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第二部 第一章 誘うは闇の咎
余話─弓と獣 2─
しおりを挟む「おいわん公。なんで急に巨大化してやがんだ?」
「……やはりそういうことなのだな」
ヴァンガルムがノヒンの問いかけを無視し、一人納得した表情を見せる。
「一度目は分からなかったが、ゲルギャの解除コードは『アクセプト』だということだろう」
「おいおい、なに無視してやがんだよ」
「貴様にかまっていると長引くのでな。よく聞くのだノヒン。我の力を使いたい時は『アクセプト』と唱えよ。さすれば我の枷を一時的にだが抑えることが出来る」
「……ってことはあの鎧化も使えるってことか?」
「枷を外した状態であれば可能だ」
「ってもありゃどういう原理だ? 元から装備してた鉄甲や剣が同化してやがったしよ」
「あれはヘルの専用兵装ニヴルヘイムのヘルヘイムと同じ原理だ。我ら専用兵装は無機物であればある程度は情報を解析して分解、再構築ができ……と……難しい話をしても貴様には理解出来んだろうな。どれ、実際に見せてやろう。我を装着するイメージで『アクセプト』と唱えよ」
「人を馬鹿みてぇに言うんじゃねぇよ」
「実際そうだろう? NACMOや様々なデータを共有したが、結局あまり理解しておらんではないか」
パランとの死闘後、ヴァンガルムが四苦八苦してなんとかある程度のデータ共有は行ったのだが、ノヒンはあまり理解していない。
「NACMOって呼び方は慣れねぇって言ってんだろ?」
「そうだったな。とりあえずは貴様が分かりやすいように話す約束だった」
「悪ぃな。まあだが、神話大戦や俺やジェシカ、ラグナスの由来とかは理解したぜ? めんどくせぇから考えたくもねぇが……」
「まあある程度理解出来ていればそれでよい」
「んじゃまあ装着するぜ?」
ノヒンが抱きつくマリルを鍛冶場の端にそっと置き、『アクセプト』と唱える。すると『/convert armor Nohin』と白く輝く文字が現れ、ヴァンガルムが黒狼の鎧へと変化した。右腕には弓も装着されている。
「ほれ、この状態で弓をしまうイメージで右腕を振ってみろ」
ヴァンガルムに言われ、ノヒンが右腕を振る。するとガチンッという音と共に弓が消えた。
「おお! こりゃ便利だな!」
「分解、再構築した武具はイメージしながら腕を振れば出し入れが可能だ。もう一度腕を振って弓を出せ」
「こうか?」
言いながらノヒンが腕を振り、ガチンッと弓を出す。
「そうだ。矢に関しては我がセットしてやろう。貴様に全て任せるのは癪なのでな」
「いちいちムカつく言い方すんじゃねぇよ。んで? この鎧はどうやって解除すりゃいいんだ? 前は勝手に解除されたけどよ」
「それに関しては解除……つまり鎧を脱ぐイメージで『アクセプト』と唱えればよい」
「いつまでもおめぇを着てたら気持ち悪ぃからな。『アクセプト』」
ノヒンが黒狼の鎧を解除し、ヴァンガルムが巨大な狼の姿に戻る。巨大化によって今度は鍛冶場にある作業台や炉が壊され、バランガが泡を吹いて気絶した。
「……っておいわん公。弓はどこいった? 鉄甲と剣は残ってるが……」
「おや? ……っと……これは……」
「なんでぇ?」
「す、すまぬノヒン。弓を我に完全同化させてしまったようだ……」
「そんなんまた再構築? だかで出しゃいいじゃねぇか」
「す、すまん……現状エラーのせいで我の一部としてしか出せんようだ……」
「はぁ? 何してやがんだよ!」
「し、仕方がないだろう? 我は万全ではないのだ! 鉄甲と剣が残っただけでもよしとしろ!」
「おいおいおい……ってことは弓を使う時はおめぇを装着しねぇと使えねぇのか?」
「そ、そうなるが……」
ヴァンガルムが申し訳なさそうな表情でノヒンの様子を伺う。
「……ってことはよ、鉄甲や剣も同化される可能性があんのか?」
「そ、それに関しては気を付けさえすれば大丈夫なはずだ。我もまさかこうなるとは思わなかったのでな……」
「ちっ……まあやっちまったもんはしょうがねぇよな」
「おお! まさか貴様の口からそんな言葉が出るとはな! 少し丸くなったのではないか?」
ヴァンガルムの表情が一気に明るいものへと変わる。
「茶化すんじゃねぇよ。それより聞きてぇんだが、おめぇの鎧化はいつでも出来んのか? いっつも魔素が足りねぇとか言ってやがるからよ」
「いつでもではないな。鎧化するにも魔素を使うのだが……もう一度説明させる気か? これではデータ共有した意味があまりないではないか」
「だからなんとなくしか理解してねぇって言っただろ?」
「ちっ……とりあえずの今の我の状態は、ゲルギャという枷によって力を抑えられている状態だ。普段は何も知らん憎たらしい子犬姿。枷は貴様が『アクセプト』と唱えることで一時的に解除が可能だ。このゲルギャを根本的に解除するには我の魔素をある程度溜め、対処しなければならない。まあつまり、ゲルギャをなんとかするまではあまり鎧化は使わないでくれればよい」
「んじゃあしばらくは弓が必要な場面以外は使わねぇようにするよ」
「そうしてくれれば助かる。とりあえず我は魔素を溜めるために子犬姿に戻るぞ?」
そう言ってヴァンガルムが子犬姿へと戻る。
「さてと……今後のことだが……」
「なんでわん公に戻ったのに話し方がそのままなんだぁ?」
「だから何度説明させるつもりだ? 今はゲルギャの枷が外れた状態だ。しばらくはこのまま記憶もある状態だが、少し時間が経てば何も出来ない愛玩モードに戻る。まあとりあえずは引き継げそうな記憶は引き継がせておくがな」
「めちゃくちゃややこしいな」
「……っと……話は逸れたが元に戻すぞ? この後はエロラフのルイスのところへ向かうつもりか?」
「そうだな。とりあえずルイスにはジェシカが生きてたことを伝えねぇとねぇしよ」
「それであればもう伝えたぞ?」
「はぁ? いつだよ」
「貴様……本当に我とデータ共有出来ておるのか? ここまでくると心配になるではないか。今の我はゲルギャの枷が外れておる。つまりフギンとムニンといつでもデータ共有が出来……っと……いや、さすがにこれはおかしい」
「おかしい? 何がだ?」
「貴様の状態だ。データ共有したにも関わらず、あまりにも理解していない。そのうえ外見が少し……レイラに似てきているな。これはもしや……『アクセプト』」
ヴァンガルムの目の前に、『/convert analyze Nohin’s NACMO』と白く輝く文字が現れ、ヴァンガルムから発生した黒い霧がノヒンを包み込む。
「……ふむ……なるほど……」
「ちっ、また勝手になんかやりやがってよ。んで? なんか分かったのか?」
「貴様が馬鹿だと言うことが分かった」
「おいおい、喧嘩売ってんのか?」
「違う違う。そういう意味ではない。貴様……おそらくラグナスとの戦闘後から、頭が割れるように痛かったのではないか?」
「そのことかよ。こんなん時間経てば治んだろ」
「いやいや、これに関しては簡単には治らん。貴様の魔石にはレイラの魔石が同化しているだろう?」
「さっきおふくろに似てきてるって言ったのはそのせいか?」
「そうだな。それに加えて少しエラーを起こしていたようだ。まあ我であればすぐに治せるが……何故そのことを言わなかった?」
「何故って言われてもな。言ってもしょうがねぇだろ?」
「貴様はもう少し周りに頼ることを覚えろ」
「しょうがねぇだろ? そういうの苦手なんだよ」
「大丈夫だ。我は勝手に消えたり死んだりせん。仲間……だろう?」
その言葉を聞いたノヒンが、頭をガシガシと掻きむしりながら後ろを向く。そうして聞こえないくらいの声で「まあ……よろしく頼むぜ」と、呟いた。
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