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第二部 第三章 異界の客人神
樹─イツキ─
しおりを挟むヨル君と名乗った白蛇が変化した鎧は、どこか神聖な雰囲気を帯び、鎧と言うよりは神事の儀式に用いる装束に近い。純白の装束の所々には生きた白蛇のような装飾が絡みつき、神聖を増すかのような金色の装飾も輝く。
白き装束を見に纏ったノヒンが、ギチギチと全身に力を漲らせる。そのまま右手を振ると、ガチンッと黒錆色の長剣──斬鉄が姿を現す。そのまま左腕も降って黒錆の長剣を出し──
「頼んだぜヘビ公!!」
「だ、だからヨル君だって! 行っくよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
白き装束──ヨル君が叫ぶと同時、地面からは黒い霧が立ち上り、大地が揺れる。揺れる大地は轟々と音を轟かせ、ノヒンの眼前の地面が隆起し──
巨大な人型の胸元まで続く、隆起した大地による道が出来た。
それと同時、ノヒンが身を低くして目を閉じ、全身に力を漲らせて血燃の詠唱に入る。
「はっ! マジでどいつもこいつもめちゃくちゃしやがってよ! 確かにてめぇにゃ同情するぜ樹! だけどよ……自分がめちゃくちゃされたからってよぉ……それを他人にやっていい道理にはならねぇだろ! てめぇの勝手な欲望のために暴走してよぉ……命を弄んでんじゃねぇ!!」
ノヒンが口にした樹と言う名前。それはヴァンガルムがマリルに話した、初代アースガルズ責任者アラハバキ──荒羽場樹のことだ。
過去マヤによって陵辱され、終わることのない拷問を受け……
頭と胴体だけを残し、人型のアラガネのように成り果てて狂った男。
それでもマヤを求め続けた哀れな男。
失われ、機械化させられた男性の象徴でマヤを喜ばせ、玩具のように扱われた救われない男。
ヴァンガルム達はアラガネによる今回の騒動をマヤによるものだと思っていた。だが今のノヒンの口ぶりから察するに、今回の騒動はアラハバキ──荒羽場樹の暴走ということなのだろうか。
「……ぐぅ……う……魔石が熱ぃ……熱ぃが……もっとだ……もっと燃えやがれっ!! 例え俺がここで死のうが燃え尽きようが……俺は……俺の周りの奴らは! これ以上傷付けさせねぇ!!!! っくぞぉっ! 血燃ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
ノヒン渾身の咆哮──
体からは魔素が爆発するように溢れ出す。溢れ出した魔素は燃えるようにゆらゆらと揺らめき、周囲の景色を歪める。
「ぐ……ぎぃ……相変わら……ず……とんでもねぇ負荷だが……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドパンッ! と凄まじい轟音を響かせ、ノヒンが消える。
それと同時──
巨大な人型の胸の中心が消し飛ぶ。ヴァンガルムが分析した結果によれば、魔石のある位置のはずだが……
「ちっ! 胸にはいなかったようだな! 頼んだぞヘビ公!!」
「だからヨル君だってば! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ヨル君の叫びに反応するように、巨大な人型の周囲には、縦横無尽に駆け巡る隆起した大地による道が現れる。もはや巨大な人型の周囲は隆起した大地で囲まれ、身動きが取れない状態だ。
「っしっ!! んじゃまぁ……ぶっ飛べやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ズガンッと地面を蹴りつけ、現れた道をノヒンが駆ける。駆ける……とは言ったが、もはや目視出来ない速度での致死の突撃。
そのままの勢いでノヒンが巨大な人型の左腕──肩口の部分を、黒錆の長剣による横薙ぎの一閃で消し飛ばす。
続いて巨大な人型の足元へと向かおうと振り返るが、目の前には無数の人型と機械的な管の群れ。
「ちっ! わらわらわらわらとよぉ……邪魔……だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
凄まじい勢いのノヒンの突撃。もはや通常の人型や管ごときではノヒンを止められない。ノヒンが駆ける軌道上、全てのものが消し飛んでいく。
「うるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
巨大な人型の足元へと到達したノヒンが、そのままの勢いで右足を消し飛ばす。足を消し飛ばされたことで巨大な人型がバランスを崩すが、隆起した大地に囲まれているため倒れることはない。
「ちっ! デカすぎて樹の場所が分かんねぇ!」
「どうするのノヒン!? 血燃もそんなにもたないでしょ!?」
「はん! んなもん決まってんだろ! 出し惜しみなしで一気に行くぜぇっ!!」
「もう! 本当にノヒンは作戦もなにもあったものじゃないんだから!」
ノヒンがガチンッと歯を食いしばる。
全身にギチギチと力を漲らせ、体からはさらに魔素が溢れ出す。
「……っくぞおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
血燃状態での、全てを出し切る力任せの乱舞。
凄まじい速度で巨大な人型の体が消し飛んでいき──
「……ぜは……はぁ……はぁ……やっと捕まえたぜ樹……」
気付けば巨大な人型は跡形もなく消し飛び、隆起した大地の上、一体の人型の首を掴んで持ち上げるノヒンの姿。人型とは言ったが他の人型とは違い……
しっかりとした人間の胴体と顔がある。
樹と呼ばれたその人型は、黒い長髪に黒い瞳の中性的な顔立ちをしていた。そこだけ見れば人型などではなく、普通の人間に見える。
「ググ……離セ……俺ニ触ルナ……俺ニ触ッテイイノハ……マヤ様……ダケ……」
「残念だがマヤは死んだぜ? 俺が殺した」
「ナン……ダッテ……?」
ノヒンの言葉を聞き、樹と呼ばれた人型が目を見開く。
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