覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

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第二部 第二章 闇の咎─淫獄の魔女─

侵食 2

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 ──イルネルベリ城セティーナ自室

字名あざな持ちの魔獣が街中まちなかに!?」

 ジェシカから報告を受けたセティーナが、驚きの声を上げる。

「ああそうだ。これがその魔石だ」

 ゴトリと、ジェシカが黒い魔石をテーブルの上に置く。置かれた魔石の周囲には、じゅくじゅくとした緑色の肉片らしきものが蠢いていた。

「魔石の周りに肉が生成され始めている。どうする? 壊すか?」
「そう……ですね」
「了解した。『アクセプト鉄塊』」

 ジェシカが導術を発動。目の前に『/convertコンバート lumpラムプ ofオブ ironアイアン NACMOナクモ crystalクリスタル』と、白く光る文字が浮かぶ。

 それと同時、巨大な鉄の塊が魔石に打ち付けられて砕けた。

「凄いですね。しばらく見ない間にジェシカさん……まるで別人のようです」

 セティーナの何気のない言葉に、「別人か……」と、ジェシカが肩を落とす。

「どうしたんです? 暗い顔をして」
「い、いや、なんでもないさ……。それよりセティーナ。伝えておかなければならないことがあるんだ」
「なんでしょう?」
「私がソールで捕まっていたのは話したな?」
「はい」
「そこで私は、ロキに神器を使用された……らしい」
「らしい?」
「ロキは詳細を話してくれなかったんだ。ただ、『貴様は逃げたことを後悔する。必ずだ。貴様のせいで周囲の者が不幸になる』と言っていたのだが……」

 「このことじゃないか?」と、ジェシカがテーブルの上で砕けた魔石を指差す。

「ジェシカさんが魔獣を呼び寄せていると?」
「私がイルネルベリに来てから、魔獣の出現率が高くなっている気がする。さらに字名持ちの魔獣……」
「魔素が濃くなったんですし、一概にジェシカさんのせいとは……」
「いや、このゴブリンは扉で閉ざされた空間に湧いたんだ。つまり猿などが魔素によって魔に堕ちたゴブリンではない」

 ゴブリン魔獣が誕生する過程は三つある。

 まず一つ目は、猿などの類人猿が魔素によってゴブリン魔獣になること。

 二つ目は、人間がという字名持ちの降魔になること。これは人狼ワーウルフなどと同じ原理ということになる。ここからさらに派生するのが、半魔の人狼ワーウルフなどだ。

 そして三つ目が、大量の魔素が集まって魔石となり、使ゴブリン魔獣が誕生するというものだ。つまりこの場合は、まず先に魔石が生成されることになる。自然界でも魔素溜りや、魔素の濃くなる夜に起きる現象であり、異常なことではないのだが……

 これが発生するのは人がいないような場所であって、街中まちなかでは発生しない。街中で発生しない理由は様々云われてはいるが、原因は分かっていない。

「確かにそれはおかしいですね。ですが例えば、扉が開いている時にこっそり侵入していた……とか?」
「それはありえん。このゴブリンは、ほどあったんだ。小さいゴブリンであれば、ひっそりと侵入することも考えられるが……。三メートルもある巨体が街中をウロついていたら、さすがに誰かしら気付くだろう?」
「それもそうですね。でしたら侵入した後で字名持ちに変化した……などでしょうか?」
「それはあり得ないと分かっているだろう。字名持ちは誕生する瞬間にしか発生しない現象のはずだ。さらに言えば、このゴブリンは言葉を発した。未だかつてこんなことがあったか? 私がイルネルベリに来たタイミングでと考えると、やはり私が原因としか……。私は……」

 「ここにいていいのか……?」と、ジェシカが不安げな表情で震える。

「なにを言ってるんですかジェシカさん! いいに決まってます!」
「だ、だが……もし私が原因だとしたら、被害が出る前に私は……」
「ジェシカさん!!」
「あふぁっ!?」

 セティーナがジェシカを引き寄せ、思い切り抱きしめる。囚われの過去、ジェシカやジェシカの母サマンサを、身を呈して守ってくれていたセティーナ。ジェシカはその当時を思い出したのか、目が潤んだ。

「みんなで……みんなで戦いましょう! おそらくイルネルベリのみなさんは、私と同じ事を言うはずです! ジェシカさんは私達の大切な仲間……いえ、家族なんですから! ね?」
「ありがとうセティーナ……。本当はもっと早く神器のことを伝えればよかったんだが、どんな効果の神器なのかも分からなかったからな。それに……」

 「私はもう前の私じゃないんだ」と伝えようとして、やめた。ジェシカ自身も今の自分が置かれた状況を受け入れられてはいない。自分はヨーコと……

「もう! そんな顔しないでください! ジェシカさんの中で色々と折り合いがついたら話を聞きますから……ね?」
「ありがとうセティーナ……」
「そ、それより……」

 「ジェシカさんに聞きたいことがあったんです……」と、セティーナがジェシカの手を握り、唇が触れそうな程に顔が近付く。

「な、なんだセティーナ? ちょ、ちょっと近くないか?」

 一瞬、セティーナの口から黒い霧が漏れたのだが……

 照れたジェシカが顔を背け、見逃してしまう。ここでジェシカが異変に気付いてさえいれば、この後の展開も違ったかもしれないのだが……

「ノヒンさんのことを聞きたくて……。こ、この次元崩壊が落ち着けば……ノヒンさんに会えるんですよね?」
「あ、ああ。おそらくそうだが……だめだぞセティーナ? ノヒンは渡さないからな?」
「わ、分かってます分かってます! ただ……聞かせて欲しいんです」
「な、何をだ?」
「ノヒンさんと……」

 「エッチした感想です」と、セティーナが恥ずかしそうに言い放つ。何かと思えばあまりにも馬鹿げた質問。ジェシカは大きなため息をついた。
 

 
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