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第二部 第二章 闇の咎─淫獄の魔女─

闇を払うは黒狼の 3

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「ぷは……きゅ、急になんだ……? [……ド、ドキドキしちゃった……]」
「うだうだ言ってんじゃねぇよ。二人は俺が必ず守る。……っても毎回守れてねぇから説得力はねぇかもしんねぇけどよ、俺の隣にいろ」
ノヒン……ノヒン……
「俺が頑固なのは知ってんだろ? 逃げても地の果てまで追うぜ? まあなんだ、俺の隣にいろって偉そうに言ったけどよ、隣にいて欲しいんだ。もう離れたくね……んぐっ!!」

 今度はジェシカからノヒンに唇を重ねたのだが、姿がヨーコへと変わっている。

「[ぷはっ! な、何してるんだよ姉さん! スイッチはお互いの了承を得てからと話しただろう!?] もうダメ! 我慢できないの! ノヒン! 愛してる! 愛してるノヒン!」

 二人の会話から推測するに、無理やりスイッチして主導権を奪うことも出来るようだ。

「ぷは……ごめんジェシカ……我慢できなくて…… [………………] ……ジェシカ? ど、どうしたの黙って……。怒った……? [いや、変な感じなんだ] 変な感じ? [なんて表現すればいいのか、私の感情と姉さんの感情が溶け合うような……姉さんがノヒンと唇を重ねている間、とても満たされた気持ちになった] さっきジェシカがキスした時は感じなかったけど……」
「それに関しては我の推測を話してやろう」
きゃあ!うわっ! 驚かさないでよ!き、急に話すな!

 突然ヴァンガルムが口を開き、ヨーコとジェシカが驚く。

「……おそらくだが、二人が今の状況をしっかりと受け入れ始めたことによる変化ではないのか? これまでは頭で理解はしていても、どこか一線を引いていた。それによって本来共有する感情や感覚もどこか他人事だったのが、しっかりと共有出来るようになった……ということではないだろうか。二人分の感情によって、通常より多くの快楽物質が脳から出ているのだろう」
「脳から? 快楽物質……? [なぜ急に?]」
「おそらくノヒンに会ったからではないか? 様々な悩みや葛藤があったのだろうが、それにも勝るノヒンへの想いがそうさせたのだろう」
「確かに……途中から色々とどうでもよくなってたかな。そりゃやっぱり嫉妬とか色々あったけど…… [私もそうだな。今はノヒンといられればそれでいい。姉さんに対する嫉妬などの気持ちが不思議と消えた] ……ってことは……ちょっといいジェシカ?」

 ヨーコがそう言うと、ジェシカの姿に変わる。

「[ちょっとこの状態でノヒンにキスしてみて?] ……し、してみてと言われてするのは恥ずかしいな……」

 言いながらジェシカがノヒンを見ると、ノヒンはイルネルベリの方角をじっと睨みつけていた。

「……気付かねぇか? さっきからイルネルベリ城の方からめちゃくちゃ敵意向けられてるみてぇでよ」
「それは無詠唱特殊魔術を有した貴様にしか分からんさ。と言っても、貴様に装着されている我にもある程度は感じるがな」
「敵対強化と絶対領域だっけか?」
「おお! 名前を覚えたのだな! 賢いではないか!」
「ちっ……バカにしてんのか? ……ってもマジで気持ち悪ぃ敵意だ。湿っぽいっつーか重いっつーか……」
「それはそうだろう。おそらくイルネルベリ城にいるのはだ。十二の咎、ソウジュ家のソウジュ・マヤ。先程データ共有をしただろう? ジェシカとヨーコの記憶の中にマヤがいた。かなり早い段階で魔術をかけられていたようだな。だがしかしなぜマヤがこちらに……? もしやユグドラシル起動の際の次元の裂け目……」

 ヴァンガルムがぶつぶつと呟き、考え込む。

「ちっ……また昔のめんどくせぇ話かよ。んで? ジェシカとヨーコはそのマヤ? ってやつに関して何か知らねぇか? 魔術を解除したってんなら色々と思い出したんだろ?」
「ま、まあ色々…… [う、うん……]」

 何故かジェシカの目が、気まずそうに泳ぐ。

「なんだ? なんかあんのか?」
「……そこはあまり突っ込んでやるなノヒン」
「どういうことだよわん公」
「こやつらはようだ。やつの主軸はいかにして快楽を貪るかだからな」
「[い、言わないでよ! 違うのノヒン!] すまないノヒン。嫌……だよな……? ひぁっ!」

 ノヒンが思い切りジェシカを抱きしめる。

「悪ぃ……俺が遅くなったせいで嫌な思いさせちまったみてぇだな……大丈夫……か?」
「怒ら……ないのか……? [……嫌じゃ……ないの?]」
「おめぇらはなんも悪くねぇ。だろ? 悪ぃのはそのマヤって糞野郎だ。そりゃ嫉妬はするさ。だけどよ、そんなん関係ねぇくれぇ二人が大切なんだ。遅くなって本当にすまねぇ」
「ノヒン! [ああ! 姉さん! 勝手にスイッチするなって!]」

 ヨーコがスイッチし、ノヒンを思い切り抱きしめ返して唇を重ねる。そのままヨーコからジェシカ、ジェシカからヨーコと何度もスイッチし……

「ぷは……愛してるぞノヒン…… [私も……]」
「我はいつまで待てばいいのだ?」

 ジェシカとノヒンがもう一度唇を重ねようとしたところで、ヴァンガルムが呆れたように声を上げる。

「あ、あぁ悪ぃ。んで? 今後はどうすりゃいいんだ?」
「やれやれ……。マヤを倒さねばならんのだろうが、一つ疑問がある。マヤはどこだ? イルネルベリ城方面から敵意を向けられているのは感じるが……ここに来る間、マヤらしき気配も姿もなかったはずだ」
「そういやそうだな。なんかよく分かんねぇけど、住民が門の外にどんどん出てやがったから追っかけて来たが……」
「となると闇属性魔術で姿を消した……ということか。そうなると不味いな。我らが来たことはバレていると考えた方がいい。姿を隠す猶予があったのならば、おそらくウティコリン港に船を着岸した時点で気付かれていたのだろう」
「つーことは……」
「すでに我らの船はマヤの手中……と考えた方がいいだろうな。そうなると船に待機させたメンバーや乗員が操られている可能性が高い」
「くそっ! 急ぐぞわん公!」
「そう焦るな。焦って良いことなど一つもない」
「何を悠長に言ってやがんだ? このままじゃみんなが危ねぇだろうが!!」
「マヤであればすぐさま命を奪うということはしない。あやつは長い時間をかけて楽しむ性質だ。まあ性的な搾取はされるだろうが、死ぬわけではない」
「ちっ! 『アクセプト解除!!』」

 ノヒンが黒狼の鎧を解除し、ヴァンガルムが巨大な狼の姿へと戻る。
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