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第二部 第二章 闇の咎─淫獄の魔女─

殲滅戦 2

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「なかなかいい連携ではないか。魔獣達の数もかなり減らすことが出来た」
「ぜはっ……はぁ……いいご身分だなぁ? こっちはぼろぼろだってのによ」

 ノヒンがこの場に溢れる魔素を吸収し、体の損傷部位を再生する。だがやはりいつもより再生速度が遅い。

「いやいや。貴様が傷付いているということは、鎧である我も損傷しているということだ」
「……の割には余裕そうだな?」
「鎧化している時は痛覚が遮断されている。我がいちいち悲鳴を上げていてはうるさかろう? と言っても元々痛覚はほとんどないがな。どちらかと言えば単なる触覚と言った感じだ」
「ちっ……まためんどくせぇこと言いやがって。まあだが、さっきの導術でのサポートは助かった」
「これが本来の専用兵装を使用した戦い方だ。貴様の無詠唱特殊魔術と合わせれば敵などおらんわ」

 確かにな、とノヒンも思う。自分の動きに合わせての導術でのサポート。専用兵装であるヴァンガルムの導術は強力ではないらしいのだが、それでも先程の威力だ。やはり導術は恐ろしく強い。

「……んじゃまあちゃっちゃと終わらせるぜ?」
「そうすんなりと行けばいいのだがな。何せ相手はあのマヤだ。ここまでなんの動きがないのも不気味ではある」
「まあ考えてもしょうがねぇ。とりあえず残りの魔獣蹴散らして……ってもマリル達が操られてんだよな? 正直『殺されたくなかったら言う事聞け』とか言われたらお手上げだぜ?」
「すぐに操られた状態を解除出来ればいいのだが……マヤが近くにいては、我とジェシカの導術を防がれる可能性もある。まあだが、それに関しては我に任せてくれ」
「そういや何か考えがあるとか言ってやがったな」

 ノヒンが舌打ちをしながら、頭をガシガシと掻く。

「……信じていいんだな?」
「ああ。順調に事を運んでいる。ただ、少し急がねばならんかもしれん。先程フギンとムニンのデータから新たな情報を拾ったのだが……聞くか?」
「その感じ……いい情報じゃねぇみてぇだな」
「ふむ……」
 
 ヴァンガルムがしばらく黙ったあと、「拷問だ」と言い放つ。

「あやつは性根が腐っておるからな。魔女や半魔はどれだけ傷付けようと、殺しさえしなければ再生する。どうやらやつは気に入った相手を拷問しながら陵辱するようだ。と言ってもそれはすぐにではないらしいがな。行為がエスカレートしてそうなるようだ」
「ちっ! 魔獣蹴散らしてる場合じゃねぇじゃねぇか!!」
「それは我も同感だ。少しマヤの異常性を見誤った。貴様は真っ直ぐマヤのところまで飛べ。姿を隠す程度の魔術であれば、我の導術で打ち消すことが可能なのでな」
「速攻で終わらせるぞわん公……」

 ノヒンがギチギチと全身に力を込める。

 そのままズガンッと地面を蹴りつけ、マヤのいるであろうイルネルベリ城空中庭園へ向けて飛び上がった──


---


 ──ジェシカ、ヨーコ視点

「ちっ! 邪魔だぁっ! 姉さんシャムシールだ! [任せて!] そこっ! はぁっ! 『アクセプト火球!』 まだまだっ! くたばれっ! 『アクセプト鉄の槍!』 姉さんロングソード! [オッケー!] こっちはそれほど魔獣が多くないなっ! [たぶんノヒンの方にたくさん集まってるんじゃない!?]」

 ウティコリン港を目指すジェシカとヨーコの前にも、多数の魔獣が群がるが……

 死の女神ヘルモードを発動したジェシカの凄まじい速度による剣戟の乱舞。武器はヨーコのニヴルヘイムによって分解、再構築することで瞬時に持ち替え、さらに導術も駆使し、イルネルベリ市民に近付く魔獣を蹴散らす。

 ヨーコは幻術を常時発動し、市民から魔獣を遠ざけていた。さらにヨーコはニヴルヘイムのデータに残る鋼鉄の盾や鉄柱、はては鉄の扉などを生成し、魔獣からの攻撃を防ぐ。

 二人の連携は恐ろしく強く、問題なくウティコリン港へと到着。

「ありがとう姉さん。幻術で魔獣を遠ざけてくれたおかげで被害はほぼゼロだ。武器の持ち替えもスムーズで助かる。 [私よりジェシカだよ! すっごく強いね!] いや、導術があるとはいえやはり私は近接戦闘がメイン。姉さんの幻術やニヴルヘイムは助かる。私はニヴルヘイムの扱いが下手だからな。 [やっぱり私達……いいコンビだよ!] そうだな。よし……」

 ジェシカが黒い翼を羽ばたかせ、高く飛び上がる。

「イルネルベリの民達よ! 私はこれからノヒンの元へと向かう! すまないがフリッカー大陸から来た方々! イルネルベリ住民のことを…… [待ってジェシカ! なんだか空が変だよ!] 空が変……?」

 ヨーコに言われ、ジェシカが空を見る。するとマヤによって上空に展開された魔法陣が鈍く光り、中からは黒く巨大な球体がズルりと出てくる。は城よりも大きく……

「なん……だぁ? [怖いよジェシカ……]」

 二人が呆然とを見ていると、の形がバキバキと音を立てながら変化する。恐ろしく巨大な翼に、ひどく長い首と尻尾……

 体は硬い鱗で覆われ、体色は禍々しい黒と赤で彩られている。

 あれは……

「嘘だろ……? 災禍ノ龍ディザスタードラゴンだ……。物語の中の存在だと思っていたが…… [ディザスタードラゴン? それって……]」
「ル゛ル゛ル゛……ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」

 魔法陣から現れたディザスタードラゴンが、この世の終わりを告げるかのような叫びを上げる。あまりにも凄まじい叫びに大気が震え、脆い建物はがらがらと崩壊。

「あんなの無理……だ……」

 目の前の圧倒的な脅威にジェシカが震える。

「だが……だが! やるしかない! 行くぞ姉さん! ノヒンと力を合わせれば! [う、うん!]」

 覚悟を決め、ジェシカが災禍へと飛び立とうとしたところで……

 ディザスタードラゴンが大きく口を開く。開かれた口から覗く口腔内は、まばゆい光りを放っていた。
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