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第二部 第三章 異界の客人神
天地宿意
しおりを挟む──シェーレとの会談後、ミズガルズ王国王都ソール(旧聖王都ソール)王宮中庭
「あちらとの話し合いはどうだったのだ?」
季節外れの花々が咲き誇る王宮中庭で、シェーレとの会談を終えたラグナスにロキが問いかける。ラグナスの傍らには、軍馬の姿をしたスレイプニルの姿。そうして「あれは敵に回さない方がよかったのだろうが……」と、ラグナスが呟く。
「敵に回した……と?」
「レイラとサマンサを返せと言われたのでな」
「くく……返せばよかったではないか。貴様はいったい何を目指しているのだ?」
「私は徹頭徹尾、弱き者が蹂躙されない世界を目指している。あちらに返せば支配が待っているのでな」
「まだ魔女や半魔を弱き者と言うのか?」
「以前までは多数に蹂躙される弱き者だったが、今は『運命に翻弄されし弱き者』だ。必ず私がそれを変える」
「くく……なかなかに大変な道であるな? それで? アウルゲルミルは予想通りだったのか?」
「ああ。あちらは共存という名の支配を行っていた。アウルゲルミルは目的を達成して眠りについたのではなく、変化を遂げていたんだ。もちろんそれを知る者はいないのだろうがな」
そう、アウルゲルミルは眠ってなどいなかったのだ。数千年に及び、シェーレと結託して支配を行っていた。
ロキが「なるほど……」と考え込み、スレイプニルに視線を向ける。
「貴様はあちらにいたのだろう? 知らなかったのか?」
「そうですね……」
「私は知りませんでしたよ」と、スレイプニルがロキの問いに答える。
「アウルゲルミルとシェーレによる情報統制のレベルが高いのに加え、私自身も休眠中に何がしかの干渉を受けたのだと思われます。そもそも私は、あちらの代表者はレイラだと思っていました。そうなると、フェンリルも知らないのでしょうね」
「くく……話を聞いた限りではあちらの支配は数千年続いている。なんにせよ素晴らしい変化だ。フリームスルスもムスペルも変化を遂げ、アウルゲルミルもとなると残るは……」
「いや」
「ヨルムンガンドはすでに変化を遂げている」と、ラグナスがロキの言葉を遮って話す。
「それは初耳だな。ヨルムンガンドの所在は私ですら把握していない」
「事象干渉されていたようなのでな」
「くく……ここで空虚なる樹……ガランドウか。やつは万物に干渉する」
ラグナスやロキ、シェーレの会話で時折聞こえてくる「ガランドウ」「空虚なる樹」とは、マヤと同じくユグドラシルの化身である三大咎である。口ぶりからするに、事象に干渉する力──つまり事実を捻じ曲げる力を持っていることが伺える。
「厄介な相手ばかりで頭が痛くなってくるよ」
そうラグナスが言ったところで、地面が微かに揺れる。
「くく……どうやらアメリカ大陸が浮いたようだぞ?」
そう言ってロキが黒い霧を滲ませると、目の前に巨大な大陸──アメリカ大陸が空に浮かぶ映像が映し出された。
「あちらは素晴らしい変化を遂げたのだな。まさか私の作り出したNACMOがここまでの変化をもたらすとは……」
この日、世界は再び分断された。
ラグナスの治める地上──ミズガルズ王国と、シェーレが支配する天上──アメリカ大陸へと。
「あちらが支配による平等を実現したのだとしたら……今後はどう動くと思われる? そして貴様は……」
「どう動く」と、ロキの鋭い視線がラグナスに向けられる。
「シェーレもガランドウを警戒していた。おそらくすぐに動くということはないだろうが、いずれ衝突することになるのだろうな。こちらの動きとしては、まず国民のエインヘリャル化を完了させる。同時進行でアラガネの調査も行わなければな。ただ……」
「アラガネに関しては君が答えてくれればそれで済むのだが」と、ラグナスが冷ややかな目でロキを見る。
「シェーレに探りをいれてみたが、『私がいればあちらからの贈り物程度は問題ないわ』と言っていた。つまり今現在ジアースで発生するアラガネは、アースから来ているとみて間違いないだろう。それがどのような方法なのかが分かれば、早い段階で私もアースへと行くことが出来るかもしれない。このまま導術の練度を高めて次元干渉レベルをあげてもいいのだが、それには時間がかかるのでな」
「くく……貴様は本当に素晴らしいな? 気付けば三大咎へと並び立つ程の力となっている。私が答えを教えてもいいのだろうが、考えることによって齎される変化もあるのでな」
「君は本当に性格が悪いな」と、ラグナスが笑う。
「アラガネに関しての情報を伏せたのは……私がガランドウと接触していたことについて、君に言っていなかったことへの仕返しなのだろう?」
「どうだろうな?」
「やれやれ……ではこれには答えてくれるか?」
「なんだ?」
「アースはどうなっている? 何度か戻ったのだろう?」
「あちらは今……くく……面白いことになっておるわ。あまり干渉してはガランドウに目を付けられそうなのでな。とりあえずは軽く観察している。詳しく聞きたいか?」
「話してくれるのならな」
「くく……では食事でもしながらゆっくり話そうではないか。貴様のお膳立ての結果と──」
「確率世界の観測についてな」と言って、ロキが不敵に笑った。
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