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第二部 第二章 闇の咎─淫獄の魔女─

悪意の魔女 1

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「くそ……(セティーナめ……とんでもないことをさせられてしまったな……)」

 ジェシカがセティーナとの情事を思い出す。まさか自分がノヒンの姿になり、セティーナを抱くことになろうとは……

「うぅ……(そもそもこれは浮気になるのか? 無理やりさせられたわけだし……いやいやそれよりもセティーナだ! ……と言っても何か様子がおかしくはあったな。あぁ……くそ……)」

 歩きながらジェシカが頭を抱える。セティーナとの情事を終えた後、しっかりと謝って貰えたのだが……

 セティーナは「最近色々な衝動が抑えられなくなっている」と言っていた。それはジェシカがイルネルベリに来る前からのことらしく、「魔素が濃くなったせいでしょうか?」とも言っていた。

 そんなことはないはずだ。魔女は魔素溜りに入ったとしても、調子が良くなるだけでなんの影響もない。加えて言えば、最近イルネルベリでは、が増えているような印象を受ける。

 その諍いも「なんだか睨まれている気がしてつい殴ってしまった」「好きな気持ちが抑えられなくてつい抱きついてしまった」「あのアクセサリーが可愛いからつい盗んでしまった」というような、普通であれば我慢できるような内容である。

 イルネルベリに住む者たちが、欲望や衝動を我慢出来なくなってきていると言えばいいのか……

 よくよく考えれば、憲兵達にかなり強引に握手を求められることもそうだ。コブスやメイリー、孤児院の子供達も喧嘩が増えた。中には修復不可能な喧嘩をしてしまった子供もいる。これも神器の呪いなのだろうか……

「ひゃあっ!」

 そんなことを考えながらジェシカが歩いていると、何者かに唐突に後ろから抱きつかれて体をまさぐられた。

「セティーナが言ってた通り、とっても美人さん。スタイルもいいですし……うなじなんてとってもセクシーね」

 そう言って声の主がジェシカの首筋に唇を当て、優しく舌を這わせた。

「な、何をするんだ!」

 驚いたジェシカが声の主の腕から抜け、振り向く。

「こんにちはジェシカさん。私のこと……セティーナから聞いていませんか?」

 振り向いたジェシカの目の前、一人の妖艶な女性が立っていた。青くくすんだ長い髪と、その髪色と同じ色の瞳。服装は今まで見たことがないような黒いタイトな服で、扇情的な体型を際立たせている。

 女性を目の前にしたことで、以前助けたのことをようやくジェシカが思い出す。

「あなたがマヤさんですか?」
「ええそうです。呼び捨てでかまいませんよ? その節はありがとうございました。本当はもっと早くお礼を言いに行けばよかったんですが……他人に関わるのが怖くて」
「そのことならセティーナから聞いている。最近存在を薄くする魔術を解いたとな」
影潜シャドウルーク……という魔術です。影のように潜み……物陰からじっと観察する……ふふ……。他人の情事も見放題ですよ?」
「その笑い声……もしやお前……」

 マヤの発した笑い声。それはセティーナとの情事の最中に聞こえてきた声と同じで……

 ジェシカがカチャリと剣に手をかける。どう説明すればいいのかは分からないが、マヤからは悪意が感じられる。

「聞きたいことがあ……」
「剣なんか握って……どうしたんです?」

 ジェシカが最後まで言葉を発する前にマヤが動く。何をしたのかは分からないが、一瞬で距離を詰められ、剣を握る手をそっと握られた。

「くぅ……」

 そのうえマヤの手はどれだけ力を込めようが、ピクリとも動かせない。

「誤解……しないで下さいね? あの時はセティーナに用があって部屋に伺っただけなんです」
「そ、それなら声をかければよかったじゃないか!」
「ええ? そんなそんな……。あんな気持ちよさそうな二人の顔を見たら……邪魔なんて出来ないでしょう? それより……」
「な、なんだ? ……ひぁっ!!」

 マヤの顔が近付き、ジェシカの耳に舌が侵入する。

「お礼……してなかったですよね?」
「や、やめろ! 礼などいらん!」
「まあまあそう言わず……『永劫たる黒き精霊よ──始まることを許さぬ虚無を我が眼前に──顕現せし黒の波動……』……ふふ……『覆い隠す闇のとばり……ダークカーテン』」

 マヤが魔術を発動。ジェシカとマヤの周囲に黒い半円状の膜のようなものが張られた。

「な、何をした!!」
「この魔術は……範囲内の生物を視認出来なくさせるものなんです。でもこちらからは周囲が見えるので……この中での行為はとっても興奮しますよ?」
「何をわけの分からないことを!」
「ふふふ……『侵せし傀儡の影……シャドウインヴェイジョン』」
 
 マヤが先程の魔術の残滓、闇場あんばを利用して再度魔術を発動。これはセティーナがジェシカに使った魔術であり、相手を思い通りに動かすことが出来る魔術。突然の事態に反応が遅れたジェシカの口に、影のようなものが侵入した。

「動くな。発言は許可する」
「ぐぅ……なんのつもりだ!!」

 ジェシカが体を動かそうとするが、ピクリとも動くことができない。

「この魔術……素敵じゃないですか? 思い通りに動かしている間も、相手にははっきりと意識がある。あなたもセティーナとの情事をはっきり覚えているでしょう?」
「くそ! いいから魔術を解け!!」
「ですがこの魔術……有効射程と速度が遅いので、動き回る戦闘中には不向きなんです」
「なんだ……? 何が言いたいんだ……?」
「とっても悪意のある魔術ですよね? という話しですよ? 言ってしまえば捕らえた相手や、警戒心のない相手を操る魔術。操り……弄び……陵辱する。服を脱ぎなさい」
「ぐぅ……くそ……やめ……ろ……」

 ジェシカが命令に従って服を脱ぐ。周囲では何事もないように街の住人達が歩き、ジェシカのすぐ側も通り過ぎた。

「これで満足か……? 私の服を脱がせて何がしたいんだ……?」
「私……男と女、どっちもいけるんですよ? まあどちらかと言えば女性の方が好き……なんですけどね? 座って足を開きなさい」
「ぐぅ……」

 ジェシカがその場に腰を下ろし、足を広げる。抵抗しようにも体が勝手に動いてしまう。

「あぁ……たまらないわぁ……カグツチ家の子孫に会えたと思ったらぁ……あなたはヘルの子孫よねぇ……? 顔も体もそっくりで美味しそうだわぁ……ふふふ……」

 広げたジェシカの足の間に、マヤの顔がゆっくりと──


---


「ふふ……どう? ……よかったかしら?」
「どうもこうもあるか! 何が……何がしたいんだ貴様は!!」
「ええ? 何がしたいって……? 本当はもっと後で遊ぼうと思ったんだけど……あんまりにもあなたが魅力的で……」

 「味見……ですかね?」と、マヤが妖艶に笑う。

「ちっ! だがこれで貴様が悪意ある者だと言うことは分かった! このことはセティーナにも報告させてもらう!」
「ふふ……私がそんな馬鹿に見えます?」
「なに?」
シャドウインヴェイジョンは警戒している相手にかけるのは難しいですが、かけてしまえばこっちのもの。記憶も消したり書き換えたり……ね? とっても悪意がある魔術でしょ?」
「だが魔術はいずれ効果が消える!」
「そうですね……いくら私が闇属性の魔女と言えど、効果は長くても三日。あなたなら二日くらいでしょうか? ですから私はこう命令するんです。『毎日私のところに訪れなさい』と。二日に一度だと、タイミングが悪ければ効果が切れてしまうでしょう? でも毎日であれば……ふふふ……」

 圧倒的な悪意。ジェシカは腹の底から込み上げて来るような恐怖を感じていた。この女は絶対にというような性質の存在ではない。目の前の存在は完全なる悪意の塊……

 その悪意の塊がゆっくりと口を開く。

「次はあなたの番ですね?」

 そう言ってマヤが服を脱ぎ、その場に腰を下ろして足を開いた。

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