148 / 229
第二部 第二章 闇の咎─淫獄の魔女─
悪意の魔女 3
しおりを挟む──ラバラナドゥ教会、礼拝堂
「あぁ……いいわぁ……そこ……んん……」
深夜の教会にて、艶かしいマヤの嬌声が響く。マヤは衣服をいっさい身に付けずに椅子に座り、その周りを裸の男達が囲んでいた。この場で服を着ている者は一人もおらず、順にマヤの体を堪能している。
「……それで? ジェシカをどうにかして欲しいってことだったかしら?」
「そ、そうなんです! この一連の魔獣騒動は……むぐぅっ!」
「誰がやめていいって言ったのかしら? ん……」
マヤが一人の男の顔を下腹部に押し付ける。
「やっぱり隠していてもバレてしまうものなのね……」
「……ってことはやっぱりそうなんですか?」
別の男がマヤに話しかける。
「そう。ジェシカは呪いの神器によって呪われている。私とセティーナは知っていたんだけれど……ジェシカも大切な仲間じゃない? だから内緒にしてたの。私達だけで何とかしようって……」
これは明らかな嘘。この噂を広めたのはマヤだ。さらに言えば、ジェシカに使用された黄泉比良坂の作成者もマヤである。
そう、マヤは十二の咎。ソウジュ家と呼ばれる魔女──ソウジュ・マヤ。と言っても、ここにいるマヤは本物ではない。神話大戦よりも前、マヤは各地に自分の目として分体を送り込んでいた。
この分体に可能なことは、簡単な闇属性魔術と、自身が見た映像をマヤに送るということだけ。これによってマヤは各地に黄泉比良坂をばら撒き、その様子を自身の体を慰めながら眺め、楽しんでいた。
そんな中でのオーディンによる世界の分断。マヤの本体はアースガルズと共に次元の彼方へと消え、ミズガルズにマヤの目だけが残った。
この分体、大幅に機能制限をされており、本来のマヤらしさの欠けらも無い。そんな状態で数千年、マヤの分体は生き残っていたのだが……
イルネルベリに捕らえられ、処刑寸前まで追い込まれていた。それをジェシカ達が助けてしまった。
そうしてその後、エインヘリャルの儀で発生した次元の裂け目によって、ようやく本体との同期を果たす。それによって分体の機能制限は遠隔で解除され、今に至る。
実は今現在、アースガルズとミズガルズの座標は限りなく近付いている。それによってロキやマヤの本体はミズガルズへと来ることが出来るようになっていた。つまりプレトリアでノヒンが会ったロキは、本体だったということである。だが……
マヤの本体はアースガルズに留まったままで、次元の彼方からこちらを観察して楽しんでいた。ではなぜ本体が来ないのか。それは──
マヤは誰よりもクズなのだ。自分は安全な場所で観察し、人々が苦しみ、藻掻く姿を見ながら──
火照った体を慰める。
それがたまらく好きであり、興奮する。マヤもまた性欲のタガが外れており、なおかつ善悪の区別のタガも外れている。自分が気持ちよければそれでよく、他者など気持ちよくなるための道具。
まさか自分が作り出した神器をロキが使い、その対象者が目の前に現れるとは思ってもいなかったが……
今ここイルネルベリでは、ロキとマヤ、二人の咎の思惑が絡み合っていた。
「でも……私達で抑えるのもそろそろ限界みたいね」
「ど、どうすれば! どうすればいいんですかマヤ様!? このままではイルネルベリが!!」
「解除の仕方ならあるわ」
「解除出来るんですか!?」
「ええ。呪いの宿主を殺せばいいのよ」
「え……? つまりそれはジェシカさんを……?」
「そうよ。ジェシカに使用された神器は黄泉比良坂と言って、とっても悪趣味な神器なの。解除するには殺すしかないわ」
「さ、さすがにそれは……」
「じゃあ……滅びちゃうのを待つ? 正直セティーナや私だけじゃ魔獣を防ぎきれなくなってきているわ」
「た、例えば! イルネルベリから出て行ってもらう……などは……」
「他の街が滅びてもいいのかしら? あなたってそんなに悪い子だったの? 私……悪い子は嫌いよ? いい子に出来るなら……またしてあげてもいいけど……」
「マヤ様……」
「他の子達はどうかしら? どうしたらいいと思う?」
言いながらマヤが立ち上がり、一人一人男達に絡みついて「どうすればいいかしら?」と問いただす。その問いただす口からは黒い霧が漏れ出し……
「そう……だ……」
「そうだそうだ!」
「殺せ! 魔女を殺せ!」
男達が「殺せ殺せ」と声を上げ始める。
マヤはここに至るまでゆっくりと時間をかけ、魔術によってイルネルベリ住民の思考を誘導していた。それはセティーナも含まれる。一気に洗脳するのではなく、あくまでゆっくりと思考を誘導する。それがたまらなく楽しい。
「ふふふ……いい子達ね。それじゃあ……ジェシカは私が捕まえておくわ。それと……」
マヤが礼拝堂の十字架の前まで歩き、両手を広げる。するとざわざわと黒い影のようなものが、まるで愛撫でもするようにマヤに絡みつく。
「しばらく邪魔して欲しくないからぁ……『……深淵たる闇に潜みて万物の裏側たる根源の黒──光をも絡め取りて真なる静寂をもたらさせし者よ──我が望むは何もなし──それ即ち始まりたる虚無を望みし空虚なる我が願い──根源たる黒き裁きをもって愚者共に始まりたる終わりを示せ──その闇を覗くは虚ろなる虚像の衆──神を屠りて黒く塗る──空を割りて黒く塗る──大地を砕きて黒く塗る──ああ我が空虚なる魂が虚無で溢れ満たされる──そこに何があるだろうか──何が見えるだろうか聞こえるだろうか──訪れるは黒、黒、黒……我の巡りは黒にて終わる──永劫たる終焉それ即ち始まることを許さぬ虚無──ああ眼前が黒く染まっていく……黒……黒黒黒……黒……』……んん……気持ち……い……『誘うは常しえの闇……常世ノ門……』」
ブンッと、マヤを中心に薄く黒い膜が広がる。その膜は人や物を通り抜けてどんどんと広がり、やがてイルネルベリ全てを覆って消えた。
「な、なんですか今のは……?」
「今のは任意の対象を別次元に隔離する大規模魔術よ。これから発生する魔獣を全て別次元の闇の空間へと隔離するわ。ようやく大規模魔術が出来るくらいに魔素が溜まったから……」
これも嘘だ。マヤは元から大規模魔術が可能な魔素を有している。むしろマヤの魔素量であれば、何度でも大規模魔術を発動可能だろう。
「そ、それならジェシカさんを殺さなくても……」
「この魔術は隔離するだけよ? 効果もずっとじゃないし……殺しましょ? ほら……ここもこんなにしちゃって……殺すって考えて興奮した……? んん……」
「あぁ……マヤ様……」
こうしてジェシカとヨーコはマヤによって追い詰められて行くことになる。この流れはロキの意図した流れではないが、ロキもまた、ジェシカとヨーコが追い詰められることを望んでいる。
20
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる