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第二部 第三章 異界の客人神
氷の微笑
しおりを挟む──アメリカ大陸との接触から三ヶ月(ノヒンの葬儀から六ヶ月)
ようやくミズガルズ王国とアメリカ大陸での代表会談が行われることとなった。現在のアメリカ大陸に国という概念はないのだが、ヴァンとヘルの子孫による【日本】という名前を冠した街があり、実質その街の代表者がアメリカ大陸をまとめている。
この日本、実はレイラが興した街である。ジェシカとヨーコの母サマンサも住んでおり、ノヒンの名前の由来にもなっている。そして今現在のアメリカ大陸代表者はレイラの親類である。
名をシェーレといい、レイラと従姉妹関係にある。つまりラグナスとも血縁ということだ。シェーレもヴァンやヘルの血族ではあるのだが、容姿はヴァンやヘルにはそれほど似ていない。髪は透き通るような青いロングヘアで、切れ長の目がヴァンに似ていなくもない。と言った感じである。
ノヒンやジェシカがヴァン、ヘルに似ていたのは、あくまで魔石に刻まれたヴァンとヘルの因子が濃く発現したからである。
---
──ジアース、アメリカ大陸中央【日本】シェーレ邸
ジアースに統合されたアメリカ大陸は過去、オーディンによって生成された世界。ミズガルズとは違い、様々な技術レベルが高水準である。
全地形対応型の自動移動機(陸、海、空に応じて形態を使い分け、それぞれ車、飛行機、船と呼ばれる。個人利用の小型のものから、数千人規模の超大型まである)や、簡易転送機(小規模次元干渉による転送装置)などがあり、全てNACMOを動力として利用している。
街並みもミズガルズとはまったく別物で、天まで届くのではないかと思われる建物が整然と並ぶ。ただ、アメリカ大陸の代表者、シェーレが住む日本という街は「和風」と呼ばれる木造建築も目立つ。
シェーレから渡されたデータ端末によれば──
アメリカ大陸は、大気、水、大地、ほぼ全てがNACMOで構成されている。数千年の時間をかけてNACMOが進化し、万物の根源へとなっていたのだ。それこそ「Nano automatic convert machine organism(微小自動転換機械生命体)」という名前が示す通り、NACMOは機械であり、生物であり、環境に応じて自動で形態を転換し、その上でエネルギーにも転換される。
NACMOの出発点は高性能AI搭載の機械生命体だったのだが、その原点の物語はいずれ語られるだろう。
「本日は遠いところからよくいらっしゃいました。さあ、どうぞおかけになって下さい」
ラグナスの眼前に、まるで作り物のように美しい女性、シェーレが立つ。透き通るような青いロングヘアに、切れ長の目。陶器のように肌理の整った白い肌に、女性らしいしなやかな体型を包む黒いドレス。深く入ったスリットからは、惜しげも無く美しい脚がさらけ出されていた。
「では失礼させて頂きます」
ラグナスがシェーレに促され、モノトーンで統一された室内の椅子に腰掛ける。室内を見渡せば、ミズガルズとは趣の異なる調度品の数々。無駄がないと言えばいいのか、整いすぎる程に整っている印象を受ける。
「そちらとは雰囲気がだいぶ違うでしょう?」
「技術的にかなり高度な印象を受けますね。ああ、それと……」
「こちらのデータ端末、有意義に使わせて頂きました」と、ラグナスがシェーレにデータ端末を差し出す。
「端末からのデータ取得は滞りなく?」
「はい。おかげでアメリカ大陸の現状だけではなく、過去何があったのか……その全てを把握することが出来ました」
「ふふ……データ量は膨大だったのだけれど……」
「優秀なのね?」と、シェーレが微笑む。
氷の微笑──
シェーレはそう呼ばれている。シェーレ自体は無詠唱特殊魔術を持たない魔女なのだが……
色々と常軌を逸していると、ラグナスの耳には入っていた。
「こちらもある程度だけれど、そちらの状況を調べさせて頂きました。どうやらオーディンは過去世界、西洋史における中世を軸に世界生成を行ったようですね。それが無意識なのか意識的なのかは今となっては分かりませんが……」
「オーディンがユグドラシルのデバイスについてどこまで知っていたのかは分かりませんからね。ただ彼は、檻を作りたかったのでしょう。その檻で何者にも干渉されず、ヘルと永遠に……といったところでしょうか。技術レベルを下げたのは神器が無駄に作成され、邪魔にならないように……でしょう」
「おそらくそうでしょうね。新しく神器が作成され、技術レベルが上がっていけば、自分を脅かす存在が現れるかもしれないと考えたのでしょう。それに対してこちらはアウルゲルミルを封じるためだけに生成されたので、技術レベルの制限などは受けていない……とまあ、なんの意味もない上辺だけの会話はやめましょうか?」
そう言ったシェーレの雰囲気がガラリと変わる。視線は刺すように鋭く、凍てつくように冷たい。
「レイラとサマンサは無事なのよね?」
「はい。とても大切に扱っていますよ?」
「返すつもりは?」
「本人に聞いたらどうでしょう?」
「その話し方もやめてくれないかしら?」
「お気に召しませんか?」
「ええ。とっても」
お互いに表情は変えず、柔らかな笑みを浮かべてはいるが──
身を刻むような、ヒリついた空気が流れる。
「ふふ。噂通りの人だ。まったく隙がない。本当にただの魔女なのか?」
ラグナスが普段通りの口調で微笑む。
「あなたもなかなかよ? 話し方も今の方が素敵ね」
「ありがとうと言っておこう」
そう言って二人が笑う。
「これは忠告だけれど……レイラとサマンサ、そちらでは扱いきれないと思うわよ?」
「それはどういう意味だ?」
「考えたことない? サマンサはニヴルヘイムの影響で力が不安定だったとして、レイラはどう? 実力で言ったら三英雄のヴァンを超えるかもしれないわ。そのレイラが……」
「たかが人間に手篭めにされると思う?」と、シェーレが問いかける。
「それは私も疑問に思っていた。レイラの魔石情報を解析した限りでは、たかが山賊にいいようにされるはずがない。私の父グレイスもそうだ。グレイスも導術は使えたが、正直レイラの強さにはまったく及ばない」
「そこから導き出される答えは?」
「魔石の解析情報には不審な点はなかった……抵抗しないにしても限度を超えている……そうなると……」
「なにがしかの干渉……神器による支配か?」と、ラグナスがシェーレを見据える。
「そちらとこちらでは技術レベルが全く異なるわ。こちらにはそちらにない様々な神器があるのよ。あえてデータ端末から情報を削除していたのだけれど……さすがね。あなたの専用兵装も知らない情報だから……」
「本当に賢いのね」と、シェーレが微笑む。
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