕なジェシカとラグナスが向かい合う姿。そうして二人はゆっくりと近付き、ジェシカがラグナスの肌に触れ──

 映像はそこで途切れた。

「……今のはなんだ? ジェシカがんな事するわけねぇだろ?」
「今のジェシカはんでしょ? そうなると……記憶に整合性を持たせるために、あなたと出会ってからの様々な記憶も朧気なんじゃないかしら? つまり……ラグナスが行った行為も朧気となっている可能性が高いわよね? そうなると……ジェシカに残る感情はなんだと思う? あなたが出会う前にジェシカが愛していたのは誰かしら?」

 シェーレの言葉がさらにズブズブとノヒンの中へと入り込む。考えたくもないことが頭の中を駆け巡る。

「今の映像は確率世界の観測よ? 。つまりラグナスも同じような未来を観測しているはずよ?」
「……何が言いてぇんだ?」
「簡単なことよ。つまり……ラグナスはそれを知ってあなただけを私の元に向かわせたんじゃないかしら? ジェシカと愛し合うためにね? そこから派生する世界も見せてあげるわ」

 再びノヒンの目の前に映像が浮かび上がる。そこにはラグナスに抱かれ、満たされた表情を浮かべるジェシカの姿。さらに映像は次々と浮かび上がりラグナスとジェシカの甘やかで穏やかな未来が映し出されていく。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

処理中です...