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第二部 第三章 異界の客人神
今は何も考えず、ただあなたの体温を──
しおりを挟む『俺がマヤを殺した』と、ノヒンが吐き捨てるように言い放つ。
「てめぇがこっちで暴れてる間に俺が殺した」
「嘘……ダ……嘘ダ……嘘ダ嘘ダ嘘ダ……嘘……ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
樹が狂ったように叫び、体から無数の管を伸ばしてノヒンに突き刺した。
「オ前モ……オ前モ私ノNACMOデ!!」
「ちっ……」
「無駄だぜ樹?」と言いながら、ノヒンが自身の体に突き刺さる管をブチブチと引き抜く。
「俺の魔石にゃおめぇの魔素は効かねぇ」
「クソ……クソォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「ちっ……毎度毎度胸糞が悪ぃったらねぇぜ。おめぇにゃ同情するがよ……これで終いだ」
そう言ってノヒンが樹の胸を貫き、魔石を引き抜く。樹の胸に空いた穴からはオイルのようなドス黒い液体が流れ出し……
怨嗟の言葉を吐きながら樹がその場に倒れ、絶命した。
「とりあえずこれがありゃいいんだろ?」
「うん! それがあればアースのアラガネの制御が出来る! ……ってソラトが言ってた」
ノヒンが樹の胸から引き抜いた魔石。それは半分ほどが機械化し、通常の魔石とは異なっていることが分かる。
「んじゃまあみんなのところに……」
そう言いながら前を向いたノヒンが動きを止め、「あぁ……」と声を漏らしながら頭を掻きむしる。
「ノヒン!! [ノヒンだ!!]」
ノヒンの視線の先、涙でぐしゃぐしゃになった顔のジェシカが立っていた。ジェシカの傍らにはヴァンガルムがいて、再会に水を差さないようにしてくれているのか……『やれやれ』といった様子で後ろを向く。
「バカッ! バカバカッ!! 生きていたなら連絡くらいしろっ!! [今回は私も言わせてもらう! ノヒンのバカ!!]」
泣きながら駆けて来たジェシカがノヒンに抱きつき、胸を叩く。
「悪ぃ……ちょっと色々と立て込んでてよ。つーか痛ぇって。そんなに殴んなよ」
「私は……私は! 怒ってるんだ! 今すごく怒ってる!! でも……でも……よがっだ……う゛ぅ゛……よがっだぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…… [ジェシカ……すごく悲しんでたんだよ……? 私は少し黙ってるから……]」
「悪ぃなヨーコ。っても泣き過ぎだろジェシカ……笑ってくれねぇかな?」
ノヒンが泣きじゃくるジェシカの涙を指で拭い、唇を重ねる。
「んん……ぷは……バ、バカッ! 私はそんなことで誤魔化さ……んんっ!!」
ジェシカが身を捩って抵抗するが、そんなことには構わずノヒンが唇を重ねる。
「んん……ぷは……バカ……バカバカ……バーカ……」
「ちっ……バカバカうるせぇよ。おいヘビ公」
「ん? なぁに?」
「ちょっと俺らの周りに壁を作ってくんねぇか? それと……『アクセプト』」
ノヒンが兵装を解除し、ヨル君が小型の白いヘビへと戻る。
「壁を作ったら外で待っててくれ。ジェシカとヨーコ、三人で話してぇんだ」
「久々の再会だもんね! 任せて!」
ヨル君がノヒンとジェシカを囲むように大地を隆起させて壁を作る。
「これでいい?」
「悪ぃなヘビ公」
「それじゃ僕は外で待ってるね!」
そう言ってヨル君が生成した壁を這うように登り、外へと出ていった。
「な、何をするつもりだノヒン……? [だ、黙ってるって言ったけど……もしかしてノヒン……]」
「愛してるぜ? ジェシカ……ヨーコ……」
そう言ってノヒンがジェシカに唇を重ねながら鎧と服を脱がせる。
「ダ、ダメだってノヒン…… [そ、そろそろみんな目を覚ましちゃうよ……?]」
「ヨーコもよくやってただろ? 俺の体の傷をさすってよぉ……」
言いながらノヒンがジェシカの体の傷を優しく触る。
「み、見ないでよ……」
「見てぇんだよ。ジェシカとヨーコが頑張った証だからな……今見ねぇと治っちまうだろ……?」
ジェシカは魔女なので、そのうち傷は消える。だが先程までの樹による陵辱の痕がまだ残る。
「バカ……んん……」
二人が……
いや……
三人が深く愛し合う。神話時代の宿因に巻き込まれ、傷つき、傷つけ……
それでも今はこうして肌を触れ合わせ、お互いの体温を感じながら愛し合えている。それが嬉しくて嬉しくて……
三人は涙を流し、嗚咽しながらも時間を忘れて愛し合った──
──第二部第三章 異界の客人神 了
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