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終章─夢の灯火が照らす未来─

死穢霊─シェーレ─ 2

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「そこからは大変だったわぁ」

 シェーレがノヒンの背後でそう呟いたと同時、周囲を囲む人型の悪魔のような魔獣──シェーレによれば魔人──に変化が起きる。

 一人、また一人と姿。そうして「そうそう、大変だったわよねぇ?」「だって私は取るに足らない卑小な存在」「未だロキ以外には認識すらされない価値のない価値観」「進化することを拒んだ停滞する存在」と、口々に呟き始める。

「ちっ……マジで意味分かんねぇ。どうするよわん公?」
「まあ待てノヒン。こちらは少しでも時間が稼げればそれでいい。話してくれるというのであれば、ひとまずは話を聞こうではないか」

 ヴァンガルムのその言葉に、ノヒンが頭を掻き毟りながら舌打ちをする。

「んで? 何が大変だったんだ?」
?」

 ノヒンの背後にいたシェーレが耳元で囁く。気付けばシェーレの姿へと変わっていた魔人達は、元の悪魔のような姿に戻っていた。

「私は観測されはしたけれど、実態のない朧気な精神体。概念であり、形を成し始めた事象。ユグドラシルが唯物的な存在であるならば、私は唯心的存在。ユグドラシルが肉体的進化を求めるならば、私は精神的停滞を求める。進まず、留まり、画一的な
「何が言いてぇんだ?」
「私が死穢霊しえれいとして観測され、そうして私に芽生えた力はなんだと思う?」

 シェーレはそう問いながらノヒンに絡みつき、首筋に舌を這わせる。

「私に芽生えた力。それは他者の精神に侵食し、支配する『管理』という力。魂の支配……って言えば分かるかしら?」
「魂だぁ?」
「そう魂。肉の体とは別の精神的概念でありエネルギー。肉の体とは別に、それだけで一つの実体をもつ非物質的な存在。生命や精神の原動力となる存在。あなた達は魂に人格があると思っているけれど、それは違う。あくまで人格を有するのは肉の体であり、物質に刻まれたデータ。魂はそのデータを起動する鍵であり、エネルギー。私はその魂を侵食し、管理することが出来るの。肉の体を起動するためのエネルギーの支配。侵食して一つとなり、管理する力。そうして肉の体に刻まれたデータをも侵食し、管理する」

 そう言ってシェーレがノヒンの心臓の位置に手を当てる。ノヒンは手を当てられた心臓──魔石が熱くなるのを感じた。

「やはりあなたの魂は簡単に侵食出来ないわ。事象崩壊魔術って厄介よね?」
「おめぇの方が厄介そうだがな? つーかとりあえず離れてくんねぇか? おめぇに触られてると反吐が出そうでよ」
「ふふ。それでこそ侵食しがいがあるわ。ラグナスも拒絶の力によって侵食出来なかったし……」

 言いながらシェーレがノヒンに唇を重ね、舌を絡ませる。が、ノヒンは微動だにせず、シェーレを見据える。

「ちょっとした心の機微で侵食しやすくなるのだけれど……あなたは本当にブレないわね? 事象崩壊魔術が侵食の邪魔をしているのだとは思うけれど、あなたの性質も作用していそうね?」
「おめぇみてぇな糞によ、侵食だかなんだか訳わかんねぇことされるわけねぇだろ」

 ノヒンのその言葉に、楽しそうにシェーレが笑う。

「……とりあえず話を続けましょうか? あなたは肉の体が死んだ後の魂がどうなるか分かる?」
「分かんねぇよ。まあでもよ、生まれ変わるとかじゃねぇのか?」
「違うわ。さっきも言ったけれど、魂はただのエネルギー。生まれ変わりなんてないのよ? 生まれ変わりのような事象が発生するならば、それは肉の体に刻まれたデータの発露。肉の体が死んだ後、魂は世界を揺蕩う。そうして新たな生命が誕生する際のエネルギーとなる。まあつまり、エネルギーの循環ね? 魂の総量は決まっているの。その総量の決まった魂を侵食、一つとなって管理し、停滞させるのが私よ? 神話大戦時代、とりあえず私はアウルゲルミルの魂に紛れ込んだ。認識すらされていないからこそ、紛れ込むのは簡単だったわ。そうしてアウルゲルミルが殺した人達の魂──エネルギーを侵食して管理し、私はどんどんエネルギーを大きくしていったの。気付けばロキ以外にも時折観測されるようになっていったわ。その後はオーディンによる世界生成に巻き込まれてアースアメリカ大陸に転送され、アースではアウルゲルミルがまた大量に人を殺した。その魂を侵食し、私はさらにエネルギーの総量を増やしていったの。最初はね、死んだ者の魂くらいしか侵食出来なかったの。でもエネルギーの総量を増やしたことで、私は生者の魂やNACMOも侵食出来るようになっていった。気付けばアウルゲルミルの魂も侵食し、管理することに成功したわ。そうして私はアースで停滞した世界を実現したの。私が侵食して管理した魂を新たに生まれてくる生物に分け与え、。生まれてくる生物も、NACMOですら私。知ってる? アースの生物はレイラやサマンサ以外は?」
「はぁ? そりゃどういう意味だよ」
「他の生物の魂の管理は完了したけれど、ヴァンやヘルの魂の管理は完全には出来なかったの。専用兵装もそうね。おそらくヴァンやヘル、十二の咎の由来がユグドラシルだからかしら? 侵食してある程度は管理出来たけれど、完全にではないわ。出来たのは記憶の改竄くらいかしらね? ガランドウですら記憶の改竄が済んでいるわ。レイラやサマンサは一度死んだことで、私の魂の侵食が無効になってしまったけれど、ガランドウに関してはまだ有効みたいね。と言っても、やはりガランドウは強力な個体。記憶の改竄もしか出来ていないわ。ああそうそう、私はヴァンやヘルの子孫の体を使っているけれど、それは遺伝データで因子の少ない個体だからよ?」

 次々と語られる信じられないような事実。正直ノヒンは正しく理解出来ていないが、だがシェーレは想像以上に危険な存在だということは理解した。

「……そうして数千年、ヴァンやヘルの因子が濃い個体であるレイラやサマンサが生まれた。結局記憶の改竄くらいの管理しか出来なかったけれど、レイラはその管理を無意識下でわ。本当に事象崩壊魔術は厄介よ。だから考えたの。どうすればレイラを完全に管理出来るのか……ってね?」


 


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