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第二部 第一章 誘うは闇の咎

余話─ルイスとルカス─

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「ぬはは! これは素晴らしいぞい!」
「確かにこの鍛冶場はいいですね! ここならいい仕事が出来そうです!」

 ここはエロラフにあるルイスの鍛冶場。バランガとルカスが楽しそうに騒ぐ。二人はバランガの鍛冶場が壊れたことで、エロラフへと拠点を移すことにしたのだ。エロラフまでは巨大化したヴァンガルムの背に乗ってやってきた。

 ヴァンガルムは「溜めた魔素がまた減ってしまう」と嫌そうにしたのだが、バランガが「鍛冶場を壊したのは誰じゃ?」と、なかば強引に従わせた形だ。とりあえず住む家が見つかるまでは、ルイスの鍛冶場で過ごすことにしたのだが……

「し、師匠! それは触らないで下さい! ああ! ルカスも! そ、そこは開けるな!」

 ルカスが鍛冶場に隣接する部屋のタンスを開ける。中からは際どい女性物の下着と露出の激しい服が……

「姉さん……動きやすさ重視だからって、これはちょっといやらしすぎですよ。ほとんど裸と変わらないじゃないですか」
「ば、ばか! ノヒンに見られたらどうするつもりだ!」

 ルイスが急いで下着と服をルカスから奪い、乱暴にタンスへとしまった。

「はぁ……手紙でだいたいの状況は分かりましたけど、姉さんはいつまでノヒンさんの前で男のふりをするつもりですか?」
「う、うるさい! 私だって本当はノヒンに……」

 ルイスの発言の途中で「ちっ……わん公のやつまた寝ちまったぜ」と、ノヒンが鍛冶場へと入ってきた。

「きゅ、急に入ってくるなノヒン!」
「ん? ああ、悪ぃ悪ぃ。んで? 本当は俺に……ってのはなんでぇ? なんか言いてぇことがあんのか?」
「い、いや! と、特には何もな……わわっ!!」

 ルイスが見るからに焦り、何故かなにもないところで転ぶ。そのうえ転んだ際にタンスの引き出しを掴んでしまい……

「お、おいおいルイス……この服はなんだ?」

 ノヒンの目の前に、際どい服と下着がパサりと落ちる。

「ち、違うんだノヒン!!」
「なにが違うんですか? もしかしては女装が……?」

 焦るルイスを後目に、ルカスがニヤニヤとしながる煽る。

「くっ……ルカスお前……。ち、違うぞノヒン? これには訳があってだな!」
「似合いそうだな。ルイスはめちゃくちゃかわいいからよ。こういう服も似合うんじゃねぇか? まあちょっと露出が激しい気もするが……もしかしてあれか? 異性化魔術使った時のためのやつか?」
「え!? い、異性化のことを知ってたのかノヒン!?」
「わん公とデータ共有した時にな」
「ど、どこまで知ってるんだ!? どこまでデータ共有したんだ!?」
「あん? なんでちょっと嬉しそうな顔してんだ? とりあえずおめぇの半魔状態で使える力を共有しただけだぜ?」
「そ、そうか……」
「なんで落ち込んでんだよ。どうしたルイス? さっきからなんか変じゃねぇか?」

 ルイスが落ち込んだ理由はと言えば……「もしかすれば、自分から女性だと打ち明けなくてもいいのかもしれない」と思ってしまったからだ。ジェシカが生きていると分かったが、まだ無事なのかは分からない。自分が女性だと打ち明けるのはジェシカを助け出してからだと決めている……

 はずなのだが、今すぐ打ち明けたいと思っている自分もいる。そのうえで、不可抗力でバレたのであれば仕方ないと思ったのだ。

「姉さ……も早く楽になればいいのにぃ。ねぇノヒンさん?」
「う、うるさいぞルカス!」
「楽にってのはなんのことだ?」
「そ、それは……お、おいルカス! なんで服を広げてるんだ!」

 ルカスがにやにやとしながら服を広げている。

「え? だって異性化した時に違和感ないようにしたいんですよね? は? ノヒンさんに見てもらったらどうです? ?」
「くそっ! いちいちと強調するな!」
「強調? さっきからおめぇらなんか変だぜ? どうした?」
「ち、違うんだノヒン! ぐぅ……覚えていろよルカス……」

 ルイスがルカスを睨む。

「ほらほら。異性化して着てみて下さいよぉ」
「おお、そりゃいいな。たぶん違和感ねぇだろうが、客観的意見ってのも大事だろ? っても女もんの服とかよく分かんねぇけどな」
「ぐぅ……し、仕方ない……わ、笑うんじゃないぞノヒン!」

 ルイスが際どい服を持ち、鍛冶場の奥へと消える。

「あー、本当にをいじめるのは楽しいなぁ」
「仲良いんだな」
「そう見えます? これでも昔は苦労したんですよ? があんなだから『お前にも本当は付いてねぇんだろ』って、街の人達に茶化されたりなんかして」
「付いてねぇ? 何がだ?」
「えー? なんでしょうねぇ?」

 どうやら鍛冶場の奥に二人の声が丸聞こえなようで、「おいルカス! 余計なことを言うな!!」とルイスが叫ぶ。

「ははっ、なんかよく分かんねぇけどよ。いいコンビだな」
「僕はとノヒンさんにコンビになってもらいたいんですけどねぇ?」

 そう言ってにやにやとルカスが笑ったところで「だ、だからうるさいぞルカス!!」と、ルイスが叫びながら鍛冶場の奥から出てきた。

「おお! めちゃくちゃかわいいじゃねぇか!」
「そ、そうか? な、なんだか照れるな……」
「すごい似合ってますよ姉さ……!」
「おい! そろそろ怒るぞルカス!!」
「さっきから怒ってるじゃないですかぁ。それより、それはドレスですよね? なんでドレスを?」

 ルイスは胸元がざっくりと開いた黒いドレス姿。スカート部分に関しては、もはやスカートと呼んでいいのか分からない布切れが一枚、ペラりと大事な部分を隠すように垂れているだけ。正直これはほぼ裸だ。

「あ、いや……ノ、ノヒンと……その……」

 ルイスがごにょごにょと口篭る。

「なんですか? 聞こえませんよ?」
「だ、だから! ノヒンとちょっといい店で食事でもと思って買ったんだ!」
「ん? 俺と飯食う時に異性化するつもりだったのか? なんでだ? 飯食うだけなら異性化なんてしなくてもいいだろ?」
「そうですよそうですよ! はなんでノヒンさんと女性姿で食事がしたいんですか!? 教えてくださいよ!!」
「ああ! なんなんだ! この状況はなんなんだ!! と、とりあえずルカスは師匠の所にでも行っててくれ! お前がいると話が拗れる!」

 ルカスが「えー? まあいいですけどぉ」と、何やら鍛冶場をごそごそと漁っているバランガの元へいく。

「ルカスがいると拗れるってのはなんのことだ?」
「そ、それは……」

 ルイスが際どいドレス姿でもじもじする。

「……そ、そうだ! お前はこれからイルネルベリに向かうんだろ?」
「ああ。そのつもりだぜ?」
「どうやって行くつもりだ?」
「あれはまだ直んねぇのか?」
天之尾羽張あめのおはばりのことか? それなら思ったよりコアの損傷が激しくてな。もうしばらくかかりそうだ」
「そうなるとわん公だろうな。またわん公の魔素が減っちまうが……」
「それならいい知らせがあるんだ。ちょうど明日だったかな? モザンビークからの船がタジュラ港に到着する」
「おお! そういやファムとセリシアで船を作ってたんだったな」
「かなり速いらしいぞ? ヴァン君のスピードには負けるだろうが、ヴァン君は少しでも魔素を溜めたほうがいい。船の目的地はイルネルベリだからな。乗せてもらったらどうだ?」
「……ってもファムとセリシアがいるんだろ? カグツチ家の相手は疲れんだよ」
「十二の咎の特性については私も聞いた。そのことに関しては本人達のせいではないからな。あまり邪険にするなよ?」
「まあ……わん公も少しは休ませた方がいいのは確かか」

 ノヒンがヴァンガルムの眠る部屋を、優しい眼差しで見る。

「んじゃまあ……とりあえず飯でも行くか?」
「と、唐突だな」
「その服着て一緒に飯に行きてぇんだろ? わん公もマリルも寝てやがるしよ。バランガとルカスは……どうする?」
「ふ、二人で行こう! 師匠とルカスは荷物の整理などがあるからな!」
「そりゃそうか」
「よ、よし! 善は急げだノヒン!」
「お、おいルイス! あんまり引っ張んなよ!」

 こうしてノヒンとルイスは酒場へと向かったのだが、酔ったルイスが大変なことになったのは言うまでもなく……

 後にノヒンはこの日のことを、「さすがの俺でも体力が持たねぇ……」とだけ語っていた。
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