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第二部 第三章 異界の客人神

アラハバキ

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 ──プレトリア南西、岩石地帯

 ここはかつて天岩戸あまのいわとが安置されていた岩石地帯。そこかしこに巨大な岩が転がり、身を隠すには適した場所である。その岩場の陰に、二つの影が潜む。

「ヴァンちゃんどうしよ……怖いよ……」
「落ち着くのだマリルよ。おそらくこれが次の段階なのだろうが……」
「みんな……みんな大丈夫なの……?」
「逃げる際に導術で少し分析は出来たが……あれはアラガネ化とは違った。だがなんにせよ……」

 「悪趣味にも程がある」と、ヴァンガルムが怒りを露わにする。

 カラハリ砂漠でジェシカ、ミシェリー、ルイスが大型のアラガネに取り込まれ、それと同時、プレトリアでもセリシアが取り込まれた。さらに大型のアラガネに取り込まれたセリシアがセティーナとファムを例のレーザーで攻撃。それによって負傷したセティーナとファムの背後にも大型の人型が現れ……

 今現在無事なのは、マリルとヴァンガルムのみとなっていた。おそらくあの大型の人型は、。それが分かったところで解決策も見つからず、とりあえずはこの岩石地帯まで逃げて来たのだが……

「アラガネ化とは違うの……?」
「おそらくとしか言えんが……分析結果によれば、取り込まれた者と人型の魔石は別々だった」
「助けられる……の?」
「分からん。分からんが……あの取り込まれた姿には覚えがある」
「え? ヴァンちゃんアラガネのこと知ってたの?」
「いや、アラガネのことは知らん。が、人型の機械から胴体と顔だけが覗き、体には無数の管が繋がれ……あれは……」

 「初代アラハバキと酷似しておる」と、ヴァンガルムが答える。

「アラハバキって……なんだっけ?」
「そういえばノヒンの死からゴタついておったせいで、マリルとはそういった話をしていなかったな。アラハバキとは……」


 アラハバキ──

 それはアースガルズの責任者であり、様々な神器を作り出した存在。そして……

 ロキの血族である。

 初代アラハバキは荒羽場樹アラハバイツキという名の男性で、ロキの子孫にあたる。アースガルズの前身──荒羽場開発研究所というのだが、その創始者が荒羽場魯樹アラハバロキ──ロキである。

 今より数千年の昔、ロキはNACMOナクモ──Nanoナノ automaticオートマチック cureキュア machineマシン organismオーガニズムと呼ばれる「微小自動治療機械生命体」を作り出した。

 NACMOナクモAI人工知能と呼ばれるを搭載した微小な機械生命体であり、元は医療用に開発されたものだ。

 そこからNACMOナクモNanoナノ automaticオートマチック convertコンバート machineマシン organismオーガニズム──「微小自動転換機械生命体」へと変化し、ロキが荒羽場樹アラハバイツキに研究所を任せた経緯をヴァンガルムは知らない。その辺りの記録は専用兵装では閲覧不可だったからだ。

 だが荒羽場樹アラハバイツキが研究所を継ぎ、名称を「アースガルズ」へと変更、自身の呼称も「アラハバキ」としてからのことは知っている。その時点ですでにマヤなどの三大咎さんだいこうは存在していた。そして……

 どういった経緯でそうなったのかは本人達にしか分からないが、

 連日連夜、マヤはアラハバキに陵辱と拷問を繰り返し……

 興が乗ったのか「NACMOの可能性を広げる実験よぉ」と、アラハバキの人体改造を行う。

 腕を落とし、脚を落とし、男性としての部位も切り落とし……

 気付けばアラハバキは頭と胴体だけを残して機械化させられていた。もはやその時点でアラハバキは狂っており、機械化した体でマヤを求め続けた。

 その後アースガルズはアラハバキ──荒羽場樹アラハバイツキの妹である荒羽場亜樹アラハバアキが、二代目アラハバキとして引き継ぐことになる。

 荒羽場樹アラハバイツキはマヤによって隔離され、マヤの性欲を満たすためだけの玩具へとなった。その時の機械化させられた荒羽場樹アラハバイツキの姿が──


「みんなが人型に取り込まれた姿に似てる……ってこと?」
「ああ。荒羽場樹アラハバイツキには薄紫色に光る筋がなかったからな。それで気付けなかった」
「……ってことは……これはやっぱりマヤの仕業ってこと?」
「その可能性が一番高くはあるが……」

 そう言ってヴァンガルムが考え込む。やはりアラガネによる一連の出来事は、マヤによるものだという可能性が高い。だがそれが分かったところで、現状では打開策が思い浮かばない。みなを取り込んだ人型の魔石だけを砕ければいいのだろうが……

「そうだ……ランドやカタリナに連絡してみたら? 私達だけだと無理だよ……」
「いや、我もそう思って何度か遠話器を繋いでいるのだが、どういうわけか繋がらん」
「え……? じゃあやっぱりヴァンちゃんと私だけで……?」
「そうなるが……さすがに今回は厳しそうだ……ん……? なんだアラン。なにか策があるのか?」

 ヴァンガルムが考え込んでいると、頭の中で「おいフェンリル」とアランの声がする。

(俺の魂喰いソウルイーターでなんとかなんねぇか? 喰って人型だけ取り込めば……)
「おお! その手があったか! ……とダメだ。貴様の魂喰いソウルイーターを発動するには巨大化せねばならん。巨大化した状態であのレーザーは躱せんな」
(確かにありゃ厄介だな。だがどうする?)
魔術殺しヴォイドハウリングの時のように魂喰いソウルイーターを構築し直せんか?」

 魔術殺しヴォイドハウリング──それは過去、魂喰いソウルイーターに喰われた焔先亜嵐ヒサキアランによって構築された新たな力であり、指定魔術を喰らい尽くして無効化する力。という力の、「」と「」という部分を無くすことで変化させた力だ。それによってという力に変わり、外に向けて発動することが可能となっていた。

「あれの対象を魔術の力場ではなく、物質に出来んか?」
(あぁん? 出来るとは思うがよ、専用兵装として装着して貰わねぇと難しくねぇか? それともおめぇ、あの複雑な計算しながら戦えんのか?)
「そうか……魔術殺しヴォイドハウリングは導術と違って相対座標などがマニュアル処理であったな。我が動きながらでは難しいか……」

 魔術殺しヴォイドハウリングは導術や魔術とは違い、効果範囲や作用箇所などが自動補正されない。発動するには動きを止めて集中しなければ難しいのだが……

 兵装として装着して貰えれば、データ処理だけに集中出来る。

「くそ……ノヒンがいなくなり、我はもう専用兵装としては機能出来ん……」

 ヴァンガルムが悔しそうに歯を食いしばる。
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