覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

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第二部 第二章 闇の咎─淫獄の魔女─

闇を払うは黒狼の 1

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 ──ジェシカ視点

 理由も分からず力が抜けていくジェシカを、男達が無理やり押さえつける。もはやジェシカは服や下着を身に付けておらず……

 抵抗する力もなくなったのか、泣きながら身を捩る。そんなジェシカの足を男達が笑いながら広げ……

 ジェシカは恐怖と悔しさから、目を閉じた。

「ひひ……まずは俺からでいいかぁ? 俺が終わったら順番によぉ……」

 もはや狂気に支配された顔のジョシュアが、目を閉じて泣きじゃくるジェシカに覆いかぶさったところで──

 ズガンッ! と、何かが落下してきたような音がして大地が揺れる。と同時、ジョシュアの頭がメシメシと音を立てて何者かに捕まれ、持ち上げられた。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐしゃっといくかぁ? なぁ?」

 ジェシカから見るとジョシュアの体が邪魔で顔は見えないが……

 この声は……

「う……うぅ……」

 おそらくジェシカの目の前に、心の底から待ち望んだ男がいる。初めは憎み、何度もぶつかり……

 今は狂おしいほどに愛するあの男。名前を呼びたいのに、泣きすぎて呻き声しか出せない。

「ちっ……ぶっ殺してぇがなんか様子がおかしいな。まあとりあえずよぉ……飛んどけやっ!」

 そうこうしているとジョシュアが放り投げられ、ジェシカを押さえつけていた男達も次々と殴り飛ばされた。視界の邪魔をするものがいなくなり、ジェシカが目の前の男をしっかりと見る。

「ノ……ヒン……うぅ……ノヒンだ……うぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁノヒン……ノヒィィィィィィィィィィィィィィィンうぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…… [ノヒン! 本当にノヒンだ! 久しぶりだねノヒン! まだ終わりじゃないけど……ハッピーエンド? ってやつ?]」

 そこには見慣れぬ鎧を見に纏ったノヒンが立っていた。ノヒンからはザワザワと黒い霧が滲み、一瞬だがその霧が狼のような形になる。

 その姿を見たジェシカが号泣し、ヨーコが喜び、髪がザワザワと桃色に変わる。

「悪ぃ……待たせたなジェシカ」

 言いながらノヒンが自身のマントを破り、ふわりとジェシカにかける。

「つーかどうしたジェシカ? その髪……それになんか喋り方変じゃねぇか?」
「私は…… [あ、あのね……]」
「……っと今はそれどころじゃねぇよな」

 ノヒンがジェシカの前に立ち、群がるイルネルベリ住民を睨みつける。

「ちっ……てめぇらジェシカに……俺の大切な相手によぉ……何してくれてんだぁ……? 覚悟は出来てん……だろぉなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 木々が揺れるほどのノヒンの怒声。

 ノヒンの怒声でこの場にいる全ての者が固まった。例え魔術で操られていようと、目の前の相手には絶対に勝てないと本能で悟る。

「待たんかノヒン」

 黒狼の鎧──ヴァンガルムが口を開く。

「あぁん? なんでぇわん公。もしかして止めんのか? 言っとくが、俺は今めちゃくちゃ気が立ってんだぜ?」
「違う。おそらくこやつらは魔術で操られておる。我は魔素の流れには敏感なのでな。貴様も何となく不自然だと思ったからこそ、すぐには殺さなかったのだろう? ……見たところジェシカも魔術にかかっているようだ」
「魔術だぁ? 神器じゃねぇのかよ?」

 ラグナスの説明ではジェシカは神器によって呪われたはず。

「確かにラグナスは神器で呪われたと言っていたが、この魔術はおそらく別口だ。魔素の流れから察するにロキ……でもなさそうだな。だがこれほどの人数に魔術など、いったい誰が……」
「……つーかいつまで見てやがんだぁ? 見世物じゃねぇんだ! 失せねぇんならぶっ殺してやるからよぉ……そこぉ……並べやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 二度目のノヒンの怒声で、集まっていた住民達が逃げ出す。

「貴様の叫びはもはや暴力だな」
「あぁん? やんのかわん公?」

 ノヒンが黒狼の鎧──ヴァンガルムをバシンと叩く。事情を知らないジェシカとヨーコからすれば、鎧と話すノヒンの姿はおかしく見えるだろう。

「ノ、ノヒン……? さっきから誰と話しているんだ? [え? もしかして……もしかしてだけど……鎧と話して……るの?]」
「あぁ……なんて説明すりゃいいのか……こいつぁヴァンガルムっつぅ神話大戦の犬で鎧に変身出来んだ。今は鎧状態だが、いつもは重鎧……ああっ! めんどくせぇ! 犬だ犬! なんか昔の犬が手伝ってくれてんだよ!」
「犬ではないと言っておるだろうが! それにちゃちいとはなんだ! 貴様が動きづらいなどとほざくから軽鎧になってやったのではないか!」

 ノヒンが「ちっ」と舌打ちし、頭をガシガシと掻く。

「……つーかそれよりおめぇだジェシカ。どうなってんだ? 髪の色も違うしよ。いや、ちょっと待てよ……その話し方……しかもハッピーエンドってよ……」

 ジェシカを見ると困惑した表情で笑っている。だがノヒンにはその笑顔がヨーコと重なって見え……

「ヨーコ……なのか?」
「[気付いてくれるんだ! さっすがノヒン!] ……まあノヒンは姉さんのことが大好きだからな……」
「ちっ……マジかよ……どうなってんだ……?」

 信じられない状況にノヒンの頭は混乱する。本来であれば今すぐ抱きしめたいのだが……

 そんなノヒンにジェシカから抱きつき、唇を重ねる。

「んん……ぷは……会いたかったぞノヒン…… [久しぶりのノヒンとのキスだ……]」
「だ、だめだ……わけ分かんねぇ……」

 目の前の出来事が理解出来ず、ノヒンが頭を抱えた。

「まあ待てノヒン。とりあえずジェシカの魔術だけでも解いてやろう。このまま放置ではまた操られる。おそらく記憶の改竄も行われているだろうからな。ついでにジェシカの状態も分析してやろうではないか『アクセプト解除』『アクセプト分析』」

 ヴァンガルムの目の前に、『/convertコンバート restoreリストア Jessica’sジェシカズ NACMOナクモ』『/convertコンバート analyzeアナライズ Jessica’sジェシカズ NACMOナクモ』と白く輝く文字が続けて現れ、黒い霧がジェシカを包み込む。

 しばらくヴァンガルムが黙っていたかと思うと、「これは……こんなことがあるのか……?」と、驚きの声を上げた。

「何か分かったのか?」
「いや……目の前にいるのはジェシカであり、ヨーコだ。一つの魂に二つの自我。お互いがはっきりと自我を持ち、共存している」
「はぁ? んなこと……」

 ノヒンがジェシカを見ると、髪だけでなく瞳も桃色になり、肌も白くなる。胸も少し大きくなり、「えへへ」と笑った。

「マジ……で……ヨーコなの……か?」
「うん! そうだよ! 代わってくれてありがとうジェシカ! [姉さんがどれだけノヒンを好きかは伝わってたから……な。なあノヒン……?]」
「な、なんだヨー……いやジェシカか」
「[私に気を使わないでいいんだぞ? お前が姉さんのことを忘れられていないと知っているから……] ジェシカ……こんなことになって本当にごめんね…… [いや……いいんだ姉さん……] ノヒン! 私のことは気にしないで! 私は過去の女! 今はジェシカが恋人でしょ? [私はいいんだ姉さん。ノヒン……姉さんと幸せになってくれ……] そ、それはだめだよ! 妹の幸せを奪うなんて出来ない!!」

 ジェシカとヨーコの言葉の応酬。初めて見るものからすれば驚きの光景である。

「お、おいおい……マジで頭が痛くなってきたな……」
「なにを混乱しておるのだ? 一つの魂だと言っただろう? 確かに自我は二つあるが、どちらも同じ魂。二人とも愛せばいいではないか?」
「はいはいそうですか……とはならねぇよ。ってもよぉ……マジでヨーコ……なんだな?」

 ノヒンが目を潤ませながらヨーコを見る。

「うん! そうだよ! ……ひあっ!」

 ノヒンがヨーコを思い切り抱きしめる。口からは「ふぐぅ……」と嗚咽が漏れ……

「ちょ……ちょっとノヒン! く、苦しいって!」
「そっかぁ……ヨーコ……かぁ……うぅ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁヨーコ……ヨーコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「よしよし……ごめんねノヒン……? いっぱい悲しい思いさせたよね……? でも私はここにいるよ? たくさん辛かったけど……とりあえずハッピーエンド……だね?」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁヨーコォォォォォォォォォヨーコォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 その後ノヒンはヨーコの名前を呼びながら──

 しばらくの間、泣き続けた。

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