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第二部 第二章 闇の咎─淫獄の魔女─

決戦─専用兵装フェンリル─

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「アランはなんと言っておるのだ?」
「『もう一度フェンリルを喰え』ってよ。魂喰いソウルイーター使ってなんか出来るみてぇだぜ?」
「なんかとはまた適当な……」
「アランがそう言ってんだよ。……あぁん? なんだ? 言やいいのか?」

 ノヒンが「ちっ」と舌打ちし、「来いよフェンリル! いや! ヴァンガルム! 俺の相棒はおめぇにしか出来ねぇ!」と、ヴァンガルムにアランの言葉を伝える。

「何を生意気な……」

 そう言ったヴァンガルムの顔が嬉しそうに綻ぶ。

「よし! ではノヒン! 我を!」
「まあよく分かんねぇが……普通に喰やいいんだよな?」

 言いながら黒き獣──ノヒンが口を大きく開いて一気にヴァンガルムを喰らった。


---


 ──魂喰いソウルイーター構築次元内部

「久しぶりだなフェンリル」

 魂喰いソウルイーターに喰われたヴァンガルムの目の前──

 そこにはノヒンに似た、だが真っ赤に燃えるような髪の焔先亜嵐ヒサキアランが立っていた。

「悪かったな、さっきは。久しぶりの魂喰いソウルイーター発動で状態が安定してなくてよ。ちゃんと実体化出来なかったんだ」
「今の貴様の状態はどういうことなのだ?」
「アレンに喰われた後の記憶ははっきりしねぇが……俺が魂喰いソウルイーターそのものになったんじゃねぇか? よく分かんねぇけどよ」

 そう言って笑いながら頭を搔く姿がノヒンと重なる。

「いや、おそらくだが……貴様の魔石もオーディンやヘルと同じ祝福を受けた魔石だ。その魔石をアレンが喰ったことによる変化なのではないか? 魂喰いソウルイーターそのものになったというよりは、アレンの半魔の力、フェンリルが変化したのだろう。つまり貴様はフェンリルであり、焔先亜嵐ヒサキアランでもあるということだ。データがうまい具合に混じりあったのだろうな」
「悪ぃ。全然意味が分かんねぇ。つーかおめぇもって名前のせいでややこしくて頭が痛くなってるとこだ」
「くく……相変わらずだな? それより何か策があると聞いたが?」
「ああ、それなんだけどよ……」

 ノヒンが今現在使用している魔術を喰らって打ち消す力、魔術殺しヴォイドハウリング。これはということになる。

 現状アランが同時処理出来る魔術の数は、魔術の規模にもよるが四つ程度。ノヒンが認識し、指定している数にはどうしても処理が間に合わない。

「つまり我に手伝えと?」
「そういうの得意だろ?」
「だがどうする? 我は外の状態も分からんし、例え分かったところでデータ共有にはタイムラグがある」
「そりゃこうするんだよ。『アクセプト装着!』」

 アランがアクセプトと叫ぶと同時、ヴァンガルムが黒狼の鎧となってアランに装着された。だがそれと同時、ヴァンガルムが違和感を覚える。

「お、おいアラン! これはどういうことだ! これは装着などではなく……」

 ヴァンガルムを襲う圧倒的な違和感。

「ははっ! 悪ぃ! 装着するつもりが同化しちまった! 装着したら今見てるもんが共有されるだろ? そのつもりでやったんだけどよ、俺がフェンリルのせいかぁ?」

 「ちっ!」と一際大きなヴァンガルムの舌打ち。

「貴様はいつもそうだ! 考えなしで行動しおって!」
「まあまあいいじゃねぇかよ。えーと? これはおめぇを喰って取り込んじまったけど……おめぇは喰われてねぇってことでいいのか?」
「よく分からんことを言うな! 我は貴様に喰われ! 貴様の一部となったのだ! やるならやると言え! もし仮に我が消滅していたらどうするつもりだったのだ!」
「ははっ! 悪ぃ! 考えてなかったぜ!」
「ちっ……まあだが……」

 「これはこれで悪くはないのかもしれんな」と、ヴァンガルムがため息混じりに呟く。

「貴様は我の専用兵装としての力も得たということだ。今の状態を詳しく解析してみなければ分からんが……」
「めんどくせぇ話はいいって。つまり?」
「貴様は魂食いソウルイーターとしてではなく、専用兵装として外で活動出来る……はずだ」
「そりゃ最高じゃねぇか!」
「本当に分かっておるのか? 我らは魂食いソウルイーターであり、専用兵装でもあ……」
「細けぇこたぁいいんだよっ!」

 アランがヴァンガルムの言葉を遮り、嬉しそうにはしゃぐ。

「それより名前だ名前! 俺も今はフェンリルなんだっけか? アレンに喰われてフェンリルの魂喰いソウルイーターで? んでおめぇを喰って専用兵装……ああ! めんどくせぇっ!!」

 「フェンリルだフェンリル!」と、アランが面倒くさそうに言い放つ。

「やれやれ……貴様は本当に変わらんな……」


---


 ──ノヒン視点

 アランがヴァンガルムを喰ったことで、ノヒンにも変化が起きていた。巨大な体はバキバキと音を立てて収縮し、ゆっくりと人型へと戻る。だが──

 その背中には機械的な羽が生え、顔は冷たく無表情な鋼鉄の仮面で覆われていた。

 黒狼の重鎧に機械式の羽が生えた姿とでも言えばいいのか、纏う雰囲気は重々しい。

「おお、体が元に戻りやがった。羽まで生えてやがるぜ」

 ノヒンが確認するように腕を振ると、ガギンッと黒錆の長剣が現れた。それと同時、ヴァンガルムの「使いこなせているようだな」という声が聞こえた。

「戻って来れたみてぇだな。つーかいつもと鎧が違うのはどういうことだ?」
「この姿は専用兵装である我の新しいバージョンのようなものだ。貴様が動きやすいよう、なるべくいつもと同じような姿に我とアランで調整した」
「よく分かんねぇが……結局どうなったんだ?」
「我とアランが同化した。まあジェシカとヨーコのようなものだ。あの二人と違って表で活動している方しか発声は出来ないがな」
「スイッチとかは出来んのか?」
「出来るのだが、しばらくは専用兵装として慣れている我が表に出る。アランは……ちっ……休眠しおったわ。おそらく我と同化したことによるデータ共有の負荷で一時的に……」
「細けぇこたぁ後にしてくれ。んで? アランが言ってた策ってのはなんだ?」
「やれやれ……貴様とアランは本当に似ておるな。アランの策とは……」

 ヴァンガルムが説明しようとしたところで、灰色の巨像──マヤが動き出す。

《あ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!! マリルちゃん!? マリルちゃんはどこに行ったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 出てきて!! 出てきてよマリルちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!! 私と一つになりましょ!! 永遠にセックスしましょぉぉぉぉぉぉぉぉよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!》

 鼓膜が破れるのではないかという程の叫び。マヤは叫びを上げながらその暗い空洞のような目で辺りを見渡し、ノヒンと目が合う。

《あなたねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ? マリルちゃんを隠したのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!》


 リィン──


 マヤの口元に、幾重にも重なる巨大な魔法陣が現れる。それと同時──

 リィン──

 リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリィン──

 鈴の音のような音がし、魔法陣から凄まじい数の光の筋が無作為に伸びる。

「おいおいおい……とんでもねぇ数じゃねぇかよ。こんなんこの辺一帯消えちまうんじゃねぇか?」
「ちっ! マヤめ! 無茶苦茶しおって! とりあえずノヒン! 貴様は光の筋に沿って現れる魔法陣を認識だけしろ! 目で見てと認識するだけで構わん! あとは我が処理をする!」
「見るだけだぁ?」
「よそ見をするなノヒン! とにかく魔法陣だけを目で終え! 来るぞ!!」

 リィン──

 リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリィン──

 魔法陣から伸びた光の筋に沿って進むように、大小様々な魔法陣が現れる。その数は凄まじく、もはや眼前の景色が魔法陣で埋め尽くされ……

「ちっ! 見るだけでいいんだな!?」
「急げ!!」

 ヴァンガルムに言われるがまま、ノヒンが現れた魔法陣を視界の中に収めて認識する。すると……

 認識した魔法陣に見慣れない丸い印がカチカチと浮き上がった。

「なんでぇこりゃ!」
「照準……ロックオンマークだ! いいから全て視界に入れろ!」

 ノヒンがヴァンガルムに言われるがまま視線を動かすと、視界に入る魔法陣に悉くロックオンマークが現れていく。



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