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第二部 第三章 異界の客人神
懐かしき声
しおりを挟む破壊的な衝撃を伴った巨大な人型による絶対死の叫び──
それは上空の雲を四散させ、周囲の岩や木々を砕く。
空を飛び交う鳥達の羽が舞い散り、その小さい体からは血を吹き出して落下。
「「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!」」
先程よりも長い時間をかけた叫びが、ヴァンガルム達を襲う。
「ぐうぅ……シールドで防いでいてもこの振動……直撃したら即死だっただろう。だが今回は……」
バリンッ──
ヴァンガルムが「今回は長いな」と言おうとしたところで、幾重にも重ねたシールド──外側の一枚が砕け散る。
「なんだとっ! シールドすらも粉砕するとはっ!!」
「ヴァ、ヴァンちゃん! とにかくこのまま逃げよう! 管も人型も動きが止まったみたいだし……少しでも離れれば!!」
見ればヴァンガルムやマリルを襲っていた機械的な管や人型が動きを止め、表面が薄紫色に光っていた。
「特殊シールドがなかったわけではないのだな! この叫びに対してだけ特化したシールドということか!!」
バリンッ──
さらにもう一枚シールドが粉砕される。
「ヴァンちゃん! そんなことはいいから離脱! 離脱だよ!!」
「す、すまん! では行くぞマリル! ファムも我らについてこい!!」
「オッケー! お母様はまだ気絶してるから、出来たらそっち方面に向かって欲しいかな!」
ファムがミシェリーを抱えながら、置いてきたセティーナのいる方角を見る。
「了解した! あそこであれば叫びの効果範囲の外だ! それとミシェリー! まだシールド展開が可能なら重ねて発動してくれ!!」
「任せて! インダイレクトシールド最大展開!!」
ミシェリーが薄紫色に光る半透明の膜──間接攻撃を無効化するシールドを展開。
「魔素が枯渇しそうだから今ので最後だよ! 今張られてるのは合計三枚! 全部壊される前に離脱しないと!!」
「よし! 全速力で離脱だ!!」
ヴァンガルムの掛け声と共に、一斉に飛び立ってこの場から離脱。少しでも巨大な人型から離れれば、叫びの影響も少なくなる。のだが……
「「「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!」」」
さらに叫びの勢いが増す。
「ちっ! 一度目の時はフルチャージではなかったのか!!」
バリンッ──
バリンッ──
二枚のシールドが続けて粉砕。残りシールドは一枚。これが粉砕される前に離脱しなければ……
死ぬ。
「ぐうぅ……あと少し……あと少しで叫びの効果範囲から離脱できる……離脱さえすれば後は我の実体殺しでコアを……」
バリンッ──
もう少しで叫びの効果範囲内から離脱というところで、最後のシールドが粉砕された。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それと同時、ヴァンガルム達を襲う凄まじい衝撃。
巨大な人型からはかなり離れ、叫びの威力は下がっているが……
ヴァンガルムの魔石にはビキビキとヒビが入り、体の制御が不安定になる。マリル達も骨が軋み、全身の毛細血管が裂け、体から血を吹き出しながら地面へと向けて落下。ヴァンガルム以外はあまりの衝撃に気を失った。
「ぐぅ…… (この高さからの落下では皆は脳を損傷するやもしれん……) 『アクセプト!』」
ヴァンガルムが導術を発動。落下するマリル達を鉄の鎖によって自身の体に縛り付ける。そのまま動作が不安定な体をなんとか動かして着地。導術の鎖を解除し、気絶したマリル達を地面へと寝かせる。
(なんとか助かった……。だが皆の損傷が激しいな。魔石や脳は無事なようだが……)
ヴァンガルムが巨大な人型を見る。
「ちっ…… (まだ叫んでおるのか……だがこれからどうする……? 我だけであれを倒せと……?)」
今現在動けるのはヴァンガルムのみ。他の者は強化再生があるとはいえ、おそらく動けるようになるには数時間はかかる。ランドやカタリナとは通信が途絶しており、例え通信できたところでどうにもならない絶望的な状況。さらにヴァンガルムは魔石を損傷し、体をうまく動かせない。
(だがやつは動きが遅い。実体殺しでコアの魔石さえ壊せれば……)
あの巨大な人型を導術によって分析した際、コアとなる魔石が心臓付近にあることは把握した。だがあまりにも対象が巨大過ぎ、おそらく一度の実体殺しでは魔石まで届かない。実体殺しを数度発動し、体表を削って魔石に近付かなければならないだろう。
さらにヴァンガルム自身が動きながらの発動となると、作用箇所にブレが生じる。そのうえヴァンガルムは、魔石の損傷によって動作が不安定となっている。
「ちっ…… (だがあれを放っておくなどという選択肢はない。皆が回復するまでの間に何度あの叫びとレーザー) ……まずいっ!!」
ヴァンガルムがあることに思い当たる。
「まだ極大レーザーを放っておらん! 逃げることに必死で失念しておったわ!!」
言いながらヴァンガルムが巨大な人型を見る。
「ダメだ……これは詰んでおるわ……」
ヴァンガルムの目に飛び込んできた、詰みの状況──
巨大な人型がヴァンガルム達の方へ向け、そのあまりにも巨大な尾根のような砲身を向けている。向けられた砲身の先は漆黒の穴であり、その穴が薄紫色の光を帯び、徐々に光度を上げていく。
「はは……無理……だ……」
もはやこの場からの離脱など不可能。もしかすれば、ヴァンガルムだけで逃げ出せばギリギリ自分だけは助かるかもしれない。だが専用兵装として生まれ、ヴァンと共に戦い、レイラに出会い、ノヒンと出会い……
専用兵装として合理的に考えてきたヴァンガルムに、今は人のような非合理性が芽生えていた。それは進化ではなく退化、強化ではなく弱体化なのかもしれないが──
「皆のことを置いて行くなど出来ん!!」
ヴァンガルムが傷付き倒れ伏した仲間の前に立ちはだかる。もはや導術でどうこうできる攻撃ではない。ならばせめて自分が先頭でという、なんの意味もない非合理的な行動。
巨大な人型が向ける砲身の先──薄紫色の光がさらに光度を上げていく。
極大レーザーが、今まさに発射されるというその瞬間──
「ぶっ飛べやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
あまりにも懐かしい声が、ヴァンガルムの耳に届く。
時間的には数ヶ月だが、二度と聞くことはないと思っていたあの男の声──
その声が響くと同時、巨大な人型の砲身がドパンッ! と轟音を響かせ──
消し飛んだ。
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