覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

文字の大きさ
上 下
202 / 229
第二部 第三章 異界の客人神

懐かしき声

しおりを挟む

 破壊的な衝撃を伴った巨大な人型による絶対死の叫び──

 それは上空の雲を四散させ、周囲の岩や木々を砕く。

 空を飛び交う鳥達の羽が舞い散り、その小さい体からは血を吹き出して落下。

「「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!」」

 先程よりも長い時間をかけた叫びが、ヴァンガルム達を襲う。

「ぐうぅ……シールドで防いでいてもこの振動……直撃したら即死だっただろう。だが今回は……」

 バリンッ──

 ヴァンガルムが「今回は長いな」と言おうとしたところで、幾重にも重ねたシールド──外側の一枚が砕け散る。

「なんだとっ! シールドすらも粉砕するとはっ!!」
「ヴァ、ヴァンちゃん! とにかくこのまま逃げよう! 管も人型も動きが止まったみたいだし……少しでも離れれば!!」

 見ればヴァンガルムやマリルを襲っていた機械的な管や人型が動きを止め、表面が薄紫色に光っていた。

「特殊シールドがなかったわけではないのだな! この叫びに対してだけ特化したシールドということか!!」

 バリンッ──

 さらにもう一枚シールドが粉砕される。

「ヴァンちゃん! そんなことはいいから離脱! 離脱だよ!!」
「す、すまん! では行くぞマリル! ファムも我らについてこい!!」
「オッケー! お母様はまだ気絶してるから、出来たらそっち方面に向かって欲しいかな!」

 ファムがミシェリーを抱えながら、置いてきたセティーナのいる方角を見る。

「了解した! あそこであれば叫びの効果範囲の外だ! それとミシェリー! まだシールド展開が可能なら重ねて発動してくれ!!」
「任せて! インダイレクトシール間接防御壁ド最大展開!!」

 ミシェリーが薄紫色に光る半透明の膜──間接攻撃を無効化するシールドを展開。

「魔素が枯渇しそうだから今ので最後だよ! 今張られてるのは合計三枚! 全部壊される前に離脱しないと!!」
「よし! 全速力で離脱だ!!」

 ヴァンガルムの掛け声と共に、一斉に飛び立ってこの場から離脱。少しでも巨大な人型から離れれば、叫びの影響も少なくなる。のだが……

「「「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!」」」

 さらに叫びの勢いが増す。

「ちっ! 一度目の時はフルチャージではなかったのか!!」

 バリンッ──

 バリンッ──

 二枚のシールドが続けて粉砕。残りシールドは一枚。これが粉砕される前に離脱しなければ……

 死ぬ。

「ぐうぅ……あと少し……あと少しで叫びの効果範囲から離脱できる……離脱さえすれば後は我の実体殺しヴォイドグラスプでコアを……」

 バリンッ──

 もう少しで叫びの効果範囲内から離脱というところで、最後のシールドが粉砕された。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 それと同時、ヴァンガルム達を襲う凄まじい衝撃。

 巨大な人型からはかなり離れ、叫びの威力は下がっているが……

 ヴァンガルムの魔石にはビキビキとヒビが入り、体の制御が不安定になる。マリル達も骨が軋み、全身の毛細血管が裂け、体から血を吹き出しながら地面へと向けて落下。ヴァンガルム以外はあまりの衝撃に気を失った。

「ぐぅ…… (この高さからの落下ではみなは脳を損傷するやもしれん……) 『アクセプト鉄の鎖!!』」

 ヴァンガルムが導術を発動。落下するマリル達を鉄の鎖によって自身の体に縛り付ける。そのまま動作が不安定な体をなんとか動かして着地。導術の鎖を解除し、気絶したマリル達を地面へと寝かせる。

(なんとか助かった……。だがみなの損傷が激しいな。魔石や脳は無事なようだが……)

 ヴァンガルムが巨大な人型を見る。

「ちっ…… (まだ叫んでおるのか……だがこれからどうする……? 我だけでを倒せと……?)」

 今現在動けるのはヴァンガルムのみ。他の者は強化再生があるとはいえ、おそらく動けるようになるには数時間はかかる。ランドやカタリナとは通信が途絶しており、例え通信できたところでどうにもならない絶望的な状況。さらにヴァンガルムは魔石を損傷し、体をうまく動かせない。

(だがやつは動きが遅い。実体殺しヴォイドグラスプでコアの魔石さえ壊せれば……)

 あの巨大な人型を導術によって分析した際、コアとなる魔石が心臓付近にあることは把握した。だがあまりにも対象が巨大過ぎ、おそらく一度の実体殺しヴォイドグラスプでは魔石まで届かない。実体殺しヴォイドグラスプを数度発動し、体表を削って魔石に近付かなければならないだろう。

 さらにヴァンガルム自身が動きながらの発動となると、作用箇所にブレが生じる。そのうえヴァンガルムは、魔石の損傷によって動作が不安定となっている。

「ちっ…… (だがを放っておくなどという選択肢はない。みなが回復するまでの間に何度あの叫びとレーザー) ……まずいっ!!」

 ヴァンガルムがあることに思い当たる。

「まだ極大レーザーを放っておらん! 逃げることに必死で失念しておったわ!!」

 言いながらヴァンガルムが巨大な人型を見る。

「ダメだ……これは詰んでおるわ……」

 ヴァンガルムの目に飛び込んできた、──

 巨大な人型がヴァンガルム達の方へ向け、そのあまりにも巨大な尾根のような砲身を向けている。向けられた砲身の先は漆黒の穴であり、その穴が薄紫色の光を帯び、徐々に光度を上げていく。

「はは……無理……だ……」

 もはやこの場からの離脱など不可能。もしかすれば、ヴァンガルムだけで逃げ出せばギリギリ自分だけは助かるかもしれない。だが専用兵装として生まれ、ヴァンと共に戦い、レイラに出会い、ノヒンと出会い……

 専用兵装として合理的に考えてきたヴァンガルムに、今は人のような非合理性が芽生えていた。それは進化ではなく退化、強化ではなく弱体化なのかもしれないが──

みなのことを置いて行くなど出来ん!!」
 
 ヴァンガルムが傷付き倒れ伏した仲間の前に立ちはだかる。もはや導術でどうこうできる攻撃ではない。ならばせめて自分が先頭でという、なんの意味もない非合理的な行動。

 巨大な人型が向ける砲身の先──薄紫色の光がさらに光度を上げていく。

 極大レーザーが、今まさに発射されるというその瞬間──


「ぶっ飛べやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 あまりにも懐かしい声が、ヴァンガルムの耳に届く。

 時間的には数ヶ月だが、二度と聞くことはないと思っていたの声──

 その声が響くと同時、巨大な人型の砲身がドパンッ! と轟音を響かせ──

 消し飛んだ。


 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...